映画館1
いつもご覧いただきありがとうございます。
いよいよTVチャンピオン編が始まりました。
この章は、作品の中でも特に盛り上がるパートだと思っています。
10月某日。
朝。
ひんやりとした空気の中、軽やかな足音が、まだ眠りの残る住宅街に響いた。
「ごめんね!遅れたっ!」
今日は珍しくユリが遅刻した。
「ちょっとぉ!あんた何遅刻してるのよぉ!」
待ち構えていたコウスケが、これまでの鬱憤を晴らすかのように、ユリの口調を完璧に再現して煽る。
「……うるさい!」
ユリは顔を赤くしながら、短く言い返すしかなかった。
「出発するでござるよー!」
ジョンは今日も変わらぬ調子で運転席に座り、エンジンをかける。
「しかし、まさかテレビ出演とは。話を聞いた時は本当に驚いたでござるよ」
「ホントにね。ユリ先輩があのコスプレで目立ちまくったおかげかも」
コウスケが笑いながら、あの日の大会を思い出す。
「だっしょー? みんな、あたしに感謝しなさいよね!」
遅刻した張本人とは思えないほど胸を張り、完全にマウントを取ったまま、車は会場へと向かった。
到着してまず目に入ったのは、巨大な体育館だった。
「あれ? ここテレビ東京じゃないよ?」
コウスケが周囲を見回し、素直な疑問を口にする。
「収録は富士通乾電池体育館でやるようでござるよ」
中へ入ると、すでに複数のチームが集まっていた。
見覚えのある顔もいれば、初めて見る顔もいる。
地方大会優勝者を中心に構成されたチームばかりで、リーダー格は全国大会出場レベル。
一目で分かるほど、強豪の顔ぶれがそろっていた。
参加チームは、
北関東チーム
南関東チーム
東京チーム
関西チーム
北九州チーム
の5チームだ。
「師匠たちは北関東チームでござるな」
「え? なんで?」
コウスケが不思議そうに聞き返す。
「リーダーのユリ殿が北関東大会の優勝者でござるからな」
ユウたちは、北関東チームのスペースで待機することになった。
ジョンは集合場所でユウたちと別れ、関係者スペースへと向かっていく。
強豪ぞろいの中でも、ユウたちのチームは特別な存在だった。
視線が集まる。
ひそひそとした声が聞こえる。
「あかん、あのメンバー……ヤバない?」
「3人とも今年の全国大会に出てたじゃん」
特に注目されているのは、顔を隠したまま無言で立つユウだった。
やがてディレクターが現れ、番組進行についての説明が始まる。
リハーサルを兼ねた簡単な確認だ。
全5チーム。
3つのステージを戦い、各ステージでポイントが加算される。
1位が3ポイント。
2位が2ポイント。
3位が1ポイント。
3ステージ終了時点で、ポイント獲得上位3チームが決勝へ進出する。
説明が一段落したところで、ディレクターがユウをじっと見つめた。
「君は……その格好で出るのかい?」
キャップを深くかぶり、布のフェイスカバーで口元を隠したユウは、一瞬言葉に詰まる。
「え、あの、その……えっと……」
視線が泳いだ。
「以前、担当の方とお約束したんです」
すかさずユリがフォローに入る。
「演出的にも問題ないって話でしたよね?」
ディレクターはスタッフに確認し、小さくうなずいた。
「わかった。じゃあそのままで」
ユウは、ほっと息を吐いた。
(ユリ先輩! ありがとうございます!)
収録中の注意事項が説明され、そこへMCの中村ゆうじが姿を現す。
テレビチャンピオンといえば、この人。
熱量、迫力、現場力。
番組の中心人物として知られる存在だ。
拍手が起こり、カメラが回る。
「ミニ四駆王選手権ー!」
テンションの高いタイトルコールが、体育館に響き渡った。
続いて、各チームの紹介が始まる。
まずは北九州チーム。
ミニ四駆が盛んな九州地区で、名を知らぬ者はいない3人が集まった。
店舗大会で数々の賞を重ねてきた実力者たちだ。
積み上げてきた経験と地力で、強豪相手にどう挑むのか注目が集まる。
チームリーダーにマイクが向けられる。
「意気込みを一言お願いします」
「ジャパンカップみたいな大きな大会には出たことなかとですけど、負けんように頑張ります」
続いて関西チーム。
関西の選りすぐりを集めた精鋭チームだ。
スピード一辺倒ではなく、細部まで詰められた改造と安定感のあるセッティングに定評がある。
全国大会でも、その技術力は一目置かれる存在だった。
「技術も速さもウチらが1番やと思てます。しっかり結果出しますんで、応援よろしくたのんます」
南関東チームは、全国大会出場常連の3人で構成されたエリート集団だ。
大舞台に場慣れした3人が同じチームとして闘うことで、その安定感と総合力は他チームを一歩上回る。
「僕ら以外にもにも南関東には速い人がゴロゴロいます。その中でも勝ち上がった僕らが優勝します」
今もっとも勢いがあるのが北関東チームだ。
今年のジャパンカップ優勝者と3位がそろい、残りの1人も全国級の実力者だ。
今回の番組で最も注目されるチームと言っていい。
「北関東代表のユリです。勝つ気で来てるんで……みんな応援してね!」
最後は東京チーム。
リーダーは今年のジャパンカップ準優勝者。
チームメイトも引けを取らない実力を持つ。
バランス、経験、安定感。
優勝候補の1つとして名前が挙がっている。
「優勝を狙ってきました。チーム全員仕上がってるので、しっかり結果を出したいと思います」
紹介が終わり、いよいよ第1ステージへ進む。
第1ステージは、ミニ四駆クイズ。
ミニ四駆に関する問題が出題され、早押しで答える形式だ。
問題によっては、用意されたパーツやマシンを使って回答する。
「これ、ユウ行け!」
コウスケが、ユウの背中を軽く叩いた。
「やだよ……君らがかばってくれるんじゃなかったの?」
「何言ってんの! 3ステージあるんだから、1人1回は出るようにって言われたでしょ?」
ユリが容赦なく現実を突きつける。
「大丈夫だって。クイズなんて地味で1番目立たないよ。それともレース出るか?」
「……クイズする……」
観念したように、ユウはクイズステージへ向かった。
「それでは第1問。アニメ、lets&go で稲妻――」
ピンポーン。
「早い! 北関東チーム!」
「……はっ!」
手が勝手に動いていた。
「……スピンアックス」
「正解! 北関東チームに1ポイント!」
答えだと気づいた瞬間、条件反射で押してしまった。
ユウは、自分のスピンアックス愛を心の中で呪った。
その後も問題は続いた。
超速ギアの色。
慣らし運転の名称。
シルエット当て。
最高速度のモーター。
ミニ四駆が最初に発売された年。
どれも分かる。
全部、即答できる。
それでも、ユウはボタンを押さなかった。
(目立つな……目立つな……)
気配を消し、カメラが向いても身動き1つ取らないように努める。
だが、顔を深く隠す姿は異様で逆に目立ってしまっていた。
クイズは終了し、ユウの獲得ポイントは1。
チームは第1ステージを3位で終えた。
チームに戻ったユウは、まだ始まったばかりだというのにどっと疲れた表情を浮かべていた。
Xにてイメージイラストを追加しました。
さかざき で検索いただきますと見つかると思います。




