十六話
間に合いました?ちょっと遅刻かな?
次も頑張ります
「凄いなー、いつの間にか治ってた」
ミカが脱臼していたはずの左腕をグルグルと回しながら特別観戦席に入ってきた。
彼の腕が治っているのはこの会場に張られた結界の効果だ。
治る際は痛みも、快感も、違和感も何も無かった。元々怪我なんかしていなかったのではと疑うほどだった。
「これより!準決勝二回戦を開始いたします!」
審判が手を上げながら宣言をする。
準決勝、会場の中央には審判の男性が、左右にはフェルディナ選手とルドゥマナ選手が向かい合って待機している。
フェルディナ選手はやはり前と同じ居合いの構えを取っている。
対して、ルドゥマナ選手は右手に片手剣を、左手には盾を持ったゲームとかでよくある装備で、盾を少し前に剣を引いたこれまたゲームとかでよくあるオーソドックスな構えを取っている。
「始め!!」
審判は合図と共に手を振り下ろす。
二人は動かない。何気にこの大会初めて速攻をしなかった試合だとミカは思った。
二人は互いをにらみあって円を描くようにゆっくりと時計回りに動き始める。
フェルディナ選手は時折柄から少し手を離したりしてわざと隙を作ったりしているがルドゥマナ選手も誘いと理解して攻めたりしない。
ルドゥマナ選手が構えを変える。その瞬間ピクリとフェルディナ選手が反応するが攻めない。
そのことにルドゥマナ選手は舌打ちし、直後に目を見開く。
「なっ!!」
彼は舌打ちの際フェルディナ選手から一瞬だけ目を離した。周りや彼女と自分の立ち位置を確認しようとしたのだろうが、その一瞬は彼女にとって間合いに入るのに十分な時間だ。
フェルディナ選手の居合斬りをとっさに盾で防ぐ。ガキィ!と鉄と鉄がぶつかる音が響く。
「くっ」
「・・・チッ」
彼女は別に特別なことはしていない。ただ、ルドゥマナ選手の想定より速かっただけだ。それも、圧倒的に。
一回戦でのフェルディナ選手対ゴディーダ選手の試合の時、控えにいた彼だけは彼女の足運びに気づいていなかった。それ故に彼女の実力を見誤っていたのだろう。
フェルディナ選手は舌打ちして、勢いのままにルドゥマナ選手の横を通過する。
ルドゥマナ選手が振り返ったときには既に細剣を鞘に納め居合いの構えでまた飛び出してきている。
再度鉄と鉄がぶつかる音。先程と違うのはフェルディナ選手の表情だけだ。先程、彼女の表情には悔しさのようなものが浮かんでいたが、今回は挑発するように笑っている。意味はおそらく、ついてこられるか?だろう。
先程と同じようにフェルディナ選手はルドゥマナ選手の横を通過し、ルドゥマナ選手の体制が整う前に同じ構えでまた飛び出す。
二度、三度、四度と角度を変えながら何度も同じような技を放っているフェルディナ選手の攻撃を何とか防いではいるが、ルドゥマナ選手は彼女のスピードについていけていない。
「やっぱり、魔法って反則だよね」
「何がだ?」
ミカの呟きにリリィが反応する。ミカは彼女を見ずに独り言のように話し出す。
「あの速度で急ブレーキを掛けたってすぐに止まれないはずなのに反転して連撃とか。だいたい通過した後の二歩は加速してるのに三歩目で一度完全停止するとか普通ありえない。しかも、地面を擦った痕は無し。慣性の法則とか運動量保存の法則とかの物理法則に喧嘩売りまくりじゃん。反動とか無いのかな?」
「か、かん?うんどう、ぶつり?」
リリィはミカの話に疑問符がたくさん浮かんでいるようだがミカは一切気にしない。試合の方へと集中している。
それに、ミカが思っていたのはこれだけではない。
二十回目の金属音は剣と盾ではなかった。剣と鎧、つまりルドゥマナ選手がフェルディナ選手をとらえきれなくなっているのだ。
「うぐっ!!」
「ほう?硬いです、ね!!」
それでもフェルディナ選手は攻撃を弛めない。
ルドゥマナ選手の反応が遅れてきているように見えるのは、疲れてきているというのもあるだろうが一番の理由は、
(反転するごとにほんの僅かずつ速くなっていってる)
フェルディナ選手が加速していっているのだ。それも、戦っている本人にも気づきにくいほどの極々僅かずつに。
そのまま二回、三回とフェルディナ選手の剣がルドゥマナ選手の鎧を叩く音が響く。四回目は更に大きい音が響いたが、ルドゥマナ選手は疑問に思う。
(今のは何も、受け流しもできなかったはずなのに、鎧に傷がついただけ?・・・成る程、彼女はこの鎧を抜くことができないのか。ならばーーー)
ルドゥマナ選手は防御を捨てて一撃を入れられた瞬間にカウンターをするために振り返りながら剣を振り上げる。
(あ~あ、決まった)
彼が構えを変えた瞬間にミカは思う。フェルディナ選手の勝ちだと。
ほぼ同時にルドゥマナ選手がフェルディナ選手に斬り飛ばされ、場外に落ちる。ルドゥマナ選手が場外に出たことによってフェルディナ選手の足元に散らばった鎧の破片は消えていく。
彼女の行動は先程までと寸分たがわず同じだ。ただ、力を入れて行っただけで。
最後以外の数十の連撃はただ、相手の隙を作るためだけのものだったのだ。それに気づかなかったルドゥマナ選手はまんまと彼女の誘導の通りに防御を捨てたのだ。
ルドゥマナ選手の敗因はそれだけではない。
そもそも、予選の試合を見ていれば力が弱い、などという勘違いを起こさなかっただろう。彼女は予選で目立っていたのだから、見ていなくても聞けばすぐに調べがついただろう。完全に情報不足だ。
(ただ、まぁ、想像してた騎士像とは大分違ったかな)
ミカの中で騎士とは正々堂々と不意打ちも策も特になく真正面から斬りかかってくるものだと思っていた。だが彼女は相手の隙を作る策を用いたりなどを行い、力任せな戦いかたはほとんどしていなかった。自分の力を、使い方をよく知っている動きだとミカは思う。
(フェイントや緩急の使い分けか・・・厄介な戦い方)
彼女の戦闘方はミカの扱う神月流と相性が悪い。
ミカの扱う神月流は相手の力を利用するもの。相手の力を利用するためにはタイミングが最も大切になる。フェイントなどで狂わされると技が上手く機能せずに受け流しきれなくなるのだ。
「勝者!!フェルディナ選手!!これにより三位決定戦はダナル選手対ルドゥマナ選手、決勝戦はミカ選手対フェルディナ選手になります。次は三位決定戦を行いますが選手達は一度、体に異常がないかの検査を行います。その間小休憩に入りますので暫くお待ちください」
その声と共に特別観戦席にルルが現れる。その場にいた二人は彼女を見つめる。ミカの視線にルルは一瞬だけ顔を赤くして固まったが、その場で一礼して誤魔化した。
「では、ミカ選手、リリィさんの二名は先程の控え室にお戻りください。教会の僧侶が待機しておりますので彼女の指示に従ってください」
では、と彼女は案内をしてくれず、逃げるように去って行った。
(いや、まぁ、案内は確かに入らないけど・・・)
「しょうがないか・・・」
ミカはため息混じりに呟く。逃げなくてもいいじゃん、と。
「どうした?」
「いや、なんでも。行こっか」
そんなミカの態度を見てリリィは怪訝そうに問いかけるが。ミカは適当に流して先を促す。
リリィは特に疑問を持った様子もなくミカと二人で控え室へと戻っていった。
「はい。問題は有りませんね。次の試合も頑張ってください」
「ありがとうございました」
控え室に戻ると、眼鏡を掛けたおっとりとした女性が待機していた。見た目は男性の医者が着るようなキチッとした白衣の様な服を着ているのに彼女の表情やしゃべり方には、ほんわほんわと言った擬音が似合いそうな感じで厳しそうなイメージは全くわかなかった。
僧侶が女性なのはミカのニーズに応えた訳ではなく、フェルディナ選手、正確には女性に気を遣っているからだろう。
彼女も勝者なので待機場所は同じでミカより先に戻ってきていた。ミカが中に入ったときは診察の為に鎧を脱いでいる途中で、上の鎧の鉄の部分と籠手だけを取り外した長袖の服を着ている状態だった。下着を見てしまったなどというラッキースケベが発動した訳でもないのにミカは物凄く睨まれていた。
当然ミカはその場を退出し扉を閉め部屋の前で待機していた。ビビった訳ではない、当然の行いでしょ?と呟いていたそうだ。
その彼女はミカが診察している間、部屋の中、ミカの背後で武器の手入れをしていた。
背後から時折、シャー、シャー、と刃を研ぐ音が聞こえてなかなか落ち着かなかった、決勝戦前に殺されるのではないか、とは本人の弁。
「怪我をしたら教会に寄ってくださいね」
有料ですが、と僧侶の女性はそうおどけるように言って部屋を出ていった。
「魔法があるからって無料にはならないのか・・・世知辛い世の中ですこと」
やはり、お金が無ければ何もできないのだ。
ミカはこの大会でお金を得ることのできた幸運を噛み締める。二位でも金貨五枚だ。現在の無一文状態はすごく落ち着かなかった。それもこの大会が終わるまで。価値は分からないがお金が手元にくるというのはやはり落ち着く。ミカは得たお金は節約しながら使おうと心に決めていた。
彼は趣味や必要だと思うもの以外には一切お金を使わない程の守銭奴だ。大学に入って以来一度も髪を切らないのはお金が勿体ないと思ったからというのだから相当だ。なのにリンスは買っていたが。
「善意の行いだけでは教会を維持できんからしょうがないであろう?」
「お金の価値は分からないのに使い道は分かるんだね」
「・・・さっきの本で読んだ」
リリィの言葉は当然のことだ。教会の手入れや修理にもお金は使用するのだろうから教会だって稼がなければやっていけないだろう。
が、それを言ったのがお金に詳しくないはずの彼女だったのでミカが突っ込むと彼女はボソリと呟いた。
「その話詳しく!!」
ミカはその呟きを聞き逃さなかった。彼はリリィの肩を掴んでぐぐいっと彼女に詰め寄る。今の話はお金の価値や単位などほしい情報が彼女の読んだ本に有ったかもしれないのだ。
が、ミカにいきなり目と鼻の先にまで近づかれたリリィは顔を赤くしてパニクる。
「ひゃわ!?ち、ち、近い!?近い!?なんなん何だ!?待て、おち、落ちゅつけ」
近いと言われてミカは肩から手を離して距離も少し開ける。それによって視界の隅に居たフェルディナ選手がミカを見ていたのがわかった。
その目は変質者を見つけたような、そんな視線だった。
「あー、ごめん。やっぱ、その話は試合の後でいいや」
「スー、ハー、で、本の・・・え?」
その視線にミカは耐えきれず、胸に手を当てて深呼吸をして落ち着こうとしているリリィに断りを入れる。
「試合の変更をお知らせします。ルドゥマナ選手が棄権致しました為、三位はダナル選手となります。次の試合は決勝戦。ミカ選手対フェルディナ選手となります。選手の二名は準備をしてください。まもなく決勝戦が開始いたします」
入場口側から審判の声が聞こえてきた。元より話を聞く余裕は無かったようだ。
(今更だけど、気絶から目覚めさせていきなり戦闘をさせようとしてたのかな?ここの運営は鬼か)
ミカは思ったことにちょっと戦慄した。
「では、お互い、よい試合にしましょう」
「あはは・・・。善処します」
二人は入場口前に横にならんで立つ。審判の男性が会場から控え室を覗いているので二人はそれぞれ、準備できた、と合図を送る。
「それでは!!決勝戦!!選手の入場です!」
わぁぁぁぁぁ!!と観客から大きな歓声が上がり、その歓声を聞きながら、ミカとフェルディナ選手が入場する。
ミカはちょっと萎縮した感じで居心地悪そうにしているが、フェルディナ選手は馴れているのか、軽く手を振ったりしている。
観客からキャァァァ!!と先程よりも大きな黄色い声が、それを聞いてミカは予選のことを思いだしちょっと同情した目をフェルディナ選手に向ける。
「・・・何ですか?」
フェルディナ選手は機嫌悪そうにミカを睨む。
「ああ、いえ、人気者ってやっぱ大変なんですね。心中お察しします」
「あなたに何が分かるのですか・・・!!」
ミカは慰めの言葉を言ったつもりだったが、彼女は歓声を送っている観客には聞こえず、ミカには聞こえるような声で怒鳴る。
「あなたに分かるというのですか!?ある日捨てたはずの私の剣を巡って争っている人達を見てしまった私の気持ちが・・・!!誰にも見せたことのないはずの自作の人形と同じものをもって、お揃いですね、と知らない人から笑いかけられる恐怖を・・・!!助けを求めた時も、周りが全員あちら側だと分かったときの絶望を・・・!!あなたが理解できるとでも!?」
「うわぁ・・・」
彼女のカミングアウトにミカはドン引きした。これは辛い。理解できないほど辛すぎる。特に二番目。もはや、ストーカーだ。恐ろしすぎる。そして、こんな目にあっても、作り笑いとはいえ、笑顔をうかべられる彼女に驚嘆した。
観客には聞こえなかったが、審判には聞こえていて、彼もフェルディナ選手に同情の視線を向けていた。
彼女は瞳を潤ませ、それを隠すように顔を伏せる。涙は流れなかった。
顔を上げた彼女はいつもの表情に戻っていた。
「見苦しいところをお見せしました。今のは忘れてください」
「あ、はい」
ミカはそれしか返せなかった。
「ゴホン、えー、大変長らくお待たせ致しました!!これより決勝戦を開始いたします!」
審判が手をあげながら宣言する。
ミカ達は互いに構えを取って向かい合う。先程までの微妙な空気は無くなり、代わりに張詰めた空気が互いに流れる。
ミカの刃が赤くなり始めた太陽を写し輝く。
「始め!!」
武闘大会最後の試合の火蓋が切って落とされた。
フェルディナの設定が勝手に増えます・・・
なんででしょう?




