映画館8
コース上で、再びあの好カードが実現した。
小覇龍と、東京チームリーダーSのトムゴディ。
前回ストレート勝負で火花を散らした2台が、今度は耐久レースという舞台で向かい合っている。
どちらも超高速重視。
だが、前回と決定的に違うのは、その内側だ。
熱。
電圧。
消耗。
すべてを織り込んだ耐久仕様。
速さを維持するための速さ。
「速い……」
実況を忘れた声が思わずマイクに漏れる。
会場がざわめいた。
2番手と3番手の2台が、凄まじい勢いで前を行く関西チームとの差を詰め始めていた。
直線での差はない。
コーナーでは互いに一歩も譲らない。
「小覇龍、攻める!」
「トムゴディも食らいつく!」
コウスケは歯を食いしばり、コースを見つめていた。
(借りは、返させてもらう!)
相手はあのS。
ストレートで自分を打ち負かした男。
そしてSにとっても特別な相手だった。
ジャパンカップで、苦渋を舐めさせられたユウがいるチーム。
その記憶が胸の奥で静かに熱を持つ。
2人の意識がコース上で交錯していた。
上り坂。
小覇龍は、速度を殺さず最小限のロスで登り切る。
直後、トムゴディもほぼ同じ軌道で追随した。
下りからの連続カーブ。
小覇龍がわずかに外へ膨らむ。
だがその分、スピードを乗せたまま、次の直線へ飛び出した。
「やるじゃない!」
ユリが思わず声を上げる。
無理に抑えない。
削らない。
速さを長く使う走り。
コウスケは、確実に成長していた。
だが、Sも簡単には引かない。
トムゴディは小覇龍のすぐ後ろに張り付き、隙を探る。
抜けない。
それでも、離れない。
耐久戦において、最も厄介な距離。
その頃、作業台では。
ユウがマシンを前に、無駄のない手つきで作業を進めていた。
原因はもう分かっている。
ギアボックス。
位置出しのズレ。
走行中のわずかな浮き。
ユウは一度ギアを外し、位置を詰め直す。
さらに、ギアボックスそのものをビスで固定した。
浮かないように。
ズレないように。
「これで……」
ユウが顔を上げる。
そこに、ユリが立っていた。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「幸いにもバッテリーはそこまで消費していません。まだ走れます。コウスケが早く仕上げてくれたのが助かりました」
ユリはコースを一瞥する。
小覇龍とトムゴディは、まだ激しくやり合っている。
「これからどうするの?」
ユウは一瞬考え、答えた。
「コウスケは上手く走れても、長くは持たないと思います。次はユリ先輩が走って下さい。バッテリーは、さっきのバッテリーで」
「新品バッテリーじゃないの?」
「新品は最後に取っておきます」
ユリは一瞬だけ目を細め、うなずいた。
「あんたが言うなら。
わかったわ。さっきのバッテリーに載せ替える」
再び、視線がコースへ戻る。
小覇龍とトムゴディは関西チームを抜き、ついに1位争いへ入った。
関西チームも必死に食らいつくが、2台の勢いに差を広げられる。
直線で小覇龍が前に出れば、次のコーナーでトムゴディが詰める。
抜ききれない。
だが、突き放せない。
会場が低い唸り声が上がる。
息もつかせぬ、ぎりぎりの攻防。
コウスケの額に、汗が滲む。
(まだ……いける)
だが、速度がわずかに落ち始めている。
バッテリーはまだ残っている。
上り坂で2台の勢いが目に見えて鈍る。
それでも、並走に近い距離は崩れない。
バッテリーを削り合う、限界の攻防。
「交代!」
ユリの声が飛ぶ。
コウスケは、最後までトムゴディに1位を明け渡さず、周回を終えた。
交代スペースへ飛び込む。
「いい仕事したわ!」
マシンを手にした、その横をユリがすり抜けるようにコースへ向かう。
胸の奥が熱い。
今度こそ、自分の役目を果たせた。
だが、レースはまだ終わらない。
コウスケはマシンを抱え、作業台へ向かった。
走り出したユリのマシンは、先発で使ったバッテリーとは思えないほど、速度を維持している。
無駄に削らず、確実に周回を重ねていく。
バッテリーを使い切るまで走る。
その意志が走りに表れていた。
そして。
ユウは、調整を終えたマシンを手に交代スペースに立つ。
(……いける)
耐久レースは、終盤へ向けて動き始めていた。
本日もお読みいただきありがとうございました。
Xにユウのイメージイラストを掲載しました。
さかざき で検索いただくと見つかると思います。




