第93話 試験開始
ゼルコバ学園———二学期の実技試験。
実技試験といえば、俺が強制退学の原因となった一つ。嫌な思い出ではあったが、メミと和解した今はそれも消え去っていた。
今の俺にはレベルがあるし、アスカの研究所で特訓をしたり、七星祭に向けて訓練したこともあって、技術は伸びつつある。時折調整ができず、思わぬ方へ魔法展開されることがあったが……。
一対一の試合形式で行う『試合試験』と的によるスコア判定を行う『星的試験』。この二つの合計点数が二学期の実技試験の成績となる。
試合には勝つことでも点数が入るが、技術点なども加味される。一方、星的試験は単純で的に攻撃するだけだ。
いつもは絶望の実技試験だが、今の俺は堂々としていた。
まともにあたりもしなかった星的試験では満点を出せるだろうし、試合試験でもよほどの相手が来なければ高得点を狙えるはずだ。
そうして、俺たちのクラスは半分に分かれ、試験会場へと向かう。俺とリコリス、ラクリア、アスカは同じグループに分けられていた。別クラスのリナも離れたところにいた。
俺たちのグループは、室内訓練場で実施する星的試験を受けることとなった。魔法を扱う以上耐久度を必要とする室内訓練場は、他の校舎以上に頑丈に作られている。
多少の魔法でも傷一つつかない。アスカの研究室並みに強固だった。
アスカやハンスたちと戦った屋外訓練場もあるが、試合試験用に使われている。
室内であれば環境調整もでき、公平な状況で個人の能力の測定もできる。よって、室内訓練場で星的試験をすることとなった。
すると、隣でそわそわしていたリコリスがドヤ顔で話しかけてきた。
「ふふん、聞いて、ネル。私のレベルが前より上がっていたのよ」
「カード見せてみろよ………って、一つしか上がってるだけじゃねぇか」
「一つでも十分でしょ!! 裏世界ではスイスイ上がってたのに、こっちだと全然上がらないのよ……でも、体力は確実についたわ! 今回の試験ではネルを上回る成績を出してあげるわ!!」
そう自信満々で言い張る悪魔女さん。確かに、この悪魔女はクローバー戦や七星祭での動きは以前よりも良くなっていたが、能力的に上がっているかは正直分からない。
まぁ、暴走すればリコリスが強いのは明確だ。
前で試験説明をしている担任のメダイ先生は、「どんな威力の魔法でもこの的ちゃんはスコアを出してくれます! 皆さん、惜しみなく全力を出してください!」と、自分の身長よりも大きい的を叩きながら話していた。因みに的は俺たちよりも低い。背伸びしてるけど、やはり低い。
ま、試験なら、俺も全力でしないとな————。
「あ————」
前言撤回———先生の嘘つき。
メダイ先生の説明があって十数分後、俺のお得意の光魔法は見事に的を突き破り、壁を突き破り、隣の建物も突き破った。威力もあって窓は全て割れ、天井も崩れた。
もちろん、結果は判定不可。的は木端微塵、形すら残っていなかった。
「せ、先生、俺は何にも悪くありません。先生の言われた通り全力を出しました。高得点を狙っただけです。細工などしていません」
「いや、モナー君、軽々と撃ってたよね……? やっぱり君は勇者なんじゃ———」
「断じて違います。絶対違います」
「そうは言っても……」
「勇者の話は置いておいて……それで先生、実技試験はどうしましょう? 試合試験はともかくこのまま星的試験はできませんよ。他の的はあるんですか?」
「いえ、ないはずです……そうですね、皆さん、少し待っていてください。先生たちで話してきます」
メダイ先生は先生を集め、会議をし始める。
そして、10分後、メダイ先生は学生の前に立ち、声を張って試験の説明をした。
「他の先生と相談しまして、試験内容を変えることにしました!」
「試験内容を、ですか?」
「ええ、元々2学期の試験内容を変えようかという話も出ていましたので、いい機会だったのかもしれません。他の子には申し訳ないのですが………」
「…………」
この星的試験のために特訓してきた子もいるだろうに、急な試験変更は可哀そうに思えた。すでに受けた子の結果も無しとなった。それについては申し訳ない気持ちでいっぱいだった。ごめんなさい。
「それで変更後の試験なのですが…………」
★★★★★★★★
「森でのアドベンチャーレースね…………」
ため息をつきながら、俺は左手につけた腕時計らしい物を見る。
これは魔道具の一種であり、活動継続は不可と認められた場合や自らリタイアする場合に、特定の場所————スタート地点へと自動転移できる優れた代物だ。
また、何体の敵を倒したのか、どこまで走ることができたのか記録してくれる転移スクロールと記録器の二つの機能を持つ便利魔道具だった。
俺は自力での転移はできるが、この魔道具は装備している人間が意識不明、もしくは重症を負うと自動で動く仕組みとなっている。よくこんな物を作った。
しかし、これから試験だというのに、なぜこの魔導具が必要なのか。
それは試験会場が広い広い森だから。
現在、俺たちは先生の誘導で学園近くの森へと移動していた。
「あ、それ早速使ってもらえてるのね」
「アスカがそう言うってことは……これお前の魔道具だったのか」
「ええ、先生に頼まれて作ってみたのよ。まさか、こんなに早く使われるとはね」
アスカによると、今までのフィールドワークやアドベンチャーレース試験では、先生や大人たち総出で見張っていたらしく、他の学年の授業を休講せざるを得なかったようで……そこで魔導具の開発を進めていたらしい。
まぁ、人手のことを除いても、この広さとなると大変だ。転移スクロールも大量に必要だろう。
森にも魔物はわんさかいる。
が、教師陣が気合に気合を入れ、追加で無限に魔物を湧き出るよう特殊な魔道具を配置している。これは昔から使われている魔道具だ。
試験は星的試験と同じく個人。たとえ、先に魔物をすべて倒されたとしても、試験終了までは魔物が出てくる。
また、この試験では、魔物討伐数だけでなく、タイムでもスコアが決まるため、早くゴールを目指してもいいし、タイムは気にせず魔物をひたすら倒していくこともできる。まぁどの道ゴールしなければ、スコアはゼロになってしまう。
俺は魔物をひたすら倒して、転移でゴールまで行こうと考えていたのだが……。
『モナー君は緊急時以外の転移魔法の使用は禁止です! 迷宮に入るのでもいいのですので、ちゃんと魔物を倒してきてください』
メダイ先生に思考を読まれ、俺にだけ特別ルールを課される。スタート地点から一気にゴールまで転移すると思ったらしい。
さすがに魔物討伐数の評価もあるし、そんなことはしない。楽そうだが、やめておく。
「では皆さん準備はいいですか!! 杖を忘れてないですかね!!」
「忘れてないよぉ~!! メダイちゃ~ん!!」
「先生をちゃんづけで呼ばないでください!! 準備はいいですね! はい、よーい、ドンっ!!」
非常に緩い試合開始の合図の後、皆一斉に走り出す。
個人試験といえども、チームを作るなとは言われていないので、集団で動いているものもいる。
だが、俺は。
「ネルと一緒にいると、全部魔物が取られちゃうから、一緒に行けれないわ!」
「ネルくん、頑張れYO!!」
「あたしも今回はリコリスたちと行くから、ネルは一人で頑張りなさい」
「すまない、ネル」
とリコリス、ラクリア、アスカ、リナに早々裏切られ、やつらは四人だけで森の中へと入っていった。
つまりは俺は一人ぼっち…………ああ、悲しきかな。
仕方なく、俺は一人森の中へ入っていく。
秋らしく、紅葉した木々の間を抜け、枯葉を踏んで歩いていく。もう戦闘が始まっているのか、遠くからは爆発音が聞こえてきたり、悲鳴が聞こえた。
しかし、歩いていくうちにその音は遠のいていき、心地のいい枯葉を踏む足音と風の音だけとなる。
これが試験でなかったら、枯葉を集めて焚き火でもしているぐらいには心地のいい森だ。
次の特訓ではこの森を使うとしよう。
そうして、道という道がない森を歩いていると、人が歩いていた跡が残る道を見つけた。
みんなとは違う西の方へ進んできたが、こちらにも人が通っていたらしい。
「…………」
カサカサと木々が揺れ、橙に染まった紅葉が流れるように落ちていく。
木々でわずかなこぼれ日しかなかった道。その道の先に神々しい天使の梯子のような光が落ちる。
そして、懐かしいあの白銀の髪を照らして……。
「なんで、お前、ここに…………」
星々を描くような銀の刺繡が入った白の軍服を見に纏う彼。自然のスポットライトに当てられた彼は本当に神のようにも思えてくる。
いや、今は彼ではないか。
彼女というべきだよな…………。
「やぁ、久しぶりだね。ネル」
突然野道に現れ、呑気に手を振っていたのは、以前神の子と名乗った人物。
俺が死んだと思っていた親友レンがいた。




