Separation
カラオケの日を境に、4人で集まることは自然と減っていった。
誰かが避けたわけでも、喧嘩をしたわけでもない。
ただ、それぞれの時間が少しずつ違う方向へ流れ始めただけだった。
ユリは、ミニ四駆から完全に離れていた。
みつば屋にも姿を見せず、学業と部活に専念していると聞いた。
コウスケも、オフシーズンに入ったこともあり、学校中心の生活に戻っていた。
たまにユウと公園で話すことはあっても、そこにユリの姿はない。
ジョンとは、変わらず定期的に会っていた。
競馬の話、趣味の話、ときメモのトーク会の話。
笑い合ってはいたが、ユウはどこかで以前の空気感とは違い、そして戻れないことを感じていた。
そのまま、時間は無情にも過ぎていった。
そして、別れの日が来た。
⸻
空港。
今まで触れないようにしていたはずなのに、
ユリの別れの日には、自然と3人が集まっていた。
出発ロビーに、ユリと両親の姿が見える。
それを見つけた瞬間、胸の奥が静かに締め付けられた。
ユリが3人に気づき、駆け寄ってくる。
「みんな、ありがとう」
先に口を開いたのは、ユリだった。
「わざわざ見送りなんて……今日もジョンが送ってくれたの? いつもありがとう」
「拙者は、出来ることをやったまででござる」
いつもの調子の言葉だったが、声はわずかに揺れていた。
「今日は遅刻しなかったの?」
ユリがコウスケを見て、笑う。
「……うん」
返事は短く、いつもの軽口はなかった。
「ユウ、コウスケ、ジョン。あなたたちに出会えて、本当に楽しかった」
ユリは、3人の顔を順番に見つめる。
「ジャパンカップも、TVチャンピオンも……どれも、今までの人生で最高の出来事だった。ありがとう」
「ユリ先輩……」
コウスケの声が詰まる。
「俺たちこそ、先輩に会えて……嬉しかったです。
また……また帰ってきたら……みんなで……」
言葉は、最後まで形にならなかった。
「うん。うん」
ユリは何度も相槌を打ち、微笑んだ。
「ユリちゃーん!! ……元気でね!」
気がつくと、ユウとコウスケは泣いていた。
呼び名も、いつの間にか小学生の頃に戻っている。
あの頃のように立場も年齢も関係なく、ただ一緒に笑っていた時間。
その再来を、誰もが心のどこかで夢見ていた。
話が尽きないまま、搭乗時間が近づく。
ユリは、最後に問いかけた。
「ねえ。ミニ四駆は、まだ続けるの?」
「今年で最後にしようと思う」
ユウが答え、コウスケも、
「俺も……」
と、小さく頷いた。
「そっか……出るのね」
ユリは一瞬だけ目を伏せ、それから顔を上げる。
「頑張って。
あなたたちなら、最高の最終回が出来るはずよ」
そして、いつもと変わらない明るさで言った。
「それじゃ。またね!!」
まるで、明日も学校で会えるかのような言葉だった。
ユリは両親と共に、何度も振り返りながら出国審査のゲートへ消えていった。
その背中が見えなくなっても、ユウたちはしばらく動けなかった。
別れを惜しみながら、同時に胸をよぎる。
今年が、最後のジャパンカップになるという事実が。
立ち止まってはいられない。
この別れを乗り越え、終わりにしないために。
ユウは、静かに次のレースのことを考え始めていた。
⸻
空港を離れ、車はゆっくりと一般道へ流れ込んでいく。
ラジオもつけず、車内は不自然なほど静かだった。
ハンドルを握るジョンが、前を向いたまま口を開く。
「……皆、疲れたでござるな」
誰も返事をしなかった。
しばらくして、後部座席のコウスケが小さく息を吸い込む。
「なあ……」
ユウは前を向いたまま、黙って聞いていた。
「俺さ。今年は、スプリングカップに出ようと思う」
その言葉は、静かに車内へ落ちた。
ユウは驚かなかった。
むしろ、どこかで予感していた。
「……そっか」
「うん」
「ユリ先輩もいないし、俺たちも最後の年だろ。
だったら……中途半端は嫌だ。やれることをやりたい」
信号待ちで車が止まる。
赤信号が、やけに長く感じられた。
「ユウは?」
少し間を置いて、ユウは答える。
「僕は……出ない」
はっきりした声だった。
「ジャパンカップに、全部賭ける」
コウスケは何も言わなかった。
代わりに、ユウが続ける。
「でもさ」
ユウは初めて、後部座席を振り返る。
「コウスケが出るなら応援するよ。全力で頑張って。
絶対、いい走り出来るから」
コウスケは少し驚いた顔をして、それから笑った。
「……ありがと」
「ジョン、今日もありがとう」
2人がそう言うと、ジョンは静かに頷いた。
「礼には及ばぬでござる」
ジョンは、いつものようにドラマCDをかけ始める。
車は家路へ向かう。
それぞれが、それぞれの決断を胸に抱えたまま。
同じゴールを目指していても、走るルートは違う。
それでも、心の向きだけは同じだった。
ユウは窓の外を見つめながら、思う。
もう、来るところまで来た。
今年で終わりだ。
Xにてイメージイラストを追加しました!
今回は体育祭でのコウスケとユリの激走です。
さかざき で検索いただけば見つかると思います。




