ネガキャン
テレビ収録が終わり、帰宅した夜。
部屋の灯りを落とし、ベッドに倒れ込む。
天井を見上げたまま、大きく息を吐いた。
今日の映像が、頭の中で何度も巻き戻される。
最初に浮かんだのは、コウスケの顔だった。
ボディ乾燥。
あのとき、俺がやるべきだった。
あの一瞬、コウスケの視線がわずかに泳いだのを、俺は見ていた。
それでも止めなかった。
「大丈夫だろ」と、自分に言い聞かせた。
次のバトルでコウスケは動揺を引きずったまま走った。
直線100メートル勝負。
あのミスが無関係だったとは思えない。
いつもの、勝気で向こう見ずなコウスケなら。
勢いだけで突っ切るあいつなら、きっと――
そこで思考を止める。
「きっと」なんて、口にする資格はない。
責任を負わなかった人間が、仮定で救われようとするな。
胸の奥が、じわりと重くなる。
ユリのことも浮かぶ。
テレビ局との打ち合わせ。
俺の顔出しの件。
あれは、ユリ先輩が粘ってくれた。
自分の時間を削り、条件を詰め、俺が不利にならない形を作った。
俺はどうだった。
「条件が合うなら出る」
「ラッキーだな」
「ありがとう」
それだけだ。
負担の重さを、理解しようともしなかった。
上に立ったつもりで、任せた気になっていた。
40代の男として情けない。
慢心。
それ以外の言葉が見つからない。
そして、ジョン。
送迎。
気配り。
環境作り。
気づけば当たり前のように頼っていた。
自分の都合で便利な存在にしていた。
支えられているのに、支えている側の顔をしていた。
俺自身のことを言えば――
耐久レース。
ギアボックス。
あれは、間違いなく浮いていた。
完全に浮いていれば、マシンは止まっていた。
止まればリタイア。
チームは終わっていた。
結果は勝利。
でも、それは俺の手柄じゃない。
コウスケの調整が早く終わった。
ユリ先輩が流れを作った。
2人の判断と行動が、間一髪で穴を埋めた。
俺は、救われただけだ。
「……最終回ならさ、最高のエンディングで終わらせよう」
あの言葉が、頭の中で反響する。
どの口が言う。
ユリ先輩の有終の美を、俺の慢心ひとつで台無しにしかねなかった。
この時代に来た当初なら、あり得なかったミスだ。
1つ1つを疑い、潰し、確認していたはずだ。
「大丈夫だろ」
そう思った瞬間、俺は判断を放棄していた。
ベッドから起き上がる。
部屋の隅に置いた工具箱に目を向けた。
立ち上がり、蓋を開ける。
傷の入ったドライバー。
塗料のついたヤスリ。
何度も握った工具の重みが掌に残る。
コウスケが工具を叩く乾いた音。
ユリ先輩の鋭い声。
ジョンのヤスリがけの音。
全部、俺一人では作れない音だ。
「ありがとう」
声には出さず、心の中で何度も呟く。
言葉だけじゃ足りない。
行動で示すしかない。
失敗は取り戻せない。
でも、学ぶことはできる。
次は、逃げない。
最後まで判断する。
責任を取る。
コウスケにも。
ジョンにも。
ユリ先輩にも。
そして何より、自分自身に。
胸を張ると言ったばかりなのに――
俺は、まだこの世界に居ていいのか。
伝説を達成するためだけじゃない。
仲間と共に、悔いのない走りをするために。
深く息を吸い、ゆっくり吐き出す。
答えはまだ出ない。
でも――
判断から逃げないことだけは決めた。
ただ優勝するだけじゃ、ダメなんだ。
…
「来週は体育祭か…」
学年混合リレー。
コウスケとユリ先輩が選抜に選ばれたって言ってたっけ。
あの2人はすごい。
――俺も、負けてられないな。
Xにて、イメージイラストを追加しました。
さかざき で検索いただくと見つかると思います。




