臨戦
予選が終わったのは夕方だった。
東京ビッグサイトの外に出ると、空はまだ明るさを残している。
だが、ユウの中では一日が終わった感覚がはっきりあった。
スピンコブラは速かった。
スピンアックスよりも速かった。
予選1、予選2、予選決勝。
どのレースも、主導権を一度も渡さなかった。
競り合いになる前に前へ出て、
そのまま差を広げて終わる。
歓声が上がるたび、ユウは少しだけ距離を感じていた。
自分の走りが会場の熱より先へ行っている感覚。
(今年も、問題ない)
そう思えた。
会場を出たユウは、電車に乗り、家へ帰った。
玄関で靴を脱ぎ、自分の部屋へ向かう。
レーサーズBOXを机に置き、スピンコブラを確認する。
異常なし。
簡単なクリーニングを済ませる。
布団に横になり目を閉じる。
今日、コウスケの姿は見ていない。
だが不安はなかった。
スプリングカップ。
春の大会で結果を出し、
今年はユウより速いだろうと言われている。
あいつが決勝に来ないはずがない。
そう確信したまま、ユウは眠りに落ちた。
⸻
翌朝。
ユウは一人で、会場へ向かった。
昨日と同じ建物。
だが、入口付近の空気は明らかに違う。
決勝の日。
ピットに向かう途中、視線を感じる。
「あれ……」
「TVチャンピオンの……」
「優勝チームだよな?」
小声が、背中を追ってくる。
「あの女の子は?」
「今日はいないのか?」
「来てないみたいだな……」
残念そうな声。
期待する声。
写真を撮ろうとする者までいる。
ユウは足を止めない。
ピットに着いた、その時。
「……やっぱり来たか」
声をかけられ振り向く。
コウスケだった。
少し遅れてジョンも現れる。
3人は別々に来た。
だが、ここで揃うのは自然だった。
「予選、圧勝だったらしいな」
コウスケが言う。
「そっちもでしょ」
ユウが返す。
「スプリングカップ優勝者だぞ」
周囲の誰かが、はっきり聞こえる声で言った。
「今年はコウスケの方が仕上がってるって話だ」
「ユウは新型用意してるってさ」
ざわめきが広がる。
2人の視線が、一瞬だけ交わる。
「流石、スプリングカップチャンピオン」
ユウがコウスケを持ち上げる。
「新型?マジ?」
コウスケが一瞬驚いた素振りを見せた。
「相変わらず、注目度が高いでござるな」
「ユリちゃんがいないのが、不思議なくらいでござる」
「あの人がいたらこんなもんじゃないでしょ」
ユウが言う。
「同感だ」
コウスケが笑ってうなずく。
ユウとコウスケは、それぞれのピットへ散った。
今日で、すべてが決まる。




