第81話 帝国宰相レンゲンカンプ、緊急招集命令
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マリエッタが義勇兵ギルドでの苛烈な銃撃戦を繰り広げ、ウィラードとエルミアがエリカを連れてエルフの里への出発を早める決断をしたのとほぼ同じころ。
ヴァーンズハイト魔導帝国・首都リヒテンブルク郊外。
帝国随一の格式と権力を持つ現帝国宰相レンゲンカンプ侯爵の居館がそこに位置していた。
皇帝の居城より絢爛豪華なそこは並の城をはるかに上回り、一説では館内部の装飾やコレクションの金銀財宝は皇帝の財産を上回るとも言われている。
その館内。
主人が鎮座する執務室兼応接間。
よほどのVIP以外は通されることすらない秘境的な異様さを持つそこにこの館の主人と異形の存在がリラックスしながら豪華な腰かけ椅子に座っていた。
「ご機嫌なことだな、ブラディボロン魔界大佐殿」
「こちらこそレンゲンカンプ侯爵殿に置かれましてはお元気そうで何より」
「何かいかがかね。話のついでに用意しよう」
「ジンをウイスキーで割ってくれ。できれば生娘の血も混ぜて半々でな」
魔界大佐はレンゲンカンプの部下に注文する。
「あんたの国は魔導士の実力と育成はピカ一だが、こまごまとした情報収集は若干大雑把だな」
「どういう意味だ?返答次第では私への当てこすりとみなすぞ」
「とんでもない。なに、あんたの探し求めている大魔女に関する情報がちと耳に入ったのさ」
「何だと!?どういうことだ!?」
魔界大佐は黙って指を鳴らした。
レンゲンカンプの手元に突然、写真のようなものが現れ彼の目の前の机に置かれた。
「こっ、こいつは!?」
「あんたの探している逃走大魔女さ。」
「場所はどこだ!?」
「結構高度な認識阻害魔法でわずかな魔力周波数も顔も誤魔化しているが、我々魔界のものには誤魔化せねえ。ほぼ99%、こいつはエリカ・ヴァールハイトとかいう小娘だ」
「だから場所を言え!」
「言え、はねえだろ侯爵さんよお?」
魔界大佐の声に凄みが加わった。
「俺たちは人間どもとは太古の昔の不可侵協定によりこの世界での表立った活動は本来厳禁な身だ。だが、魔界神様は常に生きのいい生娘の生贄が必要だ。非合法の賞金稼ぎどもは完全自己責任と制約させたうえでこっちで活動するのもある程度こっちも容認してるがとてもそいつらの活動だけでは生贄が足りねえ。だからあらゆるルートを抑えてるあんたからそいつを供給してもらう代わりに俺たちはあんたの権力をささえてやってんだよ。そのために本来禁忌な魔界の魔術もお前に伝授してやったんだぜ。忘れてんのか?」
「すっ、すまん……。魔界大佐に余計なことを言ってしまった。謝罪する」
「わかりゃいい。んで、どこかっていうとカーツの首都ルースだ」
「何だって!?なんでヴァールハイトの魔女娘が敵国の首都にいる!?さてはカーツとつるんだか!?」
「確証は俺らも持てねえ。だが、危険を冒してカーツ界隈のエルフの娘を漁ってた賞金稼ぎどもが偶然、ルース市街地で謎の爆発や、今まで聞いたこともない甲高い火薬か何かの音と匂いがした、おまけにしばらくしてルース北検問所から妙な一団が北西方面に共和国軍の軍用馬車数台に乗って出ていくのを見たと言ってる。直後、カーツの通信魔法を傍受したところ、どうも義勇兵の中に未確認のテロリストが紛れ込んでいたみたいだ」
ブラディボロン大佐は既にルースで暴れている存在が帝国軍魔導士の誰かであると死に間際の部下の報告から勘づいていたが、あえてレンゲンカンプには伝えない。それにカーツの通信魔法の暗号化技術は意外と手強く魔界の化け物でも容易に解読できないという実情もあった。魔界の上級悪魔といえども確証が持てない。
“帝国軍魔導士が暴れてるなんてことは今伝えてやる義理はねえ。ちと見物と行くか……”
「問題はそのテロリストが市街地で暴れてるにもかかわらず、馬車5台が北部へ足早に出発したことだ。それも部隊章からみて統合情報局所属の精鋭部隊。本当なら特殊作戦を専門でテロ鎮圧も担当とする部隊がなんでこんな非常事態にそそくさとルースを離れると思う?」
「何かカーツにとって重要なことがあると!?」
「こっからは俺の憶測だが、たぶんそいつらはカーツの北西付近にあるというエルフの隠れ里に向かったんじゃないかって思ってる。その魔導写真はその時のものさ」
「エルフの隠れ里だと……」
「レンゲンカンプの旦那。長年商売で付き合ってる仲だ。そのよしみで忠告するが、今回は確証はできねえが速いとこ手え打たねえとちとまずいんじゃねえか?」
「どっ、どういうことだ!?」
「あのあたりには俺らも一目置くエルフの長老がいる。あんたの国の大神官の野郎どもの呪詛マジックはたいしたもんだ。エルフの長老もヴァールハイトの娘に掛けられた大神官さんたちの呪詛は解呪できんだろう」
「じゃあなんでまずいというんだ?」
「最後まで聞け。エルフの長老は相手の潜在能力を100%引き出す力を持ってるって聞いたことがある。あんたの大神官さんたちの呪詛は解呪できなくても、あの小娘はたしかラグナロク鋼精製の素質を持ってんだろう。だったら……」
「まずい!それは絶対にまずいぞ!!もしあの小娘があの力を開花させたとしたら!!!!」
レンゲンカンプは机の上のベルを鳴らした!
すぐに執事が飛んでくる。
「どうかなされましたかレンゲンカンプ様」
「直ちにワルキューレXを招集しろ!それから現在動かせる兵力をすべてかき集めろ!」
「どっ、どうなされるのですか!?」
「召集完了したら直ちに出撃を命令しろ!場所はカーツ共和国北西付近のエルフの里あたりだ!」
「おまちくださいレンゲンカンプ様!あの付近は敵国カーツの領空と中立の共和国群の領空が入り組んでいる所です!そこに大部隊を進行させればカーツとの大規模戦闘になりかねないばかりか中立の……」
「いいから早くしろ!!首にされたいのかバカモノ!!!!」
帝国貴族の中からも恐れられる最高権力者レンゲンカンプ。
その居館がにわかにあわただしさを増していく。
同日13時、カーツ共和国の魔導士部隊の大群が迫っているという理由により、首都リヒテンブルク市全域に期限を定めない戒厳令が布告され、一般市民や非正規武装者である冒険者たちは外出を禁じられた。
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