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異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
三章 ギルド
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二十九話

なんとか完成です。誤字脱字があるかもしれません。


お金は怖い。人が変わったりしますからね。

 ミカ達はスライムのいた森から出て、町を目指して歩いていた。


「はぁ、疲っかれた~」


 森の中で、時折木に登ったりしながら遠い位置の警戒をしていたイササミが弓をしまい、伸びをしながら言う。


「警戒しながらの移動はきついですよね」


「そう言うお前は疲れた様子が無いな」


「そんなことはないですよ」


 それを見たミカの同意にソディが突っ込むが、ミカは否定する。


 これは嘘ではない。


 ミカも周りを警戒して、結構疲れている。慣れない獣道も消耗の理由だ。ただ、それを表情に出さないことが得意なだけだ。


 ミカは一時期かつあげにあっていたことがある。両親、妹が他界したため、大金を持っていた時期があったからだ。


 当時はまだ、お金の大切さを理解していなかったミカだが、学費や生活費に必要な量が分からなかったため、一切渡さなかった。


 結果は当然のように暴力を振るわれた。ミカは当時、抵抗したりはしなかった。


 守ろうと思っていた妹はもういない。


 もう、どうでもいい。


 そう思っていたのだ。


 自身の命も。


 自殺をしなかったのは、弟がいたから。というのもあるが、一番はそれをするだけの勇気がなかったからだ。


 かつあげを何度もされたがお金を渡すことはないとわかったのか、次第に無くなっていった。


 代わりに、いじめにあうようになった。暴力的なものから、小学生かよ!と突っ込みたくなるようなものまで。


 幸いにも刃物を出してくる者はいなかったが、それらを弟に隠して生活していたのだ。


 ミカは、打撲系、それらを受けたことによる疲労等なら大抵のものは隠せる。


 絞首もされたが、それは痕が残ったせいで弟にばれてしまった。こればかりは仕方ないことだろう。


「む。町が見えてきたぞ」


 リリィの言葉に全員がほっとした表情を浮かべる。


「さて、五色風の皆さんは報告に行くとして、僕たちはどうしよっか?まだ、狼十五匹狩りきってないけど」


 ミカはリリィとシャーリィに問いかける。


「は?お前らランク一なんだろ?ってことは受けた依頼はランクニのフォレストウルフ討伐じゃねぇのか?だったら一匹でも狩れば依頼達成だろ?」


 ミカの問いに答えたのはリリィ達ではなく、ソディだった。


「・・・」


「ひぐぅ!」


 ミカは無言で手を伸ばし、町に逃げ込もうとしていたシャーリィの後ろ首を掴む。


 逃げる構えを取ろうとした時点で既に捕らえられていた。その腕の閃きは電光石火という言葉を体現しているかのようだった。


「どういうことかな?」


 ミカの声は明るく弾んでいる。声だけは。


 ミカは無表情のまま明るい声を出して問いかけたのだ。その不気味な光景に周りのメンバーがミカから距離を取る。


「い、いや、その・・・。あはは・・・」


 シャーリィは冷や汗を流し、表面筋を強張らせながら笑う。


「・・・」


「うきゅう!」


 ミカは指に力を込めて、首の皮を引っ張り、首を締める。


 苦しそうに呻いているが、彼女は魔法だ。呼吸は必要ない。ついでに、彼女には脈も無いことがわかった。


「今日の夜は、覚悟しておいてね」


 ミカの言葉にサーっとシャーリィの顔から血の気が引いていく。


 それに気づかないまま、ミカはシャーリィの耳元に顔を近づけて、囁く。


「大丈夫。一日で、休めの姿勢のまま後ろで肘が付くくらいまではいけるから。ううん。逝かせるから」


「ご、ごめんなさい。それだけは」


 シャーリィは涙目でミカに懇願する。ミカは背後にいるのでその表情は見えていない。


 逆もまた然り。


「ん?それだけ()は?しょうがないね。前屈も手伝ってあげる」


 彼の表情は穏やかだった。まるで、良いストレス発散方法を見つけたとばかりに。


 周りのメンバーは誰もシャーリィを助けようとしない。


 当然だ。彼女の自業自得なのだから。


 女の子の悲鳴が辺りに響き渡った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 悲鳴のせいで町に入るのに少々時間をとられてしまったが、ミカ達は無事、ギルドに到着した。


「お疲れさまでした」


「おう。また機会があったらよろしくな」


 ミカはソディ達に頭を下げて受付に向かう。リリィ達は二人でギルド内をうろちょろとしはじめる。


 ソディ達も軽く返した後に緊急用の受付に向かう。そこの魔石はギルド長に直接通信できる物らしい。


 今回のスライム発見は緊急と呼ぶべき案件だそうだ。


「お帰りなさい。ミカさん。初めての依頼はどうでしたか?」


 ミカに気づいたルルがほっとした様子で声をかける。


「問題はありま、あー、ありましたけど・・・」


「え?大丈夫ですか?どこか怪我してませんか?」


 依頼に関しては特に問題なかったのでそう答えようとしたが、スライムを見て問題なしはおかしいと思い、彼は言い直した。


 それがルルには自信なさげな答えに聞こえて思わずミカの体に手を伸ばす。


「まぁ大丈夫でしたよ。これ、どうぞ」


 ミカはその手にギルドカードを渡し、薬草の入った袋をドサッ!とカウンターに置いた。結構多い。行きも帰りもリリィが見つける度に少しずつではあるが取り続けていたからだ。塵も積もれば、というやつだ。


 彼は差し出された手が『物を出せ』という意味のジェスチャーだと思ったのだ。


 自分が心配されたなどとは思いもしなかったようだ。


「・・・お預かりします」


 一瞬何を渡されたのか分からずに固まったが、彼女は受け取ったカードを後ろにあった機械の様なものに乗せ、品質や量を確認するため薬草を持って裏に行く。


 ミカを置いて。


「・・・待っとけば良いんですよね?」


「ええ」


 隣のカウンターから返事。ナナだ。


 暇だからこのまま会話をと思ったとき、機械の様なものに乗ったままのカードに青白いレーザーが照射されはじめた。


「・・・何されてるんですか?あれ」


 ちょうどよかったのでそのままナナに尋ねた。


「あれ?あれはね、カード内に記録された魔力を読み取ってるの。どの魔物を何体討伐したか、とかね。保有魔力量が多かったり、少なかったりすると、たま~に、一、二体分誤差が出たりしちゃうけど、基本的には正確よ」


「へぇ」


「後は、魔物の総討伐数を更新したり、ランク何の依頼を何回達成しました、とかも記録してるわ」


「ステータスとかは記録できないんですか?」


 ミカはカード内にデータがあるなら、もしかして、自分の力量も数値化されているのでは?と考えたのだが、


「ステータス?」


 ナナは首を傾げた。


「いえ、何でもないです。忘れてください」


 ミカはギルドやら魔物やらのいるこの世界を何となくゲームに近い形で考えてしまっていたようだ。


(気をつけないと、ここはゲームじゃないんだし)


 ミカは心に留めておく。絶対に間違ってはならないこととして。


「お待たせしました。こちらが報酬金です。ミカさんの持ってきた薬草の品質が良かったので少々上乗せしています」


 自分の心構えを見直している間にルルが小さな袋を持って戻ってきた。


「ありがとうございます」


 ミカは袋を受け取って、その場で数を数えようとしたのだが、


「ええ!?」


 ナナの驚愕の悲鳴を聞いてミカは驚き、顔を上げる。


「・・・どうしました?」


 そこでは、いつのまにやら読み込みが終わったのか、魔石が空中に半透明なディスプレイ的な何かを写し出している。


 それに近づいて、ディスプレイ的な何かに写っているものを必死に読んでいるナナの姿。


 その表情は驚愕に染まっている。


「・・・フォレストウルフが十三体。冒険者に成り立てが倒す数じゃ・・・ううん、そもそも平原にそんなにいたの?」


「あ、森に行ったんで」


「ええ!?」


 今度はルルがミカに驚愕の表情を向ける。


「どうしてそんな危険なところに行ったんですか!フォレストウルフは森だと危険度が段違い何ですよ!」


「知ってます。ランクが二つ上がるんですよね?」


 どこか怒りの混じった声でミカに糾弾したルルだが、知ってると答え、問い返された内容が一瞬頭に入ってこず首を傾げる。


 そのお掛けで頭が少し冷まされた。


「え?・・・ええ。知ってるならどうしてそんなことを?」


「『つまらない』とうちの連れが」


 ミカはシャーリィに目を向け、「あれは、ほぼ誘拐でしたよ・・・」と呟いた。


 視線を向けられたシャーリィはミカに見られていると気づきピースサイン。ミカはため息を吐いて視線を戻す。


 そんな様子にルルは苦笑いしか浮かんでこない。


「・・・わかりました。でも、無理はしないでくださいね?」


「当然ですよ。無理するくらいなら逃げます」


 ミカの返事にルルは安心したようで笑顔を見せた。


 その様子を周りの冒険者達が驚きの表情で見ていた。ルルがあんなに表情を変化させている姿を見たことが無かったのだ。


 何名かはミカを射殺さんばかりに睨んでいる。


 ルルは周りの様子に気づかぬまま何かを話そうとしたようだが、唐突に顔色を真剣なものに変える。隣を見ればナナの表情も真剣なものになっていた。


 二人は互いを見て頷き合い、ルルはそのままミカのほうに向き直り、ナナは受付を出て冒険者が集まっている場所に歩いていく。


「すみません。ギルド長から緊急の連絡です。町の近くにスライムが現れました。十分に警戒してください」


 ルルは周りにも通るような声で言った。ミカだけでなく、周りの冒険者にも知らせるためだ。


「五色風の件ですね。大丈夫です。スライムを見た現場に僕達もいましたから」


「え?」


 ルルはフリーズ。


 ミカの近くにいた冒険者達が一斉にミカを見る。


「え?なんでーーー」


 すか?と声も間に合わなかった。


「どこで見た!」

「場所は!」

「どのくらい前にどこで見た!」

「規模はどの程度だ!速度は!」


 ミカは一瞬で囲まれ質問の嵐を浴びる。


 彼らにとってスライムの出現は取り乱すのに十分な程の問題事だ。


「ちょ、ちょい、ちょっ、と。タンマ!タンマ!何言ってるかわかんないです!順番にお願いします!」


「皆さん!落ち着いてください!」


 ミカもルルも叫ぶが誰も聞いていない。


 どころか、「あそこに事情を知ってる人がいるって」とか、「スライムを呼び込んだ奴がいるって」とか、入ってきたばかりの冒険者達の会話、「なんか有名人でも来てんのか?」「有名人って誰だよ?フェルディナとかか?」からの「フェルディナ様が来てるらしいわ!」とかで、どんどん人が増えていく一方だ。


 特に、最後の奴等が酷い。前に居る人をどんどん押すせいでおしくらまんじゅう状態になっている。


 夕方の報告時だったのも良くなかったようだ。人が多い。


「うぎゅう!」


 必然、その中心たるミカは人の波に押し潰される。しかも、軽装の人同士ならばまだしも、鎧とカウンターに挟まれるようにして。


 ミカの特技である相手の力を利用する技だが、相手の意識が、そんな行動を行おうとしていなかった場合、つまりこのような状況に対しては無力だ。


 必死に抵抗するが、内臓が圧迫され、呼吸が苦しくなる。


 爆風で周り全部吹き飛ばすか?そんなことを考えたときだ。


「静まれ!」


 ビリビリとした、強い声。誰もが驚き、声の主であるリリィを見る。


 ミカもリリィを見つめる・・・なんてことはなかった。周りが動かないので苦しいままであり、そこから抜けようと足掻いている。


 その様子に遅れて気づいたルルがカウンターに登り、ミカに最も近かった男を押しながらミカをカウンターの内側に引っ張り込む。片手だった。


「ありがとうございます」


 力ありますね。という言葉は飲み込んだ。なかなか賢明な判断だったのではないだろうか?ミカは内心で自画自賛する。


「いえ、こちらこそ。その、彼女は何者何ですか?」


 そんなことを思われていることにも気づかず、ルルがリリィを示しながら尋ねてくる。


「・・・さぁ?どっかの貴族らしいですが、出会って間もないですからね」


 ミカは一瞬言葉に詰まったが、それを悟らせない自然な演技で肩をすくめる。


 それに言ったことは何一つ嘘ではない。


「え?」


 ルルがミカの言葉に驚く。とても、そのような短い関係に見えなかったのだろう。リリィやシャーリィがミカを信頼していることは見ているだけでわかったからだ。


 そのリリィ達がミカ達を見つけ、カウンターに向かってくる。周りの冒険者は全員が示し会わせたかのように、はたまた、避けるかのようにリリィ達に道を開ける。


 先程、リリィが叫んだ場所ではナナがスライムの状況についての説明を行っている。


 このまま行けば、この街にスライムが侵入してくる事はないだろう。ただし、警戒はしてほしい、と。


「では、また寄られると嫌なので帰りますね。また明日、お疲れ様です」


 ミカはルルの返事を待たずリリィ達と合流して外に向かう。


 その様子を、ルルはじっと見つめていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「できれば目立つ行為は避けてほしかったんですけど・・・」


 ギルドを出て、開口一番がミカのこの言葉だった。


「だが、あのままではミカが危なかったではないか」


「圧迫死は苦しいわよ?」


 あの大声はミカのことを心配しての行動だったのだ。


 ギルド内でミカが見えなくる程囲まれているのに気づいた二人は人を押し退けようと努力をしたが、人の波に巻き込まれそうになり、押し退けることは諦めた。


 二人でどうする?と話していたところで、ナナが必死に何かを伝えようとしているのが見えた。


 この原因になった話題のことについてだと当たりをつけたリリィは彼女の近くで大声を出し、同時に幻属性の魔法を使用。自身に注目が集まるように意識を誘導したのだ。


 後は、近くにいるナナが話し出せばいい。注目を集めた人物の近くにいた。それだけで彼女も目立っていたからだ。


「・・・まぁ、その、助かった。ありがとう」


 リリィとシャーリィは一瞬、キョトンとしたが、ミカの言葉を理解したのか笑顔を見せた。


「お礼に何か買うよ?何が良い?あ、でも高いものはやめてね」


 ミカはリリィ達にそんなことを言う。相手に顔を見られないように、少し前に出ながら。


 二人はその様子に笑いながら答える。


「「アクセサリー!」」


「じゃあ、適当に町を回ろっか。・・・別に今じゃ無くても良いからね?」


 そう言って、彼らは日が沈むまで町を散策した。


 お金を使用したもの。


 彼女達へのプレゼントとして片耳につけるペアセットのイアリング。


 そして、ミカが魔力を込めただけで壊れてしまった魔銃の弁償代。


 自業自得とはいえ、意外と高い出費だった。


ミカがお金を大人に預けなかったのは、その大人達がはた目から見てもお金目当てだったのがまるわかりだったからです。


来週は閑話四です。

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