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はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~  作者: せんぽー
第4章 七星祭編

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第85話 ああ!! もう限界だッ!!

 息ができない、空気を恐怖で覆いつくす圧倒的オーラ。正直、震えが止まらない。ちらりと隣のカトリーナを見る。口はがくがくと震え、目は瞬きすらしていなかった。


 クローバーも強者であったが、背後にいる相手は比較にもならない格上だ。怒っているのは間違いない。


 ――――どうする? どうする、俺?

 キトと話していたやつだよな?

 カトリーナとダッシュして逃げるか? テレポートするか?

 だが、相手の速さが分からない。どんなトラップが仕掛けられているか分からない。


「っ、クソ…………」

 

 拳に力が入りすぎて、爪が刺さり血がぽたぽたと落ちていく。

 でも、痛みを気にしている暇なんてない。


 もし、ここで逃げ切れたとしても、コイツはきっと同じことを繰り返す。

 …………俺はこのまま逃げてもいいのか?

 また、コイツらに街が襲われたら…………?


 俺はすぅと息を吸い込み、杖を握りしめる。


「ネル?」

「ごめん、カトリーナ」


 右足、左足とゆっくり一歩一歩動かし、俺は背後の男と向き合う。カトリーナの手はぎゅっと握ったまま、そして、彼女も強く握り返す。カトリーナの手は震えていた。


「あんたが誰だか知らないが、俺は勇者じゃねぇよ」


 ここは否定はしておかなければならない。魔王軍に目をつけられるのは面倒だ。

 でも、勇者でなくとも、ここは引けない。引いてはダメな気がする。

 

「フン、こうも簡単に壊されるとは……まだ氷には改善の余地があるようだな。チラワン、記録しておけ」

「了解デス☆」


 大男が指示をすると、小柄な女はさっとノートとデコデコなペンを取り出すと、メモを取り出した。


 本当にコイツらは何を調べているのか…………。


「それでお前は誰だ? 学生を捕まえて魔力を吸収するなんて何が目的だ」

「どうせ貴様は死ぬが……いいだろう、名を教えてやろう。我の名はブランヴィリ・ファレル、魔王軍幹部だ」

「なっ、…………」


 ブランヴィリ・ファレル————。


 大昔にあった勇者と魔王軍の大戦に関連する書物にあった名前だ。


 その時の魔王軍幹部は勇者によって倒されたのだが………そのうち、二人だけ討てなかった相手がいて、両者とも勇者たちに封印された。

 

 一人は封印されたままだが、もう一人は数年前に封印が解除されてしまい、行方不明。フィー先生によると今も捜索は続いているらしいが、長年手がかりはなかった。


 その者こそ、ブランヴィリ・ファレル————クローバー・スノードロップよりも強者とされる魔王軍幹部だ。


 戦う気ではあったが、ブランヴィリとなると話が変わってくる。

 なんせ情報がない。どんな戦い方をするやつか知らない。


「クソっ……こんなことなら、幹部のことをリコリスから全部聞いておくんだったな…………」


 場合によっては、俺とカトリーナだけでは相手にするのは難しいかもしれない。もう一人近接戦か、もしくは支援ができる勇者が欲しい。


 よりにもよって、双子先輩からもらった手鏡は部屋に置きっぱなしだ……だが、戻れば勇者たちがいる。

 コイツらに追跡魔法でも付与して、一旦撤退しよう。


 恐怖に囚われないように、俺は全身に流れる魔力に意識を集中させ、いつでも逃げれるように、静かに杖を構える。


「貴様こそ、勇者であろう。他の人間どもは起きなかったが、貴様は目を覚まし、さらには氷を壊した。それだけの力がありながら、勇者ではないとは言わせない」

「いやいや、俺アルカイドの勇者じゃないんで。預かってもらっていた子たちもお迎えできたので、それじゃあ俺は失礼します」

「待て、このままお前を見逃すわけにはいかん」

「いや、俺はもう用事がないんで帰ります。お世話になりました」


 ブランヴィリは足を踏み、ドスンっと地面が揺れる。地面には大きな割れ目が入っていた。


「…………服を脱げ」

「は?」

「早く服を脱げ」

「なんでだよ?」

「さっさと服を脱げ。でなければ、我が貴様の服を脱がすぞ」

「だから、なんでって言ってんだろ!?」


 すると、ブランヴィリはすぅーと深く息を吸い込み、そして。


「服を脱げェ————!!!」

「なんでおっさんの前で服を脱がなきゃいけないんだよォ————!!」


 ————もう我慢の限界だった。

 

 カトリーナがいたからこそ良かったものの、王女様にこき使われ、目立ちたくなかったけれど、同じ学生の死を無視することもできなかったから、ここにいる。


 でも、本当は普通に七星祭を楽しみたかったんだよ!


「だが! なぜ! この男に! 俺の裸を見せないといけないんだ!! ああ!! もう限界だッ!! 捜索で忙しすぎて、先生の新刊はろくに読めてないし! 今日は睡眠時間が短かったから、眠たいし!! それもこれも全部お前のせいだからなッ!!」

 

 こんなめんどくさい事件が起こらなければ、もう少し落ち着いて七星祭を満喫できた。

 先生の新刊を3周はできた……もっと街を楽しく散策できた! 

 なのに、なのに…………ッ!!


 俺はビシッとブランヴィリに力強く指をさす。


「魔力量の多い学生から魔力を吸い取って何を企んでいたのかは知らねぇが! 散々俺の日常を邪魔してくれたんだ! ただじゃあおかないッ! お前が魔王軍幹部だとか、封印されてた奴だとか、もうどうだっていい!! 考えるのはやめだッ!」

「ね、ネル落ち着いて………」

「落ち着いていられるもんかッ! カトリーナだって、観光時間を減らされて苛立ってただろ!!」

「ううん、私はネルといられたから…………あ、うん! 私も……もっとネルと一緒に観光したかった、なぁ~」

「そうだろ! 前の勇者さんは手加減してもらって封印してもらったんだろうがな! 俺は容赦ないからな!」


 ブランヴィリ・ヴァレルは勇者が勝ちきれず、結果封印という手段を取るほど、強大な敵だ。こちらにはろくな情報もない。


 ――――だが、それがなんだ?

 

 強かろうか、もうどうだっていい。

 倒させろ。発散させろ。


 ストレスMAXで思考がまともじゃないことは分かっている。

 が、一旦離脱して戦力を集める気はない。もう味方を呼ぶ気もない。


 俺が正面から戦う。どの道コイツは倒さなければならない。


 それに、だ。

 捕まっていた子たちを思うと、一発殴っておきたかった。


 人によっては七星祭で名前を上げて、就職を有利する子だっていたはずだ。学園内での戦いを勝ち抜いてきて、結果が出せませんでした、なんて悔しさしか残らない。

 あの子たちの分の一発、そして、俺のストレス発散として数十発殴っておきたかった。


「俺は勇者じゃない。だけど、お前は許せない。人の楽しみを奪う奴は許さない」

「ほう、我と戦う気か?」

「ああ」


 全身に駆け巡る魔力。今までで一番というほど魔力が沸き上がってくる。無風だったこの場所に、風が巻きあがり、俺の髪をなびかせる。


 ブランヴィリのオーラは、少しでも油断すれば息ができなくなりそうだったが、今はそれがない。


「我が勇者に倒されなかった理由が分かるか? 新星勇者よ」

「…………知らねぇな。知る必要ももうないな」


 どんな理由があろうとも、俺は倒す。

 他の勇者が倒せなかったとしても、俺はどこまででも追いかけて倒す。


「圧倒的な力だ」


 一歩踏み出すブランヴィリ。一瞬にして目の前に飛び、その拳が俺の腹に入る。ボキボキと嫌な音が胸に響き、吹き飛ばされた。


「かはっ…………」

「ネル!」


 吐き出した血が地面に広がっていく。さらに激痛が腹に襲ってくる。

 すぐさま回復魔法をかけ、状態を立て直す。


 …………馬鹿だ、油断した。


 華奢なカトリーナがこの拳を受ければ、即死だろう。

 

「ハッ、魔法じゃないのかよ…………」


 魔王軍幹部にはほとんど得意とする魔法を持っていた。変態幹部ことライナスは空間を構築する古代魔法、クローバーは闇魔法を得意としていた。


 てっきりコイツも魔法を使ってくると思っていたのだが…………。


「魔法も使えるが、やはり物理には叶わんのでな」

「さすが魔人様だな」


 弱体魔法をかけたが、気にする様子も、動揺もない。

 ああ、いや…………コイツは魔法を全て吸収するのか。


 殴られて何本か骨が折れたが、回復魔法で全て治した。まさかこの魔法を使うとは思わなかったが。


 俺は杖を腰にしまい、両手に拳を作り構える。

 杖がなくとも魔法は使えるし、コイツ相手では攻撃魔法は効かない。


 ならば、こちらも物理で向かう。


 ブランヴィリは時間を奪った。俺たちが動かなければ、より多くの参加者や観客たちに恐怖を与えて、七星祭どころではなかった。


 ああ…………ほんと平穏を崩すやつは本当に許せないな。


 魔王軍と人間の戦争がまだ終わっていないことは分かっている。いつか決着をつけなければならないこともわかってる。

 でも、それが今個人の平穏を崩していい理由にはならない。

 

 正直、国のお偉いさんたち、勇者たちで勝手にしてほしい所。

 俺を含め、生徒を巻き込んで欲しくない。


 相手に魔法が効かないのなら、ひたすら自分にかければいい。

 純粋な力では負けるのなら、強くなればいい。


 ありったけの魔法を自分にかけ、全身を強化する。自分が付与した魔法以外に、他のものも付与されたのを感じて、振り向く。カトリーナは両手を伸ばして、にこりと笑っていた。


「ネル、頑張って」

「ああ、ありがとう」


 カトリーナに感謝を伝えると、俺は魔人へと向き合う。

 駆け抜けるように血液が駆け回っているのを感じる。底から力が沸き上がってくる。


「さぁ、かかってこい。幹部さんよ」

「ほう。では容赦なくッ!!」


 俺の煽りに、ブランヴィリはふっと笑みをこぼし、力強い一歩を踏み出し、そして走り出した。

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