始まりの街 13
「では、魔の適職から派生する職についてご説明しましょう。
まずは魔導師です。王城や貴族の元で戦闘員として働くことが多いですね。一定以上の魔力量を備え、攻撃魔法かもしくは治癒魔法が使える者のことです。
次に魔法士、これは魔導師の下位職と言う認識で結構です。攻撃魔法や治癒魔法は使えませんが、生活魔法や、魔石不要の魔導具が使えます。多くの者は貴族に雇われ、メイドや執事をしたりしますね。
ちなみに私はこの魔法士に当たります。」
クリスは真剣にディータの説明を聞いていた。魔の適職を持った人などクリスの周りにいなかったし、生活の上でも魔法関係のものに触れたことは無かった。
話しの一つ一つが新鮮だし、何よりもその内容にワクワクしていた。
「魔法士で冒険者になる者は少なくありません。全ての魔法士が人に仕えるのが得意というわけでは無いですしね。生活魔法であっても簡単な炎や風を起こせるので、モンスターを怯ませたりすることは可能です。
何より魔導具が使える事で野営や探索が楽になるので、冒険者達からは重宝されるのですよ。」
「じゃあアレはなんだ?この前俺にかけてくれた強化魔法って。」
魔導具じゃ無かったよな?攻撃魔法じゃないのか?と話しに割り込んでくるエーミエル。クリスにも気になる話題だ。
「あれは支援魔法というのです。
攻撃魔法は何もない空間に魔法で大きな事象を顕在させる事が難しいとされています。一方支援魔法は、すでにあるものを強化したり弱体化させたりする魔法です。なので魔力の少ない魔法士でも使用できるのです。」
そして、その支援魔法を覚えるためにディータは魔導書を読んで今も勉強を続けているのだという。
「その魔導書というのは私でも読めるんですか?」
クリスは素直に疑問を口にした。現在学園に在籍していないディータがこうして魔法を学んでいるのだ。クリスも同じように学べるかもしれない。
「えぇ、魔導書は魔導具屋に置いてあることが多いですね。
ただ、高額ですので滅多に購入はできません。私も8年近く冒険者を続けて、ようやく2冊の魔導書が買えたくらいです。」
ランクがCに上がってから2冊ですけどね、と苦笑しながら補足していた。そうか、魔導書はそんなに高いのかとクリスは眉間にしわを寄せて難しい顔をする。
そんなクリスの様子に、ふっと表情を和ませながらディータが声を掛ける。
「ただ、入門程度の簡単な魔導書、というか、魔法についての基本的な知識が書いてある教科書のようなものは、図書館でも読めますよ。」
なんていうことだ、朗報とはこのことだ。クリスは目を丸くして顔を綻ばせる。図書館は、このクーリアの街にも1件ある。領主様の館の離れに設けられ、庶民でも利用することが可能だ。ただし、1日当たり20ペーリ必要となる。
割高だが、将来働いて真面目に稼げば無理という金額でもない。クリスはニヤニヤが止まらない。
その後も、ディータは魔の適職についての話しをしてくれた。魔力を持っていると言うだけで就ける職は多いらしい。
「劇団やサーカスでは、華やかな演出ができると引く手数多だと聞きます。他にも、園芸や農業関係でも、通常より高いお金で雇ってもらえると聞きますよ。植物を育てるのに便利ですし、炎や風で虫や小動物を追い払えますからね。
魔法にもっと関わりたいなら、魔導具師か、錬金術師と言う選択もあります。これは魔法士の派生のようなものですが、魔導具師は道具を作る知識や魔法陣作成とといった知識が必要となりますし、錬金術師は魔法を利用して調合を行うために道具、素材、その調合といった様々な知識が必要となります。どちらの職も学院に通わないとなると、難しいかもしれません。」
なるほど、魔の適職というのはそんなにも職が選べるのか。与えられた情報にクリスは頭がふわふわしそうだ。だが、聴き逃すまいと食らいつく。きっとディータから見たクリスは、今にも突っ込んできそうなイノシシに見えただろう。
「私が知る限りでは、魔の適職から就ける職はこのくらいですかね。
王都や、もっと別の街に行けばまた違った道もあるかもしれませんが。」
ディータの説明は分かりやすく丁寧であった。クリスは素直に礼を告げる。
「丁寧に教えていただいてありがとうございます。
ところで、魔力を使ったことがないんですが、何かいい方法は知りませんか?」
そう、クリスは魔の適職を得たが、魔法など使ったことがないし見たことがない。本当に自分に使えるのか懐疑的であった。未来は、「私に体を預けてごらんよ、そうしたら使える体にしてあげるよ。」と下卑た声音でそう囁くのだが、なんだか怖いことになりそうでそれは了承出来ない。
「そういうことであれば、これはどうでしょう。」
ディータが懐から取り出したのは小石だった。少し濁りのある透明な石だ。クリスがそれを見て首を傾げていると、エーミエルが「魔石か?」と小さく呟く。
ディータはその声に「えぇ」と頷き、それをクリスに手渡した。
「魔の適職がある人は魔石に魔力を補給できるのです。教会では使っていないようですが、食堂や商店では魔石を使った魔導具を利用しているお店が多いのですよ。
魔石に魔力を供給できる量はその人の魔力量に依存しますが、その程度の魔石であれば誰でも供給できるでしょう。」
どうぞクリスさんもやってみてください。と魔力の込め方を説明する。手に持った魔石に体の暖かさを伝える、そんな抽象的な言葉にクリスは戸惑ったが、未来は「それ小説とかでよくあるやつー」とテンションを上げて、「じゃあイメージを伝えるね!」とクリスに熱を伝えるイメージを共有してきた。それは、胸から溢れる鼓動が一斉に手のひらに押し寄せる、そんなイメージだった。
「わぁ!」
未来からのイメージを受けた瞬間、クリスの手の中の魔石は熱を持って色付いていた。文字通り、色が付いていた。先ほどまで濁った透明な魔石が、鮮やかな紫になっていたのだ。
「ほお、これは。
クリスさんは魔法を使うのが得意そうですね。なかなか熱を伝えられず、初めての人は3日から1週間かかることもあると言われているんですよ。」
ディータが素直に感心していた。そして、それならこれをどうぞと1枚の紙を手渡してきた。
「それは魔導具屋の紹介状です。魔石への魔力供給ができる者は、それだけでお金が稼げるのですよ。
私が贔屓にしている魔導具屋で、偏屈なお年寄りがやっている小さなお店ですが、真面目な店主なのでクリスさんを騙したりするようなことはないでしょう。」
なんでも魔力供給はいいお小遣い稼ぎになるようで、学院に行って落ちこぼれて帰ってきた人であっても、魔力共有さえできれば家を持ち質素に3食食べるくらいには生活ができるらしい。すごいぞ魔の適職。
そして、クリスがお店選びに困らないようにとこうして事前に紹介状を書いてきてくれていたディータには頭があがらない。なんという面倒見の良さか。
「何から何まで、ありがとうございます!」
クリスは感謝してもしきれないという気持ちを込めて告げる。
「いいえ、私はきっかけを作っただけですから。
クリスさんの頑張りでこれからが始まるんですよ。」
応援していますからねと告げてくるディータはなんと神々しいのか。ディータはただ、年下にお節介を焼くのが大好きなだけなのだが。
「女神様の使いのようです。」
瞳を潤ませ、紹介状を握りしめてそう呟くクリスの姿に、ダグノフは危機感を感じて声をかけた。
「もう話しは終わったみたいだし、そろそろ帰ろうぜ。」
「そうだな、腹減ったし。」
後に続くエーミエルの言葉にダグノフはホッと救われた気分になる。教え子とのやりとりに水をさされたディータは少しムスッとしていたが、クリスもこの後昼食だろうと気遣って席を立つ。
そういえばアルマンは終始笑顔でクリスを見ていた。ダグノフはアルマンに胡乱な目を向ける。
「では、頑張ってくださいね」
そう言って教会を後にするディータと、他の面々にクリスは大きく手を振った。
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