映画館2
スタジオの空気は、さっきよりも少しだけ軽くなっていた。
第1ステージが終わり、カメラが1度止まる。
スタッフが慌ただしく動き回り、出演者たちはそれぞれの位置で待機していた。
「おつかれー!」
「いいスタートなんじゃない?」
声をかけられても、ユウはぐったりしている。
げそ……
完全に疲れ果てていた。
「何か飲む?」
「いらない……」
そんなやり取りの最中、スタッフの声がスタジオに響く。
「続いて第2ステージの準備をします!」
会場中央に選手用の資材ブースが姿を現す。
大量のミニ四駆本体や無数のパーツ、工具や塗装道具一式が並ぶ。
再びカメラが回り始める。
中村ゆうじがマイクを握った。
「第2ステージは、ドレスアップバトル!」
「代表1名が用意されたミニ四駆本体、パーツ、塗装道具を使い、制限時間内にどれだけ魅力的なマシンを作れるかを競ってもらいます!」
「なお、チームメンバーの2人はサポーターとして手伝うことが可能です!」
「ここはあたしでしょ!」
ユリが勢いよく席を立つ。
胸の中でワクワクしていた。
(やっぱりこの瞬間が好き……!)
「ジョンの特訓を受けたあたしにかなう奴なんかいないわ!」
「制限時間は2時間! 用意、スタート!」
開始の合図と同時に、ユリの声が飛ぶ。
「ユウ! スーパーエンペラー取ってきて!」
「コウスケはエアブラシ! 色は紫、黒、蛍光グリーン! サーフェイサーもね!」
矢継ぎ早の指示に、2人は一瞬固まる。
「え? エアブラシって何?」
コウスケは最初から混乱気味。
「じゃあコウスケはスーパーエンペラー!」
「ユウ! 塗装系よろしく!」
指示を切り替え、3人は散り散りに動き出した。
ユリはまず作業台の整理から始める。
自分が動きやすいよう、道具の配置を一気に変えていく。
心の中で小さく笑った。
「ここが私の戦場……最高に楽しい」
「ユリ先輩! スーパーエンペラー!」
俊足を活かしたコウスケが、息を切らせて戻ってきた。
「ありがと! そしたらホイール、黒いやつ何でもいいから持ってきて!」
次の指示が飛ぶ。
スーパーエンペラーのボディに、ユリは軽く研磨をかけ始めた。
そこへユウが戻ってくる。
「先にエアブラシとサーフェイサー持ってきたよ。あとヤスリも」
「さすが! よく分かってるわね!」
ユリは小さく目を細め、嬉しそうに頷いた。
ユウは再び塗料を取りに走る。
研磨が終わると、ボディを洗い、乾かし、サーフェイサーを吹く。
そこへ中村ゆうじが近づいてきた。
「これ、何で白いものに白いスプレーかけてるの?」
「サーフェイサーを吹くと、その上に塗料が乗りやすくなるんです。下地を作ってる感じですね」
作業を止めることなく、ユリは淡々と答える。
「すごい! 詳しすぎる情熱少女!」
久しぶりに聞く中村ゆうじ節が、妙に懐かしく感じられた。
「ユリ先輩、これでいい?!」
コウスケが持ってきたのはホットショット。
ホイールは黒ではなく、灰色だった。
「ちょっと……」
指摘しかけたユリだったが、スパイクタイヤが良いアクセントに見え、言葉を変えた。
「いいじゃない! ナイスゥ!」
「じゃあシャーシ組んでて! タイヤとホイールはそれ使って!」
ユウも塗料を抱えて戻ってきた。
「そのボディ、乾かしお願い!」
ユウに任せ、ユリはマスキングテープの作製に取り掛かる。
作業場は完全に戦場だった。
マスキングを施したボディに、エアブラシで塗料を吹く。
乾かして、重ねて、また乾かす。
マスキングを剥がし、別の色を吹く。
「なあ、ユウ。どう完成するんだろうな」
「さあ……僕もよく分からない」
手が空いたコウスケが、乾燥係を買って出た。
勢いよく、ドライヤーを振る。
「待って! そんな勢いでやったら――」
ユリの忠告が終わる前に、コウスケの手元が狂った。
ドライヤーがボディに落下した。
「あああ!!」
ドライヤーの跡が、はっきりとボディに残ってしまった。
「あぁ……」
3人の動きが、同時に止まった。




