第72話 敵国への潜入 カーツ国境検問所のマリエッタ
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ウィラードに拉致されたエリカを救出するため、マリエッタは中立国アポログラスで装備などを整えたのち、敵国カーツへの潜入を開始した。
しかし、最初の難関、国境での検問が待ち構える。
アポログラス首都ジェラードのブルーメントリット家偽装工作拠点での執事エルンストとの密会の2日後、帝国と交戦中の敵国カーツの国境にある町ランタンドの関所にマリエッタの姿はあった。
しかし、外見は小柄な在野の魔法使いであり、マリエッタの面影は全くない。
周囲にはカーツの共和国魔導士と屈強な騎士部隊が検問所を設けている。
ざっと見ただけでもマリエッタの視界に入るだけで2個中隊(約400名)くらいはいるだろう。
“さっすがに敵の国境付近はマジで緊張する~”
“いつもはみんなと部隊で襲撃するからな~。ばれたらさすがに分が悪すぎる……“
“ウィラードの詳細は情報部のファイルで見た限り、前線指揮官でもあるが本来は情報将校。ならばエリカを狙っていたとすればあの女が行くところは首都の統合情報局しかない”
“一旦中に入っちゃえばあとは流れに任せて首都に行けるけど国境は一番厄介だからな~”
魔力周波数の隠ぺいや外見のへんげは完璧とはいえ、マリエッタの心のうちに今までにない不安が出てくる。
余裕を持っているつもりが本能的にこれだけの敵大部隊を前に一人で戦えるか心配だ。
「オイまだかよ!俺ら3時間も待ってんだぞ!」
馬車に商品と思われる武器や防具を満載した商人風の中年男が怒鳴る。
「や~ね~。こうも戦争が続くと商売もやりにくいわよ」
「あらそうかしら。体力やケガ回復に効能がある我が国特産のポーションはおかげでたくさん売れてるわよ。むしろ戦争特需ってやつ」
「おうよ、共和国は帝国のケチ野郎どもと違って実力さえあれば結構いい待遇で仕官できるからな。今から任官テストが楽しみだぜ~!」
全身が鋼のように鍛え抜かれた屈強な大男の戦士が甲冑の金属音を自慢げに鳴らしながら腰に差した身幅の広い特注のロングソードを抜き身にして空に掲げる。
「ちょっとあんたこんなとこで振り回さないでよ!」
「わりいわりい」
へえー、何度か偵察で来たけど近くで見るとやっぱいろんな種族がいるのね。
マリエッタは周囲を何気なく見まわして周囲にこちらを見張る奴がいないか注意する。
カーツ共和国国境検問所。
戦時下ということあって入国検査は厳重なチェックが入る。
中立国や他の同盟国、エルフ諸部族の首長国やモンスターの土豪国からの商人や仕官を志す戦士、冒険者、在野の魔法使い、その他、背中に重そうな荷物を担いだアンデッドの行商人らしき連中まで何でもいる。
それらが長蛇の列をなして国境検問所に並んでいるのだ。
検問所は全部で横に15か所あるかなり大きなものだが、いずれも3時間以上待たなければならない。
だが、傭兵に志願する者は例外として優先的に通してもらえる。
兵員が足りないカーツは魔法使いだろうと肉体派だろうと何振りかまわず在野の実力者を常に募集している。
関所脇にある試験場で即席の試験を受け、合格すれば首都ルースにある傭兵ギルドへ義勇兵として登録できるシステムになっている。
カーツはしかも単なる傭兵としてだけでなく、働きが認められれば正規軍所属の外人部隊に入隊できるチャンスがあり、そうすれば待遇面でも正規軍として扱われるため志願する在野魔法使いや腕に自信のある戦士たちは多い。
マリエッタの腕にはカーツへの魔導傭兵志願者を示す青いリボンが結んであった。
「魔導義勇兵志願者は第13関所入り口へ集合してください!」
ギルドから出向してきた受付嬢の声が魔導拡声器で響き渡り、ぞろぞろと魔法使い風の身なりの者たちがそこへ集まり始める。
その中にマリエッタも続く。
“ひっひっひ。われながら魔法周波数調整も完璧。まさか帝国の第一級魔導士が在野外道の中に紛れ込んでるなんて想像できないでしょ♬”
冒険者に随行する在野魔法使いの身なりをした少女の正体はマリエッタであった。
無論、外見は全くの別人にへんげの魔法で変身して変えている。
手の指紋、目の網膜、固有の魔力周波数まですべて全くの偽装してある。
身分証明書も偽造品だ。
正確にはブルーメントリット家の情報部により精巧に偽造された物だ。
「リーナ・インスブルック。18歳。アポログラス共和国出身。在野魔法使い歴5年。冒険者としてどの地方へ行っていたの?」
「はい、アポログラスで冒険者として周辺でモンスター狩りを2年ほどして、バルバド共和国を拠点に冒険者パーティーで回復役をしていました」
カーツの傭兵ギルトの受付嬢の記章をつけた女性から関所内の個室で調査を受けるマリエッタは平然とした表情で答える。
「では、これから魔法力テストを行います。こちらへ」
通された先は弓矢の射的場のような場所であった。
約150メートル先に的がある。
「あの的に得意な攻撃魔法を撃ち込んでください」
“全力を出すとまずい。力をセーブしてと……”
マリエッタは火球魔法を数発的に撃ち込む。
150メートル離れた的はすべてきれいに炎上していく。
他の魔法使いが外す率が高い中でその命中率はNo1であった。
攻撃魔法の後、帝国などとの戦闘での負傷兵を連れてきての回復魔法テスト、共和国魔導士が放つ攻撃魔法を受ける防御魔法テスト、鍵を解除したり敵の炎や吹雪の攻撃を想定した条件下でそれを防ぐ補助魔法のテスト(マリエッタが受けたのは生まれたての鶏のヒナを持ちながらブリザードブレスを吐くモンスターのそれを受けるテストだった。ヒナが死ぬと失格)。
この中で最も難しいのは防御魔法と補助魔法のテストで、攻撃魔法や回復魔法はできても大抵の魔法使いは前者2つのテストで落第していく。
魔導掲示板にマリエッタの試験結果が表示される。
攻撃魔法能力:Cクラス
回復魔法能力:Cクラス
防御魔法能力:Bクラス
補助魔法能力:Bクラス
「うん、防御と補助でBとは在野の割になかなかいい線しているわ、合格!」
受付嬢の脇に控えていた試験官役のカーツ共和国第一級魔導士がよもや敵の帝国軍第一級魔導士とは知らずにマリエッタを評価する。
「どんなもんだい♬」
マリエッタこと小さな魔法使いの少女は誇らしげにドヤ顔を決める。
そのままマリエッタはカーツ共和国義勇兵(カーツでは傭兵をこう呼ぶ)の身分証を発行され、首都ルース行きの馬車に案内されて乗り込んだ。
“待っててねエリカ!必ず助けるから”
マリエッタが決意する中、馬車は静かに首都に向けて走り始めた。
それを遠目に見ていた2人組の冒険者がいた。
一見普通の身なりの剣士と商人風の男2人。
だが。
「何だあの小娘?やけに魔法力が高かった気がしたが……」
「あっ、アニキ!」
「なんだ、でけえ声出すな!クソ人間種どもにバレると厄介だぞ!」
「そっ、それがこれを!あの小娘どうも魔法力を隠ぺいしている感じですぜ!」
彼が手にしているのは魔界製の魔法力検知機だった。
魔界の検知器はこの世界リヒテンフェルトの魔導機器より数倍検知能力に優れ、隠ぺいされている魔法力をも検知できる能力を持つ逸品が多い。
次々と目の前の魔法力計測ボードに表示される驚異的な魔法力の数値に兄貴分の魔界鬼は驚愕の声を挙げた。
攻撃魔法能力:Sクラス
回復魔法能力:Sクラス
防御魔法能力:Sクラス
補助魔法能力:Sクラス
「はあ!!!???たかが在野の魔法使いの、それもあんな小娘がなんでこんな異常な数値なんだよ!?」
兄貴分の魔界鬼は顔を焦り気味にしかめる。
「あの小娘、力をセーブしていますがこの数値は常軌を逸してます……。間違いなく第一級魔導士クラスの、それも相当の手練れ。ギルドで獲物を偵察中のボスに言っときましょう!」
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