挑戦
あの頃のことを、ふと思い出していた。
初めてミニ四駆を手にしたのは、小学生の低学年頃だった。
テレビでは『ダッシュ四駆郎』が流れ、クラス中が夢中になっていた。
放課後になれば、誰かの家や公園に集まり、夢中でマシンを走らせる。
その輪の中に入りたくて、親に頼み込んで買ってもらった。
おもちゃ屋の棚に積まれた箱の中から、アバンテJr.を選んだ。
あの青いボディを見た瞬間、心が跳ねた。
沢山あった車種の中から迷いなく選んだ。
箱を開け、組み立てて、初めて走らせた時の衝撃は今でも鮮明だ。
自分のマシンは、友達のマシンより“少しだけ”速かった。
その「少し」が、たまらなく嬉しかった。
もっと速くしたい。
誰よりも前を走りたい。
気づけば、そんな想いが当たり前のように胸に宿っていた。
街で開かれた小さな大会にも出場した。
結果は2位。
1位は、年上の背の高い少年だった。
悔しさはあった。
だがそれ以上に、その少年の走りに心を奪われていた。
話しかけると彼は驚くほど気さくで、速くなるための工夫を惜しみなく教えてくれた。
次は勝つ。
次こそ、あのお兄ちゃんの背中を追い越す。
そう信じて次の大会を楽しみにしていた。
しかし、時代はあっけなく変わった。
アニメは終わり、友達はゲームやサッカーに夢中になった。
ミニ四駆を持ち出す者は減り、街の大会も開かれなかった。
あのお兄ちゃんに会うことはなかった。
コロコロコミックで公式大会の存在を知った時、胸は高鳴った。
だが、そこへ行く術はなかった。
親に頼んでも、連れて行ってもらえることはなかった。
ジャパンカップは、いつしか“遠い世界の出来事”になった。
それでも、ミニ四駆への熱は消えなかった。
胸の奥で、消えきらない火がずっと燻っていた。
小5のクラス替えで、ユウと出会った。
ある日、たまたま立ち寄ったみつば屋で、コウスケはそれを見つけた。
コースを走るミニ四駆。
その向こうで、真剣な目をしたユウがマシンと向き合っていた。
気づけば声をかけていた。
躊躇なんてなかった。
ミニ四駆の冬の時期に仲間を見つけた。
ただそれだけで、胸が満たされた。
ユウのミニ四駆との向き合い方は、どこか奇妙だった。
走らせる時間は短く、調整しては空回し。
また調整して、何かを確かめる。
理由を聞いても、返ってくるのは難しい言葉ばかりで、正直よく分からなかった。
それでも、一緒にいる時間は心地よかった。
夏が終わる頃、ユウがジャパンカップを優勝したことを知った。
昔、自分が夢見た世界を制覇した奴が、すぐ隣にいた。
その事実に胸がざわついた。
そして、もう1度夢を追おうと思った。
いつの間にかミニ四駆は再び日常の中心に戻っていた。
あの頃のお兄ちゃんより、アバンテは速くなった。
だが、ジャパンカップ予選という壁は高かった。
勝てない。
届かない。
悩み抜いた末、コウスケは決断する。
アバンテを降りることを。
アバンテを裏切るような気持ちは、しばらく消えなかった。
それでも積み重ねた時間まで手放すわけじゃない。
アバンテの走りはここにある。
だから、受け継いでいく。
アバンテの魂は、小覇龍へと受け継がれた。
今、視線の先にいるのはユウの背中だ。
かつて追いかけた年上の少年よりも、ずっと高く近い背中。
ユウは大切な友達で、ミニ四駆仲間だ。
それは今も変わらない。
だが胸の奥にある想いは、それだけじゃない。
隣に立ちたい。
そして、追い越したい。
遊びだったミニ四駆は、いつしか勝負になった。
笑い合うだけの関係から、本気で競い合う関係へ。
胸の奥であの時と同じ渇望が、静かに燃えている。
今度こそ。
今度こそ、1番になる。




