第62話 敵国首都ルースの“自由”──エリカが見た価値観の断絶
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私は馬車の窓から敵国カーツの首都ルースの光景をじっくり観察した。
通りの雰囲気は上品で戦時下ではあるが人々の生活水準は落ちている様子はない。
本当にこの国はやたら他種族が多い。
あらゆる雑貨や食料品を扱う店が通りに密集していて、各通りごとに様々な種族を見かける。
「いかがだい、エリカ君。君の国で聞く我が国と、自分の目で見る生の我が国の光景は?」
「いいところを見せられるのは誰でもできること」
「やはり強情だね。まあいい、今日は羽休めなんだからあまり肩肘張らないでくれよ」
「あれは何?」
エリカの目に飛び込んできた群衆。
裁判所と思しき建物の前で一般市民が抗議している。
「ああ、恥ずかしながら我が軍の第一級魔導士が政治家と癒着して軍需物資を北方魍魎首長国へ横流ししていた裁判で、第一級魔導士、政治家共にそのような事実はないと無罪を主張していることに意識の高い市民が抗議してるのさ。全く我が軍にもああいう不埒なのがいるから。戦時中だと監査の目が届きにくくなるからああいうのが出てくるの仕方ないけどね」
「……あなたの国では第一級魔導士の、それも割と高位の者に対しても裁判が行われるの?」
「もちろん、公開されて一般市民でも傍聴できるよ」
ウィラードは淡々とただ事実を説明しているだけのような口調で言う。
“考えられない……。帝国貴族の権力の命綱である第一級魔導士はよほどのことがない限り裁判に掛けられるなんてことはありえない。そんなことをすれば帝国の権威に関わるし……。だから私は何でこんな目に合わないといけないの……。反逆者の濡れ衣を着せられるなんて共和国よりひどいじゃない……”
頭がグチャグチャになりそうな感覚になりそうになっているとエレノアが私の顔を覗き込んできた。
「珍しいんですかエリカさん♬第一級魔導士でも法律に従うのは私たち共和国では当たり前なんですよ~♬」
広場で馬車を下りた。
「君たちは先に戻ってくれ。私とエルミア中尉でエリカ君を監視するから」
「了解いたしました魔導大尉殿。お気をつけて」
「ありがとう」
「心配してくれてありがとうございます~♬」
「……」
下車した場所は大通りの中央ロータリー付近。
噴水もあり、華やかに馬車が行きかう。
通りには多くのオレンジの木が街路樹として、植え込みなどのちょっとした茂みにはレッドカラント(赤い小さめのブドウのような実がなる。とても酸っぱい)が植えられていて、時々待ちゆく人々やモンスターたちがそれを取って頬張っているのがエリカには見えた。
誰もそれを注意している様子はない。
「案内をしようかと思っていたがお昼だし一緒に昼食といこう」
「わーい♬」
「……」
昼食の時間になり、私はウィラードからの提案で3人でレストランに入った。
野生動物の肉で有名なレストランということで私もつい胸が躍った。
店の前には立派な角が今にもこちらに突き刺さりそうな鹿のはく製と、骨だけの猪の牙のトロフィーが飾られている。
狩猟好きのマリエッタが見たら喜びそうな獲物のトロフィーの数々。
猪、鹿(数種類ある)やキジ、エゾライチョウなどがメニューに並び、さらにはクマやワニ、アンテロープ(レイヨウ)の肉もある。
他にもマス科の魚料理や、山菜やキノコなどもあるなど、随所にこだわりを感じる。
何でも好きなものを頼めとウィラードが豪語するので、遠慮なく私は山菜の入った野菜サラダに、ひよこ豆が入った有機米のピラフが添えられたエゾライチョウのローストと、食後の有機コーヒーをブラックで注文することにした。
だが、勢いで注文したが後で後悔する気持ちが頭をおおう。
裏でここのコックと共謀して自白剤とか催眠魔法を強化する魔法精製薬の類を入れられるんじゃ!?
向かいの席に座ったウィラードとエルミアは私の心の懸念を知ってか知らずかニヤニヤしている……。
「エリカ中尉、そんな緊張しないで。ここは自由の国カーツ。あなたにも開かれている国だ」
「ここの料理は野性味があって、それでいて血抜きが完璧で最高なんですよ~♬」
ふとウィラードは髪を手で整える。
凛とした士官である彼女の自然な雰囲気。
戦場やここ数日の戦いの中で見せてきた彼女とは違うリラックスした笑顔。
“……私は自国でこんな顔をした人を見たことがあったっけ……?“
“同じ女性なのに、どうしてここまで違うのだろう……。帝国では、こんな表情を見せる女性士官を私は知らない。”
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