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はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~  作者: せんぽー
第5章 迷宮攻略編

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第91話 死刑宣告

「あんたたち、どういうつもり?」


 初等部の少女が持つにはふさわしくない重厚感のある拳銃だった。


 初等部の少女はツインテールで体も華奢で幼く見えるが、飛び級で高等部に進学している天才少女。

 そんな少女に、俺とリコリスは銃口を向けられていた。

 

「ねぇ、あたし、あんたたちに言ったはずよ。あたしは魔王を倒すためにいるって」


 それは覚えている。

 実験と称して、俺の身体をいじめた時の話だ。

 表世界にもまた魔王がいること、その魔王を倒すために自分はいるのだと話していた。


 打倒魔王――――それが彼女の願い。

 魔王に関連する悪魔もまた排除対象となる。


「リコリスの冗談だと思っていたけど、違ったようね」


 ツインテールの少女は背後に隠していたそれを投げ捨てる。それはころころと転がり、俺の靴先にこつんと当たって止まる。


 …………ああ、ちゃんと俺の部屋にしまっていたはずなんだがな。

 いつ取られたのだろうか?


 本物だからこそ、処分しようと思っていた。

 バレたら、場合によってこの世界で生きていくことは不可能となる。もしくは魔王の手下となる道しかなくなる。


 だから、裏世界に行った時に捨てようと思っていたのだが…………。


 アスカが投げ捨てたそれはリコリスの角だった。




★★★★★★★★




 ――――数時間前。

 ドタバタだった七星祭が終わり、日常に戻った俺たちはいつもの教室で放課後を過ごしていた。


「聞いてよ、ネル。先生が七星祭の副賞が旅行券って言ってたでしょ? その行先がね、まさかのビローヴァなのよ!」

「嘘だろ、天空城塞都市ビローヴァのチケットだと……? すげぇな、七星祭は」


 関心する俺のつぶやきに、リコリスはドヤ顔で仁王立ちする。さらに、この女は胸に手を当て。


「ふふーん。私を褒めていいのよ、ネル。今回のチーム戦の優勝はわ・た・しのおかげだから! そーして? 個人戦で優勝したのは誰? そう!! わ・た・し・よ!!」

「確かにお前だが、不戦勝だった」

「ふん! 優勝したのは間違いないでしょ! チーム戦で頑張ったのは誰? 一番対戦相手をダウンさせていたのは誰?」

「ああ、それはラクリアだな」

「っ――――!! ラクリアは最後の美味しいところを取っただけだから!! 追い詰めたのは私でしょ!! ほら!! だから、褒めてちょうだい!!」

「えらーい、えらーい。リコリス様、ちょーすごーい。ぱちぱち」

「ちょっと!? 棒読みはやめてよ! 拍手も口で言わずにちゃんと手で叩いてよ!! 心の底から私を敬う感じで褒めてよ!」

「ハイハーイ。コンカイユウショウデキタノハ、リコリスサマノオカゲデース。リコリスサマ、アリガトー」

「この――――ッ!!」


 俺の最上級の褒めが気に食わないのか、ポカポカと俺を叩いてくるリコリス。二回も褒めてやったんだから、満足してほしい。そのポカポカ叩き、痛くないと思ったら地味に効くからやめてほしい。


 リコリスを引き離そうとしていた俺たちのところに、ラクリアがバッグを持って駆けつけてきた。


「ネルくん、今日はどうするんだYO?」

「そうだな……課題という課題もないし、研究室に行こうかな」

「ちょっと、ネル? それよりも私との約束を忘れてないでしょうね!?」

「忘れてねーよ。メロンバウムクーヘンはもう少し待ってくれ、王女様から返答が来てねぇんだよ……そういえば、アスカとリナは?」

「ああ、アスカなら用事があると先に研究室に行ったぞ」


 俺の質問に答えてくれたのはちょうど教室にやってきたリナだった。


「お前一人なんて珍しいな。いつもなら二人で一旦俺たちの教室に来るだろうに」

「アスカは急ぎの用事があるみたいだったんだ……詳しいことは私も分からないが……メミはどこに行ったんだ?」

「メミはメダイ先生に呼び出されてる。少し時間がかかるかもって言ってたから、俺たちは先に研究室に行っておくか」


 そうして、帰る準備を終えると、「早く買ってきて!! あとちゃんと私を褒めたたえなさいよ!!」と駄々を捏ねるリコリスを引きずって、俺たちはアスカの研究室へと向かった。


 珍しくアスカの研究室の明かりはついていなかった。アスカの研究室は窓が小さい上、カーテンが閉まっているので、普段であればお手製の魔道具で部屋に明かりをつけている。

 でも、今日は部屋が暗い。それに妙に静かだ。


 アスカはどこかに出かけたのだろうか。


「アスカー? いるのかー?」


 と暗い部屋の中をゆっくり進んでいく。

 すると、一番奥の部屋に明かりが灯っていた。モニターの明かりがほのかに部屋を照らしていた。


 ツインテールの彼女はモニターを見ているのか、背を向けたまま立っていた。


「いるじゃねぇか。いるのなら、返事してくれよ……出かけたと思っ―――」

「動かないで」


 俺が一歩踏み出した瞬間、振り向くアスカ。

 彼女に手には一丁の拳銃。少女が持つには随分と厳つい拳銃だった。


「ア、スカ……? お前は何を……」


 アスカは質問に答えない。微動だにせず、ハイライトが消えた静かな瞳で俺を睨む。

 後ろからやってきたリコリスたちも、察したのか凍り付いた空気に黙り込んだ。


「―――あんたたち、どういうつもり?」


 冷酷な声だった。銃口の照準をずらすことなく、俺に向いたまま、アスカはゆっくり進み、近づいてくる。


「ねぇ……あたし、あんたたちに言ったはずよ。あたしは魔王を倒すためにいるって」


 いつものふざけた様子もない。

 怒りを爆発させた様子もない。

 ただただ静かだった。

 金色の前髪から覗く深緑の双眸が俺を鋭く刺していた。


「リコリスの冗談だと思っていたけど、違ったようね」


 アスカは背に隠していたもう一つの手を出すと、持っていたそれを投げ捨てる。

 地面を転がり、俺の靴先に当たり止まったそれ。


 それは―――七星祭で騒ぎになったリコリスの角。


「それ、なんで、お前が……」

「あんたの部屋から拝借したわ。厳密にはリコリスに持ってきてもらったんだけど」

「…………」


 ちらりと横を見る。

 この悪魔女、分かりやすく目を逸らして口笛を吹いてやがる。腹立つ顔だ……クソッ。


「ほ~ら~? 私の角をちゃんと調べてもらおうと思って~? 強度とか気になるじゃない?」

「ええ、それも調べさせてもらったわ。あと悪魔の角かどうかもね。これは本物のだったわ」

「お前……本物の悪魔の角を知ってるのかよ?」

「ええ、一度は調べたことがあるから」


 抑揚なく淡々と答えるアスカの声。

 まるで死刑宣告を下すように、機械的で声は冷たい。


「ネルはリコリスが悪魔だってこと知っていたのでしょ?」

「…………知るも何も、リコリスは悪魔じゃない」

「私は正真正銘の悪魔よ!! ネルは嘘をつかないでちょうだい!!」

「…………コイツの言っていることは妄言だ。中二病の症状だ」

「そんな馬鹿げた話があたしに通じるとでも? 角だけじゃない。魔王軍幹部クローバーはリコリスを知っていた。それはなぜ?」

「…………昔、どこかで会ったことがあるからだろ?」

「あのクローバー、リコリスを『悪魔の兵器』って言ってたわ。悪魔とは関連があるのじゃないの?」

「知らねぇよ。そんなこと…………」


 なぜリコリスが『悪魔の兵器』と呼ばれるのかは俺だって知らない。

 教えてほしいぐらいだ。


「なぁ、アスカ。冗談は寄せよ。こんなのバカげて―――」

「遊びじゃないから。動かないで」


 俺が一歩踏み出すと、アスカは銃を前へ突き出し、俺たちに武器を意識させる。


 彼女の眼は鋭く俺たちを睨みつける。今にも発砲しそうなほど、アスカの身体は殺気で満ちていた。


 魔導銃でくるのなら、俺は…………。

 俺は腰にしまっていた杖を素早く取りだした。しかし、アスカは杖に少しだけ視線を向けただけで、動揺することはなかった。


 彼女の無表情は魔法など無意味と告げていた。


「あんたたちが魔法を展開しても無効化できるの」

「…………」

「たとえ、あんたたちが魔法を展開するよりも、銃弾があんたの胸を貫く方が早いわ。たとえ、相打ちで自分が死んでも、魔王と繋がる者を殺せるのなら、本望よ」

「…………」


 コイツはマジだ。

 アスカは本気で俺たちを殺そうとしている。


「あたしに嘘なんて通用しない。リコリスに生えた角は確かに悪魔である証。カチューシャなんかじゃない」


 すると、後ろにいたリナが俺の前に両手を広げて立つ。


「アスカ、落ち着いてくれ。ネルの言っていることは本当だと思うんだ」

「リナは黙って。あんたはネルに夢中だから、素直にコイツの言葉を信じるんでしょうけど、私は信じない。リコリスは悪魔よ」

「魔王と悪魔、リコリスは違うはずだ。リコリスは悪魔ではない。こんな馬鹿な悪魔がいるものか!」

「あ!! 今リナ私を馬鹿って言ったわね!」


 リコリスの反論を無視して、リナは優しくアスカに語り掛ける。


「なぁ、アスカ。一旦冷静になろう」

「…………あたしは冷静よ、リナ。リコリスは悪魔、悪魔は魔王と同類よ。関係のないあんたはどいて」


 アスカの忠告のリナは引き下がることなく。


「断る」


 と即答した。彼女は両手を限界まで広げ、必死に俺とリコリスをかばおうとする。


「じゃあ、リナもネルと一緒ね。あたしの敵だから、殺すわ」

「アスカッ!!」

「ネル、あなたが今何を言っても無駄。魔王に関連するものは全て私たちの敵だから」


 アスカは机にあったもう一丁の銃を取り、両手に銃を構える。彼女は一度に俺とリナを仕留めるのか気になのか、一丁は俺たちに、そしてもう一つの銃の照準をリコリスの眉間に合わせた。


「ラクリア、先生を呼ぶ前にこの人たちを殺してるから、今から走っても無駄よ」

「…………」


 先ほどから後ろで黙っていたラクリアに、アスカは淡々と告げる。サングラスに隠れて目は見えないものの、ごくりと唾をのんでいる様子に、ラクリアが焦っているのが分かった。


「残念だわ、ネル。あなたなら、魔王を倒せる素質があったのに」


 …………っ、この状況どうすればいい?


 リコリスの角であることは間違いない。

 アスカには分析されて、悪魔の角であることは知られてしまっている。

 俺はどうすれば説明すれば、アスカを止められる…………?


「魔王の力となるものはこの世から全て消すのがあたしの使命――――だから、あんたたちはさっさと死になさい」


 アスカがそう告げた瞬間、彼女の持つ銃にトリガーに指がかかり、そして、二つの銃声が響いた。

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