解禁
マシンを置いただけで視線が集まった。
誰かが意識したわけじゃない。
ただ、自然と目に入ってしまう。
「……あれ?」
低く構えたボディ。
鋭く絞られたフロント。
「スピンアックス……じゃないよな」
「新しいやつだ」
名前が出るまで、少し間があった。
「スピンコブラだ」
その一言で、周囲がざわつく。
発売されたばかりの新型ボディ。
知っている者ほど視線を離さなくなる。
だが本当に目を引いたのは、その下だった。
「シャーシ……何だ?」
「FM……いや、違うな」
誰かが首をかしげる。
「スーパーFMだ」
新型。
ユウが新型を実装してきたことで、周囲にどよめきが走る。
ユウは何も語らず、準備を進める。
周囲の気配を背中に感じながら、呼び出しを待った。
――予選第1レース。
スタート直前。
ユウはマシンのスイッチを入れる。
走り出した瞬間、感覚が伝わってくる。
速い。
直線の伸びが今までとは違う!
コーナーでも減速せずに加速を続ける。
気づけば先頭。
ゴール。
あっさりと通過。
拍子抜けするほど静かな決着だった。
――予選第2レース。
周囲の視線が少し変わる。
さっきよりも探るような目。
再び、スタート。
今度は混戦だった。
前に出ては詰められ、抜かれては追う。
それでも、マシンは乱れない。
最後のストレートで前に出る。
ゴール。
――予選決勝。
ここまで来ると、偶然とは思われない。
ユウのマシンを誰もが意識している。
スタート。
他のマシンが跳ね、弾かれ、減速する中、
スピンコブラだけが、淡々と走る。
速さと安定を兼ね備えたマシン。
その違いが、最後には差になる。
ゴール。
係員が顔を上げ、短く告げた。
「おめでとう、予選通過です」
ユウはスイッチを切り、マシンを手に取る。
その瞬間ふと記憶がよぎる。
初めて、この時代で大会に出た日。
同じように周囲が遠く感じて、
それでも走らせるしかなかったあの日。
状況は、よく似ている。
違うのは――
今は、この大会に掛ける覚悟と集中力だ。
ユウは静かに、次の日を見据えた。




