第74話 首都ルースと義勇兵ギルド
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カーツ共和国の首都ルース。
駅馬車中央発着所西口駅ターミナル。
広大なターミナルには各地方や同盟国、中立国からの駅馬車や輸送用馬車が大挙して出入りしている。
マリエッタは駅馬車から降りると、周囲を見回した。
他種族で乱雑にごった返す。
埃がひどい。
見た感じ敵防諜組織の気配は今のところないが、高度に魔力周波数などを隠ぺいしているだけかもしれない。
“さて、気をつけないとここは敵国の首都だ。もしつかまったりしたら第一級魔導士の恥さらしだし、共和国で帝国貴族を生け捕りにした事例はわずか1例。恥さらしもいいところだから公式には戦死ということで捕虜になった帝国貴族なんて一人もいないとなってるけど“
“捕虜になればブルーメントリット家は間違いなく潰される。けれど危機を突破して栄光を勝ち取ってきたのも我が家。これは試練よマリエッタ!”
自らを心の中で鼓舞しながら、駅馬車を下りるマリエッタ。
「んー!!!!んー!!!!!!!!」
後ろの駅馬車の荷物庫から手足を縛られた顔面傷だらけの野盗オークがいまだにもがいている声が聞こえる。
マリエッタは魔法でそれを雑な荷物のように駅馬車から遠隔で引きずり出した。
床に顔面を打ち付けるオークの鼻から派手に鼻血が噴き出す。
待ち構えていたようにカーツの警察官が10名もやってきて、捕縛してひもでグルグル巻きにした野盗首領格を彼らに引き渡した。
女剣士がここ最近駅馬車を襲っているオークを捕縛したと到着までに通信魔法でルースの警察に連絡してあったのだ。
そしてマリエッタは野盗の首領を捕縛して駅馬車でそのままルースまで連行してきたのだった。
首領格が引き渡されたのを見計らって、乗客の一人の冒険者の一人がマリエッタにおびえながら話しかける。まだ彼はおびえた表情で駅馬車から下車しようとしない。
「おっ、お嬢さん……。あなた、何者!?あの野盗どもを一瞬で皆殺しって……」
「ああ、故郷では鉄の品物を製造していまして、回復役の私では心もとないので戯れに作った新型の弩ですよ♬」
駅馬車を下りる客の中にはマリエッタを凝視する女がいた。
マリエッタは気づいていたがわざと気づかないふりをする。
その女はそそくさとターミナルの人ごみの中に消えていった。
“……共和国の秘密警察か!?魔力周波数は調整してあるから帝国魔導士とはバレないと思うけど……”
よく見ると到着した戦士や魔法使いなどを凝視する妙な私服の人間やエルフが目に付く。
目立たないが、何となくその筋の奴らと察しがついた。
凝視するとかえって怪しまれるからそっけなく通り過ぎることにする。
帝国とは違う雑多な種族であふれていることは既に承知しているが、やたら物乞いが多い。
「誰か……、食べ物をくれ~!」
駅馬車や輸送用馬車が到着すると大量にたかってくる物乞いたちをターミナルの警備員が棍棒を片手に叩きのめして追い払う。
「働かざる者、食うべからず!働かざる者、物言うべからず!」
何かのスローガンのような言葉をひたすら叫びながら物乞いたちに棍棒とムチを振り下ろし続ける警備員たち。
“人間かと思ったら年取ったオークか……。共和国は平等に受け入れているって聞くけど‥‥”
“さて、義勇兵ギルドへ登録登録っと”
ルース内を結ぶ短距離馬車を2つ乗り継いで、マリエッタはようやく目当ての場所にたどり着いた。
カーツ共和国義勇兵ギルド・ルース本部。
カーツ全土を統括する義勇兵(傭兵)を管轄するギルドの本部。
石造りの立派な建物は単なる冒険者ギルドというより官公庁の建物と言った方がいい重厚な趣がある。
帝国と違い、外見は地味で飾りっ気がない。
中に入ると腕自慢の戦士、剣士、魔法戦士、魔法使い、僧侶、バニーガール姿の女たち……モンスターもいる、あらゆる職業と種族でごった返すそこは入ってすぐに義勇兵受付所がある。
奥が広大なビアホールが併設されたレストランとなっていて、昼間から酒を浴びる冒険者であふれていた。
笑い声や怒号、高速のおしゃべりが交錯して戦場とも似た熱気に包まれている。
「え~と。確かここだったけ?」
マリエッタは義勇兵志願者登録受付へと向かう。
と言っても一般の冒険者登録受付と同じ場所だが、そこで義勇兵志願と申し出て登録しなければならない。
きれいな若い女の子が義勇兵志願者に合格証を兼ねた記章を見せるよう指示しているのが後ろから見えた。
「ようこそカーツ義勇兵ギルドへ。お嬢さんはどちらで義勇兵試験に合格いたしましたか?」
「西部ランタンド第13検問所。合格データはこれです」
マリエッタは記録魔法を展開する。
ギルドの受付嬢のまえに小型の魔法陣と共に光のボードが展開され、マリエッタの計測値がランタンド第13検問所付カーツ共和国軍第一級魔導士ラナ・ブラウンの認証付きで展開された。
「合格おめでとうございます!丁度ただいまからあなたが所属予定の第3魔導義勇兵大隊とその他の部隊結成を記念して外人部隊の人事部長から訓示がございます」
“外人部隊?ニンジンをぶら下げて突撃要員にってか?いかにも魔女どもが思いつきそうな発想だ”
マリエッタは兵学校時代の講義で習ったカーツの軍事制度を半ば嘲笑気味に思い出す。
カーツでは他の共和国と同様、傭兵(義勇兵)はあくまで金目的で雇われる使い捨て品に近い存在だ。
しかし、戦場で有能と認められれば外国籍の人間やエルフ、モンスターですら正規軍である外人部隊へ所属することが認められる。外人部隊に入隊したら完全にカーツ共和国軍の正規軍人として扱われ身分給与一切が保障され年金も付く。
故にカーツ共和国への傭兵志望者は経済的に苦しいモンスターの土豪国や没落したエルフの里などから志願する物が極めて多いと聞いていたが本当だった。
しかし、前線での損耗率も義勇兵に関しては共和国正規軍より段違いに高いがゆえに外人部隊に入隊が許されるのはわずか1~2割程度と言われている。
「気を付け!」
真っ白な魔導士の服装。
それに身を包んだ若い女性魔導士が大声で一喝すると、轟音のような酒場の盛り上がりが一瞬で止まった。
行き場を失った熱気がその場に滞留する異様な空気間の中、屈強な兵士に警護されて小柄な魔導士が壇上へと上がっていく。
“ばかばかしい訓示か……。おおかた帝国への罵倒大会だろ!”
マリエッタが心の中で悪態をついた直後、副官らしき人間種の共和国軍第2級魔導士が再び口を開いた。
「ただいまよりカーツ共和国軍魔導外人部隊人事部長エルミア・ガントレット魔導中尉がお前たちに訓示をおこなう!心して聞くように!」
魔法で声を増幅させるマイクに自分の魔力を注入するエルミアは、マイクの調子がいいことを確認して口を開いた。
「みなさん、こんにちは!今日はカーツ共和国に義勇兵として志願してくれたことを心より感謝いたします!魔法使いのみなさんは第3魔導義勇兵大隊及び第4魔導義勇兵大隊、物理攻撃をメインにされるみなさんは第5義勇兵大隊と第6義勇兵大隊それぞれ所属してもらいます!」
“あれはエルフ!?記章から見て正規軍魔導部隊の魔女か”
“異種族を登用するのはいかにも共和国らしい。異種族の魔女か……”
“エルフの魔導士とは戦時下とはいえ節操のない共和国め!エルフは見かけによらず狡猾なんだぞ!”
「すでに皆さんもご承知の通り、我が祖国カーツは今、残忍非道なヴァーンズハイト魔導帝国の侵略にさらされております。ヴァーンズハイトはごく一部の帝国貴族しか価値ある存在として認めず、皆さんのような多種多様な種族の方々全員を奴隷にしようとしているのです」
「そうだ!私の故郷は帝国の侵略でみんな奴隷にされた!」
煽る声が所々から出てくる。
しかし、帝国が苛烈とはいえ、言っていることがすべて真実ではないとマリエッタはすぐわかった。
煽っている連中は恐らくカーツ共和国軍の演出担当のひも付き連中だろう。
言いたい放題言ってくれるじゃない……!!
殺意をこらえながらマリエッタはエルミア外人部隊人事部長の演説を聞く。
エルミアと名乗ったエルフの少女はとにかく天真爛漫でとても軍人とは思えぬ話し方で聴衆たちを活気づけていく。
だが、必ず帝国への憎悪を内に刷り込む言葉を話の節々に混ぜていく。
聞いていて怒り心頭なマリエッタはその表情が表に出ないように近くのバーで頼んだカフェラテをガブ飲みしながら必死に訓示の終わりまでこらえ続けた。
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