十八話
遅くなりました。
ガイダンスなどなどで時間を取られました。何の、とかは言いません。念のため。
今回の話はスッキリとはしないと思います。
「神月流?ベルン流ではないのですか?」
フェルディナ選手は聞こえてきた流派が、攻撃の際の流派と異なることに疑問を覚えて問い返す。
「ええ。神月流です」
ミカは自分の流派である神月流を強調して言う。
『聞いたことあるか?』
『いや、全く』
『あいつ、武器捨てたぞ』
『剣相手に素手で戦うつもりか?よっぽど身体強化に自信があるのか?』
『シンゲツ流ってのはリーチの不利をものともしないのか?』
これがミカの考えだ。神月流を使うミカとしてある程度の知名度をこの町に確立しておく。
これでここに大蛇が来た場合、どのくらいの時期に自分が居たのかを知らせることができる。
(あとは、勝つか負けるか、か・・・)
大金は欲しいし、優勝だってしたいが、これはこの町の祭だ。つまり、優勝した場合、神月流の名前はかなり広まるが、国とか、自治団的な何かに目をつけられ、戦力としてカウントされるかもしれない。
この大会は人間の敵である魔族達に対する威嚇みたいなもの。最前線で戦え、とか言われる可能性が無くはないのだ。
もう遅いとかはあえて考えない。
(うん、惜しくはあるけど、負け一択かな)
ミカは町に縛られる気はない。地球に戻るために調べなければならないことがあるし、最もその情報を持っていそうなのは家の前で争った二人。その内の魔族、コクロウに関する情報はリリィの親が持っている可能性が高い。
ミカはリリィを使って魔族領に行くつもりだ。
なのに敵として覚えられたらそれも不可能になる。
(問題は調子に乗って準決勝まで来ちゃった事だよね。あぁ、お金は必要だけどここまで残る必要は無かったな~。なにやってんだろ)
ミカはため息を何とか呑み込み、フェルディナ選手を見つめる。鎧に何かしらの回復効果があるのか、目で見て分かるほど出血量が減っている。
まだ全力とはいかないが普通に戦闘を行うには問題ないレベルまで。
(うわっ!セコい!)
が、一応、これは好都合だ。神月流を知らせらためにはある程度の力を魅せなければならない。
(試合で負けて、相手には敗北感を与えたいな。そうすれば、僕に勝ちを譲られた~とか思ってくれそうだし)
だが、ここまでやって、ただ負けるのはなんか嫌だったミカはそんなことを思う。
「何故武器を捨てた。素手でこの私に勝てると?嘗められたものだ」
「いえいえ、嘗めてなどおりませんよ。神月流は素手で戦う流派です。そして、僕は剣より素手の方が戦いやすいんです」
「何だと?」
彼女は目を細めて睨んでくる。疑惑の視線だ。ミカの台詞がハッタリだと思ったのだろう。
ミカが今まで勝利の度に剣を自由に使っているように魅せていたのは、剣に馴れるためというのもあるが、剣が一番の獲物だと思わせるためのものだったのだ。
本来は、この勘違いを利用して、嘗めていると思わせ、叩きのめすつもりだった。しかも、神月流とかを名乗らず、相手に嘗められたと思わせたまま。相手に大きな敗北感を与えるためだけに。
(まさか、勝利のための作戦を敗北のために使わなければならないとは・・・)
そんなことを思いながらミカはフェルディナ選手に歩み寄る。
何も構えず、コンビニに向かうような気軽な足取りで。
「何の真似です?」
彼女はこの試合でいったい何度、疑問の声をあげたのだろう?何となく疑問に思ったミカだが、口を開くことはなかった。
「・・・」
ただ、ゆっくりと無言で歩み続ける。
フェルディナ選手はミカが剣の間合いに入った瞬間、剣を振る。
「・・・え?」
ーーー否、剣を振ろうとした。が、振れなかった。
いつの間にか、ミカの足がフェルディナ選手の右腕に当たっている。痛みはない。大した力も入っていない。ただ当たっているだけ。なのに動かない。
「何故?」
「どうしました?」
「ーーーっ!」
フェルディナ選手はとっさに背後に跳ぶ。
距離を取ったフェルディナ選手は剣を持った自分の右腕を軽く振るう。
(腕が、少し痺れている?何故?)
ミカはペースを変えずに歩み続けている。違いがあるとすればその表情だ。
笑っている。
(何だ?私は、何をされた?)
疑問に思うがミカはゆっくりとだが、確実に近づいてくる。
再度間合いに入ったミカに今度は突きを放とうとする。
「・・・ま、た」
今度は足を前に出すことができなかった。
また、背後に跳んで距離を取る。今度は腕ではなく、足が軽く痺れていて、着地の際は少しバランスを崩した。
「私に何をした?」
「・・・」
片膝をついたフェルディナ選手の問いにミカは答えない。ゆっくりと笑顔のまま歩み寄るだけ。
フェルディナ選手は立ち上がり、構えを取る。が、どうすればいいのか分からない。
ミカはゆっくりと近づいてくる。
フェルディナ選手は後ろに一歩後退り、自分が恐怖してしまったことを自覚する。
「くっ!はぁぁぁぁ!!」
それを認めたくなくて、フェルディナ選手は大声で誤魔化し、ミカに突撃する。
ミカの正面で振り下ろそうとした腕が、一瞬止まる。フェルディナ選手はそれでも無理矢理動かし、ミカの背後で剣を空振る。
止まっていたのは腕だけで、突進の勢いは止まっていなかったからだ。
彼女はすぐさま振り返り、がむしゃらに剣を振るう。
(神月流・摘花)
ミカはそれらを冷静に手や足を使って、トン、と突き、ほとんどを止める。
摘花の原理は体重移動の妨害だ。
人間の動きは全て細かい体重移動が必要だ。これを妨害されると、立ちたくても立てない、という現象がおこる。
有名なのは椅子に座った人の額を軽く押すだけでその人は椅子から立てなくなる、といったものだ。
立つのを妨害するのに一点を押すだけでいいように、他の動きも一点を押すだけでいい。
彼女が先程から行動を妨害されているのは、ミカのただ、速度だけを速くしている手足でその点を押されていたからだ。
攻撃という花が咲く前に摘み取る。これが名前の由来だ。
言葉だけならば簡単だが、行うのは難しい。体の動きに対して、どの筋肉がどのように動くかを理解して、そこからどの部位をどのくらいの力で押せば動かせなくなるのかを見切らなければならないからだ。
ミカはこの技を得意としている。自分より格上の主将相手に勝つことができたくらいに。まぁ、二日で対策を立てられたが。
ミカの動体視力は高く、僅かな動きも集中していれば見切ることが可能だ。それこそ、技の出始めの際に必ず必要な筋肉の僅かな動きさえも。
力も、剣技の才能もなかったミカの数少ない自慢できることだ。これのおかげで、相手の力を使う神月流を上手く扱える。
摘花によって止められた攻撃も無理矢理放っているフェルディナ選手の動きは、ロードに手間取っているゲームのようにカクカクとしている。
が、その動きも徐々に滑らかに戻っていく。
これは彼女が対策を立てたわけではない。ミカが誘導しているのだ。
「痛っ!」
ミカの腕に小さな切り傷が刻まれる。もちろん、わざとだ。
フェルディナ選手の右腕に手を当てて勢いを殺し、その腕を軽く引っ張ってミカ自身に細剣が当たるようにしたのだ。
因みに、声はわざとではない。素で漏れた。
攻撃ができたことにフェルディナ選手は落ち着きを取り戻していく。
(大丈夫。傷を与えることはできる。それなら、勝つことだって!)
それからは、フェルディナ選手がほんの少しだけ有利な戦いを繰り広げている、ように見える。
ミカの体には大小さまざまな切り傷が少しずつ少しずつ刻まれていっている。
ミカは痛みに顔をしかめている。その上、ミカは一切の攻撃行為を行えていない、ように見える。
(違う、違う違う違う!!)
が、追い詰められた表情をしているのはフェルディナ選手の方だ。
彼女は突きを放つため構える。狙いは足だ。
が、実際に放ったのは胴体を狙った水平斬り。構えた瞬間にミカがさまざまな角度から腕や足を使って誘導しそれしか手がない状態にされたのだ。
ミカはとっさにかわそうとして、かわしきれずに左腕を傷つけられる。これも演技だ。
フェルディナ選手は一度落ち着きを取り戻したからこそ、分かった。分かってしまった。
自分の攻撃が全て、ミスも、成功も、彼、ミカが決めている。
彼の手足が当たり、剣を振れる方向も、踏み込む足の位置も、全て決められる。
身体強化も一切行わずに。
(こんなの・・・)
ーーー勝てるわけがない。
彼女の表情に絶望が広がっていく。
彼女の目的はこの大会で優勝して、最前線で戦う力はある、と家族に知らしめるためだった。父上と肩を並べて戦うことができる程強くなったと知らせるためだった。
だが、現状はどうだ?
人間一人に手も足も出ずに踊らされている。
最前線は当然魔族と戦う。指揮をしている魔族は最強の人間でも一人では勝てないと言われているほどの強敵だ。
が、自分は最強でも何でもない、鍛えてもいなさそうな者一人に何もできない。
ーーー私は敗北の経験が無いだけの弱者だったのだな・・・。
今までの努力など天才の前では意味などないのだ。そう思うと涙がこみ上げてきた。
顔を伏せて、ミカを視線から外し、降参しようと剣を動かし、
「降参です。まさか、本気でも勝てないとは・・・流石ですね。フェルディナ選手」
「え?」
何を言われているのか分からず、フェルディナ選手は顔を上げる。
そこには、膝をつき、低い姿勢になったミカの姿が。
低い姿勢になっているせいで、降参しようと下ろしかけた剣がミカの首筋辺りにある。
「・・・なん、で?」
困惑の表情のまま審判を見る。説明が欲しかった。が、審判はその視線の意味を理解しながら無視をする。
「勝者!!フェルディナ選手!!よって今大会の優勝者はフェルディナ選手となります!!」
観客から、『さすが、ラライナ家』や、『ラライナ様~!!』などの大きな歓声が会場を包む。
モニターが文字を表示したのは彼女にとって幸運だったのかもしれない。彼女の表情は勝者のそれではなかったのだから。
「以上を持ちまして、武闘大会を終了致します」
審判がそう宣言し、ミカを一睨みして彼は退場した。間近で見ていた彼はミカがわざと負けたと分かったからだ。
ミカは顔を伏せて観客の声に耳を傾け、その反応に焦る。
(あれ?誰も僕の見てなくない?)
ミカはこの町にはそれなりの強者が集まっていると思っていた。だから、観客にもそういう人たちが居るだろうと思っていた。三割近くの人が自分の攻撃がどのようなものなのか理解してくれると思っていた。
だが、どうだろう。観客の声はどれもこれもフェルディナ選手一色。ミカの流派について語るものは誰もいない。数百人規模の人たちが居るにも関わらず。
(目立たなかったなら目立たなかったでいい、はずなのに。あー、なんだろ?誰か気づいても良いじゃん)
この国、実はレベルが低いのだろう。ミカはそう思うことにして顔を上げる。
その視線の先で、フェルディナ選手が暗い表情で涙を流していた。
「うぇ!?や、やり過ぎた?」
つい、口から漏れてしまった。
「ッ!」
その一言でフェルディナ選手は理解する。
勝ちを譲られただけでなく、手加減までされていた、と。
その事実を認めたくなくて、彼女は逃げるように会場を出ていった。
ミカはどうしたらいいのか分からず、ただ呆然とそれを見送った。
そんなやり取りを上の観客席から眺めている男が一人。ミカたちをこの会場に案内した男だ。
(あいつの戦い方、人間相手を想定しているな。やっぱ、あいつは魔族に協力しているのか?にしては、堂々としすぎている・・・。一応、あいつにも監視を付けとくか。どちらにしろ、魔族の嬢ちゃんには付けなきゃならんしな)
男はそこまで考えてようやく出口へと向かい始める。
この世界で人間同士が戦い合うことなど滅多にない。合ったとしてもこのような競技だけだ。これすらも王族はどんどん数を減らしていっている。
冒険者や騎士達も特訓に人間を使うことなどない。
魔物と戦闘シミュレーションを安全に行える魔道具は既に全国に広まっており、ダンジョン等もあるため、実戦の経験はそこでつむ。
そちらの方がためになるのだ。戦争の相手は人間ではなく魔物や魔族なのだから。
だからこそ、ミカの戦闘方法はわかるものが見ればおかしい物だと認識される。
人間は協力する者であり、仲間である。
これがこの世界の人間の考え方だ。
だが、ミカの戦い方は相手を人間と想定している。本人からすれば競い会う相手がそもそも人間しか居なかったのだから当たり前のことなのだが、この世界では異端だ。まるで、人間は敵だと言っているようで・・・。
(いや、考えすぎだ。そんなそぶりはなかった)
ミカの態度にそんなものは一切含まれていなかった。
男は頭を振って会場から出ていった。
「準備の方は?」
「あと、三日、絶対に成功させたいなら五日だな」
薄暗い路地で二つの人影が話している。
「そうか。早い方がいいが、失敗する訳にはいかない」
「では」
人影が何かを渡す。
「これは?」
「三日で完璧に準備をする。その代わり、こちらからも頼み事がある」
渡されたのは複写の魔石によって写された絵。地球で言うところの写真だ。
「今回の事でその女を、殺せ」
「分かった。が、あくまでも自分の目的を優先させてもらうぞ」
「結構」
そう言って人影が一つ音もなく消える。
残った人影は渡されたものに目を向ける。
写っているのは薄い紫の髪をした女の子。もう一枚はそれとそっくりな水色の髪をした女の子。
それはどちらも同じ人物。
「ああ、こっちは大会にいたな」
リリィだった。
ミカはチートではない、予定です。
対人に強めなだけ、なはずです。




