第102話 ちゃんと謝れェッ!! クソ妖精ッ!!
「ハッ――――人間の貴様の考えが読めないとでも思ったか?」
爆発で床がなくなった今、身体は空中に投げ出され、落ちていく。
そして、近づく紫焔の槍。俺たちを目がけて飛んできていた。
「ここで死ね、人間――――」
だが、絶体絶命の中、俺の胸は意外にも落ち着いていた。
このまま落ちても、結局串刺しにされるだけ。
ならば――――。
「閃光神槍」
右手に握りしめた杖を振る。
かつての親友がよく使っていた光魔法の改良版。
星々の光以上に輝く白銀の槍。
その無数の槍が、紫の槍に向かって飛んでいく。
そして、白銀の槍先は紫焔の槍を両断し、爆発。
「星芒の守護」
爆発に巻き込まれないよう、バリアを張りなおす。
「ネル様、手伝います」
リコリスを始め、メミとラクリアも応戦し、紫焔の槍を対処していく。
そして、風魔法を応用し、俺たちはふわりと瓦礫の上に降り立った。
「これで全部槍は壊せたな……お前ら、大丈夫か?」
「はい、私は特に異常はございません」
「私も大丈夫だYO」
「兄様のおかげで助かりました! さすが兄様です! 本当に天才です!」
キラキラと目を輝かせるメミ。
そんなメミに対し、一人優雅に降りてきたアルビドゥスが鼻で笑った。
「ハッ、どこか天才だか、能無しの人間と変わらないだろう。その妹もキャンキャン吠えるだけの阿呆だが」
「ハァ? 今何と言いましたか? 妖精さん、もう一度言ってくださいな?」
「能無しの兄と犬面のアホな妹だ。うるさいから黙っていろ、人間」
「兄様を能無しの人間ですって? 兄様、今ならこいつをつぶしてもいいですよね? どうせこれからの魔法陣破壊にはいりませんし、さっさと消しておく方が得ですよね。そうですよね。では妖精さん、さようなら」
「おい、俺は何にも答えてないぞ、メミ」
顔を真っ赤かにさせたメミは。ふらふら飛んでいたアルビドゥスを鷲掴みにし、顔をグイと寄せる。
妖精さんを見下す、琥珀の瞳に映る怒りの炎。歯ぎしりまでしており、冷酷な怒りとはまた違う怖さがメミにあった。
「離せ人間! 貴様のようなアホが触ってもいい者ではないぞ!」
「ならば、先ほどの発言を撤回しなさいッ! 兄様は能無しなどではありませんッ! ちゃんと兄様に謝れェッ!! クソ妖精ッ!!」
「事実だろうが、人間! 俺に謝る必要などないッ!」
「どこか事実ですかッ! あなたの目は節穴ですかッ! その目玉をほじくり出して、新しい目玉でも入れなおしてあげましょうかッ!?」
と言い合いが止まらず、ハエのような声とメミの声が迷宮に響く。
おぉ……メミの怒号は怖いな。ガチギレするとあんな鬼の顔に……。
「ネル様、メミ様はいいのですか?」
「大丈夫だ。俺が許可しない限りはアルビドゥスを殺さないと思うぞ。それよりも、リコリス。お前は大丈夫だったか?」
「大丈夫とは?」
「いや、さっき……」
アルビドゥスに裏切られた瞬間、急に背中を押されて崖から落とされた時のような、困惑の目をしていた。
部下だし裏切られるなんて思ってもなかったみたいな……。
すると、リコリスは恭しく頭を下げる。
「ご安心ください。私には心配をおかけするような怪我はございません。爆発のこともございますので、急ぎましょう」
「お前がそういうのならいいが……じゃあ、魔法陣を見つけにいくぞ。またアルビドゥスが悪さをしても面倒くさいから、リコリスがアルビドゥスを捕まえておいてくれ」
「了解しました」
リコリスは手のひらよりも少し大きい鳥籠を作ると、暴れるアルビドゥスを入れこんだ。
「あ、あそこに階段があるみたいだYO」
暗闇が広がる中、ラクリアが指をさした先に進んでいくと、下へと繋がる階段を見つけた。
さっきの衝撃で段は崩れかけているな……怪我してもいけないし、直すか。
「よく見えたな」
「見えてはないYO。風で分かったんだYO」
「そういうことか。じゃあ、行くとするか……おい、メミ。いつまで喧嘩してんだ。まだ戦闘は終わってないぞ」
「ハッ、すみません!」
俺は土魔法で階段を直し、下へと降りていく。
そして、強化された魔物を倒し、階段を降り、それを繰り返していくうちに、開けた場所にたどり着いた。
自分の身長の数倍以上はあるその大扉。
そこにはこれまた厄介な魔法が刻まれていた。
「アルビドゥス、またここに魔法を仕掛けたな……」
「暗号魔法ですか」
「たぶんな。じゃあ、リコリス、頼む」
「了解しました――――紅新星弾」
直後、紅の弾が飛び、大扉を大破させる。
もちろん、道や天井が崩れないように修復魔法を俺がかけていた。
「なぁ、アルビドゥス。次は、もうちょいマシなトラップでも仕掛けてくれ」
「…………」
部下なのにリコリスを殺そうとしたことが、なんか気に食わなくって煽った。
アルビドゥスが文句を言ってくることはなく、鳥籠の中でチッと舌打ちし、そっぽを向いた。
今のは解読すれば開く魔法なんだろうが、面倒くさいから壊した。
正直、槍のトラップの方が良かった気がする。
するのなら、もうちょい頑張ってほしい。
大扉を壊した先には一本の橋が続いていた。橋から外れれば、底のない闇が広がっていた。落ちたらひとたまりもない。
橋は俺たちを導くように蒼の二つのラインが光っていた。
その先に目的の魔法陣が見えた。
「ここまで来て魔法陣がなかったら、と思ったが……あってよかったぜ」
「はい。では早速解除に入りましょう」
魔法陣となると、魔法陣を壊せば解除できる話ではない。
魔法陣解除で事故を起こした事例もあるから、解除には注意しないといけないんだよな……。
魔法陣の前に辿り着くと、俺はインカムで連絡を入れた。
「アスカ、魔法陣を見つけたぞ」
『分かったわ。どんな魔法陣か教えてくれる?』
俺はアスカに魔法陣の詳細を伝えながら、教えてもらった部位の順に消していく。
『それで解除できるわ』
最後の場所を杖でなぞり消していくと、アスカの言う通り、青白く光っていた魔法陣が端から消えていった。
「おぉ……すげぇ……本当に解除できたな。初めての魔法陣だろうによくわかったな」
『当たり前でしょ。そんなポンコツ魔法陣の解除なんて見なくてもできるわ』
その直後、ラスボスらしき竜が現れ、戦闘に入ったのだが。
「ハイッ! さぁ、私の出番ですッ! どうぞ皆さんは休んでいてください! あ、兄様は私の活躍を見てくださいねッ!」
と、メミが一人で走っていき、ラスボスを倒してしまった。
メミの目があまりにもマジで、途中には「フハハハハハッ!」と高笑い。
なんか…………すごく怖かった。
少々様子のおかしいメミがあっさり竜を倒すと、念のため全員で周囲を見て、他の魔法陣がないか隅々まで確認していった。
しかし、魔法陣を見つけることはなく。
「……この様子だと他はなさそうだ。俺たちは地上に戻る」
『分かったわ。あたしたちもそっちに行くわ』
俺は他の人に気づかれぬよう、見つけた宝石を回収した。
幸いにもラクリアとリコリスには気づかれていなかった。
「兄様、その宝石って……」
「…………」
途中でメミに話しかけられるが、俺は当然無視した。
「兄様、それ壊さなくって……」
「大丈夫、後でちゃんと壊すから」
「でも……」
そう言って、俺はメミに背を向け階段を上がっていく。
そうして、俺はリコリスたちと一緒に地上に戻った。
リコリスにかけられた呪い。
その呪いの魔法陣が刻まれた宝石を壊さぬまま――――。




