開店準備02
それはクリスが旅立ちの日を数日後に控えたある日のこと。
「嫌だよ!そんなの危険なんじゃないの?」
「大丈夫だって、魔法なら私が手取り足取り教えてあげるから!」
「未来は魔法使ったことないでしょ?私の中にいるだけじゃない。怖いのは私なの!」
「何をおっしゃるクリスさん!私には想像力と言う素晴らしい能力があるのだよ、魔法なんてチョチョイのチョイだって」
「創…造力…(ゴクリ)」
いつになく激しいやり取りをしている二人であるが、始まりは未来がクリスに冒険者登録をしようと言ったのがきっかけだった。
旅立ちを迎えたらすぐに商人ギルドに登録するつもりではあったが、街の外に畑などの土地を持たず、知り合いもいないクリスでは商人ギルドの証明書だけでは頻繁に街の外に出る事ができないのだ。
しかし、街の外で広範囲の魔法の訓練をしたい未来はそれに納得できず、それならばと街や国を自由に行き来出来る冒険者ギルドの証明書を求めたのだ。
だが、冒険者ギルドに登録するのはクリス自身である。昔から戦う訓練などせずに、体力も他の子に比べて心もとないクリスは冒険者など危険が多そうなギルドに登録する事を嫌がったのだ。
「むむっ!創造力?
そうだね、良い事言うね、クリスは。
私は前世でも色々なものを作ってきた。そりゃあもう創造力の塊と言っても間違いじゃないね!
そしてそこに来てこの世界、魔力が溢れてるなんてまるで夢のような世界じゃないか!!
クリスの持つ魔力と、私の創造力もとい妄想力で、ビシバシ魔法使って楽しもーよー!」
クリスは眉をピクピクと震わせながら未来の勢いある台詞を聞く。なんだ結局は自分が楽しみたいだけじゃないか、それに私を付き合わせるなと思いつつも、どう説得したものかと考えを巡らせる。
「ほらほら、魔法でつよーい魔物とか狩ってさ、冒険者ランクもあげちゃおうぜ?
ダグノフたちに追いついて驚かすってどう?」
もう未来の中では話しが先の先に行ってしまっていて、クリスは追いつけなくなってしまっている。登録をするしないで揉めていたのに、どこまでランクを上げるかの話しをするなんてなんて気が早いのだろうか。
「ちょっと未来!なんでそんな話しになってるのよ?
私はまだ冒険者登録なんて認めてないからね?勝手な事言わないで!」
この辺りで止めておかないと、未来の中で話しがどこまで飛んで行ってしまうのか分かったものではないと考えたクリスは、一先ず釘を刺しておく。
ただ、普段は“この体はクリスのもの”だからと我が儘を言わずに、クリスに生き方を任せてくれている未来にはクリスも感謝していた。だから、どうにか出来ないものかとクリスなりに妥協点を探そうと頭を抱える。
「んー、私は冒険者のことを今まで調べてこなかったから、登録の条件とか、戦えないとダメだとか、よくわからないんだ。
だから、その辺りを調べてみてから登録するかしないか決めない?」
少し深い呼吸をしてから、クリス自身の熱も冷ますようにゆっくりと未来にそう告げる。
「おぉぉっ、それもそうだな。
それが良い!」
なんとか絞り出したクリスの考えは、どうやら未来にも受け入れてもらえたようだった。
◇
「クリス、冒険者になるのか?」
「いえ、冒険者になると街の外へ行くのが楽になりますよね?私は街の外でやりたい事があって…」
教会での旅立ちの挨拶を終え、ダグノフ達のパーティに囲まれながらクリスはしどろもどろで答える。
ついうっかりしてしまった自身の発言に早速後悔する。街の外でやりたい事について詳しく聞かれれば、そこは嘘をつかなければならない。この世話になっている人たちに嘘をつくのは、クリスの本望ではないのに。
「あぁ、そう言えばお婆様が言ってましたね。クリスさんは薬草取りに行くんでしたっけ?」
目が泳ぐクリスに対してディータが声を掛ける。どうやら彼の祖母であるヴィレリーから話しを聞いていたようだ。
確かにクリスは冒険者登録について調べる際、ヴィレリーに話しをした。そう言えばそこでは、薬草を取りに行きたいからだと嘘の理由を告げた覚えがある。
「そ、そうなんです!
ヴィレリーさんには薬草を取るのはまだ早いって言われたんですけど、出来れば早くから足を運んで森の作りを覚えたいなー…なんて」
ははっと誤魔化し笑いを付け加えながら、クリスはディータの発言に乗っかる。クリスはこっそりとダグノフ達の表情を伺うが、疑われているような視線はそこにはなかった。
「すぐにお願いしたいと言う訳ではないんです。
皆さんの空いている日に、街の近くの森を案内して欲しいと言いますか、ピクニックみたいな感じで草原とか川までの道とか教えていただけると嬉しいんですが…」
クリスは自分の言っていることが無茶ではないか、上目遣いで探るようにダグノフ達の表情を確認しながら発言する。
「クッ」
ダグノフはすぐに目を逸らしてそっぽを向いてしまった。もしかしたらクリスのお願いが受け入れられなかったのかもしれない。
クリスは「ダメなら良いんです」と慌てて両手を振り、笑顔を作って誤魔化そうとした。
もとより冒険者登録をしたいのはクリスではなくて未来なのだから、クリスはそこまで乗り気ではない。
「いえ、大丈夫ですよ」
「あぁ、良いぜ!ピクニックってことはお弁当持ってきてくれるの?」
ところが、ディータとエーミエルは了承の言葉をかけてくれた。さらにディータはダグノフを横目で見ながら「不甲斐ない」とこぼしていたが、クリスには聞こえなかった。
「い、良いんですか?」
「えぇ、クリスさんにはいつもお世話になってますからね。
ほら、ダグも。良いでしょう?」
「あ、あぁもちろんだ。ピクニックなら俺一人でも…」
「クリスちゃーん、お弁当なにー?」
「俺今流行りのケーキ食べたいなー」
反対派だと思っていたダグノフも了承してくれた事に、クリスは目を丸くして驚いた。それにかぶせるようにエーミエルとアルマンがお弁当について話しかける。どうやら、前に1度だけ振る舞ったクリスの手作り料理を気に入ってくれていたらしい。
クリスはその事が嬉しくて「じゃあ張り切って作りますね」と答え、森に案内してもらう日について日程を決めた。
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