第75話 潜む影──ルースの裏路地で
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マリエッタはそれから20分間、エルミアの演説兼帝国への罵倒に耐え抜いた。
終わった後、真っ先に用意された部屋へ向かう。
魔法力をわざとセーブしたとはいえ、それでもある程度試験成績が上だったからか義勇兵ギルドの中でも上の階の部屋を用意すると受付嬢に言われたのでそこで泊まることにする。
部屋は鍵はついていはいる。
ベッドと机と椅子以外は何もない。
部屋に入って鍵をかけた直後、マリエッタは部屋にあった空のゴミ箱を思いっきり蹴っ飛ばした。
「うざっといのよあのクソエルフ!!!帝国を侮辱しやがって!捕虜にしたらオークの囚人と同じ監獄に入れてやる!!!!」
そのまま窓を開けた。
ギルドの上の階から見るルースの雰囲気は見た感じよい。
しかし、時々防空演習のアナウンスが流れるところが帝国との戦争中であることを思わせる。
義勇兵とはいえ敵部隊に潜入できたから情報収集に余念がない。
マリエッタは記憶魔法を駆使して自らの目に映ったギルドの様子や受付嬢、冒険者や志願した義勇兵の種族、特徴、部隊編成、エルミアの演説内容にいたるまですべて頭の中の記憶の深淵にまとめて記録する。
帝国に帰ったらスパイ活動をして成果を挙げたとアリバイが作れるし、実際ここでの流れは敵の様子を見る上で役に立つ。
“あ~うっとうしい!!もう夕方だから一旦外に出て食事にして今日は寝よう”
無論、部屋には何も置いていかない。
念のために気づかれない形で探知魔法を仕掛けておいた。
こうしておけば部屋に誰かが入ると脳内でアラームが鳴る上にその映像を直接頭の中で見れる。
野盗の襲撃、駅馬車でたどり着いてからギルドでの腹の立つエルフの演説と色々疲れているが、ルースの繁華街を歩き回ることにした。
帝国に勝るとも劣らぬほど活気はある。
各地方、各種族の名物料理が味わえる料理店が軒を連ねている。
だが、駅馬車中央駅の時と同様、とにかく物乞いが多い。
物乞いの種族も人間種だけでなく本来屈強なはずのオークやオーガまでいる。
屍が放置されているのかと一瞬ギョッとしたが、よく見るとアンデッドのスケルトンが路上で寝ているだけだった。
行きかう人は多いが、だれもそれを助ける様子はない。
“自由とか種族平等を語りながら役立たずとみなしたらポイか……。きれいごとばっか言って共和国の偽善者め!”
繁華街をひたすら歩く。
“戦時下とはいえ繁栄してるわね。むかつくけど一応我が帝国と張り合うだけあるわ……”
しかし、帝国と違い、いわゆるいかがわしい店は特定地域にしかないと通りに間隔をあけて立っている案内板を見ると感じた。
これが帝国だと結構普通の店の中にそういうサービスの店がある。
戦場での極度のストレスからそういったサーヴィスに入り浸る魔導士や兵士は多い。
帝国軍魔導士は建前上、純潔を守らないと魔法力が落ちることから男女関係は厳しい。
当然モンスター系となどもってのほかだ。
ところが、それ以外は例外的に黙認されているから同性とか、さらにはどういうわけか触手はその範囲に入っていない。
故にそれらに嵌る魔導士はそれなりにいる。
「もしもし、もしや義勇兵の方ですか?」
見慣れぬ初老の魔法使いが通りの中央噴水脇に立っていた。
見た所在野の魔法使いで胸には外人部隊の記章をつけている。
マリエッタは緊張した、が次の瞬間表情が緩んだ。
「アジサイの青き華はいつ見ても美しいですな。新たなる志願兵に神の祝福を」
これは!?
ブルーメントリット家のスパイが使う暗号だ!
私は同じ言葉を言い返して魔法使いが持っていた紙袋を受け取った。
魔法使いはそのあとすぐにごく自然に人ごみの中に消えた。
マリエッタは周囲をキョロキョロせずに極小魔法力で探知する。
監視用の魔導玉(現実世界における監視カメラのような物)の反応がない目立たない路地に向かった。
周囲に誰もいないこと、監視の目がないことを目視と探知魔法を駆使した後でマリエッタは、何気なくそれを開けた。
はいっていたのはオレンジや燻製肉、その中に手を突っ込んで探すと極小の魔法箱があった。
それも帝国製ではなく、敵のカーツ共和国製だ。
“あ~、共和国のってめんどくさい……”
文句を言いながらマリエッタは兵学校時代に敵性魔法課程で習った共和国側の開錠魔法を唱える。
これが小声でもいいとはいえ詠唱に3分かかる。
共和国の魔法箱は帝国のそれと違い、いちいち開錠の魔法を唱えないと開かない。
あらかじめ魔力周波数を登録しておけば開けたい、または閉じたいと心で念じただけで開閉ができる帝国の物より使い勝手が悪い上に収納量も帝国の物より少ない。
ようやく開いた。
マリエッタはもう一度周囲を目視と探知魔法で警戒しながら魔法箱の中に手を突っこんだ。
すると出てきたのは帝国でもめったに鹵獲できないカーツの軍用精密地図だった。
戦時下でヴァーンズハイトでもカーツでも一般市民は精密な地図の所持が制限されている。
入っていた最新の共和国軍ミリタリーマップを見てマリエッタはルースと周辺地域の詳細な地理を瞬時に頭に叩き込んだ。
帝国でもリーコンが作成したカーツの地図はあったが、生意気にもカーツは透視魔法などを妨害する魔法を用いた結界に長けているがゆえに戦略拠点、重心となる施設などを隠ぺいすることに長けている。
故にカーツ側が作成した最新の機密地図は大変貴重だ。
周囲に人気などがないことをさらに確認してそれらをすぐに魔法箱へ仕舞い、腰のポーチに入れた。
無論、食品も持ち帰る。
後で夜食にいい。
それから表の繁華街に戻ると、目星をつけていたレストランに到着した。
狩猟で取った天然物の肉が売りのレストランとして帝国でも戦前は名が通っていた名店だ。
マリエッタは熊肉の東風蒸しと、猪の臓物焼き、鹿のリブロ―スのステーキと、東風の薬用茶を注文した。
妙な視線に気が付いたのは臭みのない見事な血抜きワタ抜きをしていると感心しながら味わっていた熊の東風蒸しを半ば食べ終えた頃だった。
冒険者風の中年男と剣士の身なりをした若い男2名がマリエッタの後方席2つ分空けた席に座り、飲み物だけを飲みながら様子をうかがっている。
マリエッタは気づかぬふりをして食事を続け、全部残さず平らげて満足げな笑みを浮かべた後、給仕を呼んで勘定を席で支払った。
無論、あらかじめ用意してきた共和国ギダでだ。
レストランを出てから通りを歩く。
3人組が間違いなくつけてきているのが探知魔法で分かった。
連中はまだこちらに気が付いていない。
マリエッタは急に走り出した。
3人組の足音が速くなるのがマリエッタの耳に入った。
そのまま表通りを走り、急に裏路地に曲がった!
3人組も後を慌てて追う!
裏路地に入った時、3人組は困惑した。
「アニキ、あのガキ消えましたぜ!」
「んなことは分かってる!検問所の連中からの報告はたしかなんだろな!?」
「間違いありません。あのガキです!リーナ・インスブルックとか言う!」
「探せ!ボスからの直々の命令だ!しくじると俺らの首が胴体から無くなるぞ!」
どこから入手したのかマリエッタの偽名とへんげ魔法で姿を変えた彼女の魔導映像をその場で展開して慌てる3人組。
その直後。
「私に何か御用かしら?」
ゴギッッッ!!!!!!
真上から聞こえた声の直後、剣士の後頭部に全体重のかかったマリエッタの足が直撃した。
うつ伏せに石畳の地面に倒れこんだ剣士はそのまま顔を強打した。
鼻を抑えてのたうち回る。
「どうして私の後をつけてきているのでしょうか?」
在野の魔法使いに外見を変化しているとはいえ、帝国軍第一級魔導士の鋭い眼の光に男たちの表情が見る見るうちに険しくなっていく!
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