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はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~  作者: せんぽー
第5章 迷宮攻略編

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第106話 生まれてきてくれてありがとう

「な…………冗談だろ?」


 急に戦争って……しかも、こっちの魔王に宣戦布告するだけではなく、俺たち人間も巻き込んで戦争など冗談じゃない。


 大体、裏世界の奴らはどうやってこっちに来る? 

 何か手段があるのか?


 動揺する俺を一瞥し、アルビドゥスは鼻で笑った。


「こちらの魔王軍には陛下のお言葉を伝えたんだがな。みな、笑っていたな。きっとこちらの魔王も冗談だと笑っているだろうな」

「――――」


 冗談じゃないんだな。

 しかも、アルビドゥスの独断じゃない。

 恐らく裏世界の魔王が決めたこと…………。


「ま、ぁ今すぐ開戦するわけではない。貴様らに準備する時間はくれてやるさ」


 今すぐ、ではないか。

 その言葉に少し俺は安堵してしまう。


「それに、隊長だってこれまで頑張ってきたんだ。少し休みが長くてもいいだろうと僕は思っている」


 アルビドゥスは、遠くを見つめながら、小さく零す。

 声色は少しだけ優しかった。


 きっとアルビドゥスの本心だ。

 リコリスを連れ戻すといいつつ、ちゃんと心配しているんだな……。


 本当はちゃんと話せば分かるやつなんじゃ……。


「ま、せいぜい頑張れよ、人間」


 アルビドゥスはぶっきらぼうに言い捨てると、羽をはばたかせ、食事が置いている机の方へ飛んでいった。




 ★★★★★★★★




「兄様! 兄様の大好きな缶コーヒーもご用意していますよ! ご心配なさらずとも、1年分はご用意していますからね!」

「ありがとう。でも、そんなに飲めねぇよ」


 豪華な料理が置かれた机の隣には、シャンパンタワーならぬ、缶コーヒータワー。メミが頑張って缶コーヒーを買い集めたところ、余裕で一年分の缶コーヒーが集まった。


 好きだけど、そんなに毎日は飲めないぞ。

 でも、メミの気持ちはありがたい。


 さっきのアルビドゥスの言葉が引っ掛かる。

 でも、今はパーティーを楽しみたい。

 たくさんの人が準備してくれたし、遠くから来てくれたのだから。


 中庭を見渡せば、俺の友人たちが和気あいあいとした雰囲気で談笑している。

 上を見上げれば、先輩たちが戦っていて、最近飼うことになった聖獣もカトリーナを乗せて走り回っている。


 ……俺って友達が増えたんだな。


 強制退学をさせられるまで、俺は友達という友達がいなかった。

 でも、気づけば人に囲まれていた。いい人たちに、だ。


 それもこれも裏世界に行ったおかげ……つまりレンやリコリスのおかげで……。

 って、本当にあの悪魔女はどこに行ったのやら。


「ネル、どこへ行くんだ?」

「おう、リナ。ちょっと休憩でな」

「そうか。遠くに行くんじゃないぞ」

「俺は子どもじゃないんだぞ、大体ここは俺の家なんだぞ」


 すると、リナがふっと笑う。


「お前がふらっと消えていく時は厄介事に巻き込まれているから、つい……この前だって」

「はいはい、今回は大丈夫だよ。俺の実家でまた事件なんて起こされたひとたまりもねぇよ」


 勇者たちを出迎えるんだ。

 親父だって十分に警備を配置しているだろう。

 普段も警備が緩いわけではないしな。


 中庭を離れ、家の中を歩き回る。

 だが、どこにもリコリスの姿はなく、使用人に聞いても誰も見ていないという。


 全くどこに行ったのやら…………。


 歩き回り、門の近くに行くと、悪魔女の姿があった。


「リコリス、お前。何してんだ?」


 声をかけると、彼女の肩がびくっと震える。

 リコリスは素早く手に持っていた何かを背に隠し、振り向いた。

 

「ネル……」

「お前、こんなところで何してんだよ。お前ならパーティーには絶対参加して、大はしゃぎしてるのに、来ないし……って、その後ろに隠した物はなんだ? 変な物を拾ってきたのか?」

「へ、変なものじゃないわよ! こ、これは……」

「よし、変な物なんだな。じゃあ早く捨ててこい」

「す、捨てれるわけないでしょっ!?」


 涙目になって隠した物を守ろうとするリコリス。

 珍しく必死になっていた。

 

「じゃあ、見せろ」

「分かったわよ……」


 口を尖らせつつも、隠していた手を見せるリコリス。

 彼女が持っていたのは一つの缶コーヒーだった。


「缶コーヒーしかなかった……」

 

 リコリスは俯いて、小さな声でそう零す。

 まぁ、メミさんが買い占めていましたからね。

 

「誕生日プレゼントが缶コーヒーとか……」

「貰えるだけありがたいと思ってよ! はい!」 

「ん、あんがとさん」


 まぁリコリスがプレゼントを用意していたこと自体が奇跡だ。

 ありがたく貰って……。

 


 ――――と受け取った瞬間だった。


『はい、コーヒー』

『…………』

『そんな顔しないでよ。はい、早く受け取って』


 突如、頭の中に無理やり投影される見知らぬ映像。

 誰かの身体に乗り移ったような視点の景色だった。


 夕暮れの道。隣を歩く少女から、缶コーヒーを押し付けられる。

 なぜか靄がかかっており、少女の顔が見えない。

 以前のようなカフェオレではなく、ブラックコーヒーだった。


『あんたの好みはもう知ってる。だから、ちゃんとブラックを買ってきたわよ』

『さすがに学習してくれたか。ありがとうな』

『ふんっ、偉そうに。もっと感謝してよね』

『はいはい、ありがとー』

『もー』


 ザザザッ――――砂嵐の音が聞こえ、映像が変わる。


『もうやめろ……お前、痛いだろ?』

『嫌よ。私はやめない』

『もうやめてくれ』


 そう俺が懇願しても、彼女は聞いてくれない。


『お願い、私にもあんたを助けさせてよ――』


 正面に見えた黒髪の少女の背中。

 少女の先に白い光があり、大風が吹き、後ろに黒髪が大きくなびく。


 ちらりと俺に顔を向け、彼女は。


『少しぐらいは抗わせて――――』


 俺を見て安堵したような、でも切なそうな笑顔を浮かべていた。


 黒髪の彼女は背を向け光の中へ消えていく。

 背中が見えなくなっていく。

 眩しい真っ白な世界が包み込んでいく。


 彼女の手を離してはいけない。

 いけなかったのに――――。


「――――っは! りこ……!」


 一気に現実に戻された俺。

 目の前には目を丸めて不思議そうに俺を見るリコリスがいた。


「どうしたのよ? 急に叫んで……って、また泣いてるじゃない!? また嫌な事でも思い出したわけ?」

「いや、分からん……分からないけど……」


 勝手に涙が溢れだす。

 泣きたくもないのに、溢れ出してくる。


 レンのことを思い出した時とは違う。

 見えたその記憶は俺は知らない。

 これは……………誰の記憶だ?


「本当にどうしたの? 意識がどっか行ったと思えば、急に叫び出すし……あ、ついに壊れちゃった?」

「いや、壊れてなんかない。本当になんでもな、い…」


 するとリコリスがふっと笑い、ドヤ顔を見せてくる。


「あ、分かったわ。そんなに私の缶コーヒーに感激したのね。まぁ、無理もないわ。飼い主の私から高級品がもらえたんだもの、嬉しさのあまり泣いちゃったのね」

「ばか、これがどこの高級品だ」

「私が買ってきた時点でその缶コーヒーは高級品よ! 裏世界なら何十万ルリするのよ! そんなものをもらえるのよ! ふふっ、誇りなさいよ!」


 高級品なわけないだろ……絶対そこら辺の店で買ってきたような缶コーヒーだろうが。


 しかし、文句を言う元気もなく、少しめまいでふらついた俺は、木陰に移動し、座り込む。なぜかどっと疲れが出ていた。

 リコリスも隣に座り、そしてなぜか自分の太ももをパンパンと叩く。

 

「はい!」

「はい、ってなんだよ」

「誕生日パーティーは楽しんだんでしょうけど、あんた、疲れたんでしょ? おもちゃをちゃんと管理するのは私の役目よ。はい、寝て」

 

 全くもってリコリスらしくない。

 コイツが他人のことを気遣うなんて……本当にらしくない。誰だ?

 もしや、俺は今夢を見ているのだろうか。


 リコリスに頭を抑えられ、抗うこともできない俺は彼女の膝枕を借りる。


「なぁ……リコリス」

「なに?」

「お前のさ、紅蝶魔法?っていうのか? 今適当に命名したが……あれの使い方ってどうやるんだ?」


 調べても分からなかったリコリスの魔法。

 つい気になり、本人に聞いてみる。

 しかし、リコリスは横に首を振った。


「あれは使っちゃダメ」

「ん……なんでだよ」


 そう尋ねると、ぐっと黙り込むリコリス。

 いつもなら、わーきゃー騒ぎ出すところなのに……。


「あれはダメ。私にしか使えないのよ」

「……んだよそれ……思い込みじゃないのか?」

「思い込みじゃない。私にしか使えない」


 リコリスは空に片手を伸ばすと、手のひらから紅の蝶が生まれ、飛んでいく。

 少し飛んだ蝶は、さらりと消えていった。


「あんたには使えない。もちろん、他の人も使えない。使えるのは表世界でも裏世界でも私だけだから……だから、使うのはだけは絶対にやめて」


 いつになく真剣な顔だった。

 こつんと額をつけられ、紅の瞳で真っ直ぐ見つめるリコリス。

 茶化しているようには見えなかった。


「理由は教えてくれないのか?」

「…………」


 また黙り込むリコリス。

 きっと何かあるんだろうけれど……言えないんだな。今は。 


「……分かった。使わないよ。お前に教えてもらえないと、使い方なんて分からないしな」

「よしよし、いい子だわ。私のおもちゃ」

「……俺はお前のおもちゃじゃねぇよ」


 慰めるように優しく撫でてくるリコリス。機嫌がいいのかにこにこ笑っている。

 ……どうにも調子が狂う。

 コイツに身を委ねて、安心している俺はおかしくなったのだろうか。


「あんた、本当に疲れてるわ。ツッコミの歯切れが悪いわ」

「どこで判断してんだ、よ……」


 睡眠系の魔法だろうか、リコリスに頭を触れられ、一気に睡魔が強くなる。


「そんな魔法、いつ使えるように…………」


 意識が遠のいていく。

 リコリスがぽつりぽつりと何か話していたが、意識がぼっーとして聞き取れない。

 そして、眠りに落ちる瞬間、


「ネル、生まれてきてくれてありがとう」


 そんな声が聞こえた気がした。

これで、第5章は終了です!


 第5章は当初閑話的な章になる予定だったのですが……気づけば、がっつりリコリスの過去に触れていました。いつか出そうと思っていたモフモフノゼアンも登場しましたが、少しの活躍となったので、また次どこかでたくさん走って活躍するネルの相棒ノゼアンを出せたらなと思ってます!


 そして、今度はいよいよネルたちが楽しみにしていた、天空城塞都市ビローヴァへ向かいます! 次の章も楽しんでいただけたら嬉しいです!(*^-^*)


 次回閑話を挟み、第6章天空の姫君編を開始します。

 よろしくお願いします!

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