三十三話
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「あり得ない。人間が魔族になるだと・・・」
見える範囲とはいえそれなりの距離がある位置にいるフェルディナの呟きがミカ達に届く。
「・・・彼が元々魔族だったって可能性は?」
「「ない」」
ミカは防御の構えをとりつつ問い返す。ただ変装していただけの魔族だったのだと思ったからだが、それは隣に来たリリィ達に否定された。
「やつは魔族ではない。妾が言うのだ。間違いない」
「それが、変化して魔族になったの。元は人間だったことは間違いないわ」
「どうして言いきれるの?」
やけに自信満々で言ったリリィ達に疑問を持ち問いかけるミカだが、二人の自信は揺るがない。
「妾達を何だと思っておる?」
「それくらい見ただけで分かるわ。・・・説明はできないけど」
当然だ。彼女達は見た目を変えているだけの魔族なのだから。
「あの煙の中で食べたものが原因ね。ミカも聞こえたでしょう?」
ミカは頷く。
「咀嚼音でしょ?硬かったのかね?」
ふざけながら言っているが、内心は後悔でいっぱいだ。
何故仕返しとして吹き飛ばしたのか。やり返すなら同じように空中に飛ばせばよかった。いや、そもそもやり返そうなど考えず叩きつければよかった、など。
そんな思いが頭から離れない。
「・・・いや。今回の場合、魔族化は問題ではあろうが、それよりも大きな問題があろう?」
ミカが自分の行いを後悔しているなか、考え込んでいたリリィが呟く。
「魔族化より大きな問題?」
「ミカは疑問に思わんかったか?あやつ、腕を斬られたのに平然と喋っておったではないか」
「・・・そういうことね」
本当に厄介な。とミカは舌打ちして呟く。
「え?なによ?人間が魔族に変化する事以上の問題なんてそうそうないでしょ?」
「確かに、魔族化することによってやつの能力上がっておるだろう。魔法も、身体の方も。これは厄介なことだ」
「ただ、本当に厄介なのはその前の状態から何かしらの改造を受けてた可能性があるってこと。そしてこっちは何があるのかわかんない」
そこまで言ってミカはダナルを睨む。
「で?変身して慢心でもしたんですか?今の僕たち、隙だらけでしたが?」
「俺から一切視線を離してねぇくせによく言う。が、俺もこの体には慣れてねぇからな。時間をくれるのはこっちとしても都合がよかった」
ダナルはゆっくりとだが、翼や尻尾を動かす。本来なら人間にはない部位を。
「おかげで感覚をつかめてきた」
彼は残っている剣を持った腕を大きく振りかぶり、
「・・・まさか」
剣の腹を下にして、空中にいるまま振り下ろす。
本来なら意味のない攻撃。
「離れて!」
ミカは叫ぶと同時に風を纏ったバックステップで十メートル近く下がる。
リリィ達も何が来るのか分かり、ミカから少し遅れて互いに左右反対方向に跳ぶ。
直後にミカ達のいた場所を衝撃波が抉る。
「いやいや、アニメじゃないんだから。これ、洒落になってないよ。・・・あぁ、ここファンタジーでしたね」
ミカは衝撃波の着弾による爆風で髪を暴れさせながら呟く。
表情はひきつり、冷や汗も流している。
ミカの視線の先には小規模なクレーターができていた。上空十メートル以上の距離から放たれたにもかかわらず。
人間技じゃねー。と思ったがそもそも相手はもう人間じゃなかった。
ミカにとっては魔法という非現実を見たときよりも、魔法 (物理)という非現実を見たときのほうが精神ダメージが大きかったようだ。
クレーターをじっと見つめてしまうほどに。
完全にダナルの事が意識から外れてしまった。
「「ミカ!」」
「ッ!?」
いつの間にかダナルが横で剣を振りかぶっていた。
左手での力任せな横凪ぎが放たれる。
ミカは咄嗟にダナルから離れるように跳んで剣を避ける。が、それによって発生した爆風に吹き飛ばされ、横の建物に突っ込む。
魔法を使う隙はなかった。いや、リリィ達ならば発動しダメージを軽減することができただろう。
だが、ミカはまだそれほどの速度で放つ事ができない。無詠唱も高速移動と風の刃の初戦闘で使った二つの物しかできない。毎日練習していたが数日ではこれが限界だった。
転がるように全身を打ち付け衝撃を分散させたが、その上でも身体中が痛みで熱を持つ。
「う、痛っ!」
日本ではめったに覚えることのない痛みにミカは顔をしかめる。
だが、動けないほどではない。
これくらいの痛みなら既に経験済みだ。
それに、痛いと言っても所詮は一撃。断続的に繰り返される暴力よりも耐えるのは容易い。
(あんなのに感謝とかするわけないけど)
ミカは少し昔にあったことを思い出し渋面を浮かべ、立ち上がる。
「次は貴様だ」
「クッ!?」
「主様!」
視線の先にいるダナルは吹き飛ばしたミカの生死を確認することなくリリィへと迫っていた。
リリィは咄嗟に近距離物理攻撃を防ぐ頑強な岩、遠距離物理攻撃を逸らす透明な風の乱気流、そして魔法攻撃を防ぐ炎壁の三重障壁を展開して構える。
岩を近距離攻撃で貫いたとしても、乱気流によって力をまっすぐに伝えることができず威力が減衰し、中途半端に伸ばされた攻撃部位が炎に焼かれる。
遠距離攻撃で岩を貫くほどの威力が出せたとしても、次の風は止めることではなく逸らすことを目的とした強い風だ。余程のものでない限りリリィには当たらない。
魔法攻撃ならば、すでに確立している岩を貫くのは容易いが、次の風は魔法現象であり、防ぐ目的ではないにしろ威力が落ちる。その後、魔法を防ぐことを目的とした炎の壁が減衰した魔法を防ぎ焼き付くす。
咄嗟に発動したとは思えないほどの高度な魔法。
だが、それらはダナルの一振りで粉砕される。
右手に持った黒い剣によって。
「なっ!」
リリィは驚愕の表情を浮かべる。
ダナルはミカを吹き飛ばした直後に自身の斬り落とされた右腕を切断面に付けたのだ。
普通なら意味のない行動だが、魔族化による自己治癒能力の上昇とフェルディナから奪った回復能力によって右腕を強引にくっつけたようだ。
それだけでなく、腕がつながり血が流れたことによってその右腕も魔族の物へと変化している。
自身の魔法で作った障壁に自信を持っていたリリィは回り込まれた際の事を考えて構えていた。
そのせいで正面から障壁を破壊して向かってきたダナルへの対応が遅れる。
「ぁ、っ」
リリィを助けようと動いていたシャーリィもあの剣を目にした瞬間に硬直してしまう。
まだ、消滅の恐怖から立ち直りきっていなかったのだ。
リリィは何とかしようと鞭を構える。だが、その後が間に合わない。鞭を振るってもダナルの剣が先にリリィを斬り裂くだろう。
戦闘経験が足りなかったため、咄嗟の判断を間違えた。
何とかしようではなく、回避をするべき場面だった。
そう思ってももう遅い。
リリィは自身の死を覚悟する。
ーーー本人含め、誰も気づかなかったが、その表情には小さな小さな安堵の笑顔が浮かんでいた。
「がァッ!」
「・・・え?」
ドゴォ!という音をたててダナルが吹き飛ぶ。リリィはまだなにもしていない。
ならばミカかと思ったが違った。
ダナルがいた場所に立っているのはフェルディナだった。
彼女がダナルを蹴り跳ばしたようだ。
ちなみにミカは建物から出てきたばかりだった。
ミカの高速移動には細かい方向転換ができないという弱点がある。
リリィを助けようにも建物の中には倒れている家具や木があって高速移動ができなかったのだ。
「・・・傷が消えてるだと?」
「初めて会ったとき貴方が言ったのですよ?『魔法以外の回復方法も常備しておけ』と」
ダナルの疑問に彼女は空になったビンを振るって見せる。
「これ一本しか持ち歩いていませんでしたので回復できないと思っている間は使えませんでしたが、貴方が説明してくれましたからね。『能力は能力の略奪だ』と。それを聞いて直ぐに飲ませてもらいました」
古いので時間がかかりましたが。彼女はそう言って、ポイッ、と空のビンを捨てる。
「これは私の不手際です。私がダナルを正気に戻します。・・・巻き込んでごめんなさい」
フェルディナはリリィへ謝罪の言葉を口にする。そして、彼女の返事も聞かずに細剣を抜きダナルへ突撃していった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ダナルとフェルディナの剣撃の音が周囲に響いているなかミカ達は今後の方針を話し合う。
「どうする?フェルディナさんが足止めしてる今なら逃げられそうだけどーーー」
ミカ個人としては面倒なので逃げたいのだが、
「断る。誰かを犠牲にして生き延びるなど妾は二度としとうない」
「妾も主様と同意見よ」
二人がかなり強く否定する。
これは予想していたことだ。
リリィはコクロウを失ってまだ日が浅い。自身を助けようとしているものを見て姿を重ね、目の前で誰かを失うことを恐れてしまい自分から飛び込んでしまうだろう。とミカは考えていた。
それは勘違いだった。
彼女はコクロウの姿を重ねることなく、自身の意思でフェルディナを助けようとしている。
そこに恐怖の感情はない。あるのは義務感や責任感だった。
当然、同じ存在であるシャーリィもリリィにならう。
「そ。まぁリリィが対象にされてるから逃げ切るのは難しいし、倒しておくのが安全だよね」
ミカはそう言って一瞬だけ町の外、スライムが来ているらしい方向に意識を向ける。
戦闘を行う場合は早めに決着をつけなければならない。
スライムは着実にこちらに向かってきているのだ。速度が分からないせいでタイムリミットは分からない。だが、あるのは確実だ。
スライムが町の外壁を壊してしまうことがタイムリミットではない。
ミカ達が町を出る際、スライムに捕捉されてしまう距離にまで近づかれてしまったところがタイムリミットだ。
そして、その距離を測る指針は何もない。
「できるだけ早くダナルを倒すよ」
「うむ」
「・・・ええ。でも、その方法は?」
ミカの言葉にリリィは力強く頷き、シャーリィはリリィに少し遅れる形で頷いた後、ミカに問う。
その遅れがミカは気になり、じっとシャーリィを見つめる。
「な、何よ?」
「・・・なるほどね」
「何なのよ?」
勝手に一人で納得しているミカにシャーリィは疑問を発するがミカは何もなかったかのように話を再開する。
「方法は簡単。僕とフェルディナさんの二人がかりで攻めてリリィが魔法を放つだけ。直接は消されるから嫌がらせにしかならないけど隙はできるだろうしね。後はフェルディナさんが勝手に決めてくれる」
「む?あやつが決めるのか?ミカではなく?」
「うん?そうだけど?」
「急ぐのではなかったのか?」
早く倒したいと言っているのに他人任せなことに疑問を持ったリリィは首を傾げた。
「いや、狙えそうなら僕も狙ってくよ?ただ、僕は隙を作る方が得意だからね。攻撃役もフェルディナさんがやってくれるし。今回は相手が強いから自分のスタイルで行く」
「そういうことなら問題ない。・・・妾もたっぷりと嫌がらせをやってやろう」
彼女は、さすが魔族、と思わせる壮絶な笑顔を浮かべて頷き、少し下がる。まだ、役割を言われていない者がいるから話しやすいようにしたのだ。
「妾はどうするの?主様と同じ嫌がらせ魔法?」
自身だけ名を言われなかったシャーリィがミカに尋ねる。自分も接近戦は苦手なのだからリリィと同じ事をすると思っていた。
「いや、何もしなくていいよ」
「・・・え?」
だから、ミカに言われたことが理解できずにシャーリィは首をかしげた。
「何も、しなくていい」
ミカは言い含めるかのようにゆっくりとした口調で再度同じ事を言う。
「・・・どうして?戦力は多い方がーーー」
「はっきり言わなきゃ分かんない?邪魔になるって言ってるの」
シャーリィの言葉を遮って言ったミカの言葉にしばし沈黙が場を支配した。
たっぷり数秒かけて言われたことを理解した彼女は顔にひきつった笑顔を浮かべ、問い返す。
「・・・へぇ。言うじゃない。妾のどこを見てそう判断したのかしら?」
その表情で怒りを隠しているつもりのようだが、誰が見ても怒っていると分かるものだった。
「どこって。シャーリィ、君この戦闘に恐怖してるでしょ?・・・いや、正確にはあの剣に恐怖してるかな?」
「・・・だからなに?命の危機に恐怖するのは当たり前よ。それとも、ミカは怖くないって言うの?」
ミカは彼女に命が無いという事を知らない。
彼女自身この言い方はズルいと思っていた。だが、自身だけ何もしないでいるということは自身がいらないと言われているようなもの。
リリィの願いによって、リリィの願いを叶えるために生まれた彼女にとって『いらない』と言われることはとても恐ろしく耐え難いものに感じた。
役に立つなら何でもいい。
そんな思いでミカに食い下がるシャーリィだったが、
「...別に怖くないんだけどね。...自分の命とかどうでもいいし」
「「・・・え?」」
ミカの小さな呟き。
シャーリィだけでなく、リリィも彼が何を言っているのか理解できなかった。
かなり小さな声だったため聞き間違えでは?と互いに顔を合わせる。
その困惑を無視してミカが続ける。
「恐怖するのは構わないよ。それは時に勘として自身を助ける。ーーーあ、今のは弟の受け売りね。だけど、動けなくなるほどの恐怖を持たれるのは困る。戦闘中に立ち止まるとか殺してくださいって言ってるようなものだよ」
「・・・克服すれば良いんでしょ」
シャーリィはその呟きを聞き間違えたものとして処理し、その後のミカの言葉に含まれる、自身が出なくていい理由に反発する。
「妾が、あの剣を怖がらなければーーー」
「不可能だよ。そんな短時間で克服できるわけがない」
「そんなのやってみなければーーー」
「分からないって?ばーか」
「ば、ばか?」
「気合いでどうにかなるならこの世にトラウマとかできたりしないよ」
「ば、ばか・・・妾をばかって言った!?」
「シャーリィ、少し落ち着かんか」
リリィに言われて深く深呼吸をするシャーリィ。
子供の喧嘩じみたやり取りに見えるがミカの表情は真剣だった。
「それに、今回の相手は強い。僕じゃ一人を守るのが限界。下手したらそれも厳しいからね。克服するのを待つことなんてできない」
「だからって妾だけ何もしないなんて嫌よ」
「だから魔法で援護するって?それで狙われたらどうするの?対抗できる技でもあるの?咄嗟に使っちゃいけないものを使わないって言いきれる?無理だよね?その時にならないと分からないよね?」
「うっ、く。何もしないで後悔するくらいなら。やって後悔する方がいいわ!」
ミカの怒濤の問いかけに少々たじろいだがシャーリィは言いきる。
その解答にミカの瞳がスゥ、と細まった。
明らかにミカの雰囲気が変わった。
「その代償が死でも?」
喜怒哀楽、およそ感情というものが籠められていない瞳、声に様子を眺めていたリリィが震える。
自棄になっているシャーリィはミカの変化に気づかず口を開き、
「・・・ええ、構わーーー」
シャーリィの答えの途中でミカが乱暴に髪を掴んで自らの眼前まで引っ張る。
「痛い痛い!何をーーー」
「お前の役目はなんだ」
「や、役目?それをやらせてもらうために今話してるんじゃない!」
「目の前の事じゃない。これまでの、これからのことだ」
「何よ!そんなことより今の話でしょう!」
彼女は言うが、ミカは取り合わない。
「死んでも構わない?リリィの願いで生まれたお前がリリィの願いを裏切ると?」
「え?」
「お前はリリィを支える存在なんだろ?これからもそれは変わらないはずだろ?それなのに死んでどうする?お前が死んだらリリィはどう思う?」
「それは・・・」
「お前が考えるのはあれを倒す方法じゃない。生きる方法だ。それがわかってないやつにやらせることなんてない」
そう言ってミカはシャーリィを離す。
その仕草が乱暴でシャーリィが倒れたがミカは気にせずダナルへと振り返りながらリリィへと口を開く。
「行くーーー」
ビュン!ドゴォ!
目の前を何かが通過した。
それを見てミカは顔をひきつらせる。
(ヤバい。長話しすぎた・・・)
「威勢がいいのは最初だけか?フェルディナ」
飛ばされてきたのはフェルディナだった。
ミカは内心で思う。
ーーーもしかして、作った作戦、全部パー?
勝手に長話をしたミカの自業自得である。
前話のラスト、ダナルの声が頭に響くような声だったのは変身して声帯が少し変わっていた上に、魔力も増幅していて念話に近い形になったからです
リリィは人間の政治は全く知らず、ミカにいたっては当然この世界の政治そのものに疎いです。人間の魔族化は後々を考えると問題だらけのものになります。
次週は前準備の予定です。
ストックがあれなのでタイトルが変わるかもしれません。




