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異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
三章 ギルド
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二十七話

最近、矛盾無く書くのが難しくなって来ました。他の作者さんはこれを普通にやってるんですよね。さすがです。

「ギャン!」


「シャーリィ!」


「良いわよ、ミカ」


 フォレストウルフを一体蹴り飛ばしながらミカは叫ぶ。


 ほとんど同時にフォレストウルフが真っ二つになった。シャーリィの魔法(シャドウエッジ)だ。


 蹴り飛ばされたことによって本体から離れた影を切り裂いたのだ。


 刃はそのままいくつかの木の影を切り裂き、木、本体にぶつかって消えた。


「ふぅ、こっちも倒したぞ」


 リリィの周りにはうねうねと植物の根のようなものが数本うごめいている。彼女の魔法で造り出されたものだ。


 その下には狼の死体が三つほど転がっている。その何れもが、首だけを切り落とされていた。


 リリィは植物に相手を捕らえさせ、抵抗できない状態にしてから風の刃でスパスパと首だけを切り落とす、という戦い方をしていた。


 ため息は、複数の魔法を使用したことによるものではなく、まだ、殺しというものに慣れていないせいだろう。


「これで全部だといいんだけ、ど!」


 ミカは自らの希望を言っている途中で音もなく飛び込んできた狼に魔力を込めた居合い斬りを放つ。


 それは何の抵抗も無く狼の命を刈り取った。


「やっぱり、森に来るのは良くなかったんじゃないの?フォレストウルフって森だとランクがあがるんじゃなかったっけ?」


「手応えある方が良いじゃない。それに、ここなら妾達もおもいっきりやれるし」


「まぁ、視界は悪いからね」


「おかげで、敵を見つけるのに一苦労なのだがな」


 お互いに話しつつ警戒を緩める。


 現在、ミカ達は近くの森でフォレストウルフの討伐と薬草採取の依頼を行っている。


 本来、これらの依頼はミカ達が入ってきた門近くの平原でするものなのだが、シャーリィの『それじゃつまんない』の一言で(入ってきた門を南門とすると)西門から出て、一時間弱の所にある森に入った。


 この森の位置については依頼書を取ってくるついでに他の冒険者に聞いていたらしい。


「後何体だっけ?」


「六ね。......もう少し多目に言っとくんだったわ」


 彼女の後半の呟きは、誰にも聞こえていなかった。


 ミカ達はこの五匹の前にさらに四匹倒している。合計十五体が依頼達成のための最低討伐数だ。と、シャーリィが言った。


 が、これは嘘だ。


 所詮、ランク一の冒険者が受けることのできる依頼。そんなに危険な訳がない。


 本来は一匹でも狩れば報酬は貰えるのだ。


 ミカは彼女の言葉を疑わなかった。そのくらいなら普通より少し多いくらいだと思ったのだ。ゲームをやっていた弊害である。


 ちなみに、場所については何度も平原の方でしようと言っていた。ほぼ強引に引っ張られながら。


「これと、薬草集めもか。・・・どの雑草も同じにしか見えない」


 ミカは騙されていることに気づかず、周りに生えていた草をまじまじと見つめ、首を振る。


 ミカには植物の違いが全く分からなかった。


(買おうかな?)


 終いには、自力で見つけることを諦め、別の方法を考え始める始末。


 薬草と言われているのだから町中でも売ってるだろう。それを報酬として渡しとけばいい。ゲームでよく使った手だ。


 効率はゲームによって良かったりもするが、現実では儲けは出ないだろう。というか、むしろマイナスだろう。


 そんな美味しい依頼なら誰でもやっているはずだからだ。


 だが、キャンセル料があるので達成できないとどちらにしろマイナスになるのだ。ならば、依頼達成数を増やしておけば、大した損にはならないだろうとミカは考えていた。


「・・・これとこれが薬草だな。む?これは、冷草(れいそう)ではないか」


 ミカは声のした方に振り返る。


 そこでは、雑草を素手で引き抜いているリリィの姿が。


「リリィ見分けられるの?」


「主様は暇なとき、自室でいろんな本を読んでたのよ。基本的に家は暇だったから同じ物語や図鑑を何度も読んでたわ」


「でも、昨日読んでた本は知らなかったんだよね?」


「うむ。始めて読んだが、それは当然であろう?」


「妾達の魔族領に人間の書いた書籍はほとんど無いわよ。図鑑は別だけど」


 あれは便利だもの、奪ったものがいろいろ残ってるわ。とシャーリィ。


「ちなみに、冷草って何?」


 リリィの引っこ抜いたーーよくよく見れば青みがかってるのが何とか分かるーー植物を指差しながらミカが問う。


「冷草か?冷草は水で濡らすと周りの熱を吸収するという特徴を持った植物だ。水に入れればかなり冷えた水が飲めるぞ」


「凍らせる程の力はないけどね」


「それは衛生的に大丈夫?」


「町の水はこの方法で冷やされておるぞ?」


「水に浸けておけば、枯れることの無い植物でもあるわ」


 それから、三人で草を摘みつつ移動する。基本的にミカの取ってくるものはただの雑草だったが、リリィとシャーリィは薬草だけでなく役に立ちそうな草や蔦、キノコなども収納していく。


 ミカが途中、毒草に触れそうになり、リリィ達から戦力外通告をもらったりして数分。


 それなりの広さがある木に囲まれた、自然公園のような場所に出てきた。


「何か広いとこに出た」


「一旦、ここで休憩にせんか?」


「そういえば、ちょうどお昼くらいね」


 三人それぞれが近くにあった木を斬り倒して座る。


 大きな音をたてる前にリリィが一旦、収納して、横に並べて置く。容量的に邪魔だったのだろう。


 その後、リリィが再度影から物を出す。


「ほれ、ミカとシャーリィの分だ」


「ありがと」


「妾は気にしなくていいのに」


 取り出したのは屋台で買っておいた肉。ちゃんと味がついている串肉だ。


 さぁ、いただこう。そう思った時だった。


「グァッ!」


 ミカ達と反対側の森から男が吹き飛ばされてきた。鎧や武器はボロボロで、腕からも血を流している。


 それに続いて、四人程ーー男を助け起こしているためパーティーメンバーだろうーーが森から出てくる。


 彼らはミカ達に気づいた様子なく森の向こう側を警戒している。


 男達が現れた時、シャーリィは嫌そうな顔をしていた。今まで上位属性の魔法を使いまくっていたが、彼らがいる前で使うわけにはいかないからだ。


 が、直後に目をキラキラさせ始める。


「キシャーーー!!」


「ムグッ!ゴフッ!」


 森から現れたのは巨大な蜘蛛だ。大きさはちょっと小さめの一軒家近くあるのではないだろうか。


 だが、問題はそこではない。いや、それも問題ではあるが、それ以上の問題点がある。


 顔の部分の形が人間のそれと似ているのだ。なのに、目は蜘蛛の様な複眼が六つあり、赤く光っている。その上、口は蜘蛛の様に薄く毛に包まれているのに人の形。しかも、横に開く。はっきり言って気色悪い。


 男が吹き飛ばされてきた時、ミカは、あ、何か飛んできた。くらいの気持ちで食事を始めていたが、続いて出てきた気色悪い生物を見てむせる。


 シャーリィは逆に嬉しそうにして、指を指しながら言った。


「来た、来た、強そうなの。ミカ。妾あれと戦いたい!」


 シャーリィはバトルジャンキーの気があるようだ。


「コホッ。だ、ダメだよ。ああいうのは、助けを求められない限り行っちゃダメ。獲物を横取りするのはマナー違反だから」


 ミカはむせた影響で少し喋りにくそうにしながらもシャーリィを止める。あんなのと戦いたくないというのが本心だ。


 ミカの扱う神月流は対人専用で人間以外には一切意味がないのだ(人の形をしているならば人間以外でもいけると思っている)。彼の目は人間相手なら筋肉の動きから次の行動を見切れるが、相手が人間以外の場合、筋肉の動きは分かるが、そこからどのように体が動くかの正確な予測ができない。


 体の動きの正確な予測は何度も何度も繰り返し見て、ようやくくできるようになった技術。日本では動物に襲われることすらない生活を送っていたので、動物の動きを大雑把に見切ることしかできない。もちろん、今まで一切見たことのなかった化物の動きなど一度見ただけで予測なんてできる訳がない。


 だからミカは、一度も狼に神月流を使っていない。動きを見切れないのに相手の力を利用するなどできないからだ。


 ちなみに、マナーうんぬんについては『ゲームでは』なのでこの世界ではどうなのかミカは知らない。


「えー」


 シャーリィは抗議の声を上げつつも飛び込んでいったりはしない。自由に行動することの多いシャーリィだが、彼女はマナーやルールなどの約束ごとを大切にしている節がある。


 不満顔ではあるがそれでもミカの言葉にシャーリィは従った。


「くぅ!」


 盾役をしている男が前足の攻撃を防ぎ、その隙に素早い動きで短剣を持った男性が腹部に刃を当て、弓を持った女性が目を目掛けて矢を射る。


 合図も出していないのに、タイミングはバッチリだった。


 だが、あの蜘蛛についた傷はとても浅い。なかなかに頑丈な生物のようだ。


 ミカはチームで戦うのはどんな感じだろうと思ってその戦いを見ている。


 次の攻撃は、防ぐのではなく回避する。


 唯一回避行動を取る必要のない距離にいた女性が無数の氷の矢を放つ。革鎧の装備だったので彼女が魔法を使ったのが意外だった。


 ミカは服装だけで相手の攻撃方法を断定するのは良くないと心に刻んでおく。


 と、ここで弓を持った女性の視界にミカ達三人が映る。


「そんなっ!」


 彼女は驚愕と絶望の混じった表情を浮かべる。


 ミカ達は彼女が何故そんな表情を浮かべているのか分からずに首を傾げた。


「なっ!くそっ!何でこんなとこに子供が」


「どうするの!」


「俺が行く」


「でも、」


「しばらく俺はまともに戦えそうにない。それに今の俺は足手まといだ。それくらい、自覚してる」


 他のメンバーもミカ達に気づいたようで、最初に森から吹き飛ばされてきた男がミカ達のもとに来る。


「ここは危け「妾達の助けは必要じゃない?」んーーは?」


「は?」


 男の言葉を遮ってシャーリィが尋ねる。


 男は小さい女の子がいきなり提案した内容を理解できず間抜けな顔をさらす。


 ついでに、男が来ても戦闘の方を眺めていたミカも驚いてシャーリィ達の方に向き直る。


「見たところ、このままではじり貧でしょう?」


「あ、ああ。そうだな」


「妾達もそれなりには強いと思っているの。貴方達も一緒でいいから、あれと戦わせてもらえない?」


「え?ちょっと、シャーリィ」


 男の返事を聞いてシャーリィは嬉しそうに笑っている。


 ミカは嫌な予感を覚えて止めようとしたが、


「妾も、彼らを放っておけん。助けることができるなら、助けたい」


 それはリリィに止められた。


「ダメだ。危険すぎる!」


 男はシャーリィの提案に否を返す。それだけ、あの蜘蛛擬きが強いということだろうか。


「危険だ、なんて言う貴方は妾達の実力を知っているのよね?」


 だが、シャーリィも引かず、むしろ男に殺気を叩きつける。


 それを受けて、男は表情を変えた。シャーリィが見た目とは裏腹に強いということが分かったのだ。


 が、すぐには頷かなかった。やはり、見た目が小さい子に戦わせるのには抵抗があるのだろう。


「あれは強いのだろう?妾達にぬしらを助けさせてもらえんか?」


 だめ押しとばかりにリリィが男にお願いをする。


「・・・助かる」


 結果は、男の方が折れた。


「だが、勝てないと思ったら俺達を置いて逃げろ。これが守れないなら、むしろ邪魔だ」


 が、男として譲れないところなのだろうか。念をおすように警告する。


「「分かった」」


 その警告を聞いてシャーリィ達は笑い、頷く。


 警告の内容が、『逃げる場合は守る』と言っていることに二人は気づいているからだ。


 ミカはそのやり取りを半ば呆然と見送る。いつの間にか断れる雰囲気では無くなっていた。


「とりあえず、妾達、三人(・・)があれと戦うから。その間に貴方達は体勢を整えておきなさい」


「・・・ん?」


 いつの間に自分は参戦することになったのだろう?ミカは首を傾げる。


「はぁ!?何言ってんだ!俺達五人で苦戦してんだぞ!」


「だからと言って、妾達が貴方達のチームプレイに入ることはできないでしょ?それに、貴方達が体勢を整える間だけなんだから、貴方達が早く体勢を整えればいいだけよ」


「ぐっ。・・・分かった。だが、絶対に無理すんなよ!」


「ええ」


「うむ」


 男の言葉にリリィは真面目に頷いているが、シャーリィは笑っている。楽しそうに。


 だが、ミカにとってそんなことはどうでもいい。


 問題なのは自分も勝手に戦力として数えられている点だ。


「・・・僕、やるなんて言っーー」


「主様が死んで困るのは誰?」


 文句を言おうとしたミカに、シャーリィが小声で囁く。他の誰にも聞こえないように。


「ーーてましたね~。はぁ」


 ミカは言おうとした言葉と反対の意味になる言葉を呟き、ため息を吐く。


 もし、万が一、リリィが死んでしまった場合、魔族領での安全が確保できなくなる。どころか、ミカのせいでリリィが死んだ。などということにもなりかねない。その場合は、向こうから殺しにかかってくる可能性が出てくる。


 この世界のことも分かっていないのに敵を増やすなどという行為は避けたい。


 現在の目的の一つである鏡について調べることも難しくなる。聞きたいのなら家の前で会った女性でも良いのだが、情報が無い状態から彼女を見つけ出すのはほぼ不可能だろう。


 考えすぎとは思っている。


 リリィが実はそこまで高い権力を持っている者では無いかもしれない。彼女が死んでも、魔族はなんとも思わないかもしれない。『金髪の長身女性』という情報だけで、女性が簡単に見つかるかもしれない。


 が、そうだと断定するための情報が圧倒的に足りない。


 ミカは仕方ないとばかりに立ち上がる。それに、本当に危険ならもっと強く否定している。


(まぁ、この程度ならリリィ達は負けないかな?)


 蜘蛛擬きとの戦闘を見てミカはそう判断をくだす。


 リリィ達はあの蜘蛛擬きが強敵だと思っているようだが、それは彼女達に戦闘経験が無いため、見た目や状況で判断しているからだ。


 ミカもあの蜘蛛擬きについては大して分かっていない。


 が、戦っている男のパーティーの実力は観察して、ある程度理解している。


 はっきり言って、大したこと無い。これが、ミカが彼らの戦闘を見て思ったことだ。


 確かにチームワークには目を見張るものがある。だが、それだけだ。個人の力量がそこそこ止まり。


 比較して分かりやすいのは魔法だ。


 ミカはシャーリィの魔法を見ている。裏路地で放ったシャーリィの氷の魔法。彼らのチームの女性が放った氷の魔法。この魔法の威力の桁が違った。


 女性のは氷の矢のようなもの。対して、シャーリィのは氷の槍。


 その上、女性が放ったのは集中して作ったものだったが、シャーリィは片手間に作ったようなもの。他の魔法を同時に扱うほどの余裕も持っていた。


 そして、女性の魔法で、浅くではあるが、蜘蛛擬きに傷を付けている。


 ならば、シャーリィの魔法で貫くことも可能だろう。下手をしたら、彼女の魔法一撃で終わる可能性すらある。


「俺は仲間に知らせてくる。合図をしたら、頼むぞ」


 男は戦闘を行っているメンバーの元へと戻っていく。


「さて、どうやって戦う?できれば、至近であれを見たくないんだけど」


「同じでいいんじゃない?」


「妾達は今日が初めてなのだから、いきなり戦い方を変えても困るであろう」


 ミカの問いに二人が思い思いのことを言う。


 男達と違い、ミカのメンバーは個人の力量が高く、チームワークの経験が無い。


 結果、戦闘方はミカが蜘蛛擬きの注意を引いて、魔法を中心に叩きのめすという、作戦らしくない作戦で行くことになった。


 三人はそれぞれ構える。


 ミカは剣の柄に手を置き、リリィとシャーリィは周りに魔力を漂わせ、いつでも魔法を放てるように。


 ミカは思う。


 危険な位置に行くの僕だけじゃね?


次週は、森の異変、です。

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