同心
体育祭が終わった。
コウスケとユリのリレー対決は激闘の結果、学校中の話題になっていた。
また、テレビ放送がされてから数日、周りの空気は少し変わった。
廊下を歩けば、ひそひそと名前が囁かれる。
教室の窓の外には、見慣れない顔が増えた。
「ねえ、あの子でしょ?」
「ユリちゃんだよね?」
放課後になると、校門の前に人が集まるようになった。
声をかけられ、手紙を渡され、ツーショット撮影を頼まれる。
ユリの机の中には、いつの間にかファンレターが溜まっていった。
「……なんか、困る」
「そりゃあ、あんなことしましたからね!」
コウスケがそう言うと、ユリは吹き出すように笑った。
⸻
その日の夕方。
いつもの公園で、3人は東屋に座っていた。
「よっ!我が校のアイドル様じゃないですか」
「ちょっと!バカにしてるでしょ!?」
ユリが噛みつくように言うと、コウスケはヘラヘラ笑う。
「悪い気はしないんでしょ?」
「もう……」
ユウは相変わらず静かに微笑み、2人のやり取りを眺めていた。
しばらくして、ユウが口を開く。
「……もう少しで、アメリカですね」
「うん」
ユリは空を見上げる。
「行くって決まってるのに、あんまり実感ないんだよね」
「俺たちもそんな感じだよな」
公園に吹く風が、少し冷たくなっていた。
沈黙を破るように、ユリが急に立ち上がる。
「そうだ!」
「なに?」
「カラオケ行こうよ!ジョンも呼んで、みんなで!!」
3人は一瞬顔を見合わせた。
「悪くないな」
「えー…カラオケ…?」
「お前はいつもノリが悪いんだよ!」
⸻
4人で行くカラオケは、これが初めてだった。
最初にマイクを握ったのはユリ。
迷いなく入れたのは、アニメソング。
イントロが流れた瞬間、ユリの表情が変わる。
伸びやかな声。
音程は安定し、感情がしっかり乗っている。
「……うまっ」
「これ、何の歌?」
コウスケが不思議そうに言った。
次はジョン。
その歌は誰も知らない、聞いたこともない曲だった。
「……これは?」
「名曲でござるよ」
独特な節回しと低い声。
クセは強いが、不思議と耳に残る。
「なんか悔しいけど上手いわ」
「修行の成果でござる」
コウスケはJ-POP。
王道のラブソングを、照れながらも真っ直ぐ歌い切った。
「あんた、普通に歌えるのね」
「普通ってなんだよ」
最後にマイクが回ってきたユウは、曲目本をじっと睨んだまま動かない。
「まだ?」
「……もうちょっと考える」
なかなか曲が決まらず、順番をスキップしては、またスキップする。
時間だけが過ぎていった。
⸻
楽しい時間は、思った以上に早く過ぎる。
「まもなく終了10分前です」
ルーム電話から連絡が入った。
「もうそんな時間?」
「早すぎだろ」
ユリはリモコンを手に取り、少しだけ迷ってから曲を入れる。
流れ出したのは、劇場版『幽☆遊☆白書』のエンディング曲。
「あ……」
「その曲……」
1コーラス目。
ユリはこれまで通り、きれいに歌えていた。
けれど、歌詞が進むにつれて、部屋の空気が変わる。
思い出と絆。
別れたくない気持ち。
また会えるという希望。
3人は、いつの間にか歌ではなくユリを見ていた。
2コーラス目に入った頃、ユリの声が震えた。
「……」
息を吸い直そうとして、うまくいかない。
間奏。
ユリはマイクを握ったまま、俯いた。
「……ごめん」
ぽろりと、涙が落ちる。
それを見てコウスケは目を逸らし、ジョンは唇を噛み、ユウは何も言わずにマイクを握った。
「……歌おう」
「うん……」
ラスサビ。
ユウが持つマイクに、両脇からコウスケとジョンが顔を寄せる。
4人は自然と声を重ねていた。
音程は揃っていなくてもいい。
声が震えていてもいい。
同じ時間を、同じ想いを、全員が共有していた。
曲が終わる。
通常映像に切り替わり、
「選曲して下さい」のメッセージが現れる。
誰も隠そうとせず、4人は立ったまま泣いていた。
⸻
部屋を出ると、廊下はやけに静かだった。
「……行っても……戻ってくるんだろ」
コウスケがぶっきらぼうに言う。
ユリは笑って強く頷いた。
「うん。絶対」
その約束が今の4人を支えていた。
このカラオケの曲は実際にあります。
幽遊白書の劇場版で検索すると見つかります。
とても素敵な歌なので聴いてほしいと思います。




