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転生したら嫌われ者の悪役令嬢でしたが、前世で倒したドラゴンが守護精霊になってついてきたので無敵なようです  作者: As-me・com


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第55話 教会へ (ブリュード公爵視点)



 隣国であるアレスター国へ行くはずの馬車がわずかな時間で動きを止めた。いくらなんでも早過ぎるし、クロくんの反応でこの馬車の周りを人が囲っているだろうことは容易に想像が出来る。まぁ、想定内だ。


 そして前置きも無く馬車の扉が開かれると、あからさまに怪しいその男が姿を見せてきたのだ。



「……ようこそ、ブリュード公爵令嬢。いや、精霊に見捨てられた哀れな“加護無し”よ」



 早速トゲのある言葉を言い放ってきたその男の見た目は一般的な茶髪で、顔も特徴が無く平凡だった。しかし、一見無害そうに見えるが張り付けたような笑顔からは邪悪な雰囲気しか感じられない。そんな男だった。


 それに身に付けているのは確かに隣国の教会の衣装のようだったが、あからさまに人を値踏みするような視線で上から下まで見てくる行為は背筋が寒くなる位に不快でどうしたって神に仕える神職のする事だとは思えない。


 ……入れ替わっておいて本当によかった!可愛い娘をこんな奴のこんな視線で見られたらと思ったらパパ泣いちゃう!


 あ、姿を消してクロくんの背中にしがみついてるポンコが震えてる?!落ち着いて!落ち着いて、ポンコ!今、姿が戻ると非常に困るから!


「……」


『なんだ、てめぇらは?この嬢ちゃんに話があるなら俺様を通してもらおうか』


 おっと、やっとポンコが気を取り直したようだ。ちなみに愛する奥さんからは「下手に口を開くと絶対にボロが出るから決めた台詞以外は話しちゃダメ!」とかなり強く念押しされている。なので口を噤んでいると、クロくんが代わりにと前に出てくれた。あまり絡まれるとポンコがまた気絶してしまうからとても助かる。クロくんは頼りになる精霊だ。


「……っ!ま、まぁいいでしょう。では行きましょうか」


 その男はクロくんの爪と牙に圧倒されたのか、一瞬怯んでから“教会”の方向を指差す。しかし《《そこにあるモノ》》を見てクロくんの放つ空気が一気にピリついた。


『……おい、あれが教会だって言うのか』


 その男の指先が指し示す方向に見えるモノ、それは……どう見ても朽ち果てた廃墟だったからだ。


 その建物は積み上げられたレンガは崩れて崩落しているし、所々に茶色い苔が生えて枯れた蔦が絡み付いている。屋根も無ければ窓も無い唯の瓦礫の山だ。教会だった面影すらも無いそれを、男たちは「教会だ」と言い張るのである。


「ふふふ……信仰の無い者には真実が見えないだけですよ」


 クロくんと目配せをして男の後に続いた。公爵家の密偵が馬車を尾行してこの場所を見つけてくれているはずだ。すぐに奥さんに連絡が行くだろう。応援が来るまでにアオくんを見つけ出して時間を稼がなくてはいけない。なにせ、ざっと見渡しただけでも相手が多すぎる。ポンコは攻撃魔法が使えないし、いくらクロくんがいると言っても多勢に無勢だ。ここは大人として、警戒しつつ落ち着いた対応をしなくては……!


「さぁ、どうぞ中へ」


 促されるままに、今にも蝶番が取れそうになっている錆だらけの扉に手を掛けた。ギィッと錆びついた音を聞きながら一歩踏み込んだが、《《その場》》には何も無い。よく見ると床に穴が空いていて薄暗いその穴には下へと続く階段が備わっている。男は「先に来ている加護無したちは地下にある礼拝室に集まっていますよ。そこで神に祈りを捧げているんです」と言った。


「……そこで祈れば精霊がくるのかしら」


「それはあなたの努力次第ですよ。ご案内しましょう」


 階段の先は暗くてここからでは見えない。とにかくここは従うしかないか。


『……他の加護無しが下にいるのか』


 クロくんがポツリと呟いた。たぶん、ジェスティード王子の事を気にしているのだろう。確かに彼には一度ちゃんと《《お話》》をしなくてはいけないと思うがタイミングというものがある。だからクロくんの呟きには気付かないフリをした。もちろん男は気付いているようでニヤリと口の端を歪めているが。


 ……さて、どうなるかな?



 かなり深くまで階段を降りるとその先に鉄の扉があり、いくつもの鍵がかけられていた。神聖な礼拝室の入口には到底見えないが、男はニヤニヤとしながら楽しそうに鍵を開けていく。鍵の束を懐に仕舞いながら舌舐めずりする姿は不気味だ。


 その中の様子はまさに異様だった。



 確かにたくさんの人間がいた。その人間たちは周りを押し退け、少しでも前に出ようと必死の形相をしていて……そして、大袈裟な程に祈りを捧げていたのだ。


 ────古い革表紙をした一冊の本に向かって。



「……これは」


「我々を導く賢者の本……あれが“御神体”です。神に少しでも近付いて声を聞いてもらうために皆さん必死なんです。まるで蜜に群がる虫のようでしょう?でもあなたは《《特別》》ですから、別室へご案内しますよ。さぁさぁ、こちらへ」


「……わかったわ」


 あれがみんな“加護無し”にされた人間なのかと思うと、少し怖くなる。守護精霊の存在が当たり前だった人間にとって、それほどの恐怖なのだ。依存していると言ってもいいかもしれない。


 男が機嫌良さげに歩き出したのでそれに続こうとクロくんを見ると、クロくんの見開いた目がある一点を見つめていたのに気付いた。そこには、他の人間たちを殴ったり蹴飛ばして出来た隙間に体を捩じ込み本に向かって手を伸ばすひとりの青年の姿があったのだ。


「俺に新しい精霊をよこせ!あんな奴よりもっと強くて大きくて、誰にも馬鹿にされない精霊だ!俺は王子だ!お前らとは違う……こんな所で落ちぶれていい人間じゃないんだぞ!」


 目を血走らせて叫ぶが、捩じ込んだ隙間から体を弾き出されて本から遠のくと「くそぉっ!!」と硬い床を拳で殴る。何度もそうしているのか、彼の拳は真っ赤に染まっていた。



『……ジェス坊』


 クロくんの事情は聞いている。彼がクロくんに何をしたのかも。これまでフィレンツェアにしていた所業も合わせれば同情する気にはなれないが、クロくんにはツラい光景だ。あの男も先に行ったまま戻ってこないところをみると、たぶんわざとジェスティード王子の姿を見せつけているのだ。クロくんは教会の奴らに攫われそうになったというし、ここでショックを与えて再び弱ったところを付け狙う気かもしれない。


「……クロくん、これが最後のチャンスだよ」


『えっ……!いや、それは……』


 周りに聞いている人間がいないのを確認して、視線を合わさないように声をかけるとクロくんが驚いた顔をした。別に咎めるつもりはないのに、気不味そうだ。


「生まれた時から見守ってきたんだから、簡単に割り切れなくて当たり前だ。まぁ、平気な精霊もいるだろうけど君はそうじゃないだろう?けれど彼の元に戻るのならば今しかない。……この後どうなるかなんて誰にもわからないんだから」


 それに、フィレンツェアに危険が及ぶ状況で彼を選ぶのならば絶対に許さない。だから《《今しか》》ないのだ。


「きっとフィレンツェアは何も言わないよ。あの子はそうゆう子だ。守護精霊との繋がりを誰よりもわかっている子だから……」


『フィレンツェアお嬢ちゃんは、人が良すぎるんだ』


「いい子だろ?自慢の娘なんだ」


『ああ、親の顔が見てぇくらいだよ。いい子過ぎて……やっぱり心配だな』


 それが答えか。フィレンツェアの味方をしてくれるのは親として感謝しかない。


 だからクロくんの意志を尊重してその場を離れようとした。クロくんがそう決めたのならば下手に刺激するのは危険だとも思ったからだ。


 だが、立ち去るのが少しだけ遅かったようだった。



「……パ、パーフェクトファングクロー!?」


 なんとこちらに気付いたジェスティード王子が、突然走って来たかと思うとクロくんに抱きついてきたのである。そして血に塗れた手で鬣を撫で回し、涙を溢れさせた。


「良かった!パーフェクトファングクローなら、絶対に俺を迎えに来てくれると信じていたぞ!お前ならきっとわかってくれると思っていたんだ!《《やっぱり》》俺は悪くなかったんだな!?俺が“加護無し”だなんて全部間違いだったんだ!」


 ジェスティード王子は希望に満ちた目でクロくんを見ているが、クロくんの瞳の熱は逆に冷めていくように感じる。きっとこの態度に失望しているのだ。なにせ反省の色が全く見えない。だって今もクロくんに謝罪する様子すらないのだから。


「俺も悪かったとは思っているんだ……でも、あの時のは本気じゃなかったから!だから俺も、あんな冗談を真に受けて俺を見捨てたお前のことをちゃんと許してやるぞ!俺は心が広いからな……これでおあいこだ!お前が戻ってきてくれれば全部元通りになる!

 それにしても、やっぱり“加護無し”は最低だ!きっとフィレンツェアの本性もここにいる奴らと同じに決まってる!まぁ、あいつならすぐにこの地獄のような場所に連れてこられるだろうが巻き込まれる前に婚約破棄して捨ててやるつもりだからパーフェクトファングクローは、へぶわっ?!」



 次の瞬間、ジェスティード王子の体が吹っ飛んだのは言うまでもない。傍から見たらフィレンツェアの細腕で殴り飛ばしたように見えただろう。これでも普段は穏健派なのだが、娘を馬鹿にされてまで黙っているほどではない。ただ、あまりやり過ぎるとポンコが怯えて気絶してしまうので手加減は必須だし、要注意なのだ。


「な、何をする……フィ、フィレンツェア?!きさま、いつの間にそこに……?!これだから“加護無し”は……!」


 どうやらクロくんに夢中でフィレンツェアの存在に気が付いていなかったようだ。意外と頑丈だったな。


 そして殴られた頬を押さえながら、さらに興奮したジェスティード王子は聞くに堪えない罵詈雑言をフィレンツェアに浴びせてくる。クロくんを騙したのかとか、こんな事になったのはフィレンツェアと婚約して“加護無し”がうつったせいだとか。生まれてこなければ良かったんだ、なんて……。


 あぁ、本当に入れ替わっておいて良かったと心の底から思ったほどだ。


 そう言えば、フィレンツェアが婚約破棄したいと言っていた事を思い出した。元々はこの王子を王太子にする為の婚約だったはずだ。まぁ、どのみちこんな事になっては婚約は無かったことになるだろうけれど……。フィレンツェアへの対応を改善しない王家にもムカついていたし、ちょっとくらい意趣返しをしても許されるだろうか。それに、暴力や無理強いをするつもりはない。



「……クロくん、もういいかな?」


『あぁ……俺様はもう《《無関係》》だ』



 クロくんの許可も得たし、最後に出来る限りの笑顔を見せてやった。それを見てジェスティード王子が「はひ?」と怯えたあたり、ちゃんと笑えていなかったのかもしれない。まぁ、いいか。


「ジェスティード殿下、ではあなたのお望み通りに致しましょう」


 そう言ってパチンと指を鳴らしてから、1枚の紙を取り出して目の前に突き付けてやった。今、1番お求めの物……婚約破棄の同意書だ。


 え、なんでそんな物を持ってるのかって?もちろん本当はただの白い紙なのだが、ポンコの精霊魔法で《《そう》》見えるようにしているだけである。こうやって真っ白な紙が1枚あるだけで色々と応用が効くので便利だから、つい習慣で持ち歩いているのだ。逆にポンコの精霊魔法は媒体が無ければ役に立たないという欠点もある。精霊の弱点を補うのも契約者の務めだろう。なによりも、あんな合図ひとつでこちらの意図をすぐに理解して魔法を使ってくれるポンコに感謝しかない。


「ではここに、あなたの意思で婚約破棄すると書いてください。そうすれば“私”とは無関係になるので、きっと“感染”も治るのでは?」


「へ?」


「あなたがそう言いました。今の状況は婚約したせいだと……その思いの丈を全て書いてください。きっと人間どころか精霊すらもジェスティード殿下に同情して状況も良くなるのではないでしょうか。……ねぇ?クロ」


『……精霊は気まぐれだからなぁ』


クロくんは無感情にそう言い捨てた。もちろんYESともNOとも言ってはいないが、それをどう解釈するかは個人の勝手である。案の定、ジェスティード王子は再び目を輝かせ始めた。


「し、しかしペンがない……」


『そんじゃあ、俺様の鬣を使うといい。俺様の力を込めるから、後から手を加えたり出来ない精霊の文字になるはずだ。《《誰》》が《《どれだけ》》悪いのかを全部書けばいいんじゃねぇか』


 そう言って、クロくんが鬣を一房渡した。その辺にあった小枝にその鬣を括り付けるために髭まで差し出したのだ。クロくんのその行為に、ジェスティード王子は感動したのか涙を浮かべていた。


「そこまで俺のことを……。そうか、フィレンツェアとの悪縁を断ち切らせて俺を助ける為にフィレンツェアと行動を共にしていたんだな。さすがはパーフェクトファングクロー、俺の守護精霊はやっぱりお前しかいない!」


 それから意気揚々と都合の良い戯言を散々書き綴った。余程浮かれていたのだろう、書いた内容が少し変化している事に全く気付いていないようだった。最後にサインと血判も忘れない。王族の血は鑑定ですぐにわかるはずだからこれがジェスティード王子本人が書いた証拠にもなるのだ。


 こうして、ただの白い紙にジェスティード王子が精霊文字で綴った《《婚約破棄を願う謝罪文》》が完成したのである。これまで婚約者に対してどれだけ酷い対応をして蔑ろにしてきたかを自ら綴ったのだ。これを王家に提出すればどちらの有責になるかは明白だろう。これで王家と公爵家の縁は切れるし、その後で王家がどうなろうと知ったことではない。


 その紙を丁寧に折り畳み服の中に仕舞うと、ジェスティード王子は「パーフェクトファングクローは……」と縋るように手を伸ばしてきた。クロくんがその手を黙ったまま避けるがその態度を理解していないようだ。


「……クロは、もう少し私の用事に付き合ってもらう約束なんです」


「な、なるほど、つまりその女の監視だな?!婚約破棄手続きに不正行為をしないように見張るんだな?!さすがはパーフェクトファングクローだ!」


『……』


「では、さようなら」






***






「……あんなデタラメな話に引っかかるなんて、箱入り王子過ぎないかい?こう言ったらなんだけど、あれだけ散々貶めた婚約者が甘い言葉をかけてきたらもう少し疑うべきだと思うんだけどね。あれはクロくんが戻って来ると信じているようだよ。それにしても、今の状況が側にいて“加護無し”がうつったからだとか……それなら公爵家の人間は今頃みんな“加護無し”だろうに。何を考えてるんだか」


『冷静さを失ってたにせよ、考えることを放棄して自分に都合のいい事しか信じないようにしたんだろうさ。そうやって生きる方が楽だからな。俺様にした事が冗談だったとか言ってやがったが、あんなのが冗談だったなんてタチが悪いにも程があるだろーがよ。……それに、あんな濁った目をした人間は俺様の知ってるジェス坊なんかじゃねぇ』


 まぁ、本当に反省出来るかどうかは別として、確かに「冗談」では済まされない事があると知った方がいいとは思うけどね。



 そうして奥にあった部屋の前で立ち、こちらをずっと見ていた男の元へと足を進めた。クロくんは『なんか疲れちまった』と肩を落としていたが、男はその様子を見てまたもや嬉しそうだ。クロくんが落ち込んでいると思っているんだろう。


「……遅かったですね。何かありましたか?」


 ジェスティード王子とフィレンツェアの関係を知らないはずがない。それに、声は聞こえなくてもやりとりは見えていたはずだ。殴ったことも、何かを書かせたこともわかっているのに言及しないのはなぜなのか。


「いえ、別になにも」


「そうですか、それはよかった。さぁ、あなたを待っている方がこの部屋にいますので……」


 そう言って開かれた扉の中に入った途端、周りの景色が変化した。その中には、《《とんでもないモノ》》が待ち構えていたのだった。





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