確信
会場が、いつになく暑い。
人の多さのせいだけじゃない。
胸の奥から、抑えきれない熱が込み上げてきて、身体の内側から滲み出してくる。
コウスケは、ピットに置いた小覇龍を見下ろした。
やれることは、すべてやった。
積み重ねてきた調整。
走らせ、外し、また組み直してきた時間。
そのすべてが、このマシンに詰まっている。
――今日は、行ける。
根拠のない自信ではない。
手の中にある確かな感触が、そう告げていた。
1ヒート目
スタートシグナルが鳴る。
小覇龍が、飛び出した。
直線で伸びる。
速度が落ちない。
そして、問題だったコーナーでも、マシンは一切グラつかない。
まるでレーンに吸い付くように、無駄なくラインをなぞっていく。
「速っ……」
どこかで誰かが息を呑む声がした。
視界にあるのは、ただ1台。
自分のマシンだけだ。
――これなら、いける。
ゴール。
結果は、ヒート内トップ。
掲示板にタイムが表示された瞬間、周囲がざわついた。
「スプリングカップ覇者か……」
「今回も優勝候補だな」
そんな言葉が、自然と漏れ聞こえてくる。
だがコウスケは、意識的にそれを遮断した。
評価よりも、称賛よりも、見るべきものは次にある。
2ヒート目
待機時間。
コウスケは小覇龍を手に取り、静かに目を閉じる。
思い浮かぶのは、あのマシン。
アバンテJr.
速さに憧れ、理想を追い、何度も壁にぶつかりながら、それでも前へ進ませてくれた存在。
――魂は、ここにある。
スタート。
小覇龍は、1ヒート目とはまた違う表情を見せた。
速さだけじゃない。
コーナーでの踏ん張り。
立ち上がりの鋭さ。
その一つひとつに、意思が宿っているかのようだった。
コウスケの集中が、そのままマシンに伝わっている。
そう感じさせる走りだ。
ラストラップ。
小覇龍は、さらに一段ギアを上げたように伸びる。
ゴール。
タイムが表示された瞬間、会場がどよめいた。
今大会ベストタイム。
「コウスケ選手の小覇龍! 現在トップのタイムを叩き出したー!」
ファイターの声が、かすれるほど響く。
「よっしゃ……」
コウスケは、誰にも聞こえない声で呟き、そっと拳を握った。
確かな手応えが、胸の奥に残っている。
残すは、あと1ヒート。
最後のヒート、他の2人のレーサーの中にユウがいた。
2人の視線が合う。
何も語ることはせずに相手のマシンをチラッとみて、スタートラインにつく。
決着は、もう間もなくだ。




