第105話 誕生日パーティー
「兄様、お待たせいたしました! 兄様、どうですか?」
「うん、綺麗だな。似合ってるよ」
「えへへ……ありがとうございます」
誕生日パーティーを前に、着替えた俺はホールへと向かうと、メミもドレスに着替え待っていた。
「兄様、私からの誕生日プレゼントです」
メミから箱を受け取る。その中には一つの万年筆が入っていた。
木目の美しい鳶色の万年筆だった。
「兄様は勉強なさる時、よくペンを使っていらっしゃいましたので、万年筆にしてみました。横には兄様の名前も掘っていただきました」
「すごいな……ありがとうな、メミ。大切に使うよ」
「こちらこそ、ありがとうございます。私、兄様の誕生日を祝えて幸せです。その……去年まではちゃんとお祝いがしていませんでしたから……」
ポンポンと頭を撫でてやると、メミはふにゃふにゃに頬を緩ませていた。
「これからの誕生日は楽しみにしていてくださいね! もちろん今からのパーティーも! 兄様の誕生日はいつだって盛大にしますから!」
「大勢で祝ってくれるのも嬉しいけど、家族だけ過ごすのも
「そうおっしゃるだろうと思い、夜は家族だけでゆっくり過ごせるように手配しております。そちらも楽しみにしてください!」
メミは決して頑張っている姿を見せないが、熱意から長期間準備していたことは伺えた。
きっとこれからのパーティーの準備だって頑張ったんだろうな。
人の多いパーティーは苦手としていたが、メミや親父たちが準備してくれたと思うと、楽しみだった。
「さぁ、兄様行きましょう。皆さんお待ちです」
「ああ」
メミの手を取り、外へと出る。
「今日の主役の登場だ!!」
晴天の下、庭には見知った人達で溢れていた。
従者たちが日々整えている完璧な芝生の上には、純白のクロスがかけられたテーブル。上には見ただけで食欲がそそられる料理たちが並んでいた。
「息子のためにお越しいただきありがとう! パーティーを楽しんでくれ!」
親父の雑な挨拶が始まり、パーティーが始まった。
主役の俺は、隅に移動する間もなく、挨拶をしに行ったり、途中捕まって世間話をし始めたりと一人でいる時間はなかった。
ただ今日来ている人たちは、話したこともないお貴族様たちではなく、俺が知っている人たちばかりで。
「ネルくん、私からの誕生日プレゼントだYO」
「あたしからはこれよ。この前のリコリスの宝石を飾れるでしょ?」
「お前の好きな菓子を作ってきた」
「おう! みんなありがとうな」
アスカは乗せたものをライトアップさせる宝石の台座で、
ラクリアは古そうな大杖、
リナはバスケットいっぱいに入った菓子の詰め合わせだった。
三人ともパーティーとあって、ドレス姿。
まぁ、ラクリアは変わらずサングラスをしたままだが。
「お前らもまともなプレゼントを贈れるんだな……」
「失礼ね。人の誕生日に不良品をあげるわけないでしょ」
料理にハマり、店を開けるぐらいにはラインナップが増えているリナ。俺の好みも理解してくれるので、菓子がプレゼントであるのは分かる。
アスカは便利なものを作ることもあれば、「それいつ使うんだ?」といった魔道具を作ることもある。でも、今回は俺が欲しかった物だった。
過去リコリスとの思い出である宝石――――あの魔法陣が描かれていた宝石だ。
それを飾れないかと悩んでいたので、台座は非常に嬉しい。
ラクリアのは――――絶対公爵令嬢の力を使ったな?
そうとしか思えん。
だって、俺最近見たもん。
これ、オークションに出ると騒がれ、記事にも載っていた大杖メイガスだもん。
流木のような先が曲がった杖。表面は艶やかであり、丁寧に保存されていたことが分かる。
また、杖先には魔力流速が最も早いとされる魔石マギがあった。
星空を映し出す宝石って魔石マギしかないし、この形の杖はメイガスしかない。
絶対金を積ませたか、公爵に強請ったとしか思えないな……。
「なぁ、ラクリア、これっていくら……」
「アハ☆ いくらなんだろうね~?」
うわ……これ絶対に答えてくれないやつだ。
展開速度が気になるけど、歴史的価値がある大杖を使うのは怖いな。
三人とも本当に意外と実用的だったり、俺の好みだったりとみんなのプレゼントは予想外だった。
「そういえば、リコリスは?」
「それが朝から姿を見かけてないんだYO」
「お前らも見てないのか。たくさん食べれると言ってここには来そうなんだがな……親父、リコリスは招待したんだよな?」
「もちろん。お前が拾ってきた大事なお嫁さん候補だ。誘わないはずがない」
「ちょ……誰が、いつ、アイツを嫁にすると言ったんだ?」
「お前、言ってただろう? ここに来る時に」
「言ってねぇーよ」
まぁ、気分屋な悪魔女のことだ。
そのうち来るだろう。
「ネル、誕生日おめでと、う」
「おう! カトリーナ! ありがとう!」
とことこと小さな体で駆け寄ってきた勇者の一人カトリーナ。
わざわざ王都オブトゥサから来てくれた。
「ネル先輩、お誕生日おめでとうございます」
彼女の後ろには、カトリーナの弟とは思えぬ体格のいい男子学生、ブレアがいた。
「これ、私からのプレゼン、ト。どーぞっ」
「来てくれただけでも嬉しいのに、プレゼントまで……本当にありがとうな!」
「どういたしまし、て…ネル、プレゼント開けてみて」
「これは……パジャマか?」
「うん、ネルがぐっすり眠れるように
「ハッ、あざといですね」
「なに? 人のプレゼントに文句でも言ってる、の?」
「いいえ、別に。でも、兄様は今のパジャマを非常に気に入られているので。ああ、そういえば今のは私が一か月前ほどにプレゼントしたものでしたね」
「じゃあ、もうお古は変えた方がいい、ね」
と静かだけど火花散るカトリーナとメミの言い合いが始まる。
逃げるように後ろに下がると。
「僕からもプレゼントです。ネル先輩!」
「おう、ありがとう」
と、ブレアからも茶色の封筒袋をもらった。
プレゼントにしては質素だった。
「この中って何が入ってるんだ?」
「見てからのお楽しみです。どうか自室に戻ってから見てください」
そんなこと言われたら、ここで開けたくなるじゃねぇか。
と、俺がプレゼントを開けようとすると。
「先輩、ストップ! ストップです!」
「なんだよ、気になるから開けようとしただけじゃねぇか」
すると、ブレアが俺の耳に口を寄せて小さく囁く。
「その中に、マッチャメガネ先生のサインが入ってるんです」
「ハッ!? ちょ、お前ッ!?」
「入手方法は秘密です。他の人に見られて騒がれてもいけないと思ったので、部屋で見てほしかったんです」
「そうだったのか……ありがとうな」
うわぁ……嬉しい。
人前に出てこないマッチャ・メガネ先生のサインをゲットしてくるとは……どうやって手に入れたんだろ、すごく教えてほしい。
「よう! ネル、誕生日おめでとさん!」
「僕らもプレゼントを持ってきたよ。
「カイ先輩、ヨウ先輩! ありがとうございます……って、これなんですか」
「歯磨きセットだ」
「え? なんで?」
「歯は大事にしろよ! ネル!」
最近虫歯にでもなったのだろうか。
本当に歯磨きセットだけを渡してきたカイ先輩とヨウ先輩。
しかも二人ともが渡してきたので歯磨きセット2個。
いや、嬉しいけど……ちょうど歯ブラシが古くなってたし……。
「というのは冗談で」
「もう一つプレゼントだ! 見てくれ、ネル!」
「…………」
バッと急に空へ手を向けるカイ先輩とヨウ先輩。
…………気づかなかった。
今の今まで気づかなかった。
いつの間に作ったのだろうか。
空を見上げれば、舞台のようなものがあった。
舞台と言っても、演劇の舞台ではなく闘技場。人工的に作られた小さな島が浮かんでいた。
「なんとなく分かるのですが、一応聞きますね……先輩、あれなんですか?」
「簡易闘技場だよ。ネルのために、そこのアスカさんに作ってもらったんだ」
「アスカ、お前いつの間に……」
「正式な依頼だったのよ。無茶難題だったけど、作るのは楽しませてもらったわ」
「戦いの場は完璧だぜ! 戦おう、ネル!」
カイ先輩は親指で闘技場を指し、ノリノリで誘ってくる。ヨウ先輩も乗り気なのか、うんうんと頷いていた。
先輩のプレゼントは戦闘に関連するものとは思っていたが、まさか闘技場を持ってくるとは。
「ネル、戦おう」
ヨウ先輩は優しくニコリと笑って誘う。
普段なら目立つことなんて嫌だが、今日は俺の誕生日。
今更目立つも何もない。
「ああ……でもな……はぁ、もう……」
先輩たちは、一風変わった手法で攻めてくる。
単純な力勝負なんて無理だ。
想像力を働かせて戦わないといけない。
「仕方ないですね。その勝負、受けて立ちましょう」
★★★★★★★★
「先輩ッ! もう勘弁してくださいッ! 俺は疲れましたよッ!」
「ネル! そんな事言って、まだいけるやろ!」
「全力はまだ出してくれていないみたい。僕からももう一戦お願いだ」
全く、この人達は疲れを知らないのだろうか?
もう一回、もう一回と、双子先輩は何度も試合に誘ってきた。俺の体力は有り余っているが、正直飽きた。
「仕方ないですね……これで最後ですよ!」
「おう!」
と、三回戦目。
…………結果、ギリギリ勝った。
連続の試合は疲れたけど、先輩の戦法も進化してて面白かった。
本当に勉強になるな……。
先輩たちはまだ戦い足りなかったのか、アスカとラクリアを相手に試合を始める。
アスカたちは負けるかもしれない…………。
と思っていたのは間違っていたようで、意外と先輩たちが押されていて、いい試合をしている。
先輩たちは連戦で疲れが見えるかなと思ったが、さすがは勇者。
カイ先輩は笑っていて、ヨウ先輩は涼しい顔で攻撃を躱している。
アスカとラクリアも相性がいいのか、動きやすそうだ。新たな発見だな。
その様子を、小休憩として俺はバルコニーに移動して見ていた。
「貴様の動きはほんとのろいな」
「そんなのろい奴に、妖精さんにされちゃったのがお前だけどな」
「…………チッ」
いつの間にやってきたアルビドゥス。
彼も一応パーティーに参加している身なので正装に着替えていた。
今のリコリスもアルビドゥスのことを覚えているのか、彼を捕まえて、二人でだけで話し、結局妖精姿で過ごすことになったんだっけな。
リコリスから角は一応隠してほしいといわれたので、アルビドゥスの角も隠してやったが。
ずっと飛んで疲れたのか、アルビドゥスは俺の肩に座り込む。
「お前は帰らなくていいのか? 帰りたいのなら、帰してやるけど?」
「今帰ったところで何にもならん。今回は失敗したが、任務はまだ遂行中だ」
「まだ諦めていなんだな」
「任務だからな。諦めることなどできるものか」
と、アルビドゥスは力強く、さも当たり前のことのように答える。
任務とはいえ、抜け出したリコリスをそんなに求めるのはなぜだろうか。
「なぁ、そっちの魔王はなんでそんなにリコリスを重要視しているんだ? 今のアイツは馬鹿だぞ? 魔法は使えるようになってきたとはいえ、暴走することもあるんだぞ。そんなのがいるのか?」
「貴様も聞いたことがあるだろう、隊長の二つ名を」
リコリスの二つ名ってあれだよな。
「…………『悪魔の兵器』」
「その名前を授けたのは他でもない――――陛下だ」
「!!」
てっきりリコリスの噂が元に流れでつけられた名かと思っていた。
魔王から呼び始めたのかよ。
魔王直属部隊の隊長だし、兄は魔王の側近だし、リコリスって魔王のお気に入りなのでは……。
「兵器を野放しにする馬鹿がどこにいる? いるはずがない。隊長は有能だ。だからこそ、指令が下った」
「…………」
「まぁ、今の隊長はお前を手放すわけにはいかないみたいだからな。初めての隊長の我儘だ。少しぐらいは見逃してやる。ま、戦争が始まるまでは陛下も許すだろう」
「今、お前なんて――――」
すると、アルビドゥスはにやりと笑う。
「おっと、貴様ら人間には知らせていないことだったな」
背筋が凍る。嫌な笑みだった。
「戦争が始まる――――こちらの魔王と貴様ら人間を巻き込んだ大戦争がな」




