第80話 マリエッタ強襲の衝撃ーウィラードはエルフの里へ緊急出発命令
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マリエッタが義勇兵ギルドでの戦いを開始したほぼ同時刻。
カーツ共和国統合情報局通信魔法指令室。
「精霊は今日も元気に飛んでいますか?」
エルミアのささやくような神秘的な言葉遣い。
彼女がそうささやいた直後、彼女の脳内で誰かのささやきが返ってきた。
「ええ、風の精霊は今日も里をたなびいておりますわ」
彼女が今いる部屋は周囲を特殊な宝玉と魔法で加工された床や壁で覆われており、通信魔法の暗号化をさらに強化し、遠距離の前線とも秘密裏に情報を伝達、会話できる指令室となっている。
その中の第3通信室に一人、耳の長い小柄なエルフの少女・エルミアが何やら通信魔法で会話を交わしている。
暗号化された通信魔法にさらに何らかの隠語を駆使し、20分ほど会話して彼女はその部屋から出て、まっすぐ上官のいる部屋へと階段を上がっていった。
部屋を出るときに多くの通信兵たちが彼女に敬礼する。
「ウィラード大尉♬」
「エルミア中尉か。里との段取りはうまくいったか?」
「はい♬おかげさまで長老との会談の段取りとエリカさんのことを伝えました♬長老は快諾してくれましたよ♬」
「でかした!さすがはエルフ随一の魔法力と交渉力の使い手だけのことはある」
「で、都合のつく日はいつだ?」
「1週間後の午前中に私の里の風の精霊区・第一霊宮にてエリカさんにお会いしたいとのことです♬」
「一週間後か!よし!大至急、要警護護送馬車と護衛兵力、そして上空援護の防空魔導士部隊を手配しろ!状況によっては前倒しになる可能性を考えて首都警備師団から人員を回すよう根回しは任せたぞ。マクリーン局長には私から説明する」
「了解しました♬」
その直後だった。
「おい!お前は義勇兵だろ!ここは正規軍の統合情報局だ!外人部隊にもなっていない者は去れ!」
廊下の階段吹き抜けの一番下の階から大声で怒鳴る声が響いた。
警備兵が誰かを足止めしているようだ。
「エルミア・ガントレット魔導中尉につないでくれええ!!!今、義勇兵ギルドで大変なことが起きてるんだ!!!!!」
「分際をわきまえんか、大バカモノが!」
警備兵は鉄の槍の穂先がない方でルスベルク辺境共和国魔導士上がりの女の腹を突いた。
ゲエッ!という表情と共にルスベルクの在野は廊下に仰向けに倒れこんでのたうち回る。
“警備兵、通せ”
ウィラードは通信魔法で警備兵の脳内へ直接言葉を送った。
“ウィラード魔導大尉殿、しかしこのような正規軍の一員でもない輩を統合情報局内に立ち入らせるなど。しかも大尉殿の部屋へなど……”
“いいんだ。どうも義勇兵ギルドで何かあったみたいだし、エルミア中尉も今丁度ここにいる”
“わっ、分かりました……”
警備兵は脳内での通信魔法回線を切った後、うつぶせになり苦しむルスベルクの在野を手で起こした
「ウィラード魔導大尉殿の命令だ!5階505号室へ行け!」
「……へっ、へっへ……。そうこなくっちゃ……」
ルスベルクの在野・マライア・フローンは足を引きずるように階段を上っていく。
階段中央付近で彼女はポーションを一気飲みし、たちまち回復した彼女はそのまま一気に階段を駆け上がった!
5階に着き、ルスベルクの在野魔法使いがウィラードの執務室へ飛び込もうとする。
「義勇兵、ここは正規軍施設だぞ!立ち入り禁止だ!」
まだウィラードの通せという命令は伝わっていなかった執務室前の警備兵がマライアに怒鳴る。
「緊急事態なんだ!エルミア魔導中尉殿に会わせてくれ!」
「何ですか♬騒々しいですね♬」
執務室ドアが少し開いて小柄なエルフがひょっこりと半開きのドアから覗く。
「おやおや義勇兵のマライアさんじゃないですかあ♬」
「通してください、警備兵さん♬」
「りょ、了解いたしました!」
執務室に入ったマライアは、威厳のある執務机越しにこちらを見るウィラードと、その手前にエミリア中尉がいるのを確認した。それ以外に部屋に人はない。
「いったいどうしたのかな義勇兵君。ここは正規軍専用の場所だ。君のような義勇兵を通したのは私も義勇兵ギルドの方から妙な魔力の乱れを感じたからだよ。で、何かあったのかい?」
「義勇兵ギルドで義勇兵の魔法使いが暴れ出した!帝国のスパイと疑って全員で尋問しよとしたら強烈な氷属性の攻撃魔法と得体のしれない武器を繰り出してきて!」
「どういうことだ!?義勇兵ギルドで得体のしれない武器とは!?」
「これを!」
ルスベルクの在野魔法使いは魔導具で撮影した写真をエルミアへ渡す。
それを見てエルミアの表情が一気に変わった!
「了解しました!あなたは暴走中の魔法使いを止めるために義勇兵ギルドで対応してください!ウィラード大尉、これを!」
「どうした?」
マライアは一礼してすぐに部屋を出ていった。
エルミアがいつになく慌てた表情になったことにウィラードの表情がやや曇った。
エルミアが普段つかみどころのない冷静さを隠し持つことを知っているウィラードはその慌てぶりに即座に動ける準備をした。
ちなみにエルミアは緊急時にはノックなしでウィラードの部屋に入ることも許されている数少ない一人である。
「義勇兵マライアが言う通り、義勇兵ギルドで義勇兵に成り済ました魔女が暴れています!」
「魔女!?たまに義勇兵になったが過酷な前線で自暴自棄になって暴走するゴロツキ魔女はいるが大方それ……」
「ではありません!!場違いな強い魔力を持った魔女です!!!それもエリカさんが持っていた“銃”とかいう異世界の武器と同じと思われるものを使っています!!!」
「銃だと!?それは本当か!?」
「はい、これです!」
エルミアは魔導具で撮影した写真をウィラードに見せた。
「間違いない!エリカ君が持っていたものと同じ系統の武器だ!」
さらにその写真は2枚あり、2枚目はへんげ魔法を解く魔法をかけられたために元の紺色の魔女帽子とローブを見にまとった帝国軍魔導士姿のマリエッタの姿を映していた。
「間違いない!マリエッタだ!マリエッタ・ヴァ・ブルーメントリットだ!!!」
「マリエッタ!?あの武勇で名を馳せるブルーメントリット家の帝国貴族じゃないですか!?なんで帝国貴族が破壊工作員みたいなマネを!?」
「彼女はエリカ君を奪還しに来たんだ!!!間違いない!!!」
「エルミア中尉!!!出発を繰り上げ!ただいまよりエルフの里へ出発する!エリカ君を慎重に軍病院裏口から連れだすように!長老には極秘魔法で到着が早まるから階段を前倒ししてくれと伝えろ!」
「それと首都警備師団から第一級魔導武術兵オーガを義勇兵ギルドへ鎮圧に向かわせろ!マリエッタの狙いは間違いなくエリカ君だ!オーガに足止めをさせる!ルースを出たら君が知っている最短ルートで一気にルミナスゼ―ラントへ向かう。ルースを我々が出るまでの時間稼ぎをさせるんだ!」
「くれぐれもエリカ君を連れだすのをブルーメントリットの魔女に気づかれるな!それとこれを!」
「はい!」
エルミアはウィラードが投げた魔法力増強ポーションを手でキャッチした。
共和国軍魔導造兵廠第505医薬製造所で製造されるこのポーションは膨大な魔力が必要なため、3ヶ月に1回限られた数しか精製できない魔法力を飛躍的に増強できる貴重なマジックアイテム。
極秘通信魔法は迅速かつ通信室の外でも極めて傍受解読しにくい通信魔法での通話やり取りが可能であるが、魔法力の消耗が第一級魔導士でも激しく多用できない欠点を持つ。
それを補うために緊急時にはこのポーションを使うのが共和国軍の規定になっている。
エルミアはアンプルを大きくした形のポーションの瓶の首を指で軽くへし折り、一気飲みするとそれを床に捨てた。
ポーションの瓶が砕け散る。
「風の精霊よ、谷間への風向きは速い。他の渓谷の空気は澄み渡っている」
エルミアは故郷の里へ極秘通信魔法で隠語を送った。
30秒後にエルフの里から了解を意味する隠語がエルミアの脳内に返ってきた。
そのあと、即座に統合情報局地下秘密出入り口に馬車が用意され、命令を受けた首都警備師団において上空防空部隊が即時編成され、統合情報局上空へと展開していった。
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