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はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~  作者: せんぽー
第5章 迷宮攻略編

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第95話 白の毛玉

「君にはここの敵は退屈そうだね」

「そうだな。裏世界に比べると、まぁ弱いな」


 軽やかに隣を歩くレンに顔を覗かれ、何故かふふっと笑われる。

 コイツが楽しそうにしてるところは少々ムカつくが、こうして改めて見ると笑い方はコロコロしていて女の子らしい。


 コンコルド迷宮に踏み込んでいた俺とレンは、現在魔物を倒しつつ、最下層を目指して進んでいる。


「そう? そこそこ強い方だと思っていたんだけど……だってあのコンコルドが作る迷宮だよ? 弱くする気なんて絶対にしないし、何ならここに遊び半分で入った子が容易く死んでしまうほどには高位の魔物を集めていると思うんだけどな……」

「そうか? 全然分からないな……」

 

 俺の体感ではあるが、ここの敵は決して強くは感じない。正直、裏世界の方が何倍も手強かったようにも思う。

 もちろん、下に行けば行くほど敵の強さも上がっていくが、苦戦するほどではない。服が汚れることすらなかった。

 

「その感覚は大事だよ。ネルが強くなってる証拠だからね」

「…………」

「ねぇ、ネル」

「なんだ?」

「君は勇者になる気はない?」

「…………」


 俺は答えれなかった。

 …………少しだけ、ほんの少しだけ迷った。

 

 今までならば、即答だった。拒否していた。

 平穏な日常を送りたいと断っていた。

 ただ…………。


 自分の決断で誰かの日常を脅かされているのに、無視する自分に最近は居心地の悪さを感じる。


 同時に、不思議とあのアイドル勇者の言葉が頭に浮かぶ。


『紋章など見えなくとも分かる! 君は能力があり、勇者としての資格もある! 活かせば、僕よりも魔王を確実に倒せる! この世界を平和へと導けるッ! ……なのに、君はッ!』


 確かに、レベルのことを考慮すれば、俺は勇者として戦えなくはない。


 だが、双子先輩やタウノたちのような勇者たる精神力はないし、温室育ちと言われようとも、俺は平穏な環境が好きだ。


 正直、他の勇者でも、十分魔王を倒せると思う。双子先輩とか、モウチュカ先輩とかは強いし…………。

 

 ただタウノの必死さを見ていると、七人揃わないといけない理由が何かあるのかもしれない。

 となると、自分の存在(アルカイドの勇者)は必要になるが…………。


「分からない」

 

 感情が追い付かない。散々勇者だと言われてきたけれど、ずっと否定してきたし拒絶してきた。


 勇者になることが怖いのだと思う。


 どうしても、親の最期の事が頭をよぎる。自分の親のように俺が死んで、メミたちを悲しませるようなことはしたくない。


 でも、俺以外の戦える人間がいないのなら、俺が前線に出なければならない。

 誰かの日常を脅かされるところを見て見ぬふりも、俺にはできない。


「やっぱり分からない……」

「そっか」

「……なんだよ、ニマニマしやがって」

「いや、ネルが悩んでくれているのが嬉しいなと思って」

 

 悩んでいるのが嬉しいって……ニコニコした顔がちょっとばかしムカつく。

 確かに以前の俺なら、勇者なんてならないと即答していた。

 だが、この前の事件からよく考えている。俺が戦わざるを得ない状況なら、アルカイドの勇者の代わりがいない状態ならばどうするか、と。


「たくさん悩んで、悩んで、ネルの答えを出せばいいと思うよ」

「勇者になれ、とは言わないんだな」

「うん、言わない。逃げ道も立派な君の道だから」


 レンははっきりと断言する。まるで俺の答えがどんなものであろうとも、その全てを肯定するかのように。

 エメラルドの瞳は真っすぐで、自信に溢れていた。


「君は困っている人がいたら、手を差し伸べる人だからね。私の思う答えにきっと君はたどり着く」

「まるで俺を昔から知ってるみたいだな」

「そりゃあ昔から知ってるよ。だって、私は君の親友だったんだよ? 知らないはずがないよ」


 そうして、雑談しつつ魔物を倒しながら、俺たちは最下層にたどり着いた。

 三つの頭を持つ竜が待っていたが、大した力はなく、難なく倒すことができた。もちろん、レンは手伝ってくれず見学だけだ。

 

 神の子なんだから力はあるだろうに……少しぐらい手伝ってほしいものだ。

 討伐した竜の身体をさばき、アスカの実験に役立ちそうなものだけ採取していると。


「ん? あれはなんだ?」


 部屋の奥で見つけた宝箱。それは祭壇のような場所に置かれていた。竜の背後にあり見えていなかったが、技巧を凝らした金の装飾の宝箱だった。

 もしや、これはレンが取ってきてほしいと言っていた物か……?


「おーい、これがお前が言ってた“ある物”か?」

「そうだよー」


 レンはニコニコしながら、こちらに歩いてくる。

 トラップではないかと警戒しつつ、俺は宝箱の蓋を開けた。


「缶コーヒー?」


 宝箱の中には、もじゃもじゃな紙屑の上になんの変哲もないブラックの缶コーヒーがそっと置かれていた。磨かれているのか、それとも照明がいいのか、まるで財宝の一つのように輝いている。

 少しすると、レンもやって来て宝箱を覗いた。


「…………お前、ふざけてるのか?」

「うん、これはふざけたね。でも、ネルは飲みたかったでしょ?」

「…………」


 俺は静かにそのピカピカな缶コーヒーを手に取る。

 そして――――。


「フンっ!!」

「ちょっ、ネル!! 缶コーヒーを投げるなんて危ないよ!」

「お前にはちょうどいいボールになる。神の子っていうのは怪我をしても一瞬で治るもんだろ。大丈夫だ、このくらい痛くないだろ」

「そんなことないよ! 人間と一緒で当たったら痛いし! 食べ物を粗末にするのはいけないよ!」

「粗末にしたくなかったら、誰にも見つからないようなこんな場所に置くんじゃねぇ――ッ!!」

「ちょっ、ネル落ち着いてよ! 本命はそれじゃないから! もう一つあるから! 紙パッキンをのけて!!」


 仕方なくレンの言う通りに、鳥の巣のようなもじゃもじゃな紙の屑をのけると、小さな箱があり、中には金のリングがあった。

 派手でなく、それでいて気品のある小さな翠玉が添えられた黄金の指輪だ。


「ふざけんな。最初から、これを見せろよ」

「あはは、少しは面白も必要かなーと思ってさ。遊んじゃった、ごめんね」


 てへっと謝るレンに、俺は思わず大きなため息をこぼす。

 再会したあの日からこいつには、『神王を倒せ』だの、『迷宮に行ってくれ』だの振り回されている気がする。

 コイツはどうもリコリスと似ているというか……ちょっとムカつく。


「それで、これは何なんだ?」

「君へのプレゼントだよ」

「はぁ? プレゼント?」


 ここまで連れてきて、こんな立派な宝箱に隠しておいて、ただのアクセサリーなわけがない。

 思考を読んだのか、レンは説明してくれた。


「お察しの通り、加護付きリングさ。君の勇者への道が少しでも楽になるように、と思ってね」

「勇者にならなくてもどっちでもいいって言ったくせに……」

「私は別になってほしくないとは言ってないよ。ただ君の選択を尊重したいだけさ」


 レンは小箱から指輪を取ると、俺の右手の中指を取り、そっとリングをはめる。


「もし勇者として生きていこうと思った時に、少しでもネルの助けになればいいと思ってるんだ」

「お前なら神様だし、勇者ルートなんて調整し放題じゃないのかよ」

「そうだったらいいんだけどね……でも、私は…………」


 やはり様々な事情があるのか、言い淀み、顔を俯けるレン。

 しかし、すぐさまレンはぱっと顔を上げ、話を続ける。


「言い忘れてたけど、これ一度付けたら外せないから」

「――――は?」

「外せるのは私だけだから、あはは」

「おい、『あはは』じゃねぇ! 外せないって、これ呪いの指輪じゃねぇか! 外せ! クソっ!」

「そんな嫌がらずに外そうとしないでよ~。呪いなんかじゃないからさ。祝福の指輪だよ」


 指輪を外すよう訴えたが、結局外してはもらえず、試験のこともあるので、俺たちは引き返し、レンと一緒に地上に戻った。

 時間はそれほど経っていなかったのか、太陽はあまり動いていなかった。


「またね、ネル」


 レンは片手を振り、背を向け、森の奥へと歩き出し、そして消えていった。やつは突如現れ、用事が終わればすぐに帰っていった。台風のようだった。


 神出鬼没な彼、いや彼女はやはり神様ではあるのだろう。本当に神様なら魔王を大人しくさせるなりなんなり、本来の仕事をして欲しいところだが…………。


「まぁ、できないところでもあるんだろうな」


 神様というのなら、なんだってできると、以前の俺は思っていた。

 ただレンの言動を見る限り、そうでもないらしい。

 今の彼女は(もが)いている。直感的にそう感じた。


「アイツが何と戦っているかは、俺は知らないが…………お?」


 ゴールに向かって歩いていた先。そこにいたのは白いモフモフ。俺よりも大きい体格の良いモフモフだった。


「…………」


 あれは絶対聖獣だ。浄化されるようなオーラを放っている。あのモフモフが放つ魔力の質がまるで違う。


 絹のように白い滑らかな毛。なんだろう、モフモフさには今にも抱き着きたくなるような魅力がある。


 ――――いや、ダメだ。

 あれに触れてはダメな気がする。


 白いモフモフ成獣は触ってくださいと言わんばかりに、未知のど真ん中で丸まって眠っていた。幸い歩けそうな隙間はあり、俺は横をそっと忍び足で歩いていく。


 もしも、だ。このモフモフ聖獣に付きまとわれて飼うことになったら、どうなるか。

 当然注目を集め、最悪新聞に載るはめになる。人気者になりたいのなら、捕まえるのはいいと思うが、俺はそんなことは望んじゃいない。


 起こしても無視されればいいが、聖獣に興味を持たれることだけは絶対に回避したい。


 だから、ここはそっーと歩いて…………。

 俺はそっと一歩ずつ進んでいく。

 しかし、地面を強く踏んでしまい、じゃりっと音が響く。


「…………」


 ぴくぴく動くもふもふの鼻。だが、目は閉じたままで動く気配はない。

 ほぉ――――!!

 危ない、危ない。

 聖獣さんを危うく起こすところだった。


 やはり聖獣とはいえ獣。五感には敏感だ。


 でも、このまま静かに歩いていけば…………。


 一歩、二歩、忍び足で聖獣から離れていく。


「…………?」


 が、突然聖獣の寝息が消えた。心地よさそうに眠っていた音が聞こえない。

 どうしてだろう……気配を感じるのは。


 俺は恐る恐るそっと後ろを振り向く。


「…………」

「くぅーん」


 ああ……このモフモフはいつ起きたんだろうか。

 モフモフは足をそろえて座り込み、瑠璃色の瞳で俺をじっと見つめ、愛らしい声で鳴く。先ほど毛や足で隠れていて見えなかった首元には名札がつけられていた。


『この子の名はノゼアンです。聖獣だよ。お世話をよろしくね。Byレン』


 と丸い可愛らしい文字で書かれていた。

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