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開店準備03

「ここが、街の外…」


クリスの目の前には青々とどこまでも広がる草原がある。背後には街を取り囲む壁と門があり、その門から続く道が草原に一本、遥か遠くまで走っているようだ。

いつもは人の声や食べ物の匂いを運ぶ風も、ここでは清々しい草木と土の香りを運んでいる。クリスは胸いっぱいにその風を取り込もうと深呼吸をした。


「クリスさんは、街の外に出るのは初めてですか?」


そんなクリスを横目に、ディータがクスクスと笑いながら問いかけてくる。


「えぇっと、どうでしょう?覚えている限りでは、初めての景色です」


クリスは慎重にディータからの問いに答える。

クリスは2歳の頃、初めてこのクーリアの街に来た。おそらく一人でこの草原を超えて来たのだろう。だがどうやって街に入ったのか、どうやってこの広い草原を超えてきたのかは一切覚えていない。未来はその事を覚えているかもしれないが、その時の話しを未来とした事はない。

クリス自身、生まれた土地がどこであったかは覚えていないが、他の土地で生まれたという事実は誰かに言うつもりもなかった。

だから、クリスの生まれについて変に疑われないようにと言葉を選んだつもりだ。


「では、今日はあの丘を越えた先にある川辺までご案内しましょう」


クリスの答えに軽く頷きながらディータがそう言うと、斥候であるアルマンは先頭を歩き出した。それに続き、剣士のエーミエル、盾のダグノフ、そして魔法士のディータと本日のゲストであるところのクリスが歩みを進める。

普段街では冒険者らしいく動きやすそうではあるが比較的身軽な服を着ている彼らだが、今日はそれぞれが武器や防具を身につけており、普段と違った印象を受ける。


先頭を歩くアルマンは黒髪の短髪で、緑色の優しい瞳の印象も相まって普段はへにゃりとした印象の細身の青年だった。それが街から出た瞬間、緑の瞳を緊張感のある冷たい目に変貌させ、辺りを伺っているようだった。細い短剣を腰に下げ、さらに飛び道具としてスリングも使用するようだ。以前話しをした様子からすると、あの細身の服の中には毒やたちの悪い薬品の小瓶なども隠し持っているのだろう。


エーミエルは、金髪で青い瞳の美青年。ダグノフに次ぐ高身長で肩幅もしっかりとあり、逞しい印象がある。ただ、普段街では軽薄さを感じさせる表情とゆるい口ぶりからあまりモテている印象はない。しかし、今クリスの前を歩く彼は、その金色の髪によく似合う深い緑の鎧を身につけ、長剣を腰に下げている。確か、バスタードソードと言う両手でも片手でも扱えると言う剣だったはずだ。普段は軽薄そうに見えるその表情が、今は余裕を持った剣士のそれに見える。場所が変われば印象が変わる手本のようだった。


クリスの横を歩くディータは普段、青みのある長いストレートの髪を後ろで丁寧に束ね、商人のように折り目のついたシャツとズボンを履いている。だが今は白地に紺の模様が入ったゆったりとした魔法士用のローブをまとい、小ぶりなロッドをその手に携えている。普段から知的な印象ではあるが、今はそれに妖しさが加わり、なんとも艶のある大人の男性という雰囲気だった。


そしてクリスの少し前を歩くダグノフ。クリスが出会った時は、力一辺倒で細かいところは全く気にしない、そんな人間で、薄汚れた防具にサイズの合っていない衣服を身に付けていたような記憶がある。だが今はどうだろう、砂色の短髪は清潔感があり、防具も衣服もサイズの合った綺麗なものになっている。左の腕に取り付けられた盾までもが綺麗に磨かれているのは彼の冒険者としての成長が感じられるる。

髪と同じ砂色の瞳は精悍な眼差しで、そんなダグノフの横顔を見ると、頼りない兄がいつの間にか頼もしい兄に変身してしまったような、そんなふうに感じられた。

クリスはそのことを嬉しく思い皆と歩きながら微かに笑みを作る。


「歩くの、早くはないですか?クリスさん」

「はい、大丈夫です」

「川辺までは1時間ぐらいです。疲れたり足を痛めたら直ぐにおっしゃってくださいね」

「ありがとうございます」


面倒見のいいディータはクリスに声をかけてくれる。きっと、護衛の依頼を行う時もこのような気遣いを見せているのだろう。最近は指名依頼も増えてきたと聞く、この調子であればBランクに昇格するのも時間の問題だろう。



「さて、着きましたよ」

「わぁ、きれい…!」


なんとか1時間と少しの時間をかけて川辺へとやって来た。途中、よく依頼が出るという薬草や木の実の自生地や採取の仕方、よくダグノフが狩って来てくれていた角兎(ホーンラビット)などの生息地を教えてくれた。

体力が心もとないクリスの様子を伺いながら、普段よりも遅い歩みでここまで来てくれたのだろう。それを彼らは言葉にも態度にも表していないが、その気遣いにクリスは心から感謝していた。


(歩ききれたな、クリス。よくやったぞ!)

(ひゃー大変だった、これ帰りも歩くんだよね?)

(当たり前だろ?何?魔法使って空飛んで帰る?(ワクワク))

(えー、何言ってんの…)


クリスの頑張りを未来が褒める。クリスは辺りを見回し風景を楽しみながら未来に応えた。


「クリスちゃん、早速弁当食べようぜ!」

「こらエル、まだお昼前ですよ。

 クリスさん、この辺りをご案内します。ダグも来ますか?」

「あぁ、そうする」

「ははっ…ディータさん、ありがとうございます…」

「いえ、お安い御用ですよ。

 エル、アル、火でも起こしておいて下さいね。」


クリスは足腰の疲労から、出来ればエーミエルの意見を取り入れてお昼を食べたいと思ったのだが、ディータのグイグイと仕切る雰囲気に飲まれてしまう。

クリスはダグノフとディータに引率されながら川辺の地形や動植物の生息について丁寧な説明を受けるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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