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トランス・パレント・ストライク ―神宿る左腕ー  作者: のんぐら
やがて世界は怒りに満ちる
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やがて世界は怒りに満ちる(3)

 ~神聖デグラバオル帝国・国議の間~

「主卿閣下。南端の村で異変が」

 内政省内政卿のアラタが報告する。今日の国議は内政卿・軍務卿・国保卿・指導卿・そしてスレニア主卿の5人があつまり、瀟洒な長机を囲んで着席していた。

「なにがあった」

 齢65歳。その声音には鋼の意志が宿り、相対した者の内心を暴く。

「はっ。些末な問題ではありますが」

 そう前置きして、アラタはゆったりとした口調で切り出す。国議は必要なときに随時行われるが、今回のように全員集まらないことはよくある。むしろ、それぞれが割り振られた仕事をある程度の案件まで己の裁量でこなす分卿制により、主卿の持つ権限を分けている。

「我が帝国の兵士が数名、村人によって虐殺されたそうです」

「反逆か」

 デグラバオル帝国の樹立から40年。これまで小さな反逆の芽をいくつも潰してきた。いちいち相手をしている暇も惜しいが、潰さねば小さな芽がどれほど大きくうねり大木になるやもわからない。その得体のしれない恐怖は時代の国家首脳を苦しめた。つい5年ほど前、ようやく苦労して大陸を手に入れたというのに。もうその内側はひび割れている。

「反逆であるにはあるのですが、しかし…」

 アラタは言いよどんだ。これまで起こった反逆は小さなものでも数十人、もっとも大きかったものでも数千人による蜂起だった。国家転覆を図るには人数が多いに越したことはない。頭数を揃えて実行するのはいわば「革命の必須事項」である。1000年に及ぶアイシャ歴が歩んだ歴史のなかでも国家権力に対する挑戦は各地でたびたび起こっていたが、かならず指導者とそれに賛同する群衆という構図があった。

 だが。

「たった一人だったそうです」

 反逆は反逆である。だが、1人の血気盛んなものが暴れた結果に過ぎない。内政卿の報告に、軍務卿のシャハザが鼻で笑った。

「よくもまぁ、そんなことをこの国議の場に持ち込みましたな、アラタ卿。続きは午後のお茶の時間にしていただいても?」

 身長が2m近くあり、齢58を数える今尚前線に立ち剣を振るう豪傑であるシャハザは、その戦いぶりから「鋼鐵」と呼ばれ畏れられていた。デグラバオル帝国の覇道40年の歴史のすべてを戦った唯一の男である。その鋼鐵シャハザからすれば、たった1人が暴れた程度の出来事、新聞の隅の誤字以上に興味がなかった。

「シャハザ卿。この問題は我々内政省が数十年来抱える悩みの種、その最たるものなのです。ご理解いただけずともよいですが、己が剣を振るう事ばかり考えて周りを顧みず口から言葉を発してしまうのは謹んでいただけたら幸いにございますが」

 アラタとて負けてはいない。内政省に入省した21歳のころから40年、国家の安定した政治の為に尽力してきた。血迷って国議の場に出した案件ではない。

「スレニア卿。この40年の帝国の歩みの中で、英雄と呼ばれる者は幾人も現れました。そちらにおわすシャハザ卿もそのひとりに数えられましょう。今まで敵対する者にそのような力を持つ者が現れなかったことは単なる僥倖に過ぎなかったのかもしれません。私のこの懸念は杞憂に過ぎぬのやもしれません。しかし、それは今、どうやったところでわからないこと。で、あるならば、私は最善の一手として、反逆者の討伐を具申いたします」

 アラタが改めてスレニアに対し上申を申し出た。彼の言わんとすることはわかる。この先、1人の力ある者を求心力として大勢力に発展することを危惧している。バオル帝国時代、居酒屋で起こった諍いが数千人を巻き込む大抗争に拡大した歴史もある。アラタはそうした「英雄の存在」に対して非常に慎重になっていた。

「仮に」

 しばしの沈黙ののち、スレニアが口を開く。力のある、聞く者に首を縦に動かさせる独特の調子。

「その不逞の輩が1人だとした場合、その反逆のきっかけとはなんだろう」

 己の思考を垂れ流すような、独白のような内容だった。同席した者達は、ひとことも発すること無く耳を傾けていた。

「帝国に家族を殺されたとして、たったひとりで立ち上がれるだろうか。否。人間にそれほどの意志が宿ったとしても力が宿らぬ」

 スレニアという人間が生きた時間は、そのまま言葉に重みを乗せる。彼が思考の後にはじき出した答えは、帝国にとって軽視できない脅威であるというものだった。

「では、逆ならば?力を持った人間が、帝国に対する憎しみ、怒りを宿し、剣を手に取ったのだとしたら」

 報告にあがってきた帝国兵の状況は、剣による失血死が多かった。しかし、『殴られた衝撃で建物の2階部分にまで飛ばされ、全身の骨を折って死亡』という、ただの人間には決してできない芸当が記されていたのならば。

 同じ魔道を行く者として、スレニア・バオルフォグが放置しておくことなどできるはずがない。

「相手は魔術を行使する者だ。事件の詳細を調べ上げろ。トルアの村への人間の出入りを規制し、周辺地域への厳戒態勢を敷くのだ。帝国に牙を剥いたことを後悔させてやれ」

お読みいただいてありがとうございました。今回も少し短めです。

次回はリヒターにカメラが戻り、冒険が再開します。

いやぁおっかないですね、神聖デグラバオル帝国。ちなみに名前の由来はとくにありません。脳裏に浮かんだ音をそのまま文字にしました。検索してもなんにも引っかからない単語を生み出した瞬間の快感は癖になります。

ではまた。

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