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第21話 男の正体

挿絵(By みてみん)

病院を出た頃には、昼を少し過ぎていた。


葵は歩きながら何度もスマートフォンを開いていた。莉奈から連絡が来るはずはない。それでも画面を見るたび、何か変わっていないか確かめてしまう。


「写真ある?」


隣を歩いていた玲司が聞いた。


「何の?」


「莉奈の。顔が分かるやつ」


「あるけど」


葵は写真を探した。トー横にいた頃、何人かで撮ったものが残っている。その中に莉奈が一人で映っている写真もあった。


「これでいい?」


玲司が画面を見る。


「十分。まず、この子を知ってる奴を探す」


「どうやって?」


「写真見せて聞いて回る。お前、この辺にいる奴なら多少は顔分かるだろ」


「まあ、何人かは」


「じゃあ、その辺から当たってみよう」


玲司はそう言って、新宿の方へ歩き出した。


     *


トー横には昼でも人がいた。


夜ほどではないが、建物沿いに座ってスマートフォンを触っている若者が何人かいる。葵にも見覚えのある顔はあったが、莉奈と親しかったかどうかまでは分からない。


そもそも、この辺りにいる人間が全員友達なわけではない。同じ場所に何度もいれば、名前を知らなくても顔くらいは覚えるし、誰かと歩いているところだけ見たことがある、ということもある。


玲司は葵からスマートフォンを借り、近くにいた女へ画面を見せた。


「この子、知らない?」


女は写真を覗き込み、すぐに首を振った。


「知らない」


「見たこともない?」


「分かんない。似た子いっぱいいるし」


「そっか。ありがとう」


玲司はそれ以上食い下がらず、次の相手を探した。


二人組の女にも声をかけたが、一人は知らないと言い、もう一人も「見たことある気がする」と答えただけだった。


「最近見た?」


「そこまでは覚えてない」


「誰かと一緒だったとか」


「知らない」


それ以上の話は出てこなかった。


写真を見せながら何人かに聞いて回ったところで、ようやく一人の女が画面を見て手を止めた。


「あ、この子なら見たことある」


葵がすぐ横へ来る。


「莉奈って子」


「名前までは知らないけど、何回か見た」


「最近?」


「そんな前じゃないと思う」


玲司が聞く。


「一人だった?」


女は少し考えてから答えた。


「男と歩いてたことあるよ」


葵と玲司が顔を上げる。


「どんな男?」


「でかい人」


「でかい?」


「背、高かった。体もごつかったし。大学生って感じ」


「顔、覚えてる?」


「ちゃんとは。でも、見たら分かるかもしれない」


「名前は?」


「知らない」


「何してる人とかも?」


「そこまでは知らないよ。喋ったことないし」


分かったのはそこまでだった。


玲司は礼を言って、その場を離れた。


「背が高くて、がたいのいい男。あと学生かも」


 葵が言う。


「それだけじゃ無理だな」


「東京に何人いるんだろ」


「考えたくもねえ」


二人はまた歩き出した。


何人かに断られ、何人かから「見たことはある」とだけ聞きながら、さらに場所を移していく。


しばらくして、葵が一人の女を見つけて足を止めた。


「あの子、莉奈と喋ってたことあるかも」


「知ってんの?」


「顔だけ。前に何回か見た」


二人で近づき、今度は葵が先に声をかけた。


「ちょっといい?」


女が顔を上げる。


「何?」


「この子、知ってる?」


莉奈の写真を見せると、女の視線が画面の上で止まった。


「莉奈でしょ。何かあったの?」


「知り合い?」


「友達ってほどじゃないけど、何回か喋ったことある」


「最近、誰か男と会ってなかった?」


「男?」


「背高くて、体でかい奴」


「知らない」


女は首を振った。


玲司が聞き方を変える。


「莉奈が会ってた男の名前、何か聞いたことない?」


「名前……」


女は記憶を探るように少し考えた。


「大雅?」


「タイガ?」


「前にそんな名前聞いたことある」


「名字は?」


「そんなの知らないよ」


「どんな奴?」


「会ったことないから知らない。莉奈が何回か会ってたんじゃない?」


「大学生とか?」


「さあ、そこまでは分かんない」


「ほかは?」


「知らないって」


質問が続くのが面倒になったのか、女は視線を外して、手にしていたスマートフォンへ目を戻した。


「私、莉奈の全部知ってるわけじゃないし」


「そりゃそうだな」


玲司もそれ以上は聞かず、その場で自分のスマートフォンを取り出した。


葵が横から画面を覗く。


「今調べるの?」


「名前出たんだから調べるだろ」


「大雅だけで?」


「学生かもって情報もある」


「それでもいっぱいいそう」


「だから探すんだよ」


検索結果を見ていくと、同じ名前はいくらでも出てきた。大学の学生紹介や競技大会の記事、部活動の選手名簿に、まったく関係のない社会人まで混じっている。


「多すぎ」


「分かってる」


「これ?」


「年違う」


「こっちは?」


「高校生」


「じゃあこれ」


「勝手に押すな」


横から伸びてきた葵の指を避けながら、玲司は候補を一つずつ確認していった。


その途中で、大学スポーツの記事に目が止まる。


「……待て」


「何?」


開いたページには、アメリカンフットボール部の選手が何人か紹介されていた。


その中に大雅という名前がある。


桐生大雅。大学三年。ポジションはクォーターバックで、身長は百八十五センチ前後。プロフィール写真を見る限り、かなり体格もいい。


「条件は近いな」


葵も画面を見る。


「背高い」


「ああ」


「この人?」


「まだ分からん」


玲司は別の記事も確認した。


同じ顔が出てくる。最近の試合について書かれた記事では、ここ最近になって評価を上げ、頭角を現し始めている選手として名前が挙がっていた。


「最近、評価上がってるみたいだな」


「強いの?」


「俺にアメフトの上手い下手聞くな」


「じゃあ何が分かったの」


「最近になって頭角を現し始めてる選手、ってこと」


「へえ」


玲司は顔写真を保存した。


「さっきの女、まだいるかな」


     *


最初に大柄な男を見たと言った女は、まだ同じ場所にいた。


玲司が近づくと、少し面倒そうな顔をされる。


「また?」


「これだけ確認させて」


玲司は桐生大雅の顔写真を画面に出し、女へ見せた。


「莉奈と歩いてたの、この男?」


女は画面へ顔を近づけた。


「あ」


「分かる?」


「この人だと思う」


「間違いない?」


「絶対って言われると困るけど、たぶんこの人」


葵も改めて写真を見る。


別々の人間から拾った情報が、そこで一人につながった。


桐生大雅。大学三年。アメリカンフットボール部のクォーターバック。


「会いに行こう」


葵が言う。


「そう言うと思った」


     *


都内の大学へ着いたのは、夕方近くだった。


玲司と葵は、アメリカンフットボール部のグラウンドから少し離れた場所で待っていた。


「まだ?」


「知らねえよ。練習の終わる時間なんか書いてなかったんだから」


「聞けばよかったじゃん」


「誰にだよ」


「大学」


「『桐生大雅って何時に出てきますか』って電話するのか? 余計怪しいだろ」


「探偵なのに」


「便利屋兼な」


「弱そう」


「うるさい」


しばらくすると、グラウンドの方から何人かの学生が出てきた。大きなバッグを肩に掛けた男が多く、どれも普通の学生より体格がいい。


玲司は保存しておいた写真と顔を見比べていき、やがて一人を見つけた。


「いた」


「どれ」


「あそこ」


数人で歩いてくる男たちの中に、桐生大雅がいた。


写真で見るより大きく見える。周囲の部員も体格はいいが、その中でも背が高く、大きなバッグを片方の肩に掛けながら隣の男と笑っていた。


「ほんとにでかいね」


「殴るなよ」


「まだ何もしてないけど」


「先に言っとく」


二人は大雅たちが近づいてくるのを待った。


横を通り過ぎようとしたところで、玲司が声をかける。


「桐生大雅?」


大雅が足を止めた。


「そうだけど」


仲間たちも何となくこちらを見る。


玲司は少し近づき、周囲には聞こえない程度まで声を落とした。


「トー横のことで、ちょっと話聞きたいんだけど」


大雅の表情が変わった。


ほんの一瞬だったが、すぐに後ろの部員たちを振り返る。


「お前ら先行ってて」


「知り合い?」


「まあ。ちょっと話あるだけ」


仲間の一人が葵を見たが、大雅はすぐに遮った。


「いいから。あとで行く」


部員たちが離れていくのを見送ってから、大雅は玲司と葵へ向き直った。


「ここじゃなくて、ちょっとこっち」


自分から大学の建物の脇へ歩き出す。


葵と玲司も黙って後を追った。


グラウンドから少し離れ、人通りが減ったところで大雅が振り返る。


「なんだよ、お前ら」


さっきまで仲間といたときの軽さはなくなっていた。


玲司が聞く。


「小野寺莉奈、知ってる?」


大雅の目が止まった。


「……知ってるけど」


「どんな関係?」


「別に。何回か会ったことあるだけ」


「付き合ってた?」


「いや」


返事は早かった。


葵が大雅を見る。


「昨日も会った?」


「何でそんなこと聞くんだよ」


「会ったの?」


「……会ったよ」


玲司が続ける。


「莉奈、昨日ホテルから救急車で運ばれた」


大雅は黙ったまま二人を見た。


驚いた様子はない。


「今も意識戻ってない」


葵が言っても、大雅は一度視線を外しただけだった。


「……そうか」


葵の目が細くなる。


「驚かないんだ」


「それで、何が言いたいんだよ」


「何飲ませたの」


「俺は何も飲ませてねえよ」


大雅の返事は早かった。


「あいつが自分で持ってたのを、自分で飲んだんだ」


「何を?」


「知らねえよ。薬みたいなの」


「知らない薬を飲んでるのは見てたんだ」


「何か飲んでたってだけだ。中身まで知るかよ」


葵が一歩、大雅との距離を詰めた。


「莉奈のスマホに、『いいの入ったんだけど、一緒にやらない?』ってメッセージ来てたんだけど」


大雅の表情が止まった。


「俺じゃねえよ」


「誰からって言ってないけど」


すぐには返事が出なかった。


「……だから、俺じゃない」


「ふーん」


葵の声が低くなる。


玲司は黙ったまま大雅を見ていたが、少しして口を開いた。


「莉奈が目を覚ましたら、本人に聞けば分かる。今の話が本当かどうかもな」


「何だよ」


「別に。ただ、今ここで下手な嘘ついてんなら、あの子が起きた瞬間にバレるぞ。そのときになって話変えんなよ」


大雅は何も返さなかった。


しばらく沈黙が続いたあと、先に口を開いたのは大雅だった。


「……お前ら、何が目的なんだよ」


「目的?」


「警察でもないんだろ。だったら何なんだよ」


玲司は大雅を見る。


「俺らは、お前を追い詰めに来たわけじゃない。警察に突き出したいわけでもない。知りたいのは、その薬がどこから来たのかだけだ」


葵が横から玲司を見る。


「ちょっと」


玲司は構わず続けた。


「どこから手に入れた?」


大雅の顔に警戒が戻る。


「何でそんなこと知りたいんだよ」


「こっちにも事情がある」


「それじゃ分かんねえよ」


「分からなくていい。お前が薬を使ってようが、それ自体を追いかける気はない。どこから手に入れたか教えてくれ。それだけでいい」


「勝手に決めんなよ」


葵が玲司の腕を掴んだ。


「何が?」


「私はこいつに莉奈の責任取らせたいんだけど」


「それとこれは別だろ」


「別じゃない」


「今は出どころ聞く方が先だ」


「だから勝手に決めるなって言ってんの!」


声が大きくなり、玲司が顔をしかめる。


大雅は呆れたように二人を見ていた。


「何なんだよ、お前ら」


「こっちも分かんねえよ」


「……お前ら、自分でも分かってねえのかよ」


「うるせえな。今そこ揉めてんだよ」


玲司が苛立って返すと、葵がすぐに睨んだ。


「揉めてるんじゃなくて、あんたが勝手に決めてるの」


「話が進まねえだろ!」


「だからって私の分まで決めないでよ!」


玲司は一度額を押さえた。


「分かった。分かったから、ちょっと待て」


「何が分かったの」


「そこから説明させんな」


玲司は大雅へ向き直る。


「とにかく、出どころを教えてくれ。教えてくれたら、俺らはそれ以上お前を追わない」


「警察にも?」


「俺らからは言わない」


「信用できるかよ」


「だったら話さなくていい。ただし、莉奈が目を覚ましたら、お前が今言ったことが本当かどうかは分かる。それだけは覚えとけ」


大雅はしばらく黙っていた。


やがてポケットからスマートフォンを取り出し、画面を開く。


「……これ」


表示されたのは、Xのアカウントだった。


短い投稿がいくつか並んでいるが、玲司には普通の文章にしか見えない。


「何これ」


葵が横から覗く。


「隠語だよ。分かる奴には、薬のことだって分かるようになってる」


「ここから?」


「ああ。連絡すると、別のメッセージアプリに移される」


「そこでやり取りするのか」


「そう」


「相手は?」


「知らねえよ。名前も顔も知らない」


玲司はアカウントを自分のスマートフォンに記録した。


「これでいい」


大雅がスマートフォンをしまう。


「じゃあもう帰れよ」


「玲司」


葵が呼んだ。


嫌な予感がして振り返ると、葵はまだ大雅を見ていた。


「私、まだ終わってない」


「何だよ」


大雅が面倒そうに返す。


葵は一歩前へ出た。


「一発、殴らせてくんない?」


「……は?」


「腹。一発だけ」


 玲司が呆れたように息を吐く。


「お前なあ……」


「何」


「何でも暴力で――」


「一発だけって言ってるじゃん」


「そういう問題じゃねえ」


大雅は葵を見下ろした。身長差はかなりあり、体格も比べものにならない。


「お前、正気?」


「正気」


「何で俺が殴られなきゃいけねえんだよ」


「莉奈が今も病院で寝てるから」


「俺のせいじゃねえって言ってんだろ」


「だから賭けようよ」


「賭け?」


「私が一発殴って、あんたが倒れるか膝ついたら、莉奈の治療費払って」


「は?」


「倒れなかったら、私はもう何も言わない。この件であんたに関わらない」


大雅は本気で意味が分からないという顔をしたあと、助けを求めるように玲司を見る。


「こいつ正気か?」


「……まあ、こういう奴なんだよ」


「止めろよ」


「止めても聞かねえんだよ」


「玲司!」


「事実だろ」


葵に睨まれながらも、玲司は大雅へ視線を戻した。


「一発くらい付き合ってやってくれ。こいつ、このままじゃ帰らねえから」


「お前もおかしいだろ」


「最近よく言われる」


「誰にだよ」


「警察とか」


「余計嫌なんだけど」


大雅はしばらく葵を見ていた。


自分より頭一つ近く小さい。鍛えているようにも見えない。その相手に腹を一発殴られたところで、自分が倒れるとは思っていないらしい。


「……分かったよ。ただし腹な」


大雅は自分の腹を手で示す。


「ここ。一発だけ。素手で、変なの使うなよ」


「分かってる」


「それで俺が膝ついたら、治療費は考えてやる」


「考えるじゃなくて払え」


「分かった。払う」


「絶対ね」


「終わったら帰れよ。もう俺に絡むな」


「いいよ」


葵はバッグを玲司へ押しつけた。


「持ってて」


「本当にやるのかよ」


「今さら?」


玲司がバッグを受け取る。


葵は大雅へ向き直った。


大学へ来る前、葵は玲司に黙ってギアを使っていた。三錠あったはずの包みには、今は二錠しか残っていない。


すでに体の感覚は普段と違っていた。周囲の音が近く、大雅が息をするたびに動く肩や、わずかな重心の移り方まで、いつもよりはっきり見える。


そんなことを知るはずもない大雅は、少し足を開いて腹に力を入れた。


「来いよ」


葵がその正面に立つ。


玲司が横から声をかけた。


「葵。一発だからな」


「分かってる」


大雅はまだ余裕を崩さず、笑った。


「早くしろよ」


葵は一歩で間合いを詰めると、迷いなく拳を大雅の腹へ叩き込んだ。


「――っ!」


鈍い音とともに、大雅の顔から笑みが消えた。衝撃に押されるように二、三歩後ろへ下がり、腹を押さえながら踏みとどまろうとする。それでも耐えきれず、次の瞬間には右膝が地面についていた。


「おい……」


玲司も思わず声を漏らした。


葵は拳を下ろし、大雅を見る。


「膝ついたね」


大雅はすぐには返せなかった。腹を押さえたまま息を整え、ようやく顔を上げる。


「お前……何なんだよ」


「莉奈の治療費、よろしく」


「……クソ」


「約束したでしょ」


大雅は苦しそうに息をしながら立ち上がろうとしたが、視線だけは葵から外さなかった。殴られる前まであった余裕は、もう消えている。


「その体で……何だよ、今の」


「関係ないでしょ」


「関係あるだろ。俺が食らったんだぞ」


葵は答えなかった。玲司も説明するつもりはないらしく、そのやり取りを黙って見ている。


しばらくして大雅はようやく立ち上がったが、まだ腹を押さえていた。


「じゃあ帰ろ」


葵が言う。


「切り替え早いな、お前」


「だって終わったし」


玲司はバッグを葵へ返してから、大雅へ振り返った。


「桐生」


「何だよ」


「治療費、ちゃんと莉奈に払えよ」


「分かった」


「俺らにじゃねえぞ。あの子にだ」


「だから分かってるって」


「もし払わなかったら、そのときは本当に警察に話す。薬のことも、今日ここで聞いたことも全部な」


大雅の表情が険しくなる。


「……脅しかよ」


「約束守れば何もしない」


しばらく玲司を睨んでいた大雅は、やがて諦めたように目を逸らした。


「払うよ」


「ならいい」


二人は大雅を残し、大学の門へ向かって歩き出した。


しばらくして、葵が小さく言う。


「勝手に警察に言わないとか決めんなよ」


「まだ怒ってんのか」


「当たり前でしょ」


「お前も勝手に人殴る約束してただろ」


「あれは本人もいいって言ったじゃん」


「そういう問題じゃねえよ」


「でも膝ついた」


「……そうだな」


いつもより短い返事に、葵が横を見る。


「何?」


「何でもない」


玲司はそう答えただけだった。


莉奈はまだ病院にいて、意識も戻っていない。大雅の話がどこまで本当なのかも分からないが、少なくとも次へ進むための手掛かりは手に入った。


玲司は歩きながらスマートフォンを出し、さっき記録したXのアカウントを開いた。意味の分からない短い投稿が並んでいる。


「これが入口か」


葵も横から画面を見る。


「連絡する?」


「する」


「今?」


「今やって返ってくるとは限らないだろ」


「じゃあ早くして」


「お前、急かすなよ」


「早く出どころ知りたいんでしょ」


「そうだけど」


莉奈を意識不明にした可能性がある薬は、葵のバッグにもあと二錠残っている。警察がようやく現物を押さえたばかりのギアへつながる入口が、今は玲司のスマートフォンの中にあった。


「……次はこっちだな」


玲司が言うと、葵は何も返さず、画面に表示されたアカウントをじっと見ていた。

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