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異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
二章 武闘大会
21/111

十九話

セーフ・・・ですかね?


今回から時間が開くときはマークを着けました。

「こちらが賞金の金貨五枚に成ります。お確かめください」


 受付嬢達からミカは賞金を受けとる。

 場所は初めて彼女たちにあった入り口から最初の分かれ道のところだ。


 ミカは受け取った袋の中を確認する。中には金色をした小判のような形の物が五枚あった。これが金貨だろう。


「はい、ありがとうございます」


 ミカはお礼を言って軽く頭を下げる。リリィも同じ動きをする。


「「お疲れさまでした」」


 受付嬢達の挨拶を聞いてもミカ達は去ろうとしない。その事に受付嬢達は首を傾げる。


「あー、その、ルルさん」


「はい、どうされました?」


 ミカの態度にルルは真面目な話かな?と思い、姿勢を正す。


「本日はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!!」


 ミカは90度しっかりと頭を下げる。

 突然の事でルルは驚き、それがなんの謝罪か分かったのか顔を赤くする。

 彼女は顔を伏せて小さく、忘れかけてたのに・・・、と呟く。


「で、出来れば、忘れて欲しい、です」


「・・・努力します」


 ミカはお辞儀をしたまま、つまり、目を見ずに答える。

 その態度にルルは、うぅ~、と唸っていたがとりあえず謝罪は受け取ったようだ。


「はいはい。んじゃ次もあるし、ミカさん、私達はギルドでも受付やってるから会いに来てね」


「そうなんですか。では明日登録しにいくのでまたそのときに」


 ミカの返答が意外だったのか二人は首を傾げる?


「あれ?」


 その反応にミカも首を傾げる。


「あ、失礼しました。決勝まで出場する力があるのに騎士でも冒険者でも無いんですね」


「ええ。まぁーーー」


 お金が無かったので、と続けようとしたが、まだ登録にお金が必要か分からなかったので言葉を止める。


 ミカは折角だから登録方法などをいろいろ聞いておこうと思ったが、後ろから足音が聞こえたので止めておく。


「ーーーっと、では、次が来たみたいですのでこれで。また明日」


「「あ、はい。ありがとうございました」」


 ミカは二人に挨拶をして振り返る。後ろには暗い表情で受付に向かっているフェルディナとそれに付き添うようにしているダナルの二人がいた。


 ミカ達は特に何も言わずすれ違う。その際、ダナルがこちらを睨んでいたが、特に気にせず二人は建物から出ていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 外で待機していた運転手にリリィの分も入れて金貨を一枚渡す。僕の分だけじゃないのかよ、とミカは思ったけれど、まぁ、約束したことだからしょうがないと早々に諦めて渡していた。


「さて、最初の問題を発表しよう」


 ミカが少しテンション高く言う。場所はもうすぐギルドの近くにたどり着きそうなところだ。

 お金を得て、舞い上がり気づくのが遅れてしまった。


「宿、どうする?」


「・・・え?決めておらんかったのか?」


 一転して落ち着いた声で言ったミカの言葉をリリィは一瞬理解できなかった。

 だが、それも仕方ないだろう。ミカの足取りにはここまで一切の迷いが無かったのだから。


 リリィの問いにミカは頷きを返す。


「な、どうするのだ!?もう日は沈んでおるのだぞ!?」


 そう、手続きも含めて大会が終わったのは、夕日は見えないが、まだ空が赤色をしているくらいの遅い時間だった。

 移動している際に既に空も暗くなっている。


「たぶん、あの大きい建物がホテルだと思うからそこに寄るよ?」


 ミカは日本でもよく見るホテルのような形をした大きな建物を指差しながらリリィに確認をとる。


 リリィは頷き、ーーー背後に小さな火の玉を飛ばす。


 火の玉は二十メートルくらいの所で弾けて消えた。


「・・・どうしたの?」


 ミカは今の行動の意味が分からなかった。

 そんなミカを無視して、リリィは暫く背後を睨み続ける。


 十秒程たってようやくリリィはミカの方を向いた。


「・・・いや、見られていた気がしてな」


「・・・過去形ってことは今は感じないの?」


 リリィの言葉にミカは周りを警戒しながら問いかける。

 リリィは再度、後ろを確認して首を横に振る。


「分からん。妾の気のせいかもしれん」


 ミカは腰のベルトにくくりつけている金貨の袋を触る。中身はある。スリにあったりはしていない。


「とりあえず、ホテルに入るよ?外よりは安全だろうし」


「うむ」


 リリィも反対せずに二人は建物の中に入っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「・・・」


 中に入ってミカは絶句する。


 最初に目に入ったのは上。シャンデリアだ。それが広いフロントを全て照らすようにいくつも並んでいる。


 次に地面。真っ白なタイルのようなものが敷き詰められ、キラキラと光を反射している。その光はとても優しく、目を痛めることのない不思議な光で目を開けづらくなることもない。そして、どれだけ探しても染み一つ見つからない。


(・・・戻ろう)


 他にも高級感溢れる調度品がいろいろとあったが、ミカはくるりとUターン。


 一市民が居ていい場所ではない。


 ミカはそう思ってホテルを出ようとした。


「何故戻ろうとしておる」


 が、それはリリィに腕を掴まれて止められる。


「いや、だって、高そうじゃん」


「金貨を貰ったではないか」


 そんなことを言われてもミカはそれの価値がどんなものか分からないので不安は消えない。


(何でそんなに自信満々なの?リリィもお金の価値は分からないんだよね?)


 ミカはリリィの自信がどこから来ているか分からない。


「それに、ここに泊まらんとしても、他の宿の情報くらい聞いた方が良かろう?」


「それはそうだけど。ほら、礼儀とか、どうしたらいいのか分かんないし・・・」


「お困りでしょうか?」


「ッ!!」


 突然近くで聞こえた知らない声にミカはビクゥ!と驚き硬直する。


 声をかけた初老の男性はミカとリリィにまさしく見本のような一礼を行う。


「失礼致しました。ですが、何かお困りのご様子でしたので。私でよろしければ、何なりとお尋ねください」


 二人の前に居たのは、これこそが執事の理想だ、と言った感じの初老の男性だ。きっちりとスーツを着こなし、一つ一つの動作が洗練されている。

 きっと名前はセバスチャンだ。ミカはそう思った。


「この宿は泊まれるか?」


 執事の動作に完全に硬直しているミカをほおっておいてリリィが執事に問いかける。


「大変申し上げにくいのですが。先程、全ての部屋が埋まってしまいまして、これ以上は当店での宿泊は不可能な状態にございます」


「む、そうか」


 リリィは残念そうに呟く。そのまま近くの宿の情報を得ようと口を開きかけた所で執事の方が話始める。


「ですので、代わりと言ってはなんですが、私のオススメの宿を紹介致します」


「そこの食事は旨いか?」


「それは、保証いたします」


 リリィの質問に執事は笑顔を返し、続きを話す。


「当店を出られまして二度左へ、当店の横を通るような形で道沿いに進まれますと、服飾・アオバという店がございます。その店の前の通路を右へと曲がり、道沿いに進まれますと、左手に食事処・クロアと言う店がございます。そこで、『執事のネヴィアから招待されました』と言って、こちらの手紙をお渡しください」


 リリィは口頭で言われた道順を必死に覚える。それが分かっている執事は、ぼーっとしているミカに封筒のようなものを渡す。


「この店の横を通って、アオバを右に行って、クロアに入ればよいのだな?そこの店員に執事のネヴィアに招待された、と言ってこの手紙を渡せばよい。間違っておらぬか?」


「はい」


 リリィの言葉に執事は頷きを返す。


 ここでようやくミカがハッ!っと再起動する。彼はいつの間にか持っていた封筒のようなものと執事を交互に見て首を傾げる。


「何故、僕達にここまで丁寧にしてくださるのですか?」


 もっともな疑問だ。こういった紹介状は良くしてくれた客や、恩人などに渡すもの。その場で初めて会ったものに渡すようなものではない。

 渡されたミカは疑惑の視線を執事に向ける。お金を盗むつもりなのか?と。


「そのようなつもりはございません」


 この台詞にミカは更に視線を鋭くする。


(人の心をナチュラルに読まないでもらえますかね)


「失礼しました」


 執事の言葉を聞き、ミカは自分の顔を触る。そんなに分かりやすい表情をしていたのか気になったからだ。当然ながら自分では分からない。


「私が貴殿方(あなたがた)を丁寧に扱う理由ですが、これもまた、当店のサービスでございますので」


 そう言って執事は仰々しく頭を下げる。


「不快な思いをさせてしまったのは私の落ち度です。誠に申し訳ございません」


 このような対応をされて、ミカはどうすればいいのか分からなくなる。ここまで丁寧に接してきた相手は今まで一切いなかった。


「い、いえ。貴方の対応や態度に問題が有ったわけでは・・・。え、えっと、ご厚意、痛み入ります」


 しどろもどろにミカは言葉を返し、その様子にリリィが小さく笑う。


「ふふっ。礼をいうぞ、執事のネヴィアよ」


「いえ。私ごときでお役にたてたのでしたら幸いです」


 ミカはリリィに引っ張られるようにして店を出ていく。


「またのご来店をお待ちしております」


 そんな二人に執事は日本でもよく聞いた決まり文句を言って頭を下げる。その表情は微笑ましいものを見ているようだった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 リリィはミカを引っ張りながら執事から聞いた道を歩いていく。そこは裏道のような少し入り組んでいる真っ暗な道で、あまり人は通らなそうだ。


「ねぇ、リリィ」


「・・・なんだ?」


「騙されたって事はないよね?」


 リリィも少し不安なのか、握っている手の力が少し強くなった。


 無言で歩くことしばし、リリィが一つの店の前で止まる。


「・・・アオバ。ここを右だな」


 店はもう閉まっており暗くなっているが、リリィはホッとした表情を作り、右へと曲がる。


 次のクロアはすぐに見つかった。


 外見は一階部分が日本の屋台に近い外見で二階部分と三階部分は木製の家だ。シルエットだけなら日本の三階建ての一軒家に似ているので、おそらく、一階部分を改造したのだろう。

 扉の上部には新品に近い看板が懸けられている。

 ミカには読めないが、この世界の文字で『食事処・クロア』と丁寧な字で書かれている。


 リリィは安堵の表情を浮かべているが、ミカの表情はうかない。


(明かりは点いてる。匂いから料理店だとは思うんだけど中からの音が無い。ここは大丈夫なのかな?)


 宿を探してたのに何で料理店に来てるんだろう?話を聞いてなかったミカはそんなことを思っていた。


 二人は顔を見合わせる。方や、嬉しそうな表情を。方や、難しそうな表情を。


 ミカの表情にリリィは首をかしげておかしなところが有ったか周りを確認する。

 そして、一点を見て固まる。


 自分とミカの手が繋がれていた。


 リリィはバッ!と手を離し赤くなってうつ向く。


「つ、着いたな。うむ。では、入るぞ」


 ミカはしばらくうつむいていたリリィに声をかけようとしたがその前に彼女が歩きながら言う。

 その顔をミカに見せない。


(ミカは、妾と居るのが嫌なのかな・・・)


 リリィは何でミカが暗い表情をしていたのか考えてそう思った。そして、その時、自分の胸の辺りがチクッ、と痛み、泣きそうになったのを誤魔化すようにいつもより少し強く扉を開けて店に入る。


 明るい声とは裏腹にその表情は暗かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「いらっしゃいませ!食事処・クロアへようこそ!何名様ですか?」


「二人です」


「二名様ですね、お好きな席へどうぞ」


 ミカ達が入ると高校生くらいの女の子が大きな声で案内をしてくれた。それに答えながらミカは周りを見る。


 中は結構広く、入り口から近いところに台所があり、女性が何かの料理の下準備をしている。

 奥には四人掛けのテーブルが等間隔で十セット並んでいる。

 台所の前も改造されているのか、五人ほど座れるカウンター席がある。


(客が、居ない)


 席には誰も座っておらず静寂に包まれている。

 汚れどころかほとんどが新品同様なので、人気が無いわけではなく、まだ知られていないのだろう。


 ミカ達はその中にあったちょっと汚れが残っているテーブルに座る。新品を使うのには何となく罪悪感が有ったからだ。


 女の子がお冷やとメニューを持ってくる。


「少しよいか?」


「はい。何で『グゥ~』・・・何でしょう?」


 お冷やとメニューを置いた女の子にリリィが声をかけ、それに答えた女の子からお腹の音が鳴るが、恥ずかしそうな表情をすぐに消して再度問いかける。


 客が居ないのに、美味しそうな匂いがしていたのは晩御飯の準備だったようだ。


 リリィはちょっと言いにくそうにしながらミカに視線をよこす。封筒のようなものを出せと言うことだろうとミカは勝手に解釈してテーブルの上に出す。

 ミカは喋らない。聞いてなかったのだから何も言えないのだ。

 仕方なく、リリィから話し出す。


「う、うむ。執事のネヴィアから招待されたと言えば分かるとーーー」


「ネヴィアさんから!?」


 女の子は封筒のようなものを取って、お母さん!!と言いながら台所に走っていった。


 呆然と見送る二人。


 スッ、とミカはリリィにメニューを差し出す。


「・・・とりあえず、何が良いか決めとこ?」


 リリィは無言でメニューを開いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「娘が失礼致しました。私はこの店を経営しているエトナと言います。この子は娘のクロアです」


「クロアです。先程は失礼しました」


 二人はミカ達にペコリと頭を下げる。


「いえ、こちらこそ。夕食前だったのでしょう?」


 ミカはクロアと名乗った少女を見ながら言う。

 その態度にクロアは少し赤くなりながらもミカにジト目を返す。


「お気になさらず。お客様があまり来られないからといって気を抜いていたこちらが悪かったのですから」


 エトナは少し赤くなりながらも小さく笑う。

 赤くなった二人はそっくりだ。親子ではなく姉妹にしか見えない。


「エトナさん若いですね」


「いえ、そんな。お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます」


『女性は若いという言葉に弱いの。そう思ったらすぐに言いなさい。ただしこれには、大学生以上の、という形容詞が付くのを忘れないようにね』主将の言葉を覚えていたミカはすぐさま実行する。

 ちなみに、実行したのは初めてだ。今までそんな機会はなかったので。


 ミカの言葉を聞いたエトナは少し赤みが増したもののテンパったりせずに返す。


 それを横目にクロアが何かの紙を取り出す。


「お母さん」


「コホン。ネヴィアさんからの招待を読みました。何日ほど宿泊されますか?」


「それはまだ決まってないんですよ」


 そう言ってミカは袋から金貨を一枚取り出し、テーブルの上に置く。

 店の二人は驚いた表情をしているがそれに気づかずに続ける。


「とりあえず、これで、朝食と夕食付きの宿泊の場合何泊くらいできますか?」


 店の二人は動かない。


「あれ?もしもし?大丈夫ですか?」


 ミカは二人の前で手を振る。

 それでも二人は動かない。


 リリィが彼女達の目と鼻の先で、パンッ!!と猫だまし。


「「ひゃあ!!」」


 二人は悲鳴をあげてパニックに陥る。


「な、なんーーー」


「お、おか、お母さん!!どうしよ、どうするの!?金!!金貨だよね!?」


 エトナの声を遮り、すがり付いてくるクロアを見て、エトナは落ち着きを取り戻した。


「ぇ、えっと。何泊できるか、でしたね?これ一枚でこの家を買えます」


「・・・は?」


 ミカは思っていた答えと全く違う言葉が返ってきて固まる。何を言っているのか分からないと言った表情でエトナを見返す。

 エトナの表情はちょっと無理をした感じの笑顔を浮かべている。


 聞き間違いだろう。ミカは首を振ってもう一度問い直す。


「朝、夕、食事付きで何泊ほど可能ですか?」


「と申されましても・・・。この一枚でこの家を買ってお釣りが出ますので・・・。その・・・」


 ミカとリリィは固まる。金貨がここまで高いものだとは思ってなかった。


「お母さん、お釣り、足りるかな?」


 クロアの不安そうな声にエトナは苦い表情を返している。金貨を渡されてもお釣りが払えないのだろう。


「と、とりあえず、その金貨を受け取っておいてください。今はそれしかないので。明日、もう一枚の金貨を崩してきます」


 他に方法がなかったミカは獲られるリスクを考えないことにしてそう提案する。


「・・・まだあるの?」


 クロアが戦慄した表情でミカを見ている。


 この流れは良くない。そう思ったミカはメニューを選んでいたリリィに悪いと思いつつ無理矢理話を替える。


「とりあえずお腹が空いたので当店のオススメを二つ下さい!」


「「はっ、はい!!」」


 二人はあわただしく台所に消えていく。

 それを確認したミカは頭を抱える。


(家が買えるって・・・。これ一枚で数百万とかの価値があるってこと?そんなものポンって渡さないでよ)


 あの大会は本当に利益があるのか疑わしい。


 ミカはこれからどうするか考える。ギルドに行くのは決定として、できれば銀行のような施設を見つけたい。

 こんな大金を常に持ってるのは精神的にキツい。


 ミカはため息を吐く。


「どうしたのだ?」


「いや、予想外の大金でどうしようと思って」


「?」


 リリィには大金を持ったときの不安は分からないようだ。


 ミカは再度ため息を吐く。それ以降二人は料理が出てくるまで会話がなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「お待たせしました。串焼き五本セットになります」


 出てきたのは一本一本違う色のソースがかけられた串焼き肉五本に、何かの海草のスープ、小さめの野菜炒めのセット。それをエトナとクロアがそれぞれ二つずつ持ってくる。


「四つ?」


「一緒に食べて良いかしら?」


「構わんぞ」


 ミカの疑問にエトナが問い返し、リリィが答える。


「いやいや。店はどうするんですか?」


「大丈夫よ」


 店を経営している人とは思えない行動にミカは待ったをかけるが、一言で止められる。

 大丈夫って何ですか?と声をかける前に外からゴーン!!と鐘の音が鳴り響く。


「食事処・クロアは(ゴーン!!)十二の刻までだから(ゴーン!!)もう閉店なの」


「それ(ゴーン!!)、それなら大丈夫って(ゴーン!!)、大丈夫って言うのもどうか(ゴーン!!)、・・・どうかとお(ゴーン!!)、鐘の音うっさいな!!(ゴーン!!)」


 エトナは慣れたように話しているが、ミカは全く慣れていないため言葉を何度も繰り返し、ついには怒鳴る。

 ミカは鐘の音が止まるまで喋るのを諦める。その間に店の二人はミカ達と同じテーブルに腰掛けている。突っ込みたいが突っ込めない。


 鐘の音は合計十二回鳴って止まった。


 既にミカ以外の三人は食事に手を付けている。それを立たせてまで移動させるのも悪いと思ったミカはパチッと手を叩いて食事に手を付ける。


 味付きのお肉はとても美味しかったそうだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「「ごちそうさまでした」」


 ミカとリリィはそろって挨拶。今回はミカも丁寧にしている。ミカも作ってくれた人の目の前で雑な挨拶をするような心持ちはしていない。もっとも、イラッとして『いただきます』を言わなかった時点で礼儀としてはなってないが。


 エトナ親子が首を傾げていたので、故郷の風習です。と適当に言っておく。


「お客様は武闘大会に出場されたのですか?」


 食器の片付けとかをする気配もなく、唐突にエトナが言う。


「うむ。出場したぞ。ミカが」


 何故かリリィが得意気に答える。

 それを聞いた親子は、おお~、といった反応を見せる。


「それがどうかなさいましたか?」


「いえ。そう言えば、あの大会の賞金が金貨だったと先程思い出したので。やはり、そうでしたか。ずいぶんとお強いのですね」


 戻ってきたとき、ずいぶんと落ち着いたな、とミカは思ったけれど金貨を手に入れる心当たりを思い出したからか、と納得した。

 それでも、金貨を崩さなければならないということに変わりはないが。


「そんなことはありませんよ。対人戦はともかく、魔物戦ではおそらく、他の方の方がお強いでしょうし」


 リリィも含めた三人は首を傾げているがミカはそれ以上、答えるつもりがないようで、あからさまな話題そらしにかかる。


「それより、先程の鐘。あれは夜中も鳴るんですか?」


 結構深刻な問題だ。あんな大音響の中で寝られる自信をミカは持ち合わせていない。


「大丈夫よ。さすがに夜中は鳴らないわ」


 ミカのちょっと怯えた様な表情を見てクロアが、眠れないじゃない、と笑いながら答える。


「鐘が鳴るのは四の刻、八の刻、十二の刻の三回で、それぞれ朝、昼、夜の鐘とも呼ばれていますね。先程のように時間の数だけ鐘が鳴ります。四の鐘が鳴った後の一刻ほどで店の準備をして十二の刻には閉める、といった店がこの町では多いです」


 母のエトナがクロアの言葉に細かい補足を入れてくれる。


 時間の概念はあるが、細かくはないといったところだとあたりをつけて再度話を変える。


「それで、ここは料理店のようですけれど、宿泊はどちらですればいいのですか?」


「宿泊はここから出て左隣の建物で行っております。同じ部屋で泊まられますか?」


「別々で」


 ミカは即答する。リリィが何か言いたそうにしている気がしたが、何も言わせる気はない。


「部屋はあまり広くなくていいです。寝られる場所と簡易でいいので机が欲しいですね。こちらは可能ならでいいのですが、シャワー、欲を言えばお風呂がある部屋がいいです。トイレもできれば個室で」


 リリィが口を開ききる前にミカは要望を言い切る。


「ごめんなさい。お風呂のある部屋はさすがにありません。トイレも共用になります」


「いえ、こちらも無理を言った自覚はあります。忘れてください」


 ミカもさすがにここら辺は覚悟しているのかその返事は軽いものだった。


「シャワー付きの部屋でしたら一番上か、その一つ下のランクの部屋になりますがどうされますか?」


「二つの違いは?」


「見える景色とベッドの質と大きさですね。上のランクはダブルベットになります」


「下でお願いします!」


 ミカの即答に、あら?といった表情で首を傾げるエトナ。お金はあるのだから質が良い方を選ぶと思っていたようだ。


(何が悲しくて二人用のベッドで一人寂しく寝ないといけないのか)


 ミカの頭には贅沢をするという言葉はない。彼にとっては二人で使えるものを一人で使うことは、只々(ただただ)(むな)しくなるだけの行為である。


「......上は一部屋しか空いてないから一緒に寝られるよ?」


 クロアがリリィに耳打ちをしている。

 距離は結構近いので、ミカは彼女が何を言っているのか聞こえ、自分の判断が正しかったと心の中でガッツポーズ。


 彼女も断るだろうと思っていたのだが、


「ミカ、一番上のランクを」


「うん。冷静になろうか」


 リリィが真顔で何かを言おうとしていたのでミカは横から遮る。


 赤くなっているということもないのでミカには彼女が何を考えているのか分からなかった。


「上から二つ目の部屋を二つお願いします」


 分からないからといってこの要望を変える気はミカにはない。こんな見た目でもミカは男だ。年頃の男女が同じ部屋で寝るのには問題があることくらい理解している。


 リリィが懇願するような表情でミカを見ているが彼はスルーして言い切る。


「わかりました。明日は朝食の準備ができましたら娘が起こしに行きますので、それまでごゆっくりおくつろぎください」


 エトナはそう言って二階に上がって行く。


 彼女はすぐに鍵を二つ持って降りてきた。


「宿にはクロアがご案内致します」


 エトナはクロアに鍵を渡しながら言う。

 鍵を受け取ったクロアはミカ達にお辞儀を一つして、ついてきてください、と催促する。意識を仕事用に切り換えたようだ。


 彼女にとって先程までのやり取りは仕事では無かったようだ。


 そんなんで良いのか?と思いつつ、ミカ達は料理店を出ていった。



文字数9000越え

頑張りました。というか、文字がなんか増えてしまいました。

ただ、ミカとリリィの認識の違いを表したかっただけなのに・・・


次は短くなると思います

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