始まりの街 16
クリスはついにこの日、図書館に来る事が出来た。
お手伝いを始めてからあまりにも直ぐに図書館へ行くと、シスターからどのくらいお金を稼いでいるのかと注意を受けるかもしれないと様子を見たのだ。実際にはいくら稼いでいようとシスターは何も言わないは思うのだが、魔力を使って簡単に稼げてしまっている現状に若干の後ろめたさを感じているのだ。
3回目の魔力供給を済ませ、お手伝いを始めた日から2ヶ月以上が経っており、クリスの全財産は150ペーリとなっていた。その中から図書館の入館料の20ペーリと、お小遣いとして5ペーリ余分に持って教会を出た。
図書館に行くことをシスターハンナに告げれば、それなら1日居られるようにとお昼ご飯用のサンドイッチをカゴに入れて持たせてくれた。何でも、図書館の中庭にはベンチがありそこで食事や休憩をとる人が多いのだと言う。
他の子供が外に出る時はこんな風にお昼ご飯を持たせるなんてしないのにと、クリスは焦ってしまった。
しかし、いつも頑張っているからそのご褒美ですよと言われて素直に受け取った。教会側からすれば、クリスが頑張っているおかげで最近ダグノフがよく来るので、そのお礼と言う感じだ。
「大きい…。」
クーリアの街の中でもお金持ちが住む区画に図書館がある。その中でも一回り大きいお屋敷がどうやら図書館のようだ。クリスを2人合わせても手が届かなさそうな高い門の前には2人の門番が立っており、その敷地内に入ろうとする者達を検めていた。
「図書館に入りたいのですが。」
クリスはおずおずと門番にそう尋ねた。ダグノフぐらいの大きい男性、しかも鎧を着て帯剣している人に声をかけるのは、何も悪いことをしていないはずなのに恐怖を感じる。
門番の一人がクリスを見る。クリスとしては最大限に体も服装も綺麗にして来たつもりだが、所詮は孤児だ。こんなお金持ちの住む区画ではクリスの格好は悪い意味で浮いている。格好だけで追い返されたらどうしようかと不安になる。
「図書館は1日20ペーリかかる。持っているか?」
門番はクリスに表情を変えずにそう尋ねた。この身なりを蔑むでもなく、子供の冷やかしだと憤ることもなく、淡々と尋ねる姿にクリスは少し安心する。
「はい、持って来ています。」
門番がその言葉を受けて頷くと、クリスを門の中に案内した。門の直ぐ内側にはちょっとした小屋があり、そこには受付らしい紳士がいる。
「図書館利用希望者だ。手続きを頼む。」
そう言って門番はクリスを紳士へと紹介し、門の前へ戻っていった。
紳士はまずクリスから20ペーリ受け取ると、番号の書かれた木札をクリスへと手渡し図書館利用の説明を始めた。
この木札はこの門を出るときにこの小屋にいる受付へと返すこと、番号で管理されているので、無くしたり持って帰れば罰則がある。そのために、今からこの用紙に名前や住んでいるところを書くこと。
図書館は館の一室にあるが看板が出ているのでよく読んで進むように、図書館内では静かに、本を探すときは係のものが部屋の入り口付近にいるので声をかけると手伝ってくれる、食事は敷地内の庭で食べても良いが、花壇や像に触らない、他の建物に入らない、など、様々な事が伝えられた。
クリスはその説明を神妙に聞き、ようやく図書館に向かう事が出来た。
◇
(つまり、魔力供給は3日もかかるって事?)
クリスは本を読みながら冷や汗をかいていた。図書館に入り直ぐに魔法に関する本の場所を係の人に尋ね、初めて魔法を使う人向けの本を紹介してもらった。
その中には、まずは魔力を感じようといった子供に向けた砕けた内容で、魔導具を動かすために魔力を込める、魔石に魔力を込める、風を起こしてみる、など恐らく簡単な魔力操作について書いてある章があり、その中の一節に、
「魔石への魔力供給は1日1時間を目安に、2〜3日かけて行います。」
とあったのだ。これは中くらいの魔石の事か?と初めは思ったのだが、よく考えればこれは初心者向けの本。そんな訳はないのだ。普通の人は、小さい魔石への魔力供給を2〜3日かけて行うと言う事をクリスは初めて知った。
だから10個の魔石を1ヶ月かけて供給すれば良いとヴィレリーは言ったのか。10個の魔石を翌日持っていくなどと言う暴挙に出なくて良かったと、今更ながらクリスは安堵した。
その本の中には他にも、1時間以上も魔力供給を行えば魔力切れになる。魔力切れの症状は体が怠くなり酷いと体が動かなくなるか最悪死ぬ可能性もあると書いてある。
では一瞬で魔力供給する自分はなんなのだと頭を抱えるが、さすが女神、良い体をくれたなと呑気な未来にこいつのせいかと毒づく。
(しかし勉強になるな。)
未来の言葉にクリスも同意する。魔法について知るにも役に立つのはもちろんの事、常識を知ることもできる。
未来が女神のプレゼントとして受け取った魔力の異常性を知るには、人に聞くよりもこうして本で調べた方が不審がられないだろう。
魔法を使うためには決められた呪文を詠唱する必要があるらしい。未来曰く、そんなの無くても魔法使えるように女神に交渉してあるとの話しだが、危なかった。何も知らずに無言で魔法を使ったら確実に怪しまれる。
そして、この本には生活魔法の呪文がいくつか載っていた。火をつけるための「ファイア」と、そよ風を起こして洗濯物を乾かしたり、涼をとる為の「ウィンド」、飲み水には適さないらしいが手を洗ったりするのに使える「ウォーター」。それぞれに2~3節ほどのちょっと恥ずかしいポエムがついていたが、これが呪文らしい。
この世界の魔法は女神への感謝を込めた呪文を詠唱することで使えるようで、例えば「ファイア」なら、
「女神の御心の温もりをこの現世にあらわせ ファイア」
となる。
いつか夢で見たあの美しい人が女神なのだろうが、その人の温もりって…、この言葉で魔法を使わせてる女神ってどういう神経してるんだろう…と思うと素直に詠唱するのは少し恥ずかしいと感じるクリスであった。
どうやらこの本には生活魔法までしか記載がなく、攻撃魔法や支援魔法については触れられる程度で詳しいことは書かれていなかった。
さらに本を何冊か読み、魔導具や錬金術についても簡単な知識を得る事が出来た。
クリスが中でも興味を引いたのは魔導具で、スクロールと言って紙や羊皮紙に魔法陣を書いたものや、木や金属で出来た道具に魔法陣を刻み、魔石をつけて魔力を動力とする魔導具など、様々なものがあるのだと知った。何より、本を読むたびにこれはヴィレリーの魔導具屋に置いてあったやつだと頭に浮かんできては身近なものに感じたのだ。
途中サンドイッチを食べ、再び図書館に籠って気がつけば係の人が閉館を呼びかける時間になっていた。あと一刻程で教会では夕食が始まってしまう。
クリスは急いで本を片付けて図書館を後にした。
お読みいただきありがとうございます。
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至らない点も多々ありますが、皆さんのおかげで楽しく書くことができています。




