第68話 エリカ、第三の道を選ぶ
お読みいただきありがとうございます。
よろしければブックマーク、評価、ポイントをよろしくお願いいたします。
エルミアの突然の発言にエリカは彼女を凝視した。
「ラグナロク鋼の素質を開花させて!?私の魔法力が本当に戻るの!?一体どうやって!?」
エルミアはエリカの注目を引けた、という顔を見せた。
「ええ、それも今言ったように、そのカギは既にあなたの中にあるラグナロク鋼の素質を開花させればいいだけの可能性が高いんです♬」
「エリカ君。君も帝国で第一級魔導士を長年やってきたから頑ななのもわかるが、これは戦争なんだ。我々は君らを侵略するために戦っているんじゃない。君らの侵略から自衛のために戦っているだけだ。そんな敵国の君にこれほどの譲歩をするなんて首相に伝わったら我々の首が飛ぶんだよ」
「エレノア中尉、続けてくれ」
ウィラードは再びコーヒーカップを口元に運んだ。
「はい♬実は私の故郷には物凄い魔法力を持つ長老様がいるんです。何が物凄いのかっていうと、相手の隠された潜在能力をすべて引き出す力を持っているんです♬」
「正直いうと~、帝国のバカ大神官どもの呪詛は質が悪すぎです~!私の里の長老様でも解呪できないと思います~!くやしいな~!!!」
「け・れ・ど・♬エリカさんのラグナロク鋼の素質を開花させることはた・ぶ・んできると思いますよ~♬」
「エリカ、これはあなたを救うための私たちにできる最大級の申し出なのよ」
「それでも拒否するというのなら、あなたの意志をこの場で乗っ取るわ……」
ランスブルク中佐の目に妖しい光がともった。
彼女は禁忌の魔術にも研究ということで知識があるとは聞いていたが・・・・・・。
ウィラードは突然立ち上がった。
これまでにない厳しい表情になって私を見下ろす。
「君に選択肢はない。もし拒否するなら君を終身刑にして我が軍の魔法研究のサンプリングになってもらう。我が研究所が君の終の棲家になる」
どうする!?
ここで断ればもう生きて帰ることはできない。
「どうしたんだい?決心はついたのかい?」
エリカは少しうつむき加減になり、わざと目線を下にやった。
「少し時間が欲しい……」
「うん、いいよ。これだけの事案だ。君が迷うのも無理からぬことだ。時間を与えよう」
「ただし、三日間だ。それ以上あいまいな発言をするならば君は一生このカーツの特殊研究所で過ごしてもらうことになる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
尋問はそこで終わった。
私には形式上、考える時間として三日間の猶予を与えられた。
統合情報局本部をエルミアたちと出た時、時刻は既に夕方になっていた。
私を両脇から逃げないようにぴったり張り付く若い女性魔導士、記章からカーツの第一級魔導士とわかる、の片方はかなり疲れた表情であくびをしている。
もう一人はポーチから飴玉を取り出して口に放り込んでいた。
しばらくすると梅の甘酸っぱい匂いが魔導士の方からしてきた。
「こ~ら~!2人ともしっかりエリカさんを逃げないように見ててくださいね!エリカさんは魔法を封じられてても第一級魔導士なんですよ~♬」
「もっ、申し訳ございませんエルミア中尉!」
2人は気を引き締めなおしたように私の両脇を固めるのを強める。
そのまま逃げる隙もないまま私は馬車へ乗せられて元居た第一軍病院へと戻された。
食事は部屋でエルミアと2人だけだった。
なぜかウィラードは同行して来なかった。
22時。
「エリカさん、今日はお疲れ様♬ウィラード大尉もランスブルク中佐もああ見えてあなたのことを案じてるとってもいい方たちなんですよ~♬」
「今日はゆっっくりお休みください♬3日間でいいお返事をしてくれることをたのしみにしています~♬」
ガチャンッ!
そう言い残してエルミアはドアを閉めた。
ガチャリ!と木でできたシックなドアに似つかわしくない鉄格子のような鍵の音が耳に響いた。
ドアの向こうからエルミアの、私に対してとは違う口調が聞こえた。
「中の捕虜は最重要危険人物だ。左右上下、いずれも手ぬか入りはないか!」
「はい!配置完了しております、エルミア魔導中尉殿!」
「よろしい♬では頼む!」
「はっ!!」
「はっ!」
私を連行してきたのとはまた別の、きりっとした若い女性魔導士の声がエルミアのあいさつの後でした。
エルミアが遠ざかっていくブーツの足音がやがて聞こえなくなった。
いつも彼女は私の部屋を離れるとき、ドアの前に見張りの女性魔導士を2人置いていたが、今日からはさらに警備を強化したようだ。
どうりでかすかではあるが魔力を部屋の左右上下すべてから感じるわけだ。
今の私にはまず彼女たちの網をかいくぐってここを脱出するのは不可能。
マリエッタは彼女のことだから私を助けようとしてると思うけど、いつになるか分からないし、いくら帝国軍第一級魔導士でもこのカーツの首都に殴りこむのは無謀すぎる。
今の私にはまず彼女たちには勝てない。
私はふと昼間の尋問の時にエルミアが口走った言葉を思い出した。
“私の故郷の長老なら絶対にエリカさんのラグナロク鋼の素質を開花させられますよ~♬”
あのエルフの子がいっていたことが本当ならそれしかない!
私は銃と一緒に召喚されたあの物語のことを詳細に思い出した。
復讐を遂げるために一切の迷いなく突き進むあの主人公の神々しさ。
目的のためなら敵だろうと何だろうと徹底的に利用して宿敵への復讐を果たす。
表向きはカーツに帰順するフリをしてエルフの長老の力でラグナロク鋼を完全に使いこなせるようになればおそらく大神官どもの呪詛は解ける!
そうして魔法力が取り戻せればウィラードだろうとエルミアだろうと敵ではない!
ウィラードは恐らく高速で一気に間合いを詰めて私たちの防御魔法展開前に攻撃して仕留めるタイプ。隙さえ見せなければいい。
いやまてよ。
私は冷静に戻る。
帝国はレンゲンカンプの一味によって事実上牛耳られている。
ならばそのような帝国政府はむしろ打倒するべきだ!
レンゲンカンプ一味と倒すためにカーツの力を利用できないか?
ランスブルク中佐は私のラグナロク鋼の素質に並々ならぬ興味を持っていた。
あの方の見識の深さは良く知っているから私にはまさに素質はあるのだろう。
ラグナロク鋼が本来の力を発揮したら大神官どもの呪詛も解呪きるというエルミアの話が本当なら、どうりでラグナロク鋼をコーティングした銃は帝国魔導士クラスの卓越した防御魔法を貫通できたわけだ。
さらにルナ・クロムシュタットのデーモン化した肉体がもとに戻ったことも“真実を明らかにする”つまり“すべてのまやかしを無効化する”というのがラグナロク鋼の本質なら説明がつく。
最終的にレンゲンカンプの一味もカーツも共倒れさせるにはどうすればいいか……。
私は暗闇の中、ベッドの上で自らの魔神に問う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一か八かだ!
ただし、マリエッタが助けに来てくれることも考えて3日間は時間を引き延ばそう。
帝国は私が信じてきたような存在じゃない!
ならば私が叩きのめしてやる!
カーツともランスブルク中佐とも違う立場で!
私はもう迷わない!
帝国もカーツも関係ない。
どちらも人を利用するだけ。
ならば信じれるのは己とその力のみ!
私は私の尊厳と祖先の名誉のために戦う!
つかの間の一人だけの部屋。
消灯された暗闇の中でエリカの目は決意の意志を光らせていた。
執筆の励みになりますのでよろしければブクマをよろしくお願いいたします。




