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異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
三章 ギルド
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二十二話

やっとですよ・・・。やっと魔法まで来ました。


長かったです・・・。

 今度の場所は広い訓練所のようなところ。先程の部屋とは違い、ここは冒険者も頻繁に使っているようで型を確認したり、案山子(かかし)を模擬刀、ではなく模擬剣?で叩いている人がいる。


 その中でも人のいない、だだっ広いだけの場所に案内される。


「お、誰もいねぇ。ちょうどいいな」


 ギルド長が言う。意外そうにしていたのでこの場に誰もいないことは珍しいことなのだろう。


「ここは魔法の試し撃ちや、実験などで使ってる場所だ」


 ギルド長の説明にミカとリリィは頷く。


「それじゃあ、早速、魔法を撃ってみてくれ」


 ギルド長の言葉にミカは固まる。魔力量を測定するのだと思っていたのだ。


「・・・あ~、その、魔法を使ったことがないので・・・やり方が分かりません」


「・・・は?」


「・・・え?」


 ミカの返答にギルド長とナナの二人はあり得ないことを聞いた、といった表情で固まっている。


「あ、そういえば、結局教えておらんかったな」


 リリィが呟く。ミカは文句を言いたかったが、そもそも自分が倒れたせいで教えられなかったのだからと思い、ぐっと我慢する。


「魔法を使ったことがない?」


「ええ」


「一度もか?」


「・・・はい」


「「・・・」」


 ギルド組は互いに顔を向けて黙りこむ。


 二人はすぐにハッとした表情を浮かべ、口を開く。


「で、でもミカさん、昨日の大会の準優勝者ですよね?」


「・・・まぁ、そうですね」


「・・・そういや、嬢ちゃんの動きは速いって訳じゃなかったな。あのとき、身体強化もしてなかったのか・・・。...それで、あの戦い方か...やっぱこいつは・・・」


 ギルド長の最後の言葉は誰にも聞こえていなかった。


 正確にはミカには聞こえてはいたが、それよりも聞き捨てならない言葉があったため、頭からすっぽ抜けた。


「待って、今僕のこと嬢ちゃんとか言いませんでした?」


「ん?なんかおかしかったか?」


 この台詞にナナとリリィが呆れた表情でギルド長を見る。


「まさか・・・」


「本気で言っておるのか?」


「あん?」


 ギルド長は二人を見返す。彼は勘違いしたままだった。


「僕、男です」


「は?」


「僕、は、()、です!」


 ミカは男を強調する。


 ギルド長は驚愕の表情を浮かべ、ミカの胸元に手を伸ばす。


「これが男の感触だと!?」


 反射的に殴ってしまったミカは悪くないだろう。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「まぁ、そんなわけで、是非魔法をご教授ください」


 ミカは頭を下げてお願いする。もちろん、頭を下げる相手は変態ではなくナナだ。


 魔法を教えてくれるのなら別にリリィである必要はないのだ。


 そのリリィは少し膨れ面をしながらミカを見ている。頭を下げる前に懐柔はしているので文句は言ってこない。


「えっと・・・ギルド長、できます?」


 ナナはしばし考え、首を横に振って嫌そうにしながらもギルド長に訊ねる。教え方が分からなかったようだ。

 だが、それも仕方ないだろう。人間も魔族と同様、物心つく頃から(威力はともかくとして)魔法を扱えたのだから。


「・・・ミカ。魔力は分かるのか?」


 ナナの言葉にギルド長は答えず、ミカに質問をする。


「はい。それは大丈夫です」


 実際に分かるようになっているのでミカは答える。昨夜の行いは無意味ではなかったのだ。


「そうか、なら大丈夫だな」


 そう言ってギルド長はミカの手をとる。


 ミカは手の触れ方が女性に対する物のような気がした。


「何ですか?また殴られたいのですか?」


 ミカは笑っている。残念ながらその笑顔は見る人が見れば女性に見えるものだった。例え、目が笑っていなかったとしてもそれは変わらない。


「そんな特殊な趣味はねぇ。俺が触ってる場所に魔力を集めろ。手首から流し込んで戻ろうとする魔力を塞き止める感じだ」


 ギルド長はミカの手を離す。


 ミカは眼を閉じ、魔力の流れに集中する。


「できたか?」


「・・・たぶん、ですけど」


 ミカは自信なさげに頷く。意識上はそこで止まっているが、体になにか変化があった感じは全くない。


「なら、後はイメージするだけだ」


 そう言ってギルド長は右掌にロウソク程の炎を出して上に飛ばして見せる。


「言葉でいった方がイメージしやすい。こんな風にな、ファイアーボール」


 ボウッ!!と人の頭ほどの大きさの炎が左掌に現れ、それもまた上空に飛んでいく。


「分かりやすいように見た目に変化を出してるが、慣れればイメージだけで同じ威力が出せる」


 ギルド長は再度右の掌に炎を出す。声を出さなかったにも関わらずその炎は左掌に出した炎と同じくらいの大きさがあった。


「んじゃ、やってみろ」


 言われてミカは再度集中する。


(掌に魔力を集めて、イメージ!)


 ミカは右手をバッ!と勢いよく前に突きだし、唄うように(つむ)ぐ。


「・・・ファイアーボール」


 何も起こらなかった。


「・・・」


「・・・」


「・・・」


 ミカは右手をバッ!と勢いよく前に突きだし、叫ぶ。


「・・・ファイアーボール!!」


 何も起こらなかった。


「・・・あー、詠唱をするとできるかもしれねぇぞ?」


「・・・は?」


 ミカは顔をひきつらせる。


「知らないか?知らねぇよな・・・。これは上位の奴が使うもんで隠すことが多いからな・・・」


 ミカの声を純粋な疑問だと思ったのか、ギルド長は周りを警戒しながら説明を始める。


「詠唱っつうのは、イメージを強化するための言霊(ことだま)みたいなもんだ。声に出すことで力が宿るっていうあれだな。


 基本的には魔法を放つためのイメージが足りない場合に使われるものだったらしいんだが、今は魔法の威力を爆発的にはね上げるために使われている。


 上位の奴しか知らねぇ理由は、初心者でもこの方法だと圧倒的な威力を出すことがあるからだ。教えた奴がその場で教えられた奴の放つ、自分より強い魔法を見たいとは、普通、思わねぇだろ?


 奴等は強がってるくせに臆病なんだよ。っと、話がそれてるな。


 詠唱の中身はどのような魔法を出したいのかをそのまま口にする感じだな。炎よ、我が手に集え、とかそんなのだ。


 聞いてて分かると思うがこの詠唱の弱点は口にするという行為があるせいで発動に時間がかかる点だ。


 声に出し、耳で聞くことによってイメージを補強する。この詠唱には決まった言葉なんてものはない。自分が放ちたい魔法をイメージし、それをそのまま表す言葉を口にすればいい。


 つっても、難しく考える必要はねぇ。パッと思い付いたのを口にしろ。それが詠唱だ」


 説明を聞いて、ミカはより顔色を悪くする。


「・・・ええっと。マジですか?」


「ああ、マジだ」


 違う、そうじゃない。


 ギルド長はミカが詠唱によって威力が跳ね上がることに驚いていると思っているが、ミカが聞きたいのはそれではない。


(魔法の詠唱をやれとか・・・)


 ミカはその自分をイメージした。


 ぅぁ、黒歴史が・・・とミカが呟く。


 魔法の詠唱をすることそのものをやりたくないという意味のマジですか?だったのだ。


 そんなミカをリリィが心配そうに見ている。ミカにはそれに気づく精神的余裕もないようだ。


「おら、炎の魔法をイメージしろ。魔法名は何でもいい。もう、お前さんの中にはあるんだろ?詠唱」


「・・・え?何で」


 当たり前の事のように聞かれたため、ミカはつい、声に出してしまった。


「やっぱりな。それを言え」


「うぇ!?」


 そう、ミカは昔考えたことがある。魔法の詠唱を。オリジナルの魔法を。

 黒歴史。それが刻まれたノートは既に焼却処分したが、意外と中身は覚えているもの。空で全て言える。


 これは弟も知らないはずだ。


(こ、こんなところで、黒歴史を開帳しろと?)


 ミカは涙目でギルド長を見返す。


 その視線は物語っている。


『さっさとしろ!』っと。


 視線を横にずらす。


 ナナは期待した目でこちらを見つめている。


 更に横へ。


 リリィは心配そうにしている。


 止めて欲しい。そんな意味を込めた視線をミカはリリィに向け、見つめる。


 見つめ合うこと数秒。リリィは頷く。


 ミカはホッとして微笑む。


 リリィも笑顔を見せて、一歩下がった。


 ミカの思いは通じなかった。


 リリィはミカの視線を、俺に任せろ!的な意味として受け取っていた。


 ミカはギルド長の方へと向き直り、ため息を一つ。


 ミカは諦めて、考え方を変えた。


(そう、これで魔法が発動すれば・・・)


 ミカは腕を前に突きだし集中する。イメージするのは、全てを焼き尽くす紅蓮の焔。


(今日、この瞬間・・・)


 それは、一番始めに妄想した魔法。


(黒歴史は黒歴史で無くなる!!)


 考え方を変えたと言えば聞こえはいいが、要は自棄になっているだけである。


「ーー()(ぜん)を焼き尽くす(ぜん)なる(ほむら)ーー」


 腕に魔力が収束する。室内は風が吹いていない筈なのに、空気が流れているような音がする。


「ーー其は(しん)の焔にして(われ)(なんじ)に与える神罰なりーー」


 掌の魔力が表に出ているのが分かる。いや、イメージできる。


「ーー汝に逃れる(すべ)はないーー」


「え、えげつない、詠唱だな・・・」


「ミ、ミカさん!!やり過ぎないでね!!絶対だよ!!」


「・・・」


 ギルド組は少し逃げ腰になっているが、リリィはミカを信じているのか動かない。その瞳はキラキラと輝いている。


「ーー怯え、震えろーー」


 体が暑い。


「ーー()()に従い、焔よ、(おお)い尽くせーー」


 詠唱が、終わる。


 ミカは眼を見開き、叫ぶ。


「ーースカーレットフレア!!」
























 何も起こらなかった。












「「「・・・」」」


 三対六つの瞳がミカを捕らえる。


「・・・」


 ミカは無言でクルリと半回転。


 そのまま全力ダッシュを開始する。その顔は真っ赤に染まっていた。


 体が暑い?羞恥心に決まっている!


「な!これは!おい、ミカ!」


 遠くで変態の声が聞こえたがミカは止まらない。とにかく出口目指して走る。


 今、自分は風になっている。


 そんなことを思った瞬間、


 ガツッ!と槍の柄に躓く。


 勢いそのままにミカはクルクルと宙を舞う。そしてーーー



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ーーハッ!」


「よかった。大丈夫か?」


「リリィ?」


 ミカが眼を覚ますと、視界一杯にリリィの顔が広がっていた。何故か頬がヒリヒリしているが、後頭部には柔らかい感触がある。


 膝枕というやつだ。


 何でこのような状況になっているのか分からないミカは首を傾げる。


 膝枕をされたままで。


「んっ」


 リリィはくすぐたそうにもじもじと両太ももを擦り合わせる。


 ミカは赤くなって上体を起こす。


 リリィの仕草に照れた、訳ではなく、気絶する前、魔法の詠唱を思い出したのだ。


「...ぅぁぁぁぁ」


 ミカは顔を手で覆い隠し、悶える。


(うぁぁ!ハズい!!死ぬほどハズい!!ヤバイ、死にたくなっ・・・て)


 じたばたと暴れていたミカがピタリと停止する。その視線は自分の腰に着いているものをじっと見ている。


 剣だ。


「・・・」


 ミカは無言で剣帯から剣を外し、抜く。


 ミカは思っていた。


 今こそ、NIPPONの伝統であるHARAKIRIをお見せする時ではなかろうか?と。


 スゥ~、と剣の切っ先がミカの腹辺りに向けられる。


(母さん、比佐津(ひさつ)、あと父さんも、今会いに行きますね)


 切腹をするには剣が少々長く、見映えの悪いものになっているがそこはしょうがない。


 そのまま力を込めて、一思いにーーー


「「「ミカ(さん)!?なにやっておるのだ(るの)!!」」」


「ウグゥ!?」


 三人の女性に止められ、押し倒される。


「妾との約束を反故にするつもりか!?」


 リリィが、


「例えどんな理由が有ろうと、自分で自分を殺すのは最低の行いだよ!?」


 ナナが、


「貴方が死んで、哀しむ人が居ないと思っているんですか!?」


 ルルが、それぞれ必死にミカの行いを止める。


「はーなーせー!僕を殺せないー!」


 それでもミカは何とか抜けようともがく。だが、それもナナの次の一言までだった。


「ルルにまたあんなことしたんだから、謝るまで死なせないからね!」


 ピタリとミカは停止し、ギギギっと壊れたブリキのようにゆっくりとルルを見る。


(あれ?いつのまにか一人増えてる?)


 ミカはルルを見つめる。


 彼女も抵抗が無くなって、ホッとしながらミカを見返す。


 視線が合った。


「・・・ええっと、どうされました?」


 ルルは首を傾げる。


「・・・あんなこと?」


「・・・っ!」


 が、ミカの一言で彼女は一瞬で真っ赤になり、ミカから離れる。その腕は、まるで胸を守るかのようにクロスされていた。


 ミカは頬がヒリヒリしていた理由を悟った。


「またも、ご迷惑をおかけしまして、まことに申し訳ございませんでした」


 全く覚えていなかったが、ミカは素直に謝るのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ルルさんはどうしてここに?」


「お仕事に一区切り着いたので、その、気になって見に来ました」


「そしてそこにちょうどミカさんが飛び込んでいったのよね」


「もう、ナナ!」


「さて、そろそろいいか?」


 女性陣とミカが落ち着いたのを見計らってギルド長が声を出す。


 その場にいる全員がギルド長へと向き直る。弱冠一名睨んでいるものがいるがそれを無視して続ける。


「気になることがある、ミカもう一度魔法をやるぞ」


「は?嫌だよ。殺すよ?間違えた、死ぬよ?僕が」


 ミカは睨みから一転、ニコニコとしながら物騒な言葉を言う。間違えた、とは言っているが恐らくそれは嘘だろう。

 ギルド長へと向ける殺気が本気だった。


「おおー、こわ。次は風の魔法だ。やってみろ」


 怖いなどと全く思っていないような軽い口調で言う。


「嫌だって言いましたよね?」


 と言いつつもミカは立ち上がる。


 ナナとリリィもミカから離れて見てきている。二人とギルド長、ルルの四人が居るのはミカから見て入り口側だ。


 同じミスをしても逃がさないようにだろう。


「・・・ウィンドカッター」


 ミカの集中してはいるが、やる気の感じられない、手を横に振りながらの適当な声。


 ミカの手刀からピュッ!と風切り音が出た。


「え?」


 ミカは自分の手を見る。見た目には特に変化が無いように見えるが、少し違和感を覚えたミカは逆の手も並べてみる。


 並べてみるとよくわかった。なにもしていない左手と魔法を発動している右手では大きさが違って見える。恐らく圧縮された空気がその手を包んでいるのだろう。


「お、やっぱり発動できたか」


 ギルド長が少し嬉しそうな声を上げる。


「やっぱり?」


 ミカはギルド長に疑問を投げ掛ける。ギルド長の言い方は予想をしていたように思えたからだ。


「お前さんが逃げたときの速度。あれは魔法なしではだせないもんだった。だからといって、身体強化を行ってる訳でもねぇ。もし、身体強化だったら槍の方が折れてたはずだからな。あのぶつかり方だと。ってことは別の方法で加速したんだろって考えたわけだ。その場合、上位以外だと風の魔法がやり易いからな。風属性の魔法がお前さんの得意魔法ってことだな」


 ギルド長の説明を聞いたミカは驚きの表情で見返す。


(この人、頭を使えるんだ・・・)


 かなり失礼なことを考えながら。


「ギルド長、戦闘に対する観察眼だけは凄いわね。やっぱり」


「こらナナ。本当のことでも言っちゃダメでしょ?」


 受付嬢二人も中々失礼だ。


「お前らな・・・。まぁいい。それより、一番始めにイメージしたのが飛ばすタイプじゃないやつは珍しいな。大半はそっちをイメージするんだが・・・」


 ミカはギルド長の言葉に首を傾げる。ミカのイメージした魔法は風の刃を飛ばすものだ。


 報告しようと思ったが、その前にギルド長が口を開く。


「んじゃあ、その魔法を飛ばしてみろ」


「・・・どうやって?」


「イメージだ」


 もともとそのイメージでやっていたつもりだったが、ミカは改めて集中し、風の刃を飛ばすイメージをする。


「ウィンドカッター」


 ピュッ!と風切り音が出た。


 ミカの手刀から。


 風の刃はミカの手から離れなかった。


「「「「・・・」」」」


 周りは沈黙している。


 ミカは走りたくなるのを必死に我慢。深呼吸をして落ち着き、再度チャレンジ。


「ウィンドショット」


 ミカの突きだした手から風の弾丸がでなかった。


「「「「・・・」」」」


 周りは沈黙している。


 ミカは自棄になった。


「エアカッター、エアショット、エアブラスト、ウィンドバレット、エアブレス、エアリアル、ウィンド」


 イラァ!


「ウィンドボム!」


 無差別な爆風が起こった。


 ミカの手から。


 台風を思わせるほどの強烈な爆風に女性三人は耐えきれず、コロンと一回転して伏せる。


 ギルド長は腕を顔の前に持ってきているだけで軽く耐えている。伊達にギルドの長をやっているわけではない、ということだろう。


 風を起こした犯人であるミカはというと、吹っ飛んでいた。


 それはもう数十メートル単位で軽く吹き飛んでいる。心構えを全くしていなかったのだ。まぁ、していたからといって耐えられたかは別であるが。


 ドッ!ゴロゴロ!ドカッ!と落下したミカは転がり、壁に激突。


「キュ~…」


 ミカは本日二度目の気絶を経験した。








後半へと続きます。

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