↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/38

始まりの街 18

「クリスちゃん、明日うちの手伝いに来ない?」


そう声をかけて来たのは同じ学校に通う一つ上の女の子、ルーシーだ。

クリスは、学校に通う前から兄姉たちが噂をしていたお陰で周りの大人たちから注目されていた。なんでも計算と読み書きができる女の子がいると評判で、休みになるとこうして子供を通して店の手伝いに誘われた。


「大丈夫です。明日も店番ですか?」


このルーシーから誘われる店の手伝いは既に何度か行っており、最近では店員に休みが出た時の補助要員として呼ばれる事が多くなった。初めの頃は商品を並べるとか、在庫を数えるとか裏方の仕事だった事を思うと、この数ヶ月で大分信用されたようだ。


「多分そうだと思うけど、新しい商品を並べるみたいだから、もしかしてそっちも手伝ってもらうことになるかも。」


ルーシーの家は日用品を扱う雑貨屋だ。今は春が終わり徐々に暑い日が多くなって来た、これから迎える本格的な夏に向けての商品を並べるのだろう。


「分かりました。朝の鐘からですか?」


仕事始まりの時間を確認して、話しを終える。

学校での授業終わりに行われるこの会話に、学校の先生であるアーク爺は働きすぎじゃないのかと鋭い目を向ける。ルーシーはムッとした顔をして、うちはそんなにひどい店じゃないと呟くが、クリスはそれに苦笑いを返す。

アーク爺のその苦言は、クリスが日々魔石への魔力供給を行っている事を知る彼なりの優しさなのだ。


「いらっしゃい、待ってたよ。」


ルーシーの父である店主がクリスを出迎える。この雑貨屋はルーシーの家族が経営しているのだが、日に1〜2人の従業員を雇っている。今日はその一人が故郷に帰っているらしくお休みなのだそうだ。

早速開店の準備と新しく並べられた商品の説明を受け、店番に立った。ルーシーは父親に連れられて倉庫の方で新しい商品の発注や管理について説明を受けている。ルーシーは2人姉妹の姉だから、後継として学ぶことが多いようだ。


「新しい商品は虫除けとか水筒かぁ、今年は暑くなるのかな。」


夏に向けて用意された商品はいくつかあったが、その中でもクリスの生活にも馴染みが深い2つの商品に目がいく。虫除けは教会でも焚いていたし、水筒は遠くに買い出しに行くシスターが持つ為に厨房に置いてあったのだ。

クリスは毎年夏の暑さに耐えきれず、よく聖堂の中でこっそり休んでいる。教会の子らに外で遊ぼうと誘われるが、いつも逃げ回ってはシスター達に呆れられていた。


「それなら今年はウィンドの魔法で乗り切るか?」


クリスにだけ聞こえる声で提案される。確かにその手もあるかもしれないが、シスターや子供達に不審がられるかもしれないので利用する機会はそこまで多くならないだろう。そう思うと、雑貨屋で手に入るようなものでいい商品がないかと探してしまう。


カランコローン


可愛い鈴の音が店内に響く。「いらっしゃいませ」とクリスは笑顔で入って来た客に対応する。


「あら、今日はクリスちゃんがお手伝いに来ているのね?」


笑顔でクリスに話しかけた年頃の女性は、少し離れたところにあるパン屋の看板娘カリーナだった。

しばらく店内を物色し、新しい商品のコーナーで足を止め、一つ一つ手に取っては偶に考え込むような仕草をする。


「何かお探しですか?」


そう尋ねたクリスに、カリーナは難しい顔で答えた。


「これから夏が来るでしょ?パン屋って夏の売り上げが落ちるのよ。

 それでね、こうして夏向けの商品を見ていいアイデア浮かばないかなーって思ったんだけど、難しそう。」


深いため息を吐くカリーナは本当に困っているようだ。それに対して、未来がなんとなしに話しに加わる。というか、独り言のように呟く。


「確かに夏にパンはキツイよなぁ、この世界のパンもさもさしてるし。

 一口サイズでしっとりしてたり、ガーリックトーストとかスパイシーな感じだったら食欲刺激されるんだけどな。」


ガーリックトーストならビールも合うよなーとかブツブツ聞こえるが、クリスはそれに反応してしまう。


「ガーリック…トースト?」


微かな呟きだったが、カリーナは聞き逃さない。


「ん?何かしら、ガーリックって聞こえたけど?」


クリスはしまったという顔をして、未来に説明を求める。やっちまったなと笑う未来は、快くガーリックトーストの説明をしてくれた。


「パンを、薄く切って…すりおろした、ガーリックを…混ぜた油を塗って、オーブンで…焼くんです。」


頭の中に浮かぶ未来の説明もといイメージを、たどたどしく言葉に直して伝える。側から見ると不審な喋り方だが、カリーナは真剣に聞いてくれた。ガーリックの香りが食欲をそそると思いますよと、未来の意見も添えておく。


「なるほど。パンを焼いてさらに加工するのね…」


パンはなんでもいいのかしらとか、油は動物性がいいのかとか、いろいろと聞かれたがそれについては未来の知る範囲でクリスがぎこちなく答える。全ての質問に答えられた訳ではないし、クリスの回答は言葉の足りない部分もあったが、彼女なりに納得したらしいく、やってみるわ!と明るい顔をして店を出て行った。

もちろん、帰る際には臭いの優しい虫除けですよと営業をかけ、虫除けを1つ買ってもらった。クリスの営業手腕である。


この日は午後の中頃まで働き、8ペーリのお駄賃を貰った。

教会にいる子達は、このくらいのお手伝いを月に4〜5回行ってお金を稼ぐ。2週間で50ペーリ稼ぐクリスの収入は破格と言えるだろう。しかも魔力供給はすぐに完了してしまう事を考えると、クリスは自分が少しズルをしている気分になるのだ。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。