二十八話
最近リアルが忙しいです。もう、疲れたよう。働きたくないよう。
ミカ達は蜘蛛擬きと戦っているパーティーを凝視する。合図を見逃さないように。
「頼むぞ!」
大剣を蜘蛛擬きに叩きつけて大きく仰け反らせると同時に男達が全員蜘蛛擬きから距離を取る。
彼らはそれぞれ腰のポーチから緑色の液体が入ったビンを取り出し、煽っている。
回復薬と呼ばれる魔法薬だ。ミカ達もそれぞれ持っている。
ゲームのように一瞬で回復するものではなく、自己治癒速度を上げるもので、性能がいいものならば一時間程で骨折すらも回復する。
それより性能の良いものも存在しているが、それには副作用があるため、よっぽどのことが無い限り使われることはない。
「行くわよ、主様!」
「うむ!」
男の合図と同時に二人は待機させておいた魔法を放つ。当然、他人の目があるところで闇属性の魔法は使わない。
シャーリィが放ったのは氷の槍と水の槍。
リリィが放ったのは風の刃と岩の槍だ。
それらが間近で通過していく音を聞きながらミカは蜘蛛擬き目掛けて走る。正直、この時点で自分要らなくない?と思っていたが、念のためだ。
リリィ達の魔法を見た男達のパーティーは唖然としている。
魔法を放っていた女性に至っては回復薬のビンをポロリと落としたほどだ。
リリィ達の魔法が肉を潰す音を響かせながら着弾する。
断末魔すらあげさせなかった。
「「え?」」
リリィとシャーリィが思わずといった感じで声を洩らす。
彼女達にとって今の魔法は牽制のつもりだった。手を抜いていた訳ではないが全力でもない。そんな攻撃。
あの蜘蛛擬きが強敵だと思っていたため、この程度の攻撃で終わってしまうとは思ってなかったのだ。
「はい、しゅーりょー」
ミカはその場に止まって気の抜けた声をあげる。
その声を聞いて止まっていた二人が逆に動き出す。
「・・・え?え?」
「・・・これで、終わり?」
困惑という形で。
「これの討伐記録はどうしますかー?」
そんな二人を放って、ミカは男達に向けて手を振りながら問いかける。
「は?え?」
「・・・嘘、一撃?」
「個人的には別に要らないのですけどー」
男達の困惑にも気づかずミカは続ける。
「・・・いや、要らないなら、貰いたい、か?」
「聞いてますかー?」
男の呟きはミカに届かなかった。
男達が正気に戻るまでに数分の時間を要した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
記録は男達のパーティーリーダーらしい、大剣を持った男が取った。
「取った後で言うのも何だが、いいのか?」
「僕達の依頼はフォレストウルフの討伐なので、それを取っても意味がありません」
「フォレストウルフの討伐?あれってランク低めの依頼よね?何でそんなのを?」
「止めとけ。理由があるんだろ。依頼内容を詮索するのはマナー違反だ」
ミカの答えに弓を持った女性と短剣を持った男がそれぞれ呟く。
別にランク一だと教えても困らないが、面倒なのでミカはそのまま流すことにしたようだ。
「そうか。改めて、ありがとう。君達が居なければ俺達も無事ではすまなかった」
「構わん。妾達が放っておけんかっただけだ」
「そうそう。妾達がやりたかっただけよ。結果はつまらなかったけど」
頭を下げた男にリリィ達は笑って返す。シャーリィは少々不満そうに呟いていたが。
「それより、あの蜘蛛擬きは何です?ここら辺はあんなのがうろうろしてるんですか?」
ミカは男達に問いかける。あの蜘蛛擬きがどうもここら辺の生物に見えなかったのだ。
あれは、巣を作ったとしてもその巣に乗ることができないように見える。糸が、ではなく、周りの木が耐えれるように見えなかった。
蜘蛛についての知識など無いため、勘違いと言われれば何も言えないのだが気になったのだ。
「いや、あれはこの森の奥地にいるはずの魔物。ランク五のガンチュラって魔物だ。本来は自分の巣から動くことなんて滅多に無いんだが・・・」
「今、この森は少し異常が起こり始めてるっぽいの」
「弱い魔物が減って、強い魔物が増えてる気がするって、木こりの人が言ってたらしくてな」
「俺達はその調査に来てるんだ。こんな浅いところで、あんなのが出るとは思わず不意を突かれた」
「その、良かったらだけど、手伝ってくれると嬉しい、かな」
男達のパーティーは森の調査依頼を受けていたようでミカ達に、正確にはリリィとシャーリィを見て魔法を使った女性が協力を申し出てきた。
が、ミカ達にも依頼がある。それに、調査依頼は数日かけたりするものがあると聞いて、正直、面倒だとミカは思っていた。
(依頼があるって言って断ろう。ダメなら、ランクもばらして帰る)
ランク一なら無理に誘ったりしないだろう。ミカはそう思って口を開こうとしたが、
「構わんぞ」「いいわよ」
考察に少し時間をかけてしまったせいか、ミカが何かを言う前にリリィ達が承諾してしまった。
「助か「ちょ、ちょっと待って」」
大剣を持った男が礼を言おうとしたのをミカが遮る。
こうなったら、彼女達に引かせるのは難しいと戦闘に巻き込まれたときのやり取りで理解したミカは方針を変える。
「んんっ。ただし、条件を飲んでくれたらです」
「条件?」
リリィが首を傾げる。
ここで首を傾げるのは相手だろう、と思いつつミカは続ける。
「一つ、基本的に僕達は僕達の依頼を優先的に行わせてもらいます。
二つ、僕達は野宿の準備などをしていないので日が沈む前に帰ります。
三つ、危険だと思った場合は貴方達より自分の身を優先します。
これを認めてくれるのでしたら、手伝っても構いません」
声に合わせて指を立てつつ条件を言う。この条件に承諾するなら、ミカ達はここの森にある程度詳しく、経験も豊富な者達を連れて自分の依頼を行えるということになる。
リリィ達が闇属性の魔法を扱えなくなるのが欠点だが、自然の脅威などを彼らが知らせてくれるという利点が生まれる。
それに、探索のセオリーなども理解できるかもしれない。
ならば何故、日帰りにするのか。面倒だと言うのも本音ではあるが、最も大きな理由は、
(宿代、今日の分もう払ってるし)
お金がもったいないから、だ。
ミカ達はこの町に長居するつもりはないので、毎朝その日の分の宿代を払っている。朝夕食事付きで。(銅貨十ニ枚。一週間だと銀貨一枚で、約一.五泊分お得)
「何だよ、てっきり厳しい要求されると思ったぜ」
「そのくらいなら問題ない。頼んでいいか?」
男達のパーティーは誰一人として、ミカの提案に嫌な顔をしなかった。その事にミカは意外感を覚える。
てっきり、『そんな自分勝手、認めらない』とか『仲間を見捨てるのか』とか言う輩が、一人くらいはいると思っていたのだ。
「・・・ええ。こちらこそ、足を引っ張ってしまうかもしれませんがよろしくお願いします」
ミカは丁寧に一礼をする。
だが、この言葉に返ってきたのは苦笑い。
先ほどの戦闘とも呼べないものを見ていた彼らはミカ達が自分達の足を引っ張るとは思えなかったのだろう。
「受けている依頼はフォレストウルフの討伐と薬草集めです」
「まるで、ランク一の人達が受ける依頼ね」
「まぁ、ランク一ですから」
「え?」
「・・・やっぱり気づいてなかったんですね」
ミカの言葉が信じられず、弓を持った女性が、いや、彼女達全員が呆けた顔を見せる。
その反応を見たミカは苦笑いを浮かべながらそっと自分の耳を防ぐ。
彼女達の行動を先読みしたのだ。
「「ええええええ!?」」
「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」
「「ヒゥッ!」」
彼らの声は、リリィ達の耳になかなかのダメージを与えたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
男達が冷静になった後、互いに協力関係になったため、自己紹介がおこなわれた。
大剣を持った男がソディ。盾を持った男がクレンガス。短剣を持った男がレンピオ。弓を持った女性がイササミ。魔法を使った女性がフェミタ。
パーティー名は五色風。メンバーが増えたら、六色、七色と数字を増やすつもりらしい。
そんなことしたら依頼ミスがありそうなのに。ミカは思ったが、口には出さなかった。
現在、五色風のパーティーを含めたミカ達は森の奥へと進んでいた。
「なぁ、本当に薬草の群層地に行くのか?」
「ええ。お願い」
「・・・ランク一の奴等が行く場所じゃないんだがな」
シャーリィとソディは先頭を歩きながらそんな話をしている。
ミカがいれば男の反応から行くのを渋ったりしそうだが、
「ずっと気になってたんだが、お前男か?」
「そうですよ」
「ちゃんと鍛えてんのか?」
「うわっ。腕細っ。うらやましいわね」
「鍛えてるのに着いてくれないんですよ」
幸いというべきか不幸にもというべきか、ミカは彼女達から少し離れたところでクレンガス、レンピオ、イササミの三人から話しかけられていたため、シャーリィ達の会話が聞こえていなかった。
「あ、本当」
「うむ。魔力を流すタイミングを変えると性能が変わる。個人差があるので、どの魔法がどのようなーーー」
リリィは、フェミタと魔法談義に花を咲かせている。
この話はミカも前日に聞いていたので知っている。
具体的には、魔力を流すタイミングなどを変えると放った魔法が、一定距離進んだ後に急カーブを描いて戻ってきたり、きりもみ回転しながら飛んでいったりするらしい。
遠距離魔法の使えないミカには無縁のものだ。
ならば、何故、そんな話を聞いたのか。
本人は言った。夢見たっていいじゃない。と。
閑話休題。
そんなことを話しつつ、時折襲ってくるフォレストウルフ達を迎撃しながら進んでいたメンバーだったが、唐突に先頭を歩いていたソディとシャーリィが立ち止まった。
「もうすぐ、薬草の群層地に到着する。各々、警戒しておけ」
ソディの言葉を聞いて、それぞれがそれぞれの武器を取り出して前方の方を警戒する。
唯一、ミカだけが首を傾げている。
「何で、そんなに警戒が必要なんですか?薬草を摘むだけですよね?」
「薬草が大量に生えている所はマナが濃い場所なのだ。そして、魔物には魔核があり、魔力を蓄えることで強力になることが多いのだ。回復も早くなる。故に、例え勝ったことのある魔物だとしても警戒が必要となるのだ」
ミカのソディへの質問にリリィが答える。その説明にミカはとても嫌そうな顔をして、
「薬草はある程度取ってますから帰りましょう?」
と、メンバーに進言するが、
「嫌」
シャーリィが強く否定してきた。それだけなら、強引に帰らせることも可能だったのだが、
「俺達も、マナの濃い場所を調べておくのはプラスになる」
「危ないなら逃げればいいのよ」
パーティーメンバーからもシャーリィを支援する声。
ミカは一人でも帰りたかったのだが、ここは森の中。当然、道順などすでにわからなくなっている。
仕方ないとばかりに、ミカも周りを警戒しながら彼らについていく。
木々を抜け、今度は別の平原に出た。そこでは、
「うえ!」
先ほどの蜘蛛擬き、ガンチュラがいた。それも複数。
その気色悪い光景に、つい、ミカは声を漏らした。
「まじかよ・・・」
ソディが顔をひきつらせる。
他の面々もそれぞれ恐怖や嫌悪感をあらわにした表情を浮かべていた。唯一、シャーリィだけは楽しげな顔だ。
「これは楽しめそうかしら?」
「いや、数がおかしいよ?何か、軽く二桁いってそうなんですけど」
気持ち悪、ミカは呟く。
もはや、平原であろう場所としか言えないほどにガンチュラがひしめいていた。
「・・・おかしい。あり得ないだろ!何が起こってる!?」
「これ、私たちの手に余るわ。ギルドに戻って報告をしましょう」
ソディの言葉にイササミが提案する。他のメンバーも頷く。
「・・・ん?」
一緒になって頷いていたミカが何かに気づき、目を凝らして全ての蜘蛛擬きを注意深く眺める。
「どうした?」
「・・・」
ミカは答えず、視線を次々と別の蜘蛛擬きに移し変えていく。
「...無傷の奴がいない?」
ぼそり、とミカが呟く。その声と同時に、木が倒れる音が聞こえた。
衝撃音はしなかった。メキメキっと、唐突に木が倒れる音だけが響いてきた。
その音が聞こえたからなのか、ガンチュラが音とは逆方向に移動しだす。その速度は遅い。主に足を一、二本無くしているものが多いからだ。
「何だ?」
ソディの言葉に答えられるものはいない。
シャーリィもこれは異常事態だと理解しているのか、あれと戦いたい、など言わず、音の方角を警戒している。
全員が見ている中でそれは現れた。
「スライムだと......」
ミカが町に来るときに見たのとは違い、薄い赤色をしているスライムだ。よく見なければ分からないほどだが大きさも違う。
前回見たのは、腰くらいの大きさだったが、今回のは少しだけ小さい。
「ギルドに報告だ。戻るぞ」
「待って」
ソディの言葉を、ミカがさえぎる。
文句を言おうとしたメンバーだったが、ミカの『静かに』のジェスチャーを見て口をつぐむ。
それを確認したミカは、次に手を耳の後ろに添える『耳を澄まして』のジェスチャー。
示された通りに周りの音を注意してみると、遠くから木の倒れる音が微かに、けれど複数聞こえてきた。スライムかどうかはわからないが、警戒するに越したことはない。
「戻るのには賛成だけど、周りの音を聞き逃さないように行きましょう」
ミカが小声で言った言葉に全員うなずく。シャーリィもスライムと戦う気は無いようだ。
ミカ達は音をなるべく立てないように、静かに移動する。
彼らが去った後も、木々の倒れる音が森に響き続けていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
光が届かないほど奥にある森。そこには、男が一人でフルートのようなものに口を当てている。
端からは確かに息を吹き込んでいるように見えるのだが、音は一切出ていない。
それでも、男はフルートのようなものを吹き続ける。
無音の演奏。それは、あるものにのみ聞こえる特殊な音波。
「・・・これだけの時間では、簡単な命令を与えるものが限界か」
男はフルートのようなものから口を離して呟く。
「だが、今回はこれで十分だろう」
男はその場で黒いシミのようになって地面に消えていく。
男が与えた命令は二つ。
ある地点に移動しろ。
そして、同族を喰らえ。だ。
「良いデータが取れるまで、死んでくれるなよ?人間共」
誰もいないはずの森に笑い声だけが響いていた。
戦闘を期待していたかたはごめんなさい。あっさり終わりました。
ミカは方向音痴というわけではありませんが、まぁ、森の中で戦闘なんかしたら迷いますよね?
次回はギルド報告です。
次の話、まだ、できてなかったり。
来週更新されなかったら・・・察してくださいな




