映画館10
ユリのソニックセイバーは、2番手を走っていた。
トップとの差は2周。
簡単に埋まる差ではない。
モニターに映る順位表を、ユウとコウスケは黙って見つめていた。
関西チームは依然としてトップ。
まだ走行可能なメンバーを1人残している。
だが、バッテリー残量は満タンではない。
「……どれくらい残っているかがカギだな」
ユウが低く呟く。
一方、3番手の東京チーム。
中盤から攻め続けたマシンは速かった。
だが、その代償は大きい。
消費の激しい、高回転・高負荷のセッティング。
バッテリーの減りは、他チームより明らかに早かった。
モニターに映るユリの走りは派手ではない。
抜きどころで無理をせず、安定した走りを刻み続ける。
「本人も、マシンも……折れない」
ユウが言う。
「それが、ユリ先輩の強みだ」
コウスケも頷いた。
スピードではなく、安定。
瞬間ではなく、積み重ね。
耐久戦の終盤に入るにつれ、その差ははっきりと現れ始めた。
最初に限界を迎えたのは東京チームだった。
最後のバッテリーを積んだマシンが上り坂で失速する。
登らない。
「……止まってしまったーー!! 東京チーム、ここでリタイア!」
実況の声が一段高くなる。
東京チーム、リタイヤ。
ピットの空気が一気に変わった。
次に耐える展開となったのは、関西チームだった。
速度を落としながらも、必死に周回を重ねる。
だが、ユリのマシンは止まらない。
1周。
また1周。
差は、少しずつ埋まっていく。
「行ける……」
コウスケが、思わず声を漏らす。
ユリの表情がアップでカメラに抜かれる。
真剣な表情で、マシンを瞬きも忘れた目で追っている。
無理をしない。
崩れない。
ただ、走り続ける。
そして――。
「レース終了!」
スタジオに、終了の合図が響く。
終了の合図が鳴った瞬間、
張りつめていた空気がふっと緩んだ。
長い時間、マシンと身体を削り合ってきた参加者たちの肩がようやく落ちる。
膝に手をつき、空を仰ぐ者もいる。
45分耐久レース。
最も周回を重ねたチームは、北関東チームだった。
1位、北関東チーム。
2位、関西チーム。
3位、東京チーム。
歓声と拍手が、スタジオを包む。
ユウは深く息を吐き、静かに一歩下がった。
「……」
何も言わず、影にすっと隠れる。
カメラが向く場所は、もう決まっていた。
ユリだ。
マシンを抱えたユリの周りに、参加者やスタッフが自然と集まっていく。
派手な勝ち方ではなかった。
それでも、その強烈なキャラクターと終始安定した走りが強い印象を残していた。
「最後まで安定してましたね」
「最高のレースでした!」
そんな声が、あちこちから飛ぶ。
ユリは胸を張り、腰に両手をあてる。
「当たり前でしょ。
弍号機パイロットを甘く見ないでよね!」
その様子を横目で見ながら、コウスケは別の方向へ歩いていった。
向かった先は、東京チームのS。
激しいセッティングで勝負に出て最後に散った男だ。
「いやー、速かったっすね。そのマシン」
コウスケが、いつもの調子で声をかける。
Sは一瞬だけ警戒した表情を見せ、すぐに苦笑した。
「負けました。スピードにこだわりすぎちゃって」
「でも、あれやられたら序盤は誰でもビビりますよ」
その一言で、空気が和らぐ。
「……ありがとうございます」
2人は自然に並んで、コースを見つめた。
「次は、もう少し抑えますよ」
「いや、次も全開で来てください。
それをどう戦うのか考えるの、楽しいんで」
Sが、初めて笑った。
一方、インタビュー用のカメラが完全にユリを捉えていた。
「優勝した今の気持ちは?」
マイクとカメラを向けられ、ユリは一瞬だけ考える。
「落ち着いて走れたことが勝因だと思います。
準備してきたことと仲間を信じて、最後まで自分たちのレースができました。
支えてくれた方々にも感謝しています」
周囲から微笑ましい視線が送られる。
ユリは少しだけ挑発的に笑ってさらに続けた。
「次にあたしたちに挑む人は、覚悟してきなさいよ。
次回もサービス、サービスぅ!」
ユリは今日1番の眩しい笑顔を浮かべ、その場を締めた。
ユウは苦笑いしながらモニターに映るユリを見つめる。
派手で、強くて、折れない心。
チームの中心。
「やっぱ……すごい人だ」
少しだけ、誇らしそうに。
「ミニ四駆王選手権、優勝は北関東チーム!
おめでとぉぉお!!!」




