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はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~  作者: せんぽー
第4章 七星祭編

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第90話 またね、私の勇者様

 リコリスの角騒動があった後、俺たちは逃げるように舞台から降り、人少ない廊下を歩いていた。

 俺の数メートル前を歩くリコリス。この悪魔女は廊下に人がいないことが分かると、倒れたフリをやめて歩き出していた。


 悪魔女はいつになく静かだった。

 もう少しさっきのことで文句を言うと思ったのだが、リコリスは背を向け黙ったままだった。


 角を取られたのがそんなに惜しかったのだろうか。また裏世界に戻れば生えてくるだろうし、気にすることはないと思うのだが……。


 すると、リコリスは立ち止まり、くるりと振り返る。俺も足を止めた。


「おい、どうしたんだ? 急に立ち止まって」

「…………ねぇ、無理するのもうやめたら?」

「無理って?」

「私たちが寝ている間に何かあったのでしょ? 何かは全く知らないし、どうせネルことだからしょうもないことなんでしょうけど」

「ああ、そうだよ。どうせお前はフィー先生から聞くんだろ?」

「うん。それよりも、あんた無理するのはやめたら?」

「…………お前こそ」

「最近私は鍛えてたから、大丈夫よ。全然元気!」

「…………」

「ねぇ、もう二人しかいないんだし、本当に無理はやめたらどう?」

「…………」


 …………ああ。

 コイツなんでこういう時だけ勘が鋭いんだろうな。

 なんか悔しい気もするけれど……。


 もう限界だった。

 試合までに休みがあったから、何とか持ったけれども……リコリスの試合……というか騒動が終わるまで何とか持ったが、身体はボロボロ。あんなにあった魔力も底が見えていた。


「…………クソぉ……お前にだけはバレたくなかったな……」


 俺は膝から崩れ落ち、倒れこむ。

 しかし、地面に寝そべる前にリコリスが抱き留めてくれた。


「ふん、あんたとの付き合いが長いのは誰だと思ってるわけ?」

「メミだと思うぞ」

表世界(こっち)帰ってからの話よ。メミと比べないでよ。比較対象外よ」


 「そんなこと言うのなら、ふん……もう知らない」と言いつつ、運んでくれるリコリス。

 リコリスに運ばれるなんて恥ずかしいな。てか、俺はリコリスが運べる重さなのか。リコリスが怪力なのか、それとも俺が貧相な体をしているのか。


 …………後者だったら嫌だ。

 うん、もっと鍛えよう。男として恥ずかしい。


 お姫様抱っこをされているが、抵抗している力はない。気力もない。


 なんだろうな……この香り、温かみ。

 懐かしさを感じるのはなんでだろうな……。


「もうさっさと寝なさいよ、頑張ったんでしょ?」

「ん……あぁ…………そう、だな…………」」


 リコリスの声を合図に、力尽きた俺の意識は夢の中へと落ちていった。




 ★★★★★★★★


 


 ネルが倒れたと聞いたメミは一目散に兄がいる部屋へと走り出していた。リナにストップをかけられたが、じっとしておくことなどはできなかった。

 命に別状はなく、ただの疲労で倒れたと聞いている。でも、心配な物は心配。


「うふふっ……兄様の寝顔を……うふふっ」


 そう。見れるものは見ておきたいのがメミの信条。

 こんこんっとノックをするが、返答はない。兄はすやすやと眠っているのだろう。


「兄様、失礼しますね……」


 そして、メミがそっとドアを開けると。


「まぁ……」


 ベッドにはスヤスヤと眠るネル。服は決勝戦の時のまま。でも、布団は綺麗にかけられていた。目元にはクマを作っているが、兄は気持ちよさそうに眠っていた。

 そして、そのベッド脇には、足を組んで椅子に座るリコリスがいた。器用にも、その姿勢を保ち、腕を組んで眠っていた。


 リコリスがネルを運び、ベッドに寝かせていたのだろう。しかも、布団までかけてくれた。普段の彼女の行動から考えると、異常現象にも等しい。明日は金でも降ってくるのでは、とメミが思うほどだった。


「ありがとうございます、リコリスさん」


 メミはそっとリコリスの肩にブランケットをかける。先ほどの騒動があったものの、この七星祭の期間間違いなく彼女は頑張っていた。

 普段兄に迷惑ばかりかけているこの女だが、今日は兄を助けてくれたことに感謝したい。


 そして、少しだけ椅子に座ったリコリスを動かし、ベッドで静かに眠る兄へと近づく。


「兄様も何をしていたのかは知りませんが、お疲れ様です」


 そして、ちゃっかり兄の頬に口づけるメミなのであった。

 



 ★★★★★★★★




 リコリスの角騒動後、倒れた俺は何時間か眠り全回復した。

 しかし、七星祭はそのころには終わっており、後夜祭が行われていた。


 闘技場だけでなく、街全体がお祭り騒ぎ。道の両脇には屋台がずらりと並び、普段夜は閉まっているであろう店も客で溢れかえっていた。その中には学生の姿もあった。


 そんな喧騒から抜け出し、俺は初めて王都に来た日に、彼女と出会ったあの公園に来ていた。


 お祭り騒ぎであろう煌めく街を見下ろしながら、階段に座り込む。


 どんちゃん騒ぎをしている街から離れたこの公園は、心地よい静けさが広がっていた。明日にはいつもの日常。俺の愛する日常だ。

 

 七星祭はまともな競技大会だと思っていたのだが、全然そんなことはなかった。来年はもう少し落ち着いた七星祭であってほしい。


 一段と晴れて星々の輝きがよく見える。王都の星空もまた綺麗だった。

 さらりと流れる風の心地よさを感じながら、星空と明かりが灯る街を眺めていた。


「昼間もここの景色綺麗でしょ?」


 振り返ると、猫耳フードパーカー姿のカトリーナが立っていた。いつの間に来たのやら。


「カトリーナ、お前も疲れてこっちに来たのか?」

「うん。ネルもこっちにいるかなと思って」


 カトリーナは屋台で買ったであろうキッシュやタコヤキの袋を置き、俺の隣に腰を下ろす。


「ネルは明日帰るんだよね?」

「ああ、観光がまともにできていないのが惜しいがな」


 マッチャ・メガネ先生の新刊は読み終えていないことも惜しいが、本はいつだって読める。

 王都には転移で来れないことはないが、一人で来るのとイベントがあってみんなで来るのとはまた違う。


「また来年も七星祭がある、よ。その時、一緒に観光しよ?」

「ああ。お前もゼルコバ来いよ」


 ゼルコバにだって王都は違う良さがある。森に囲まれているし、きっとカトリーナは過ごしやすいはずだ。

 すると、カトリーナは遠くの街を見つめながら、話し始めた。


「私、小さい頃、ゼルコバに行ったことがあるん、だ………」

「えっ、そうだったのか?」

「うん。本当に小さい頃なんだけど……お父様の知り合いのお屋敷に行ったんだけど、その近くに森があって……人もいないし、弟もはしゃいでたから、私も釣られて遊んでたん、だ……」


 昔から人の声が聞こえたと話していたし、やはりその頃から人がいない森の方が心地が良かったのか。


「でも、初級魔法しか習ってないし、剣もなかったし……何より怖くって、弟だけは逃がしたんだけど……私は逃げれなくって………」


 カトリーナは俺に顔を向けると、まん丸い瞳でじっと見つめた。静かで、でも強かに煌めく蛍石の瞳。


「死ぬなと思った瞬間、私の目の前にヒーローが現れたの」


 …………ああ、この瞳を俺は知ってる。


「ちっさい背中でそこまで強くはないけれど、でも、そのヒーロー……勇者は私を守るために、恐れながらも剣を振って戦ってくれ、た……私の傷を震える手で癒してくれた……」


 ………………。


「私たちを助けてくれてありがとう、ネル」

「…………」


 ああ…………今更だ。今更思い出した。

 なんだ、俺たちはこれが初めてじゃなかったんだ。ずっと昔に出会ってた。


 勇者になりたくないと思いながらも、放っておけなくって助けた女の子。


 俺も魔法技術もなければ、武術もろくに知らない。

 唯一ひたすら練習していた剣が手元にあったけれども、敵を倒すのは初めてだった。

 仕留めることができるのか、ちゃんと女の子を守れるか怖かった。


 でも、悩んでる暇はなかった。自分が動かなければ、女の子が殺されてしまう。

 傷つく誰かを見たくなかった。恐怖に襲われながらも俺は走り出し、剣を振り下ろした。


 無事倒せた後も、恐怖は消えなかった。怖かったけれど、女の子を安心させたい思いで、今にも吐き出しそうな不安をぐっと堪えて、女の子の傷を治した。震えているところを見られまいと、手はできる限り背に隠した。


 …………まぁ、手の震えは本人にバレていたようだが。


 そして、女の子をおぶって家に帰った。ボロボロになった女の子と血だらけの服になった俺を見て、親父たちが慌てふためき、死ぬほど心配されたのは覚えている。


「ああ……あの時の女の子が……お前だったのか……」

 

 そうか、俺はてっきりゼルコバの子かと勘違いしていた。見かけないと思っていたが、王都にいたんだな。

 あの時のカトリーナは囮となって、弟を逃がした上で戦ってたんだな……。


「元気に生きててよかったよ、カトリーナ。もう一人の……弟は元気にしてるのか?」

「うん、私以上に元気だよ。今は私の近くにはいないけど、楽しくやってるみたい」

「ん? 別の学園に通ってるのか?」

「うん、ゼルコバ学園だよ。ネルの話もよく聞いてる。マッチャ・メガネ先生の小説についてよく語り合ってるって」

「…………え? ちょっと待て。なぜマッチャ・メガネ先生の話を知ってる? ……おい、待て。弟の名前って……」


 カトリーナは「今ならネルの考えてることが分かるな」とふふっと笑う。


「うん、ネルの思ってる通りだよ。私の弟はゼルコバの1年生、ブレア・モーレンスだよ」

「————」

「これからも私の弟をよろしくね」


 月下に咲く花のように、微笑むカトリーナ。

 ああ…………コイツは俺のこと全部分かってて、あの日の夜話しかけてきたんだな。


「はぁ、まいったな」


 ブレアもブレアだ。

 アイツも兄弟に勇者がいると言っててくれれば分かったかもしれないのに……。

 まぁ、カトリーナが嫌がると思って言わなかったのだろうが……。


「ネル、また一緒に戦おうね」

「ああ。でももう魔王軍幹部は勘弁だ」

「じゃあ、次は魔王だね」

「それも勘弁してくれ」


 俺たちは持ってきた屋台の食べ物をつまみながら、星空の下で語り合う。

 後夜祭は深夜まで続き――――そして、次の日。

 

 昨日の街の騒がしさは消え、小鳥のさえずりがよく聞こえる静かな王都にそっと朝日が差し込む。

 王都からゼルコバまで距離があるため、俺たちは朝から馬車に乗り込んでいた。

 ガタゴトと馬車に体を揺らされ、脇にはまだ口を開け眠るリコリスと、疲れ果てていたメミたちが眠っている。


 街の間を通り、王都を囲む城塞の門を抜けた瞬間。


「またね、私の勇者様!!」


 声が聞こえ、ふと後ろを見る。


 女の子が手を振っていた。

 身体は小さいけれども、誰よりも強い心を持つ白銀の勇者。

 その勇者が泣きながら、手を振っていた。

 朝日に照らされた大粒の涙。それがぽたりぽたりと地面に落ちていく。


「また一緒に戦おうね!! ネル!!」


 散々振り回された七星祭だったが、でも、カトリーナといる時間は楽しかった。

 魔王軍幹部は懲り懲り。だが、次戦える日が来た時はまた一緒に――――。


「おう!! またな!!」


 そうして、泣きながらも笑い、大きく手を振るカトリーナに見送られ、俺たちはゼルコバへと帰っていった。

 これで第4章は終わりです。

 他の章よりも長いお話でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。

 次回から第5章迷宮攻略編です。よろしくお願いいたします。

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