第65話 心の仮面が砕ける音
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私はそのまま廊下を歩き、突き当り右手にある3つある魔導エレベーターの内の真ん中に乗った。
無論、エレノアとその他3名の魔導士も一緒だ。
わずかな時間だけ視界に入ってきた内部を見回した。
建物の中は上品な彫刻などはあるものの、帝国に比べるとはるかに質素だ。
やはり警備はかなり厳しい感じで、ロングソードを持った兵士が出入り口を固め、警備室にも第二級クラスとはいえ魔導士が詰めていた。
だが、不自然さを感じさせない速足で歩かされたせいか、それ以上建物内部をじっくり見れなかった。
エレベータ内での無言の時間。
私はこの後何が起こるのか想像力を可能な限り張り巡らす。
エレベータが開いたとき、もはや見慣れた顔が私を待っていた。
「おはよう、帝国軍第一級魔導士エリカ・ヴァールハイト魔導中尉」
昨日と異なり、不自然にかしこまった言葉。
全身を真っ白な共和国魔導士のスタイルに身を固めたウィラードだった。
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私はすぐに別室に案内された。
入るとすぐに扉は締められ、厳重な鉄格子のような鍵の音が後ろからした。
一見薄いベージュ色一色の落ち着いた部屋。
しかし、中央には大きく無機質な机と椅子3つが置かれているのみだった。
「座り給え、エリカ君」
先に席に着いたウィラードと向かい合わせになる。
私が腰かけた。
エルミアがコーヒーを携えて奥の別の扉から入ってきた。
コーヒーを2つ、私とウィラードの前に置く。
「さて、エリカ君。今日から本番だ。私は任務により君を尋問しなくてはならない」
「最初からそのつもりだったのでしょ?なら昨日までみたいな回りくどいことをしなくてもよかったのではないの?」
私の質問にウィラードは目をつむった。
コーヒーを手に取り、一口飲む。
「君は昨日までの我が国を見てどう思った?」
「いいところばかり見せられてもなんとも言えないわ」
「果たしてそれは本心なのかい?帝国にはない何かを感じ取らなかったのかい?」
「プロパガンダで私を丸め込む気?」
「そうではない。帝国はたしかに軍事力も経済力もはたまた文化的な影響力も我が国より上だ。それは素直に認めよう。我が国も文化面では帝国の影響を多々受けているのだからな」
「だが、なぜそんな強国が国力の劣る我がカーツをいつまでも攻め落とせずにいるのか考えたことがあるかい?」
誘導尋問のたぐいか?
自分で考えて結論を導き出したかのように思わせて向こうの意図に誘導する。
「我が国の最大の武器は魔法でもないし単純な兵力でもない。もちろんそれらは必要不可欠だが、それらを支えるもの、つまり種族を超えたつながりにあるのだよ」
カーツはたしかに情報収集力には秀でている。
他種族でもカーツの理念に共鳴する者は誰でも取り入れることがインテリジェンスの面で帝国と互角にやり合う源泉とは習ったわ。
「であるから帝国は我が国には勝てない。これだけ多くの種族が我が国に帰順しているのはそれだけ帝国に反感を持つ種族が多いということだ。我が国の強さとはつまり君たち帝国の失政がもたらしていくれているとも言い換えられるのだよ」
「お説教をするために私を捕虜にしてこんな統合情報局の中にまで案内したの?」
私の言葉に平静なウィラードのまぶたに一瞬だけ不快なしわが寄った気がしたが、すぐに元に戻った。
彼女は演説を続ける。
「君も第一級魔導士にまでなった身なら帝国貴族と大神官どもの腐敗ぶりは知っているだろう。国家安泰とかを掲げてその実は私服を肥やすことだけに熱心になり、おまけに彼らは非課税の特権を有する社会の害悪と化している」
「それだけにとどまらないよ。わが情報局が収集した情報によれば、連中はこざかしい劇場型猿芝居まで公然とする。大神官の腐敗を糾弾するとか正しい帝国に戻れとかいう、一見良識派のような言葉を並べ立てる別の大神官の一派なんかは精神的に弱っている貧しい人々にデーモンが憑いて呪われているなどと脅迫して洗脳し、継続的に人々を搾取しているという事実を私たちはかなり前からたしかな情報としてつかんでいる。それで搾取した金はすべて連中の酒池肉林と得体のしれない闇の資金へと消えていくということもね」
「要は帝国で行われていることはすべて茶番なのさ。帝国貴族はわざと自分たちに表面上批判するエージェントを各界にあらゆる手段で大量に送り込み、いかにも私たち共和国より政治が健全に機能しているように見せかけて、批判的な者たちを取り込んで無力化しているのさ」
「なぜそんなことを?」
私の心が若干揺らいだ。
心に波が立つとはこのことか!?
「自分たちを批判する者たちが団結するのを恐れているからさ。声高に批判する者が出てきたら帝国の政治に不満を持つ何も知らない大衆は大抵その批判者を指示する。その批判者が何を隠そう帝国貴族の犬だとも知らずにね」
私はあくまで平静を装う。
決して表情を変えない。
訓練で習った通りに心を無にして感情を動かさない。
「御大層な演説、ごくろうさま」
私の返答にしかし、ウィラードもまた、まるで動じる気配がない。
「君が納得いかないのも無理はない。そこで我が国の理念を理解してくれたかつての君の上官だった方を紹介しよう」
「上官?」
なんか嫌な予感。
すると奥のドアが開き、エルミアが誰かを連れて部屋に入ってきた。
部屋は私とウィラードの机の周りしか電気がついていないから部屋の隅は暗闇でよく見えない。
エルミアは特徴的な耳のシルエットですぐわかったが、隣は誰だ?
身長は私と同じくらい。
暗いけど白いローブを身につけているから共和国魔導士であることはほぼ間違いなかった。
「久しぶりですねエリカ中尉」
優美で上品な、聞き覚えのある声。
「あっ、あなたは!?」
私の心の仮面がはぎ取られ、ひび割れて砕けていく音が私だけに聞こえた。
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