映画館7
ユウのマシンは、交代直後から順調な走りを見せていた。
作業台に戻ったユリは、バッテリーとモーターの交換に取りかかる。
隣で作業をしているコウスケに視線を向けたまま声をかけた。
「コース、予想以上にテクニカルよ。特に下り坂直後のカーブ。あそこは注意して。関西が飛んだのも、そこだから」
「了解!」
先発で走ったユリの情報は即座に共有され、コウスケは迷いなくコーナー対策に取りかかった。
スタートから数周。
FMシャーシが得意とするアップダウンを、ユウのマシンは軽快に駆け抜けていく。
コーナーリングも滑らかだった。
スーパーカウンターギアと相性のいい上り坂も無理なく登る。
ユウ自身、確かな手応えを感じていた。
(いける。このセッティングなら問題ない)
ユリから受け継いだ流れを、そのまま維持する。
それが今の自分の役割だとユウは心の中で言い聞かせた。
交代して3分を越えた頃、違和感は突然訪れた。
直線での伸びが鈍い。
気のせいと言い切れる程度の差――だが、ユウにははっきりと分かった。
(……あれ?)
次の周回。
今度はコーナー立ち上がりで、もたつく。
ブレーキでもローラーでもない。
見た感じは問題はなさそうだった。
それなのに、思った通りの加速をしない。
(なんだ……?)
ユウは視線をコースに集中させ原因を探る。
その間にも後続は確実に距離を詰めてきていた。
「東京チーム、距離を詰めてきた!」
実況の声が、ユウの焦りを煽る。
ユウは一度、意識して呼吸を整えた。
(落ち着け……大丈夫だ)
だが、その直後。
上り坂で決定的な差が生まれる。
マシンは登り切った。
しかし、頂上での速度の戻りが明らかに遅い。
その一瞬を、後ろのマシンが逃さなかった。
「抜いた! 東京チームが前に出た!」
ユウは唇を強く噛み締める。
2番手だった順位は、3番手へと落ちた。
(……っ!)
マシンが目の前を通り過ぎた瞬間、音で原因がハッキリとわかった。
ギアボックスだ。
位置出しがズレている。
走行中ギアボックスが浮き沈みし、そのたびに駆動が抜けていた。
その小さなロスが、今の差を生んでいる。
(これはヤバい。
どうする……今、何分経過してる?
焦ってる……俺)
思考がうまく回らない。
それでもユウは必死に立て直しの手を探した。
その頃、交代スペースでは――
「……よし」
コウスケが低く声を漏らす。
作業台の上には完成したマシン。
必要最低限まで削ぎ落とされた構成。
派手さはないが、今の不利な状況を覆すためのセッティングだった。
「間に合った……!」
コウスケは、すぐにコースへ視線を送る。
そこには明らかに苦しそうなユウの走りがあった。
(ユウ……)
一方、東京チームの作業台にも同じような緊張が漂っていた。
トムゴディのボディが静かに置かれている。
無駄な装飾はなく実戦に徹した仕上がりだ。
「完成だ」
短く告げられた言葉。
その視線もまたコース上のユウを捉えていた。
「次は……勝つ」
再び、コースへ。
ユウのマシンは、明らかに速度を落としていた。
(このままじゃ……)
ユウは交代スペースへ目を向ける。
コウスケがマシンを手に立っている。
(……助かった)
「コウスケ、交代!」
コウスケがフラッグを挙げ、交代を申請する。
ユウの胸にわずかな安堵が広がった。
だが同時に別の感情も込み上げる。
(まだだ。まだ、俺は走れる)
ユウは今後の展開を考えながら、マシンをキャッチした。
その背後で、東京チームのフラッグも静かに掲げられようとしていた。
耐久レースは、次の局面へと進もうとしている。




