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はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~  作者: せんぽー
第4章 七星祭編

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第86話 一人の人間として

「貴様、意外とちょこまかと動くのだなッ!!」

「あははっ!! お前こそ! ハエみたいに動きやがってよッ!!」


 ブランヴィリの攻撃をかわしながら、地面を蹴り、蝶のように宙を舞う。不思議と体は軽かった。アイツの回避は早いし、カウンターされるしで厄介だ。

 

 俺は天井を蹴り、地面をかけるブランヴィリを狙って落ちていく。


 先程まで怒りにまみれていたのに、今では高揚している。ほとばしる熱に全身が沸き上がる。

 まさか俺は戦いを楽しんでる? こんな状況下で?


 本来なら否定したい感情。だが、本心は強敵を前に心が躍っていた。

 寝不足なせいもあるだろうな。クソ、早く寝なければ…………。


 すると、ブランヴィリが俺を見て笑った。


「ハッ。貴様、戦いを楽しんでいるだろう?」

「まーさか! さっさとお前を倒して帰りてーよッ!!」


 永遠とコイツと殴り合っているわけにもいかないし…………さて、コイツの弱点はどこだ?

 

 どこを殴ってもダメ。頭も何発か入れたが、無表情のまま。魔法も効かない。

 だが、ブランヴィリの身体には違和感がある。どこの部分がと言われるが、回答に困るが…………ともかく、違和感があるのは確かだ。


 まさか存在自体が幻影だったりして? はは、まさかな?


「ほんとコイツ厄介だな……」


 前の勇者が苦戦し、封印に至った理由がなんとなく分かる気がする。


「なァ!! お前って弱点ないのかッ!!」

「ふっ、教えてもよいがッ!! 貴様が先に勇者の紋章を見せるのなら、教えてやろうッ!!」


 教えてもいいのかよ。

 まぁそれだけ勝つ自信があるということか。


「だーかーらッ!! 俺は勇者じゃねぇって言ってるだろッ!!」

「それがお前の作戦だというのは知っている。普通の人間として、魔王城に入り込み油断させたところを狙おうとしているのだろうッ!!」

「んなわけねぇだろッ!! だったら、俺の記事をさっさと消してもらってるぞ!!」

「アルカイドの勇者なら尚更ッ!! 見逃すわけにはいくものかッ!!」


 ブランヴィリとの戦闘をしている中、脳内に彼女の声が響いた。


『ネル、聞こえる?』

『カトリーナ? どうした?』

『ブランヴィリの思考は完全に読めるわけではないんだけど、気になったことがあって……』

『なんでもいい。言ってくれ』

『それが————』


 カトリーナの報告に俺は脳内で静かに耳を傾ける。

 その報告は、俺がなんとなく感じていた違和感が、確信へと近づいていく。


 攻撃を受けるうちに、抱いた違和感。

 気のせいだろと思いたくなるような小さなことだった。


 でも、カトリーナに言われて、その違和感が正しかったと分かった。

 

 魔人ブランヴィリには俺と同等かそれ以上の魔力を当然持っている。

 相当な魔力量を持っていても、圧を感じることはできる。が、魔力を持っているのと、魔術を発動しているのとでは感じ方が大きく異なる。


 魔力を持っているだけであれば、穏やかな大河、魔術の発動は大津波が押し寄せてくるように感じる。それを上手く隠す者もいるが、コイツからは――。


「なぁ、お前魔法を使ってないと思っていたけど」


 気にも留めないような魔力のざわつき。小さな波。些細なものだった。身体強化魔法だと思った。

 でも――――。


『ブランヴィリが心の中で『魔法を使っていればバレることはあるまい』って……言ってた……』


 カトリーナの報告がなければ、多分、俺は気づかないままで――――。


「お前、強化魔法以外の魔法を使ってるな?」


 男は笑った。正解とでも言いたげにせせら笑っていた。

 

「ハッ、まさか幻術の類のもんを使ってるとはな」


 コイツがそんな魔法を使ってるとは思っていなかったけど、でも、間違いない。

 コイツは何かを隠している(・・・・・・・・)

 だったら、その幻術を剝がしてやるしかない。


「なら、その幻術を解いてやるよッ!!」


 ラクリアの魔術同時展開を思い浮かべながら、何重にも重ね、拳を額に打ち込む。強固な幻術を割り、そして。

 パリンとブランヴィリの空間が派手に割れた。


「…………」

「…………お前……そうだよな。そうだった、お前は魔人だもんな」


 真の姿を見た。ほぼ姿は変わっていない。

 唯一変化したのは先程までなかった額の魔法石。

 額に埋め込まれた緋色の魔法石は怪しく光っていた。第三の目にも見えた。


 これがブランヴィリの弱点か。

 即刻、俺は再度バフを重ねた拳を額に打ち込み、魔法石を容赦なく壊した。

 パリンと綺麗な音をたてて割れた魔法石の破片が宙に舞う。


「貴様……貴様ッ!!」

「ハッ、これで死なねぇのかよ」

「死ぬわけなかろうがァッ!!」


 俺もブランヴィリも互いの腹に、足に、肩に、全身に重い拳と蹴りを入れ、

 いくら体を強化しても、骨折はしてしまうが……でも、痛みなんて忘れていた。ひたすらにブランヴィリを殴り、折られた骨を回復させていた。

 

 ああ…………こんな殴り合い、いつぶりだろう?

 レンとの喧嘩以来か?


 腕を振り、天井を蹴り、地を跳ねる。何度骨が折れようとも即座に回復魔法をかけ、治す。油断をすれば、ブランヴィリの姿を見失ってしまう速度。

 

 完全に意識はゾーンに入っていた。物事全てが遅く感じた。

 しかし、無限に近い魔力が徐々に減っていく。


「やはり貴様はアルカイドの勇者だ!! これで勇者でないはずがないッ!!」

「何度も言ってるが!! 俺は勇者じゃねぇし!勇者だとしても、勇者になんかなりたくねぇよ!! でも、でもなッ!!」


 額の魔石を割られ、魔人も限界に近いのか、足元がふらついている。動きが鈍い。

 こちらももうしんどい。魔力の底が見えてきている。

 でも、それでも、俺は————。


「ただの一人の人間として、お前を倒さなきゃいけないんだよ!!」


 この計画を実行した理由がどんなものであれ、多くの人間の楽しみを、努力を奪ったこいつは許せない。


 誰かの日常を壊すやつが許せない。


 知りうる全ての強化魔法を右手に重ね、腕を大きく振りかぶり、そして。


「ブランヴィリィィ————ッ!!」


 ブランヴィリの顎に一発入れる。今出せる限界まで力を出した全力の一発。魔人の顔はぐにゃりと歪み、身体は吹き飛んでいく。


「強化魔法を使ってい、る……とはい、え……さすがアルカイドの勇者だな」


 再度立ち上がるブランヴィリだが、もうまともな意識はなく、視線もくるくると回っていた。


「っ…………まだやるか?」

「…………」


 そして、ブランヴィリはパタリと倒れた。力尽きた。

 同時に俺も膝から崩れ落ち、地面に寝転がる。

 もう力なんてほぼ残ってないな……。


 まあ、でも、転移するぐらいなら…………まだ……。


 いつ起きるか分からないし、ブランヴィリの味方だってくるかもしれないと、残り少ない力で体を起こした時だった。


「く、ハッ! ネル、っ!!」


 なぜだ……。

 俺は、ブランヴィリを確かに……。


「甘いな……アルカイドの勇者よ……」

「なんで……お前……」


 ブランヴィリはもう動けないことは確認した。あとはティファニーに任せておけばいいと思った。

 だが、倒れたはずの魔人は両足で立っていた。彼の片手はカトリーナの首を絞めていた。


「カトリーナ!!」

「さすがにここまでやられると我も身が持たない。しばし休憩をさせてもらう。その間に、この小娘を借りよう。貴様はそこで大人しく待っているがいい」


 ブランヴィリの足元に暗黒の沼が現れ、ずぶずぶとブランヴィリを飲み込んでいく。


 まずい、まずいッ!!

 カトリーナが連れていかれる。

 正直、魔力を集める気力なんてない。でも、そんなことを言っている場合ではない。


 激痛が走る身体を気合で動かし、走る。視界は揺れるが、カトリーナを見失わない。真っすぐに彼女の元へ走る。


「カトリーナ!!!」

「っ、ネル……だいじょう、ぶ」

「大丈夫なわけないだろ! 俺が今————」


 沼の奥底へ引き込まれていくカトリーナに、俺は駆け抜け、手を伸ばす。届きそうだった。あと少しだけだった。

 指先がかすかに触れるだけで、彼女の手を掴むことはできず。


「ネルはだいじょう、ぶ……ネルは私、の————」

「カトリーナッ!!」


 俺の手は届かぬまま、にっこりと微笑んだカトリーナの体は闇に飲み込まれた。

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