開店準備01
GW明け初投稿です。
久しぶりで思うように筆が進まず、少し短くなってしまいました。
「女神の加護があらんことを」
司祭の言葉が胸に響く。
ついにこの日、クリスはこの教会から旅立つ事となる。
祭壇の背後にはめ込まれたガラスからは午前の柔らかな日差しが溢れ、まるでクリスともう一人の旅立つ男の子、ユタを祝福しているようであった。
クリスの背後ではシスターハンナが静かに立ち、神父とのやりとりを見守っている。さらにその後ろには、クリスにとっての弟妹達が心配そうな顔をして様子を伺っていた。
クリスとユタは先日の花祭りで弟妹達から送られた外套を身に付け、その外套の中には麻で出来たリュックを背負っている。そのリュックの中には数組の着替えと、この2年で貯めたお金が入っている。
「今までお世話になりました」
二人はシスターハンナに向き直り、挨拶を告げる。
シスターハンナは、優しい瞳で二人の顔をゆっくりを眺め、そして口を開く。
「えぇ。クリスさんとユタさん、お二人と過ごせた幸せな日々を、女神に感謝しています。
これからはそれぞれが違う道を生きることになります。幸せなことも、辛いことも同様にあなた方を待っていることでしょう。
幸せを感じたら、女神に感謝し身を引き締めなさい。辛く苦しいと感じたならば、ここへ来て祈りなさい。
私はあなた方の背をさすり、共に女神に祈る事しかできませんが、あなた方が辛い時、共に居たいと思う人がここに居ることを忘れないでください。」
優しい声音でそう紡がれた言葉は、クリスの瞳を潤ませる。厳しいシスターハンナではあったが、その分子供達への愛は人一倍強かった。その愛を改めて認識し、クリスは胸を詰まらせながら深く頷いた。
「クリスお姉ちゃん!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
そして子供達がクリスとユタの周りに集まる。口々に今までのお礼や、いつでも来てね、勉強もっと教えて欲しかったとそれぞれの言葉を告げてくる。クリスはその一つ一つに言葉を返し、ユタも同様に返事をしていた。
特にユタはこの後郊外に移り、そこで小麦栽培の農家で働くことになっている。なかなかクーリアの街中にあるこの教会には帰ってこれないだろうから、この時間を大切にしているようであった。
「クリス!」
教会を出て、クリスがこの後の場所に向かおうとしたところで声をかけられた。クリスは立ち止まり声の方を向く。
「ダグノフさん!
それに皆さん、お揃いでどうしたんですか?」
「今日が旅立ちの日だと伺っていたので、挨拶に来たのですよ。
クリスさんにはお世話になっていますからね、ちょっとしたはなむけの品をお持ちしました」
ダグノフ達パーティメンバーが揃い踏みで何事かと思えば、なんとクリスに贈り物があると言う。ディータの説明に目を丸くしたクリスに、ダグノフが包みを渡してきた。
「これだ、受け取ってくれ」
「これ、皆んなからだからな!ダグ一人からじゃねーぞ?」
ダグノフから贈り物を受け取りながら、エーミエルが補足する言葉を耳に入れる。
「クリスちゃんが使いそうなもの、俺とダグで選んだんだよ」
なんとプレゼントはダグノフとアルマンが選んでくれたらしい。こう言う贈り物は初めてなので少し照れてしまう。きっと顔が赤くなっていることだろう。
「ありがとうございます、大切にしますね。
これ、今開けてみても?」
クリスの問いに、皆が笑顔で頷く。ドキドキとしながら包みを開けば、そこには羊皮紙で飾られた本とペンとインクが入っていた。
羊皮紙は薄い茶色で染められており、そこに金色の鍵が付いていた。見覚えのある色合いに目を奪われて考えていると、アルマンがその答えを教えてくれる。
「この色、クリスちゃんの色だろ?見つけた時にこれだって思ったんだよね。
中は紙製で白紙なんだ。クリスちゃんは色々書き留めるためのノートを持っているって聞いたから、これもその仲間に加えてね」
アルマンの笑顔につられてクリスも破顔する。
「ッ!ありがとうございます!!大切に使いますね!!」
素敵な贈り物に喜び、深く頭を下げる。ダグノフ達パーティメンバーは笑顔でその例の言葉を受け取った。
「ところで、この後はどちらへ?
祖母からはしばらくは魔導具屋の手伝いをしながら魔導具作りをすると聞いたのですが」
「はい、ヴィレリーさんの魔導具屋は週3で働く予定です。それ以外の日は、ちょっと広めのアパートを借りたのでそこで魔導具作りをする予定です」
「それはクリスさんの部屋兼工房というところですね。では、本格的に魔導具を作り始めるクリスさんにこちらをどうぞ。私のお古で申し訳ありませんが」
クリスの今後の予定を確認したディータが、クリスに数冊の本を手渡す。それらは少し厚めで使い込まれた、魔法の本だった。
「え?これは…」
「私が学院で学んでいた時に使った教科書ですよ。
私は教科書を見てもこれ以上魔法を覚えられないですし、使える魔法も限られていますので。
クリスさんなら、少なからず役に立ててくれるでしょ?本は大切に役立ててくれる人が持つべきですからね」
魔法の本は貴重だし、特に学院で使うような専門的な本はこのクーリアの街の図書館では閲覧することができない。驚き言葉が続かないクリスに、ディータはウインクをして大切にしてくださいねと受け取るように促した。
「一人で贈り物渡すの、抜け駆けだと思いまーす」
そうぼそりと呟くアルマンと驚愕の表情でこのやり取りを見つめるダグノフに、ディータは呆れたようにため息を吐き、そろそろお暇しましょうと退散を促した。
「あ、あの!」
しかし、さよならしようとしている四人にクリスが待ったの声を掛ける。
「ん?」
「どうしました?」
「あの、こんなにたくさん頂いたところに恐縮なんですが…お願いしたいことがありまして…」
そう言葉にしたクリスに四人は向き直り、どうぞと先を促す。
「私に冒険者登録の仕方と、街の外の案内をしてくれませんか?」
クリスの目の前には、ぽかんと間抜けな顔をした四人の冒険者の顔が並んでいた。
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