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セカンド・アース  作者: 九重


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オリエンテーション合宿 おまけ

 白く小さな指がシャツのボタンにかかった。

ボタンに対してボタンホールが少し小さめだったのだろうか、ちょっときついそれを外すために両手の親指と人差し指にギュッと力が込められる。

1つ2つと外されていくボタンに従って、シャツの下の白い下着と、同じように白く柔らかな肌がだんだんと(あら)わになってくる。


華奢な・・・でも、女性らしいふくらみをもった体の線が(のぞ)いた。


清楚な白いキャミソールの胸元には、小さな紺のリボンがついている。

キャミソールの下にチラチラと見えるブラとパンティも、お揃いの白に紺のリボンのものだ。


最後までボタンを外し終った白い手は、スッとシャツを脱ぎ去る。


華奢な肩から背中のラインが、熱い視線にさらされた。


「可愛い!やっぱり桃ちゃんには、白よね!」


「よくお似合いですわ。」


何故か妙にハイテンションな理子と文菜が、かけてくる声に、桃は、「そう?」と小さく首を傾げる。



此処は、研修施設の中にある大浴場(女風呂)であった。・・・何でも有りの豪華宿泊施設には、既にため息すら出ない。


模擬戦終了後、夕方の飛行機に間に合うように支度をしなければならない桃たちだが、流石にシャワーの1つも浴びなければ、出発する気にはなれない。


向こうに帰れば、明日は合宿中の土曜日の代休で1日お休みである。(入学式が月曜日で翌日からすぐ合宿に入って、期間中に土日があったのだが、なんと、馬術競技と模擬戦の間の1日はカレンダーどおりの日曜日扱いだった。おかげで代休は土曜の1日分しかない桃たちである。あの日程で日曜日を普通に休めた人間が、桃以外にいたのか?と学校側に抗議したい!)


だからといって、「明日がお休みなら、今日はお風呂に入らなくとも良いわね。」なんて言うような、年頃の女の子などいない。


学校に帰り着く頃は、既に深夜であろう。


結果、短い時間の中で、みんなでワイワイと大浴場に押しかけることになった。(別に個々の部屋についているお風呂に入っても良かったのだが、理子が、何が何でもみんなで大浴場に入りたい!と主張したのだ。)


理子と文菜が、桃を挟む形で、3人で服を脱いでいるところである。


理子はフリフリのレースのついた可愛いピンクの下着だった。


文菜は大人っぽい黒の下着である。


「理子も可愛いわね。文菜さんもとてもステキです。」


桃の言葉に、2人は嬉しそうに頬を染める。


可愛いその姿に微笑みながら、桃はブラを外すために背中に両手を回した。

ツンと胸を突き出すような姿勢に、何故か理子が「キャッ!」と声を上げる。

どうかしたのか?と理子の方に視線を向けながら桃はブラのホックを外した。


解放された胸がプルンとふるえる。


肩紐に手をかけて、桃はためらいなくブラをとると、洗濯ものを入れようと用意したビニール袋の中にそれを入れた。


理子は、キャッと言った口を開けたまま、桃の胸を凝視している。


桃の胸は、それ程に大きくはないが悲観するほど小さくもなく、15歳の少女としては普通ではないかと思っている。


そんなに凝視されるようなモノではないはずなのだが・・・


「理子?」


「何でも無い!!」


理子は慌てて、自分もピンクの可愛いブラを外した。

模擬戦開始時に押し付けられてわかってはいたが、理子の胸は、かなり大きい。

柔らかそうな大きな胸に、桃はため息をこらえた。


クスクスとそんな2人の様子を見ていた文菜も黒いブラを外す。

文菜の胸は大きさもあったが、それよりも形の良さに目を奪われる。いわゆる美乳いう奴ではないのだろうか?


女の魅力では、とても2人には敵いそうにないなと桃は思った。


ついであっさりとパンティも脱いで、一糸まとわぬ姿になった桃は、タオルで申し訳程度に前を隠しながら浴場へ向かおうとする。


「!!キャッ!!やぁっ!待ってぇ!!」


焦りながら、でも恥ずかしそうに、桃と同じく全て脱いで生まれたままの姿になった理子が、慌てて追いかけてくる。


「もうっ!!桃ちゃんったら、全然恥らってくれないのねっ!?」


何故かプンプン怒りながら、体を洗おうと洗い場のバスチェアーに座った桃の右隣に理子も座った。


「恥らうって?・・・なんで?」


別に何の変哲もない大浴場である。


日本人と生まれたからには、15のこの年まで温泉に行ったことのない人間の方が少ないに決まっている。

桃もご多聞に()れず、家族旅行で温泉に入った経験を何回もしていた。

中学時代には、修学旅行にだって行ったのだ。同級生とお風呂に入る経験は誰でもしているだろう。


確かに、この年頃の女の子は恥ずかしがり屋ではあるが、桃は、女の子同士でお風呂に入るのにそれほど恥らうこともないだろうと思った。


不思議そうな桃の態度に苦笑しながら、理子とは反対隣りに、文菜が座ってくる。


「私は、恥ずかしいですわ。」


(おけ)に水を張り、体にかけながら、なんとも色っぽく文菜は、そう言った。


キョトンとする桃を、伏し目がちに見詰めてくる。


「・・・だって、桃さんに見られていると思うと。」


そう言うと足をキュッと閉じて両手で両腕を抱えるようにして胸を隠す。


(えっ?いや?なんで?!・・・っていうか、そのポーズは逆効果でしょう?)


かえって桃の方が恥ずかしくなりそうだ。

両腕で抑えつけられた胸がフニュッと盛り上がって、その色気は、とても15の少女のものとは思えなかった。


「でしょ?でしょ?!恥ずかしいわよね!!なのに桃ちゃんったら全然気にかけてくれないんだから!!!」


勢い込んで理子が言う。


・・・気にする方がおかしいと、桃は思う。


しかし、途方に暮れて周囲を見回せば、他の女子生徒も全員、理子の言葉にうんうんと頷いていた。


(なんで?!)


さっぱりわからない桃である。



「もう!良いわ!・・・その代わり、桃ちゃんの背中は私が洗うから!!」



「え?」



ますます、桃は、わけがわからない。


なんで、恥ずかしがらなかった代わりに背中を洗われなくてはならないのだろうか?

自分が責められているのなら、理子の背中を流せと言われるのが普通ではないのか?


(もっともそれも、かなり理不尽だとは思うが・・・)


「ちょっと、意味が・・・」


わからないと言おうとした桃の左腕が、文菜に取られる。


「なら、左手は私が洗いますわ。」


そう言いながら桃の手を自分の胸に押し付ける形で抱き込んでくる。


柔らかな感触に眩暈(めまい)がしそうだった。


「あ、の?!」


「右手は私が洗います!!」


何時の間にか背中に回った理子の代わりに桃の右側にいたのは、3組の保科真帆という少女だった。

彼女の前世は甘夫人だったはずだ。


「へ?!・・・なっ?」


何でという言葉は紡げない。


理子と真帆の間から現れた5組の橋爪芽生・・・前世では諸葛亮の妻の黄夫人だった少女が、おずおずと桃の髪に触れて、


「・・・私に御髪(おぐし)を洗わせてください。」


と恥ずかしそうに頼んできたのだ。



桃は・・・言葉を失った。



いずれも可愛らしい美少女が、さりげなく桃に裸の体を押し付けながら、体を洗わせてくれと頼んでくるのだ。



(・・・これは、一体、どういうこと?)



男であれば、夢のような状況なのだろうが・・・今の桃では、困惑以外の何ものでもない。

思考が固まって、ついでに体まで硬直する。


(とど)めは、文菜の背後から現れた4組の三須千怜・・・呉夫人だった。



「おみ足は、つま先から太腿まで、私が洗います!」



堂々とした宣言だった。



「そんな!」

「ズルイですわ!」

「ご夫人方ばかり!!」

「私だって!」


他の女子生徒たちからの抗議の声も、もはや桃の耳には届かない。


とうに思考は意識の彼方に飛び去っていた。



「きゃあぁ!!やっぱり!桃ったら背中がすべすべ!!」


「御手もやわらかくて、吸い付くような肌触りですわ!」



きゃあきゃあと広い大浴場に、甲高い歓声が響きわたった。







・・・この施設の温泉は、男風呂と女風呂は壁を挟んで隣り合っており、この高い壁は換気のためか上部に50センチくらいの隙間が空いていた。


つまり・・・女湯の騒ぎは、そっくりそのまま男湯に聞こえてくるのだ。






同じように男湯に入っていた男たちは・・・何故か全員湯船に入ったまま出るに出られず赤くなっていた。


「あのバカ・・・」


湯あたりしそうになりながら真っ赤な顔を俯けているのは翼である。

翼がバカと言うのは、理子のことだった。


『桃ちゃんの背中、透きとおるみたいに白い!腰は細いし!いやぁん、お尻、可愛い!!』


黄色い声の実況中継がわんわんと響いてくる。


このまま湯船に沈んでしまいたい翼である。



男は、女と違うのだ。



すべすべで、やわらかくって、吸い付くようで、透きとおるみたいに白い肌や、細い腰や、可愛いお尻は・・・絶対、やばい!!!!!



湯船から出たくたって出られない翼は、湯あたりで無様に倒れる事と、今この状態で立ち上がる事のどちらが、より自分のプライドを傷つけないかの2択に、真剣に悩んでいた。


当然、他の男たちも同じような状況である・・・。


「うっわっ!拓斗!!拓斗が浮かんでこない!?」


剛の情けない悲鳴が小さく(・・・)響く。


大声を出せば女湯に聞こえてしまうため小さな声しか出せないのだ。


「しっかりしろ!拓斗!」


ザバーッと湯から引っ張り上げられた拓斗は、


「だから、それはガールズ・ラ・・」


半ば気を失いながらも何かを呟いている。



「ちくしょう・・・」

「死ぬな!」

「ダメだ!俺は、出るぞ!!」

「でもぉ〜・・・」



男湯は・・・精神的には、地獄図のようだった。



最終的に男湯も女湯も、これ以上グズグズしていては飛行機に乗り遅れるぞ!と教師陣に怒鳴りこまれて、あたふたと嵐のように風呂から上がるはめになる。



男子も女子も、顔が赤いのは風呂上がりのせいだけとは、決して言えなかった。





物凄く疲れた入浴騒動に、二度と大浴場は利用しないと固く決意した桃だった。

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