盲点
夜の11時過ぎるとライブの余韻は消えてアリーナ近辺はヒッソリする。ミー子達も誰も居なくなった一般道で横浜駅をめざして歩く…と思ったら、急にミー子が左に曲がった。
「どこ行くの?そんなにもう横浜駅遠くないよ?」平間くんが声を掛けるがミー子はズンズン進む。
「各停しか停まらないし横浜駅が近いから、ほとんど大型ライブの客は使わないけど、中規模ライブハウスが近くてライブ慣れしたりスタッフ経験ある人は使う穴場駅あるんだよ。」とヒッソリしたメトロの階段を降りる。
本当に人がいない。まるで近未来の人類が消えた世界みたいに人の気配がない。
「わあ〜声がこだまするよ。何?この駅…」平間くんがキョロキョロする。
「うん、オフィス街だから平日はそれなりに賑わうんだけどね、土日は本当に人気が消える駅なんだよ。
横浜駅から一駅だけど各停しか止まらないから、乗り換えてまで使う人も少ないんだよね。」完全なオフィス街なのでマンションもないエリアだ。生活感が全く無い。
「あのまま、まっすぐ行くと路面に張り出したコンビニあるから
やましい人はひるんで地下に降りると思うよ。」夜の暗がりでもコンビニは煌々(こうこう)と人の姿を照らす。地下の駅構内はムダに広いせいか?節電のためか薄暗い。ホームには、休日の11時過ぎなせいか2人しか人は居なかった。急行を何本か見送るとスカスカの電車がようやく止まり開いた。1分ほどで横浜駅だ。
隣の駅が嘘のような賑わいだ。そこから特急に乗り換えると30分で渋谷に着いた。
「めちゃくちゃ速いね。渋谷と横浜ってこんなに近かったんだ…と、これは?」駅から恵比寿方面へ歩くとそこには樹莉さんの事務所が入ったマンションがあった。
「東京と横浜は警察組織が違うのよ。行政区をまたぐと合同本部を作らないと自由には動けないの。
その中で見落とされる箇所が出てくるの。
小さい盲点とかね。
犯人はそんな事は知らないだろうけど、すぐ調べられるコンビニやアリーナ付近のカメラをうまく避けたと思うわ。横浜駅から都心へ向う乗り換え駅のカメラは確認したと思うけど横浜駅を過ぎた中華街で終点の方は帰る人も居ないから見てない可能性が高いの。
いや、絶対調べてない!
言っちゃ悪いけど、雑なのよ、ウチは。」ミー子が哀しそうな顔をする。
ミー子が見落とした部分を指摘して説明しても半分の警官はむくれて「細いんだよ!」と陰口叩くくらい。
公安なって1人行動になってストレスなくなって楽になったくらいだ。
ミー子は、みなとみらい署内に設置されてるだろう捜査本部のぺぺ君に電話を繋いで貰って新高島駅の構内カメラを確認して貰った。ライブ当日夜9時過ぎ、誰もいない改札前をゆっくり歩く樹莉の事務所の社長の姿が映っていた。
事務所タレントのオープニング動画を撮って防音室を出た後、発信機で確認しながら電車で渋谷から新高島駅へ。アリーナサイドのトイレとロッカーがある脇道で様子を伺い、発信機が動いた段階で中に滑り込んだ。外はもうかなり空いていたが、フロアはまだ人混みだ。発信機でそばに寄り身体を密着させて刺した。樹莉は抵抗しょうと手で押し返したがムダだった。
カバンを持って彼女から離れる。
かなり離れてから悲鳴が聞こえたが、無視して持ってきたスクレーパーで底鋲を剥がす。形は全部同じだが発信機の付いてる底鋲は安物なので爪で弾くと音が軽いのだ。
彼女が事務所でゲーム配信している間に取り付けたのだ。
刃物と底鋲は、会場目の前の運河に棄てた。手袋と上着は丸めてリュックに詰めて持ち帰り、翌日のゴミの日に出した。もう時間が経ちすぎている。
運河にダイバーが潜ったが見つかる訳もなく刃物も刀とかサバイバルナイフ(寿町南幸エリア近し)はあったが事務所キッチンの引き出しの長めのペティナイフなぞ見つからず。燃えるゴミはすでに焼却され、物証はない。
アリーナ内の人間の捜査に時間を取りすぎた。
勾留期間内の裏取りに警察は奔走している。
おかげで黄金騎士団の蟹座キャンサーの騎士の噂の濡れ衣は消えた。




