表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
四章 ラルバの危機
37/111

三十二話

何とか間に合いました。


ストックももう少しで一話分できそうです。


そして、こんな時に忙しくなってきました(泣)

「・・・ッ!」


「ちっ!すばしっこいやつだな!」


 シャーリィはダナルの黒い剣に触れないように大きく回避する。


 一度も攻撃を当てられずにダナルのストレスが溜まっていく。


 それによって攻撃が大振りになり隙が増えているのだが、シャーリィの方はそれを意識する余裕がない。


 あの剣が近くを通ってから体の震えが止まらないのだ。


(何で?震えが止まらない・・・。恐い?妾は死なないのに(・・・・・)?)


 彼女は魔法で創られた存在だ。そこに命はない。


 胸を刺されても頭を貫かれてもそもそも心臓や脳はない。致命傷たり得ないのだ。


 もちろん、ノーダメージというわけではない。そこには脳や心臓の代わりをしている魔力があるので、その魔力が削られる。


 他の部位もこの魔力を使って修復(・・)している。


 この魔力が少なくなりすぎると形を維持できずに彼女はリリィの影に戻る。


 だが、それは死を意味するものではない。


 時間はかかるがリリィの中で再度魔力を蓄えればまた同じように復活する。


 彼女が強い敵を求めるのはこれが理由だ。


 自身は死なない存在で、それこそゲームのように何度もトライアンドエラーを繰り返すことができる。


 命の心配が必要ない彼女にとって弱い敵を倒し続ける作業などつまらないのだ。


 しかし、現在彼女はダナルの黒い剣を必死に避け続けている。


 頭や胸などの本来なら致命的な部位の攻撃だけではなく、軽く触れそうなものまで。


 ーーーあの剣に触れるわけにはいかない。


 理由は分からない。けれどそれだけは分かる。


 もし触れたらーーー


「ッ!」


 自身の存在(・・)が消えるさまを幻視した。


 彼女の震えが余計に強くなる。


「シャーリィ!」


「・・・ぁ」


 リリィが叫ぶ。


 自身の震えを抑えようとして、ダナルが意識から外れてしまった。


 すでにダナルの剣が横から迫ってきている。


(い、嫌ーーー)


 ーーー死にたくない(・・・・・・)


 そう思うこと事態がおかしいはずなのに目の前の剣を見てシャーリィはそれしか考えられなかった。


 だが、すでに避けられる距離ではない。


 シャーリィは恐怖で目を瞑る。


 ジャリイ!とダナルの剣がシャーリィを捉える直前に跳ね上げられる。


「お待たせ」


 シャーリィはゆっくりと瞼を上げる。


 目の前にミカが鞘に入ったままの剣を振り上げた体勢で立っていた。


「・・・」


 彼女は呆然とミカを見つめる。


「遅くなってごめんね。でも、能力は理解したから」


 ミカは遅れたことを謝り、シャーリィの頭をポンポンと撫でる。


「・・・え?あれ?」


 よほど怖かったのだろう。彼女の瞳から涙がこぼれる。


「・・・黒い剣は魔法の無効化、もしくは打ち消し。だけど、間接的なら攻撃できる。認識されず、直接的な攻撃力の無いものも無効化されない」


 ミカは一瞬固まったが自身の涙に困惑しているシャーリィを慰めたりすることなくダナルの剣にある能力を説明する。


 泣いている子に対してどうしたらいいか分からなかったため、泣いていないものとして話始めたのだ。


 シャーリィの方は見ない。


「もう一方は、回復の阻害だと思う。あれには斬られないように」


「・・・ハッ」


 ミカの言葉にダナルが反応する。


「笑う余裕がある、ということは検討違いの事を言ってしまいましたか?」


 ミカは笑顔を返す。それはどこか相手をバカにしたようなものだった。


「ああ。テメェの推測は間違ってる」


(なら、勘違いを利用すればいいのに・・・)


 ミカは表情を変えず、そんなことを思う。


 勘違いしている人は、能力を理解していない人よりもやり易い相手だ。


 能力が分かっていない場合はその能力を持ったもの全てを警戒し、自分も相手も攻めにくくなる状態に陥る。能力も発動しにくくなるものが大半だろう。特に武器は。


 だが、勘違いをしている場合は警戒範囲が狭まる上に検討違いの方向を警戒してくれる。


 能力も扱いやすくなるだろう。


 表情を変えていないが、ミカの視線は愚か者を見るように蔑んだものになっていた。


 それに気づかないダナルは右手の黒い剣をアピールするように軽く振って地面に刺す。


「この黒い剣は当たりだ。魔法を無意味な魔力に戻す能力」


 ダナルはもう一方の剣を肩に担ぎ上げ、キメ顔で言う。


「だが、こっちは違う。この剣の能力は魔道具の効果を略奪する力だ。どんなに強力な装備で来ようが、俺には勝てない」


 ミカは驚愕した表情を作る(・・)


(うわ~。能力説明したよこの人)


 呆れの表情を隠すために。


(まぁ、楽でいっか)


 ミカはそう結論付け、顔だけシャーリィへと向け、指示を出す。


「聞こえてるだろうけど念のため、後でリリィにも言っといて」


「分かったわ」


 彼女の顔に涙の跡はなかった。


「ここから、前衛は僕がやるから援護して」


「直接攻撃しなければいいのね」


「そうだけど。・・・やり返したいのは分かるけどリリィに話すのが先だから順番を間違えないでね」


「ええ」


 シャーリィはそう言ってダナルを睨み、リリィの方へと向かう。


 途中でいくつかダナルに向けて地割れを作りながら。


「ちっ!」


 ダナルはその場を大きく跳び回避する。


「さっきの返事は何だったんですかねぇ!」


 ミカはシャーリィに文句を言いつつダナルを追いかける。


 着地した瞬間の隙を狙ってミカは居合い斬りを放つが、ダナルはそれを易々と回避し回転。勢いそのままミカに横凪ぎ、切り上げの二連撃。


 ミカは横凪ぎをしゃがんで避けながら剣を鞘に納め、切り上げは剣の腹を右から左への掌底で叩き逸らす。


 直後にダナルの片足を蹴り払う。


 ダナルが体勢を崩したところで地面に背中を付け、両手を頭の横に置き、全身のバネを使って足の方から跳ね上がる。


 ミカの脚は頭一つ分開いている。


「ぐぅ!」


 体勢を崩されたダナルはそれを避けきれずミカに頭の両側を捕らえられる。見た目は正座型で前後逆の肩車に近い。


 ミカはさらにダナルの顔面も両手で勢いのままに押さえつける。


 ミカは勢い良く跳び付き、ダナルは切り上げの途中で体勢を崩されたため重心が後になっている。


 結果、ダナルはミカの勢いに耐えることができず後に倒れ後頭部を強打する。


「っ!?」


 はずだったが、倒れかけていたダナルの背後から爆風が巻き上がる。魔法だ。


 ダナルはその風を受けて体勢を建て直し、軽いミカは爆風に耐えきれず空中に吹き飛ばされてしまう。


「ちぃ。ウィンドボゥッ!?」


 空中は不味いとすかさず魔法を使って地面に降りようとしたミカだが、魔法を放つ前に新たに発生した爆風に吹き飛ばされる。


 放ったのはシャーリィだ。


 ミカが飛ばされた方向にはリリィが腕を開いて待機している。


 ミカは顔をひきつらせた。


 彼女の細腕、体格でミカを受け止めきれるとは思えない。


「ちょっ、とまーーー」


 ミカはそんな声を漏らすが言いきる前にリリィに受け止められる。


 ぶつかる直前にいくつか空気の壁のようなものに当たり勢いが衰えたのだ。


 それでも彼女のような体格の子が受け止められるような衝撃ではなかったはずだが、彼女は涼しい顔をしている。


 身体強化魔法の賜物だ。


「大丈夫か?」


「・・・もう少し穏便なやり方なかったの?」


 ミカは心配してくれているリリィをつい睨み付ける。


 彼女はミカの問いかけに周りを見回し、近くにはシャーリィしかいないことを確認してミカだけに聞こえるように呟く。


「...闇属性を扱うわけにはいかんだろう?」


「それはそうだけど、こう、飛行する、みたいな優しいのはなかったの?」


「あるが、的になってしまうぞ?」


「・・・僕、風扱えるからそれで着地しようとしてたんだけど?」


「ウィンドボムか?あれ以来使っておるところを妾は見たことが無いのだが、ちゃんと扱えるのか?」


「・・・」


 ミカは無言で目を逸らした。


 彼は空中に飛ばされたとき自らの至近でウィンドボムを発動し、その反動で落下点を調整しようとしていたのだ。


 他に手を思い付かなかったとはいえコントロールできない魔法を扱おうとした。


 下手をしたら直死コースだ。


 ミカが飛ばされた時点でリリィ達は彼に空中でどうにかできる手がないと判断し、すぐさま魔法を放った。


 そして、その判断は正しかったのだ。


「できんのだな」


「これが落ち着いたら教えていきましょう?」


 リリィはミカの反応に呆れている。シャーリィも呆れた表情を浮かべているのだが、声が少し嬉しそうだ。


「・・・ちっ!闘技大会の時もそうだったが、テメェはやっぱ厄介だな」


 ダナルが吐き捨てる。


 ミカを吹き飛ばした場所から動かないと思っていたが、自身の魔法で付いた傷を直している最中だったらしい。


 これはフェルディナが身に付けていた魔道具の効果だ。


 彼の剣は略奪の能力。奪った能力は当然扱えるということだろう。


 彼の言葉にミカは心外だとばかりに顔をしかめる。


「『厄介だな』はこちらの台詞ですよ。回復もして、魔法も効かなくてーーー」


 ミカは首を左右に振り、剣を抜いて構える。


 剣を持った右手はダナルに向け、右足を前に出した半身に。


 何も持っていない左手は手刀の形を作り斜め下に垂らす。その手は見えない風の刃に覆われている。


「・・・」


 ミカが構えたのを見てダナルは集中する。


 ミカの動きを小さなものまで見逃さぬように。全身をくまなく見つめる。


 足から胴体、腕、顔ーーー


 ミカが(わら)っていた。


「これじゃあーーー」


 ミカの姿が消える。


「なーーー」


「首を跳ねるしかないじゃないですか」


 真横から声。


 ダナルはとっさに黒い剣を振るうがすでにミカはそこにいない。


 ダナルはミカの姿を探すため周りを見渡し、


「がァ!」


 鮮血が飛び散る。


 ミカの手刀がダナルの右腕を肘から斬り跳ばしたのだ。


 すぐさまミカはダナルから距離を取る。


 風の魔法による高速移動。それはどこかフェルディナを思い起こさせる動きだった。


「・・・ぐっ。テメェ、何の真似だ」


「・・・何のことですか?」


 いつの間にかミカはリリィの前に戻っていた。


「俺の首を跳ねるんじゃなかったのか?」


「首回りはガードが堅くてーーー」


「惚けるな。俺の腕は首の近くになかった。テメェ、首を狙いすらしなかっただろ」


「・・・へぇ。ただの脳筋だと思ってました。これは評価を改めないといけませんね」


 評価を改めると言いつつ、ヘラヘラと相手をバカにしたような笑顔を浮かべている。


「もう一度聞く。何の真似だ」


 その表情に苛立ちを隠さずダナルが問い返す。


「首を狙わなかった理由ですか?そんなのーーー」


「っ!がっ!」


 ミカは笑いながら風の魔法による高速移動を行い、会話で油断していたダナルに全力で回し蹴り。


 同時に纏っていた風を解放し、発生した風を使って吹き飛ばす。


 自身が飛ばされたときの仕返しだ。


 ダナルは半壊していた建物に突っ込んでいった。


「言うわけが無いでしょう」


 ミカは言葉が武器になることを知っている。


 戦闘中の会話は相手の隙を作るもの、相手の警戒を別の場所に誘導し攻撃の足掛かりにするものなど様々なことに使用できる。


 ミカが行ったのは後者。相手は首を警戒して他の部位への警戒がおろそかになったのだ。


 しかし、ついてこれなかったダナルの首を跳ねることもミカにとって難しい事ではなかった。だが、ミカはそれをやらなかった。


 首を跳ねなかった、つまり、殺すことをしなかったのには理由がある。


 ダナルはリリィの事を『ターゲット』と言った。


 フェルディナの親との契約が満了ではなく解けた(・・・)と言った。


 おそらくだが、彼はスライム発生の原因を作った者を知っている。それどころか会っている可能性がある。


 そう思ったため、殺さなかったのだ。


 これから捕らえて拷問するために。


「・・・」


 ミカはダナルを飛ばした方向を警戒する。あの程度で終わったと思えるほどこの世界の人間の強度を理解していない。


 ダナルの姿は砂煙が邪魔で見えない。


 ミカは自分のミスに気がつかなかった。


 疑問に思うべきだったのだ。


 腕を斬られたのに痛がっている様子が無かったことに。


 バリッバリッと何かを咀嚼(そしゃく)する音が、


「使うつもりはなかったが、しょうがねぇよな」


 次いで、ダナルの声が周囲に響く。


 砂煙が舞っている方からではない。その上空からだ。


 顔を上げたミカ達は驚愕の表情を浮かべる。


「あのままじゃあ勝てないと俺に思わせたんだ。誇っていい」


 ダナルの背中に黒い翼が生えている。


 変化はそれだけではない。


 長く鋭い爪、鋭い牙、腕くらいの太さを持った尻尾が遠目からでも分かる。


「テメェらは強い。だから、使える手を全て使う」


 彼は瞳を開き、ミカ達を睨む。


あいつ(・・・)に協力する形になるのはシャクだが、これが俺の全力だ」


 彼の瞳が不気味な黄色に輝く。


 ーーー簡単に死んでくれるなよ?


 その声はまるで直接頭に響くようなものだった。



次週は、覚悟の予定です


もしかしたら、次の話はこのサブタイトルが変わるかもしれません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ