第71話 偽りの忠誠 その裏で動く影
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「ええっ!本当なんですか~♬エリカさん♬」
歓喜の声を挙げてはしゃぐエルミアを尻目に、エリカは続ける。
「但し条件があるわ」
「何だい?報酬ならいくらでも弾むよ。君は帝国では中尉だったから2階級上げて少佐、いや、我が国に不可欠な存在となるだろうから最低でもまずはランスブルク中佐と同じ待遇を保証することを約束するよ」
「あくまでこの忠誠の契約は私の魔法力が本当に戻ると確証できる段階になって正式に効力がでるようにしてちょうだい」
「フム……、まあここまでこれば君とて断れないだろうし、間違ってもラグナロク鋼の素質が開花して魔法力が回復したらトンズラなんて気はおこさないでくれよ」
「ではこの忠誠書に署名してくれたまえ。押印は君の血だ」
「ハンコではだめなの?」
「魔導士の血は契約において確実な効力がある。通常の印鑑ではダメだよエリカ」
用意された契約文書が並ぶ書類。
これはカーツ共和国への忠誠を使う文言が並ぶ契約書だ。
たしかにラグナロク鋼の素質を開花させればこの契約も無効にできる可能性はある。
けれどそれができる保障はどこにもない。
エルフの長老の話はたしかに聞いたことはあるけど未確認。
エルミアの故郷のエルフ族は外部に情報をもらさないことで有名だし……。
もし、これに署名すればラグナロク鋼の素質を開花できなければそれを覆すことはできない。
それに、この手の契約書は無効魔術を発動されるのを見越して何かの罠が仕掛けてあるのが常だ。
ならば……!
一か八か2重に保険を掛けておくしかない!
周囲に細心の注意を払う。
元より超微弱な魔法力しか残されていないから気づかれないとは思うけど。
平穏な表情のウィラードやエルミアの視線が異常に怖く感じる。
帝国でも共和国でもこの手の忠誠書には内容の履行を署名者に強制する魔法が込められている。
たとえ第一級魔導士であろうとその魔力からは逃れられず、それを破れば死に至る魔法。
私はペン先に超微小な魔力を込める。
ウィラードとエルミアの視線は特にペン先には向いていない。
かつてマリエッタに教わった“偽りの契約”(フォアゲトイシュテ・フェアトラーク)。
元は帝国貴族が下等種族との協定を体よく破るために考案されたと伝わる、後で契約書の文言を書き換えと魔法力による履行の強制を無効化する特殊魔法の一種。
これは監視下でもバレにくい超微弱な魔法力で署名するときにできる上に、後からこちらの魔法力を送りこめば発動して契約を無効化できる!
第一級魔導士でも強制的に従わせるレベルの契約魔法ですら無効化できる特殊魔法だ。
これならラグナロク鋼の素質開花がもしダメだったとしても、いざとなれば契約を無効化して逃走できる。
微弱な魔法力しか残されていない私でもこれはギリギリできる最後の切り札だ。
最も、ウィラードやランスブルク中佐が言うようにラグナロク鋼の素質が開花できるならこんな契約はすぐ破棄できるからそんな面倒なことはしなくてもいいかもしれないけど。
けれどこの手の契約魔法の強制力は破れば署名者を死に至らしめるほど強力な物。
たとえラグナロク鋼の精製を自在にできるようになっても果たして大神官どもの呪いを解いて元の魔法力が戻るかどうか……、何よりこの契約を無効化できるかどうかの保証がない……。
私がラグナロク鋼の素質を開花できれば無効にできて、逆に開花できなければ私は完全にカーツに寝返った魔女になるという契約。
それならもう一つの選択肢を保険として2重にかけておくに越したことは無い。
私は渋々万年筆で署名する。
“私の魔法力さえ回復できれば……、そして、銃器と組み合わせることができれば……”
“多分マリエッタ、あの子のことだから私を追跡してきているはず!どこかで私の意図を伝えないと……”
「おめでとうエリカ!今日から君は我が軍の一員だ!」
エルミアのような笑顔で喜ぶウィラード。
初めて見た。
あんな笑顔をするんだ。
「まだ効力は魔法力回復が果たされてからよ!」
「もうすでにここまで来たんだから事実上君はカーツの魔導士になったも同然だよ」
ウィラードはいつもより明らかに表情に隙ができている。
私は署名後、トリックを契約書に仕込んだことがバレなかったことに内心ほっとした。
どうやらウィラードやエルミアは気づいていないようだ。
たとえ封印されたとはいえ、魔法力をひそかに忍ばせて破壊工作活動をする訓練では私は伊達に首席を取ったのではない。
ややひきつった笑みを浮かべてウィラードらと用意された祝いの紅茶を飲むエリカ。
その様子を部屋の隅で遠目で見ていたエレーナ・ヴァ・ランスブルクは、密かに口元に妖しい笑みを浮かべていた。
ウィラードは微弱な秘密通信魔法で脳内で会話を交わす。
「エルミア、長老には例の件を伝えてあるね?」
「ええ、万が一のことを考えるのもリスクマネジメントの基本ですもんね~♬ぬかりありません♬」
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